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日野、パワーアップした「日野レンジャー」2台で出場する「ダカールラリー2015」参戦発表会

クラス6連覇と総合上位を目指しマシン、チーム体制ともに強化

 日野自動車は、2015年1月3日に南米アルゼンチンのブエノスアイレスをスタートする「ダカールラリー2015」に、ラリードライバーの菅原義正氏が率いるチームスガワラとともに「日野チームスガワラ」として参戦する。この参戦にさきがけ、10月16日に日野自動車本社(東京都日野市)で日野自動車代表取締役社長 市橋保彦氏をはじめ、参戦する選手、エンジニア、メカニックが出席し報道陣向けに参戦発表会を行った。

 2015年の参戦体制は2014年と同様、2台の日野レンジャーがトラック部門、排気量10リッター未満クラスへエントリーし、クラス6連覇とトラック部門での総合上位入賞を目指す。

市橋社長が語る日野自動車として挑戦を続ける意味

日野自動車代表取締役社長 市橋保彦氏

 発表会冒頭、市橋社長は日野自動車として挑戦を続ける意味を「今年の2月の大雪の際、物流が止まることにより世の中の機能が止まってしまった経験から“物を運ぶ”ことの大切さを再認識させられました。人々の生活を支えるトラックにおいて品質・耐久性・信頼性が優れていることはもちろん、お客様の稼動を止めないサービスの提供はとても大切です。世界一過酷といわれるダカールラリーへの挑戦を続けることは、この我々の役割を果たすための車作りとサービスの技術を鍛えることに繋がります」「また、ダカールラリーに参戦するメカニックというのはディーラーメカニックのエースであり、他のメカニックの目標となってます。それを目指して日野自動車に入ってくる人もいます。それはドライバーやメカニックの高齢化と減少という、大きな問題に直面している物流業界に明かりを照らしてくれるものでもあります」と語った。

パワーアップしたチーム体制

 2014年同様、日野レンジャーの2台体制でレースに臨むが、菅原義正氏がドライバーを努める1号車はナビゲーターを2名に増やし、乗員の負担を分担し戦闘力の向上を狙う。1人は菅原義正氏のナビゲーターを13回も努めた羽村勝美氏。2015年からは4度のラリーモンゴリアへの出場経験を持つ若林葉子氏も加わり、3名乗車で臨む。菅原氏は以前、「エンジンパワーをこれ以上上げるとリスクも増えるからもういい。ただゴールにかわいい女性がいてくれれば俺は毎日10分早くゴールする」と伝えていたのに、何故か女性が同乗することになり、「これではリエゾンで会話が弾み10分遅くゴールに着いちゃう」と笑顔で話した。

 なお、2号車のドライバーは菅原照仁氏(菅原義正氏の次男)、ナビゲーターは杉浦博之氏の2名体制で臨む。

 メカニックはリーダーの鈴木誠一氏を筆頭に、サブリーダーに日野自動車 車両生技部の末永健司氏、ほか全国の日野自動車から選ばれた4人のメカニックが現地に赴く。また、エンジニアは日野自動車エンジン設計部の名越勝之氏が担当する。発表会では、広島日野自動車の益田崇史氏がメカニックの代表として「日野のメカニックとして夢であり目標でもあるダカールラリーのメカニックになるため必死で腕を磨いてきました。今まで先輩達が築いてきた日野のメカニックの技を守るとともに、今年の日野は凄いぞ、と思ってもらえるよう頑張ります」と決意を語った。

1号車のクルー(左から菅原義正氏、羽村勝美氏、若林葉子氏)
意気込みを語る菅原義正氏
ダカールラリー初出場の若林葉子氏
2号車のクルー(左から、菅原照仁氏、杉浦博之氏)
メカニック、エンジニアのメンバー
広島日野自動車の益田崇史氏による決意表明

さらなる進化を遂げた日野レンジャー参戦車両

 参戦車両は前回同様の2台体制。車両形式は2台ともに「日野レンジャーGT」。年々ハイスピード化するラリーに対応するため、前回の1号車にのみ搭載された直列6気筒8866cc「A09C-TI」ディーゼルターボエンジンを2号車にも搭載する。今回は吸排気系の改良が行われ、最高出力463.4kW(630PS)/2200rpm、最大トルク2255.5Nm(230kgm)/1200rpmに向上。燃料タンクは700Lだ。2台が同じエンジンを搭載することにより、トランスミッションやデフ等が共通になりスペアパーツがコンパクトになる効果もある。2号車のドライバー菅原照仁氏によると、このエンジンパワーの向上とともに大きな進化を遂げたのがサスペンションであり、マシンのポテンシャルアップに大きく寄与しているとのことだ。

 1号車と2号車の大きな違いとしてはまずキャビンの大きさが挙げられ、2号車にはナローキャブが採用されている。これは乗車定員の違いによるものではなく、フロント部の軽量化を目指した結果とのこと。

 また、駆動方式は1号車が2WD(前後0:100)と4WD(50:50)を選ぶパートタイム4WDに対し、2号車はフルタイム4WDという点だ。こちらは前後50:50と前後30:70が選べ、そのどちらも4WDであるため「フルタイム4WD」という表記になるが、乗用車などに多く見られる自動可変の駆動配分システムを持っているものではない。2号車はその走行の殆どを30:70の4WDで走行するという。キャビンの違いと4WDシステムの違いは、ドライバーの運転スタイルの違いによるものだ。

参戦マシンやラリーコースの説明をする菅原照仁氏
日野レンジャーGT 1号車。ボディーサイズは6290×2500×3150mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース3890mm
日野レンジャーGT 2号車は6370×2500×3150mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース3970mm。1号車と比べホイールベース、全長が長くなる
全幅は同じもののナローキャブを採用する2号車(左)のオーバーフェンダーの方が大きい
ナローキャブ(左)とワイドキャブ(右)と見較べ、「親の方が堂々としていて子供の方が小さい(笑)」と菅原義正氏
正面から見ると2号車のキャビンの小ささがよく分かる
ワイドキャブの1号車は3名乗車
所狭しと並ぶ計器類(1号車)
1号車と比べるとゆとりを感じる2名乗車仕様の2号車
インパネはまるでノーマル車
2号車のロールバー
運転席には羽のないタイプの扇風機(2号車)
1号車の扇風機はオーソドックスなタイプ
直列6気筒8866ccインタークーラーターボ付きディーゼル「A09C-TI」エンジンは、新開発された等長エキゾーストマニホールド等の採用により630PSにパワーアップ。チラリと「ヨシムラ」のロゴが見える
上部に設置されたインタークーラー
後方には巨大なスペアタイヤが収まる
エンジンの上に設置されたウインチはタイヤを格納する際に使用される
タイヤはミシュラン XZL 14.00R20。ホイールは鍛造品
前後サスペンションはテーパーリーフスプリングをベースにコイルスプリングを補助的に加えたもので、菅原照仁氏によって煮詰められたセッティングによりその能力は大幅に向上しているとのことだ
2本のショックアブソーバーの左上に見えるのは、キャブの振動を軽減するショックアブソーバーとスプリング
恒例の鯉のぼりは1号車がピンク、2号車がブルー
メカニックの移動やマシンメンテナンスに活躍する車両(写真は2013年のもの)
日野にある本社受付には2台のミニカーが常設され来場者を迎えている

 年明け早々の2015年1月3日に、アルゼンチンのブエノスアイレスでセレモニーを行い、4日から競技をスタートする「ダカールラリー2015」。富士山より標高の高い4700mのアンデス山脈を越え、広大な砂漠や硬い岩盤のダートコース等過酷な環境をも走破し、1週間後の1月17日に再びブエノスアイレスでゴールする、まさにサバイバルラリーだ。

 日野自動車はこの挑戦で車を鍛え、人間を鍛え、決して止めてはならない物流を支える力を鍛えているのだ。市橋社長も今回ゴールに出向き、日野自動車の代表としてメンバーを称えると同時にその喜びを感じたいと発表会で語った。

(高橋 学)