ニュース

ANA、ボーイング787-9型機で世界初の旅客フライトを実施

セレモニーにはキャロライン・ケネディ駐日米国大使が登壇。ライト兄弟の言葉をひいて祝辞

世界初の旅客フライトを実施したANAのボーイング787-9型機
2014年8月4日実施

ボーイング787-9型機(手前)。奥に見えるのはボーイング787-8型機。約6.1m全長が伸びた787-9型機は、約1.2倍の乗客と貨物を運べ、1座席あたりの効率も向上している

 ANA(全日本空輸)は8月4日、日本で初めて受領したボーイングの最新鋭旅客機ボーイング787-9型機による乗客を乗せた世界初の旅客フライトを実施した。この世界初の旅客フライトには、招待された日米の小学生約80名、関係者、報道陣を含む171名と、パイロット2名、CA 9名が搭乗。富士山の遊覧フライトを1つの目的として、羽田空港(東京国際空港)~兵庫県付近までの世界初フライトを楽しんだ。

挑戦がテーマとなっていた世界初の旅客フライト

飛行前のセレモニー。左からボーイングジャパン社長 ジョージ・マフェオ氏、ANA会長 伊東信一郎氏、キャロライン・ケネディ駐日米国大使、ANA HD会長 大橋洋治氏、ANA取締役 福田哲郎氏

 世界初の旅客フライトを前に実施した記者会見には、ANA HD会長 大橋洋治氏、ANA会長 伊東信一郎氏、ANA取締役 福田哲郎氏のほか、ボーイングジャパン社長 ジョージ・マフェオ氏、キャロライン・ケネディ駐日米国大使が登壇。ANA会長 伊東信一郎氏、キャロライン・ケネディ駐日米国大使がスピーチを行った。

 ANA会長 伊東氏は、「次世代を担う子供達を、次世代の航空機ボーイング787-9型機に招待し、世界初の787-9型機による旅客便を就航します。ここにいらっしゃる日米両国の子供達に“挑戦する勇気が世界への夢をかなえる”というメッセージを私から送りたいと思います。これからも、将来も、挑戦する勇気を持って世界中で活躍をしてほしいと思います」と、世界初の旅客フライトへの思いを語った。当日、搭乗した小学生らに配られた搭乗証明にも「挑戦する勇気が、世界への夢を叶える」と、伊東氏のサインとともに書かれており、今回の世界初旅客フライトのテーマが挑戦であることを示していた。

 伊東氏は、フライト実現に協力した在日米国大使館、ボーイングジャパンに謝辞を述べ、キャロライン・ケネディ駐日米国大使を紹介。米国側の代表としてケネディ氏が挨拶を行った。

 ケネディ氏は、ANAやボーイングの出席者に謝辞を述べた後、飛行機を発明したライト兄弟のエピソードにふれ、スピーチを行った。

「飛行機を発明したアメリカ人兄弟の1人オービルライトは、『真実だと一般に認められたことがすべて真実だと想定したとき進歩の見込みはほとんどなくなる』と述べました。この美しい機体を前にして、本当にすべてが可能だという信念を堅持したいと思います。私たちの心に従うことで、今日不可能だという発明も想像も生み出すことができます。ライト兄弟は、本日お祝いしている驚くべき航空機が、自分たちの発明を元に作られたことを見分けることができないのではないでしょうか。しかし、すべては“大空を飛びたい”という夢を実現する勇気から始まりました」「今日は私たちすべてにとって素晴らしい日です。世界で最も効率の高い航空機を、世界で初めて就航する航空会社となったANAにお祝い申し上げます。この飛行機は何が可能かを証明しているだけでなく、両国の深く永続する絆を作る上での数え切れない日米連携のシンボルでもあります」

 最後に「富士山遊覧飛行を楽しんでください」と、日米の小学生らを送り出した。

日本側を代表してANA会長 伊東信一郎氏が最初にスピーチ
キャロライン・ケネディ駐日米国大使を紹介
キャロライン・ケネディ駐日米国大使は、ライト兄弟のエピソードをひきつつ、挑戦すること(夢を思うこと)の大切さを語った
セレモニーの後、日米の小学生から搭乗が始まった
搭乗者を見送るセレモニー登壇者

体への負荷の小さい最新鋭機ボーイング787-9型機

 世界初の旅客フライトに用いられる機体は、7月29日に日本に到着したばかりのANAの787-9初号機(JA830A)。プレミアムクラス18席、普通席377席の国内線仕様で、7月29日との外観の相違点は、ANAのメッセージタグラインである「Inspiration of JAPAN」の後に、日米の友好関係強化のための「TOMODACHIイニシアチブ」への支援の一環として「TOMO DACHI」のロゴが特別に付け加えられていたこと。787-9型機は、787-8型機に比べ約6.1m全長が伸びているものの、ぱっと見787-8型機との区別が付けにくい。空港で787-9型機を見つけるときのよい目印になると思われる。

 世界初の旅客フライトに先駆け、機内を初公開。機内仕様は787-8型機と同様のもので、プレミアムクラスは2-2-2配置、普通席は3-3-3(後方の一部席は2-3-2)配置となっていた。

ボーイング787-8型機との違いはないと思われるフロントセクション
787-8型機と787-9型機を見分けるポイントは、2番目の扉の前に1ブロック(窓4枚)追加されているところ
この写真は787-8型機。「787」のレタリングで分かりにくいが、2番目の扉の前に1ブロックがないのが分かるだろうか
こちらは787-9型機。タグラインの後に「TOMO DACHI」マークが付け加えられている
787-9型機では垂直尾翼、水平尾翼の前縁構造内部に「Hybrid Laminar Flow Control(HLFC)」と名付けられた空気が流れる構造があり、飛行の状況によって空気を出し入れ。結果として0.5%の抵抗低減を実現し、1年1機あたり最大5万lbs(約2万2600kg)の燃料削減を期待できる
ロールス・ロイス トレント1000型エンジン
リアセクション
タイヤはブリヂストン製
プレミアムクラスのシート
約130度のリクライニングが行える
リクライニングなどのコントロール部分
テーブルも大型のもの
サイドテーブル。隣席との仕切り板もある
サイドテーブルにはちょっとしたメッセージシステムが
読書灯
電源はユニバーサルコンセントと、USB電源を用意
普通席のレイアウト。3-3-3の横9席仕様
音楽や読書灯のコントローラー
読書灯は天井部分に
オーバーヘッドビン(荷物棚)
787シリーズの特徴でもある液晶シャッター
ラバトリー(洗面所&トイレ)
天井の照明はレインボーカラーにもなるようだ

 世界初の旅客フライトは13時24分スポットアウト、13時43分にA滑走路から離陸。富士山の遊覧飛行が1つの目的だったが、往路は雲が厚く富士山は見えず、兵庫県付近でUターン。復路は房総半島の辺りまで戻ったときに、なんとか雲の隙間から富士山が見えた。

 記者も同乗取材を行ったが、787型機に乗って思うのはエンジンが静かなことと、気圧の変化が少ないこと、そして離陸時や着陸時の振動が小さいことだ。エンジンは、ジェット機にありがちな高周波があまり聞こえず、エンジンの近くの座席に座ってもひどく不快ではない。また、記者は気圧の変化に弱く、低気圧となっているエリアを飛ぶときには決まって頭痛が激しくなるのだが、それもなかった。着陸や離陸、タキシングの際など、タイヤがゴトゴトと転がる強めの振動を感じるのが常だが、787の場合その振動も角が取れたもので、高級タイヤのクルマに乗っている感覚がある(ちなみに787シリーズのタイヤはブリヂストン製。この機体のタイヤは「PLANT CODE EH」と書いてあり、久留米工場製のタイヤだった)。

 総じて、「体への負荷が小さな飛行機だな」というのが印象で、着陸後に起きがちな“耳ツーン”現象も、半ば覚悟していたけれど起きることはなかった。この辺りは個人差も強くあるところだが、記者と同じように気圧差に弱い人は一度787シリーズを試してみてほしいと思う。

羽田空港を飛び立ち、シートベルト解除(撮影可能)となってすぐの写真。左下に江ノ島が見え、この辺りまでは雲がなかった
すぐに厚めの雲が現れ、富士山を往路は見ることができず。雲の上を飛行中
787シリーズの特徴でもあるしなる翼。カーボンなどを使った複合材の主翼は三菱重工業製、それを支える中央翼はスバル(富士重工業)製
左翼上面には日の丸が描かれている
折り返し地点
復路の房総半島近くで富士山が見えた
奥に見えるのが富士山

 15時16分に羽田空港のB滑走路に着陸。15時27分にスポットインして世界初の旅客フライトは無事終了した。

 ANAは、この最新鋭旅客機ボーイング787-9型機による定期運航を8月7日より開始する。787-9型機が投入されるのは、以下の6便。

ANA241便 羽田:7時25分→福岡:9時15分
ANA248便 福岡:10時5分→羽田:11時50分
ANA25便 羽田:13時→伊丹:14時5分
ANA30便 伊丹:15時→羽田:16時15分
ANA595便 羽田:17時15分→松山:18時40分
ANA598便 松山:19時30分→羽田:21時

 ANAは今年度内に初号機を含め3機の787-9型機を受領予定としており、それには国際線仕様も含まれる。国際線仕様は、ビジネスクラス48席、プレミアムエコノミー21席、エコノミークラス146席の215席仕様で、これは787-8型機の国際線長距離仕様の169席よりも46席多い。投入路線およびどのようなタイプのシートを採用するかは今後発表予定とのことだ。

(編集部:谷川 潔/Photo:安田 剛)