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日産、“日本のものづくり”にフォーカスした追浜工場見学会

グローバルマザープラントとして世界に日本のものづくり文化を発信

追浜工場の見学会を開催
2014年9月8日開催

高橋徹追浜工場長

 日産自動車は9月8日、神奈川県横須賀市にある追浜工場の報道陣向け見学会を開催した。この見学会に先立ち、追浜工場長である高橋徹氏らから追浜工場の概要についての説明が行われた。

 同社の主力工場の1つである追浜工場は1961年に操業を開始。以降「ブルーバード」「マーチ」などの生産が行われ、現在は電気自動車(EV)「リーフ」をはじめ「ジューク」「キューブ」「シルフィ」の生産を担っている。追浜工場の生産能力は24万台/年で、1本の生産ラインでガソリン車やEV車という複数の車種を生産する「混流生産」体制をとる。また、同工場は現在タイで生産される「マーチ」「ラティオ」、スペインで生産される「e-NV200」を受け入れ、最終的な品質の確認をしたうえで日本市場へ送り出す役割も担っている。

 敷地面積は東京ドームおよそ37個分となる約171万m2で、大きく物流エリア、生産エリア、試乗/テストコース「GRANDRIVE」、そして新しい技術やものづくりの仕組みを作る生産技術部からなる。今回の見学会は、生産ラインの見学とともに“日本のものづくり”にもフォーカスして行われた。

 説明会の冒頭、高橋氏は「追浜工場はEVや新技術・新工法の開発・改善のリーダーとしてグローバルのトップを走り続けなければならない工場に位置付けて我々は活動を進めている。『日産のモノづくりは、追浜工場からすべてが始まる』として、グローバルでのトップランナー工場になるべく大きな3つの機能がある」と紹介。この3つの機能とは、EVの生産をはじめとする新技術を導入した生産ライン「MPL(Master Production Line)」、グローバルにおける新工場などの立ち上げ時に中軸となる人材の育成を行う「GTC(Global Training Center)」、追浜工場の量産車ラインで新型車の試作を行い、それをグローバルの拠点に排出することで現地での試作の時間を短縮する「GPL(Global Pilot Line)」の3点を指す。

 このうち生産ラインについては、1990年までは車種専用ラインで大量生産を行っていたところ、2006年以降は「集約化・無人化」をコンセプトに物流の集約化を図るとともに、重筋作業の廃止や自動化など人に優しいラインを目指すといった進化を続けているという。また、生産現場と物流の融合、工場とサプライヤーの融合など、安価に行える自動化を導入(同社では日本人が持つ繊細な知識や器用さをこの自動化に取り入れていることから“からくり”と呼んでいる)しているのも特徴の1つとなる。

 その一例として、従来では組立作業者が車種やグレードによって部品箱から必要な部品を取ってきて、それを組み付けるという流れだったが、部品の選択や識別、部品を取りに行く歩行といった複雑かつ無駄な部分があった。その無駄を省くべく、必要な部品だけが部品箱に入り、その部品箱が組み付けるクルマとともに流れる「KIT供給」を採用した。こうした改善内容が追浜工場からグローバルに発信され、世界中の日産の工場で改善が行われているという。

クルマの内外装を取り付けるトリムライン。生産ラインでは「AGV」と呼ばれる無人搬送車が工場内を走り、組立に必要なパーツが自動で運ばれる仕組みを構築している。ちなみに生産ラインのそばにはカルソニックカンセイ、河西工業といった部品サプライヤーのスペースが設けられ、必要に応じて必要な部品がすぐに供給できる体制をとっている。これも効率化の1つ
AGVはリーフに搭載するバッテリーを動力源としており、自動充電所(写真)で自動充電を行う仕組みを有する。約40秒の充電で100mを走行できるという
ラインの床は踏み心地のよい木製を採用。これも「人に優しいライン」作りの一環という
生産ラインでは女性も働くことから、助力装置などを使って作業負荷の軽減を図る。中央と右の写真に写っているのはインストルメントパネルの組み付けに使う助力装置「らくらくハンド」
こちらは“からくり”の一例。工場内を走るAGVは連結して走行することから、従来では内輪差により走行できない場所があった。そのため4輪操舵システム「HICAS(ハイキャス)」機構を備えて解決
バンパー成形工場で使用される「パンダグラフ式搬送装置」。撮影時は人の力を利用していたが、同装置はAGVで使われるもので、AGVが前進する力によってパンダグラフがバンパーを水平に保ったまま上げ、作業者に届けるという仕組み
「いるだけちょうだい」と名付けられたこの装置は、作業者にナットを供給するナットフィーダーで、フックの交換によりボルトの供給も行えるというもの。自社製
エンジンの組み立て時に利用する「にょきにょきっと」。その名のとおり、棒が伸びることで各部品を取り付けるのに最適な位置にレイアウトしてくれるというもので、作業者が振り返って部品を取るという手間を省くことができた
溶接ロボットなどによる作業風景

 一方、人材の育成を行うGTCについては、追浜工場に在籍するグローバルマスタートレーナーを頂点とし、その直下に位置するマスタートレーナーを育成する「マスタートレーナー制度」を導入している。このマスタートレーナーが各拠点のトレーナーを育て、そのトレーナーが作業者を指導するという、いわば“ネズミ算式”の育成方式を採っており、これによって従来のトレーナーが各拠点に出向いて指導する方式と比べ、約20倍のスピードで育成することに成功したという。なお、2013年末時点でグローバルマスタートレーナーは11名、マスタートレーナーは192名在籍している。

 また、GPLについて高橋工場長は「量産標準ラインを活用してここ追浜工場で新車の準備をすることで、現地での量産期間を大幅に短縮できた。約3000項目以上の検証を現地の作業員などと一緒に行うことで、そのノウハウをそのまま現地で活用できる」と、そのメリットについて語っている。

見学会当日はスペインや中国などからきた生産現場の社員に育成教育が行われていた。GTCは追浜工場と横浜工場にあり、追浜工場では「技能系」「改善」「マネジメント系」のトレーニングが用意される。3週間から3カ月程度となる訓練期間を経てマスタートレーナーに育てあげるという
こちらはルノーが中国 武漢に作る工場の幹部による訓練の様子。レゴを使ってクルマ作りの基本を学ぶというユニークな手法がとられていた
グローバルマスタートレーナーによる技能系訓練の1つ。写真はボルトを締める訓練だが、ボルト1本を締めるのに23のノウハウがあるといい、受講者はこうしたノウハウを学ぶ。
ボルトの定数つかみ取り訓練
塗装訓練の様子。水を使ったスプレー塗装の訓練で、写真は正しい塗装のやり方。ポイントは塗装するものに対して30cm離し、1/3重ね塗りしていくこと。そして湾曲する個所の塗装は手首をまっすぐ直角にキープさせることだという
こちらは正しくない塗装方法。塗料(水)が垂れ、失敗していることがよく分かる
受講者は朝礼で「Zero Sai de iko,yo shi!(ゼロ災でいこう! ヨシ!)」、終礼で「Otsukare sama deshita!(お疲れさまでした!)」といった挨拶で終わる。これも日本式の躾の一環
2005年にGTCが設立されて以降、約1500名が卒業。黄色のプレートがマスタートレーナーとして現在活躍している人を表している
パネルの合わせ目にシールをしていく作業の練習。右のシールは曲がったりダマができたりした失敗作で、こちらはカルロス・ゴーン会長兼CEOが手掛けたもの

(編集部:小林 隆)