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2014年4月24日

2014年4月23日

2014年4月22日

【インプレッション・リポート】
アルピナ「D3 ビターボ」

Text by 武田公実


高性能ディーゼルというムーブメント
 昨今のヨーロッパでは、ディーゼル車を選択することが1つのトレンドとなって久しい。しかも、商用車や一般的な実用車だけでなく「プレミアムカー」と呼ばれるジャンルの車たちも、こぞってコモンレール直噴ディーゼルターボを搭載する。今やディーゼルであることが、ある種のステイタスシンボルとなっている感さえある。

 これは燃費に加えて、CO2排出量の少なさに代表されるエコロジー性能が最大の要因となっているのは間違いないところ。洋の東西を問わず、“エコ”に格段の理解を示すことがインテリジェンスの証しとも称される現代社会に於いて、特にヨーロッパの富裕層たちは自己主張の手段としてもディーゼルを選択しているのである。

 しかし、どちらかと言えばコンサバ気質が強く、高性能車に格段のこだわりを持つヨーロッパのエスタブリッシュメントたちが、ただただ“エコ”なだけの車に熱狂するとは考え難い。実は彼らは、ディーゼル特有のトルクがもたらす野太い加速感に、スポーティーな魅力を感じているというのだ。それゆえ、ドイツのプレミアムブランドを筆頭に、各メーカーが競って高性能ディーゼル車を続々とラインナップに加えている一方で、ディーゼル車のチューニングも欧州では非常にポピュラーなものとなっているのである。

 そんな現代のヨーロッパ自動車界にあって、アルピナはまさにリーディングカンパニーというべき存在。1999年に当時の5シリーズ(E39)をベースとしたD10 ビターボを発表して以来、ディーゼル車の分野では世界のトップを独走するパイオニアとして知られている。そして今回、日本総代理店であるニコル・オートモビルズのご厚意で試乗のチャンスを与えていただいたアルピナ「D3 ビターボ」は、アルピナが培ってきたディーゼル・フィロソフィーを最も明快に記した1台と言えるだろう。

 またD3 ビターボは、創生期たる1960〜70年代に古きよき「2002」などをベースにチューニングを手掛けて以来、実に40年以上を経て久方ぶりに4気筒車をベースとしたことでも、極めて興味深いモデルなのである。

21世紀のビターボ
 BMWアルピナの“ビターボ(Bi-Turbo)”と言えば思い出すのが、E34型5シリーズをベース車として、1989年にデビューしたB10ビターボ。当時「フェラーリF40なみに速い」とも称されたモンスターは、同時に極めてソフィスティケートされた乗り味を披露し、アルピナの優れた技術力をそのまま体現したようなモデルと評された。しかし、D3 ビターボのもたらすインパクトは、ある意味B10ビターボのそれをも上回っていると感じさせるものだった。

 D3 ビターボのエンジンは、日本には正式導入されていないBMW 123dとそのクーペ版に搭載されている2リッター直噴ディーゼル+ツインターボエンジンを、主にコンピューターなどのセッティング変更によって10PSパワーアップ、最高出力を214PS/4100rpmとしたもの。ディーゼルながらリッター当たり107PS以上に達するパワーを得たことになるが、それ以上に驚きなのは45.9kgm/2500rpmにも及ぶ最大トルク。これは異母兄弟たるBMW3シリーズのガソリンエンジンで言えば、M3や335i(ともに40.8kgm)をも凌駕するもので、ターボディーゼルエンジンが生来持つ資質を伺わせる。

 実際に走らせてみると、そのスペックが伊達ではないことは即座に体感できる。とにかくトルクが太いのだ。過給が充分に立ち上がっていない発進時こそ、若干のもたつきもあるが、1000rpmを超えたあたりから、まさに怒涛の加速を開始する。

 加えて、やはりアルピナだと思わせてくれるのは、エンジンのピックアップと吹け上がりである。タコメーターの刻みは5000rpmまでと緩やかなのだが、特に6速MTとの組み合わせでは、メーターの針がビュンビュンと伸びてゆくのがガソリンの高性能エンジンを彷彿とさせる。また、スロットル操作から間髪入れず反応してくれるレスポンスも、ディーゼル、しかも過給機付きとは到底思えないほどにシャープなものとなっている。

 現在では、かつてのアルピナ製エンジンのごとくムービングパーツのバランス取りなどは行われていないはずなのだが、われわれのステロタイプなディーゼルエンジンの常識を覆すような、このレスポンスとスムーズ極まりない吹け上がりには、新鮮な感慨を禁じえない。

 残念ながら筆者はBMW 123dに乗ったことがないので、このアルピナ D3 ビターボがよいのか、それともベース車の段階からして既によかったのかは定かではないのだが、やはりよいものはよいというほかあるまい。相性の点では、スウィッチトロニックと呼ばれる6速ATの方が優れているのは、ディーゼルの特質上当然なのかもしれないが、それでもこのレスポンシブで超高トルクのエンジンをマニュアルシフトで操るのは、もう快感以外の何物でもないのである。

 とはいえ、D3 ビターボの恐るべき完成度を最も明確に体感させてくれるのは、やはりスウィッチトロニックATの方と言わねばなるまい。低速時にトルク変動の大きなディーゼルエンジンの特性をトルクコンバーターが巧みに制御することで、非常にスムーズかつトルクフルな乗り味を示してくれるのだ。

 しかし、アルピナのアルピナたる所以を最も感じさせてくれたのは、そのハンドリングだった。4気筒エンジンゆえの良好な前後重量配分というアドバンテージを最大限活用した、極めてバランスに富んだものとなっていたのだ。しかも、このような高性能なモデルであるにもかかわらず、乗り心地が非常によいのが印象的である。フロント245/40 ZR18およびリア265/40 ZR18というタイヤサイズも効いていると思われるのだが、とにかく街中からワインディング、高速道路に至るまで、1.6t足らずの車重とは思えないほどに重厚な乗り心地を見せてくれるのだ。これは、ルックスのためにタイヤを必要以上にワイド&低偏平化しないという、アルピナならではの見識の高さが伺われる側面である。

 極めて個性的にして上質。たとえ4気筒であろうとも、あるいはディーゼルであろうとも、これもまた“本物のアルピナ”である。そして、当代最新のテクノロジーに触れているという知的快感もあって、実にユニークかつ魅力的な1台と感じたのである。

 ちなみに今回の試乗では、6速MT車で約100km、6速AT車では約200kmの距離を走った。コースはともに高速道路と一般道の混合だったが、燃費はMT車が約12km/L、AT車が約10.5km/Lと、この高性能を考慮すれば充分にリーズナブルと言える数値をマーク。以前ほど軽油価格のアドバンテージは無くなったとはいえ、やはり財布にも優しいアルピナという優位性は変わらないだろう。

2010年 9月 9日