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アウディドライビング アカデミー国内プログラム「Active safetyコース」を受講してみた
最新のクワトロテクノロジーを実感
(2016/4/21 13:07)
- 2016年4月17日 開催
アウディ ジャパンは4月17日、GKNドライブライン ジャパン プルービンググラウンド(栃木県栃木市)で安全運転講習会「アウディ driving experience Active safetyコース」を開催。この講習会に参加したので当日の模様をリポートする。
アウディ ジャパンが展開している「アウディ driving experience」は、雪道でのスリップなどの実際に起こりうる状況を、インストラクター指導のもと安全に「体験」し、対処方法を学んで「実践」することで、クルマを操るセンスを磨くための講習会。
アウディ車のオーナー向けに、レーシングコースで走行するための実践的な運転技術と知識を身に着ける「Training session」や、雪道運転のノウハウを学び、対処に必要な判断力を磨く「Winter driving」など多彩なプログラムが用意されているが、その中でも最新のクワトロテクノロジーを使用して、日常では体験することのできないタイヤのグリップ限界を超えたクルマの挙動を体験できる「Active safety」コースが今回は実施された。2016年度は日本国内でActive safetyコースの講習会を全4回の実施する予定となっており、今回が2回。3回目と4回目は9月10日~11日に開催が予定されている。
プログラム内容は「安全運転の基本」「ドライビングポジションとステアリングワーク」「低μ路面でのABSブレーキ」「高速からのABS緊急ブレーキと障害物回避」「アンダーステアとオーバーステア/スピン回避」「障害物競走(タイムトライアル)」が用意され、会場となったGKNドライブライン テストコースのバンク付きオーバルコースの体験試乗も含まれていた。
「摩擦円って知ってますか?」の問いから始まる座学
Car Watchの読者のみなさんは「摩擦円」がどんなものか知っているかもしれないが、一般のドライバーにはあまりなじみがない単語である。ほとんどのクルマは、タイヤ1本あたりハガキ1枚分ほどの接地面積で1~2tの重量を走らせ曲がり止めている。加速や減速による前後荷重、ステアリング操作による左右や斜めなどの横荷重を、複合した方向に対して車重と操作による力を路面に伝えるのがタイヤの役目だが、そのグリップレベルには限界がある。
少々粗い言い方ではあるが、そのような各要素を1つに表すのが摩擦円である。Active safetyコースではタイヤがグリップ限界を超えたときに、クルマがどんな挙動を示すのか体験することが大きな目的なので、短時間であるが座学によって摩擦円が「合力」で形成されていることの解説と、アウディ独自の4WDシステム「クワトロ」の要点に絞った技術紹介、会場となるGKNドライブライン テストコースについての紹介などが行なわれた。なお、クワトロや旋回時の車両姿勢安定や横滑りを防止させる装置である「ESC(Electronic Stability Control)」については、アウディ ジャパンのWebページを参照していただきたい。
的確に操作するためのドライビングポジションとステアリングワーク
次いで受講者同士でペアを作り、座学の会場から講習用に持ち込まれたアウディ「TTS」「S3」が置かれたコースに移動。まずはドライバーの意思を車両に的確に伝えるための基本的な部分となる、ドライビングポジションとステアリングワークについて講習を実施。
森岡氏から「シートの前後位置については、ブレーキペダルを踏み込んだときに膝の裏側とシート前端に若干の余裕があること。もちろん、乗る人によって身長や座高が違うので、ちゃんと車両が見える高さにシートの位置を調整してください」と説明したあと、「シートの前後や高さの位置を決めたあとに、シートバックとステアリングの上下(チルト)と前後(テレスコピック)を調整しますが、推奨するのはステアリングを持った状態で肘の角度が90°になる程度。もちろん、乗る人の体型や車種にもよりますが、100°あたりまでが確実に適正な操作を行なえます。ステアリングから極端に離れていたり近寄っていたりすると、的確な操作を瞬時には行なえません」とも指導された。
また、「アウディのステアリングは、時計で言えば9時15分の位置を持っていただくように設計されています。ステアリングを握るのではなく、ゆで玉子を持つようなイメージで手を添えてください」と解説し、「ステアリング操作は引くのではなく、右側に回したいときは左手で押すように。右に回すときは9時15分の(短針が指す)9時の位置から左手で(長針が指す)15分の位置まで回し、さらに切り足したいときは右手を9時の位置に持っていって切り足すのがベストです」と指導。パワーステアリングの装着率がまだ高くなかった昭和のころに通った自動車学校で「ステアリングは10時10分の位置を握り……」と指導していたことが懐かしく思い出されたが、「少し長い時間、同じ舵角(ステアリングの回転量)を与えていても、自分がどちら側にステアリング操作しているのか常に分かるように、9時15分の位置を持つようにしてください」とのことだった。
肩慣らしのあとは、速度差によるアンダーステア度合いの実体験
ドライビングポジションの講習後は、受講者がTTSとS3に分乗して18~85Rまで20数種の異なるコーナーが用意された全長1360mのハンドリング路に移動し、コース内に置かれたパイロンを縫うように走るスラロームを含めて肩慣らし走行を行なった。このActive safetyコースでは、アウディ車ユーザーはもちろん、他車モデルのユーザーも受講できるので、車両に慣れていない受講者数名がスラロームでパイロンにヒットするシーンも見かけられた。
そして最初の体験プログラムとなる、アンダーステアを実体験するための「低μ路面でのJターン体験」。テストコースの旋回場に備えられている散水設備を利用して降雨時の路面を再現。その場所を同じステアリング舵角で、2段階の指定速度で進入することにより、速度が高くなるほどアンダーステアが強くなってコーナー外側に膨らむことを体験するものである。
通常の運転時には、コーナーリング中にクルマがアウト側に膨らむと無意識のうちにステアリングを切り足したりして対応するが、体験プログラムでは敢えて舵角を変えず、速度差による走行ラインの乱れを体感させることをねらっている。受講者の中にも「たった5km速くなると、こんなに飛び出すんだと分かった」と話している人もいた。また、ここではESCがONの状態とOFFの状態で安定性の違いも体感することができる。
ABSとステアリング操作を併用する障害物回避と視点移動に関するレクチャー
現代のクルマは、急ブレーキ時にタイヤがロックすることを防ぐ「ABS(Antilock Brake System)」が装着されているが、自分のクルマにABSが装着されていても実際に作動させたことがない、または作動しても気づかなかったという人も多いと聞く。続けて向かったセッションでは、そんなABSの実体験とステアリング操作だけで障害物を回避するための視点移動の重要性について体験できるプログラムとなっていた。
まず最初に、スタート地点から286PS/380Nmを誇るTTSをフル加速させ、パイロンが置かれた指定場所でフル制動させる体験。インストラクターからも「アウディを信用してください。ブレーキペダルは『バンッ』と思いっきり踏めばいいんです」と、フルブレーキをかけたことがないドライバーの意識を変えさせるトークもあったほど、ABSの効果に対する認識が薄いことを感じたが、当日の受講用車両に装着されていたコンチネンタル製タイヤ(コンチ・スポーツ・コンタクト5)のパフォーマンスもあり、各受講者は「力いっぱいブレーキペダルを踏むことの大切さ」をしっかりと体験していた。
続けて、障害物の発見時や物や人が飛び出してきたことを想定したフル制動とステアリング操作による回避操作のプログラム。ABSがなかった時代からクルマの運転に慣れている人ほど、フルブレーキングと同時のステアリング操作は抵抗があるものなので、このセッションだけでも参加する価値があると感じた。
また、アクセルやブレーキを操作せず、ステアリング操作だけで障害物を回避するセッションもあった。「右側から障害物が出てきて左車線に移動したが、さらなる障害物を回避するため右車線に復帰することを想定してください」というプログラムで、ESCはONの状態でスタート。ESC非装着の車両では簡単にスピンするようなコースだが、左に舵角を与えた瞬間と再度右に舵角を与えた瞬間に、ESCが細かくブレーキを制御している作動音を車内でも確認しつつ、安全に通過することができた。
また、同乗させてもらったインストラクターの森岡氏から、ESCをOFFにした状態でのデモ走行も披露されたが、右旋回時にはかなりの揺り返しとなった。森岡氏は「アウディ S3の能力はもちろん、タイヤが高性能なコンチネンタルだからこのくらいで済んでいるんです」と語られ、普通ならスピンやクラッシュに至ってしまう状況であることが解説された。
アンダーステアとオーバーステアの実体験。ドリフトコントロールによるスピン回避
続けてのセッションは、GKNドライブライン テストコースが誇る大型旋回低μ路を使用したアンダーステアとオーバーステアの実体験。また、ここではさらにステアリングとアクセル操作によってスピンを回避するドリフトコントロールも課題とされていた。直径120mというコースには特殊なタイルが敷きつめられ、散水することで圧雪路同等の低μ状態が再現できる。ここでアンダーステアからオーバーステアに転じ、さらにステアリングとアクセル操作でクルマの姿勢をコントロールする練習である。
さすがにクワトロと高性能タイヤの組み合わせとはいえ、グリップしない路面を再現したテストコースだけにタイヤも容易に滑り出すが、そこから唐突にグリップ力が復帰してよりコントロールが難しくなるようなことはなく、無理をしなければ安定した走行が可能なのは「さすが」としか言えない。ただし、このプログラムは敢えて無理な操作をすることで、突発的に発生した危険な状況から難を逃れるためのものなので、それを前提に読んでいただきたい。
散水されて水浸しのタイル路面にTTSで進入し、約15km/h前後でステアリングをイン側にフルロックまで切り込みながらアクセルを踏み込むと、最初は完全なアンダーステア状態に陥るが、そのままにしていると徐々にリアタイヤがアウト側に滑り出してクルマの鼻先がイン側を向く。そのタイミングで一瞬だけカウンターステア(クルマを進めたい方向にステアリング操作すること)を当てることで、クルマの進行方向が思った向き、つまり円周コース上に乗るので、ステアリングをセンター(中立)位置に戻し、アクセル操作と軽微なステアリング操作による微調整で周回路を回り続けるというものである。
もちろん、この操作がすべてのクルマに共通するわけではないが、「自分がクルマを進めたい方向を見て、ズレたら修正するだけで済む」と言う、クワトロの優れたポイントを体感できるプログラムとなっていた。筆者は日常的に過給が始まった瞬間からトルク特性が大きく変化する某FR車に乗っていて、性格が大きく異なる受講用車両に最初の2周まではまったくなじめず、数回のスピンを喫することになった。
しかし、クワトロの場合はリア側が出すぎた場合にはアクセルを戻すのではなく、フロントタイヤに与えられている舵角の方向に進むようアクセルを踏み足す必要があるという基本特性を思い出してからは、「こんな操作をしたらどうなるかな?」と試すこともできるようになった。難しく考えず、クワトロがこれまで乗ってきたクルマとは違うものだという認識さえできれば、安全かつ確実に目指す方向に進んでくれる技術だった。また、クワトロによる駆動力はもちろん、ESCでの姿勢制御なども含め、あらためてアウディ車のスタビリティの高さを実感できた。
非日常の経験として高速周回路のバンクを走行体験
会場のテストコース外周には全長約1800mの高速周回路があり、南バンクの最大傾斜角は45°。指定速度でバンクに進入すると、路面にペイントされたオレンジのラインの内側にさえいればステアリングに舵角を与えずまっすぐにしたまま通過できるという異次元空間である。今回のActive safetyコースではこの高速周回路の体験も可能となっており、通常なら横方向にかかるコーナーリング中のGが縦方向に働くことも味わうことができる。サーキットでも味わえないテストコースならではの体験と言えるだろう。
受講者全員での障害物競走(タイムトライアル)でActive safetyコースは終了
プログラムの最後は受講者全員による障害物競走(タイムトライアル)となり、アンダーステアとオーバーステアの実体験を行なった、圧雪路の旋回を再現した円周路に加え、散水されたアスファルト路面にパイロンを置いて設定したコースをスラローム走行する、言わばジムカーナ競技である。インストラクターの森岡氏によれば「ご夫婦で参加されたお客様で、最終的なタイムでは奥様の方が速く走ってしまうこともあるんですよ。日ごろから運転していない人のほうがこちらの指示どおりに動いてくれるので、その影響だと思います」と笑顔で教えてくれた。
スタート前のレクチャーで、インストラクターは「今日、体験して憶えていただいたことを忠実に実行していただければいいタイムが出ます」と口にしながらも、「いいタイムを出してもESCをONで走ってたら『あぁ、あの人はESC入れたまま走ってたんだ』と思われちゃいますよ?」と、受講者のチャレンジ精神を挑発するようなコメントもしていた。笑いながらも真剣な眼差しになっている受講者もいたが、コースアウトやパイロンタッチを犯してしまった数人の“本気アタック”が終了するころには笑みが戻り、緊張のなかにも余裕を持った運転ができていたように感じた。
タイムトライアル終了後の閉会式では、アウディ ジャパンから受講者全員にCertificate(受講証)やオリジナルのドリンク用缶ボトルなどが贈られ、さらにスポンサーであるコンチネンタルタイヤ・ジャパンからもオリジナルキャップやボールペンなどがプレゼントされた。
アウディ driving experienceに参加させてもらい、Active safetyコースで最新の高性能モデルとハイグリップタイヤが持つ能力を存分に試せて楽しい1日となった。その証拠に、それぞれ会場で初めて顔を合わせたであろうほかの受講者同士が、帰路につくときにはにこやかに微笑みながら「お疲れさまでした」と声をかけあっていたのが印象的だった。
アウディドライビング アカデミーが実施している国内プログラムのActive safetyコースは、この先も9月10日と9月11日に開講予定となっており、もっとアウディ車について知りたいというアウディユーザーから、アウディ車の購入を検討している人、純粋にドライビングテクニックを磨きたいという人などは、ぜひ参加を検討してほしいと感じた次第である。