【インプレッション・リポート】
レクサス「CT200h プロトタイプ」

Text by 岡本幸一郎


 これまでたびたびその姿が海外ショーで報じられてきたレクサス初の2ボックスハッチバック「CT200h」(以下CT)が、2010年10月初旬開催のパリサロンで正式に披露された。日本での発売は、2011年初頭が予定されていると言う。発売に先立ち、富士スピードウェイの構内路(レーシングコースではない)で、CTのプロトタイプに試乗する機会を得た。

 「CT」の意味は「クリエイティブ・ツアラー」らしい。レクサスとして2番目のハイブリッド専用車となるが、むしろレクサスのラインアップにおけるエントリーモデルとしての担う使命のほうが重要だろう。それについては、正式に発売されたあかつきにあらためて考えることにしたいのだが、まずはプロトタイプにはじめて触れての第一印象をお伝えしたい。

 どういうクルマであるかをひとことで表現すると「コンパクトプレミアムハッチバックハイブリッド」となる。クルマとしての成り立ちは、プラットフォームがHSゆずり、パワートレーンがプリウスゆずりという感じ。よって、エンジンは1.8リッターで、駆動方式はFFのみとなり、車名の「200」は、2リッター並の動力性能を持つことを示す。グレード体系は、標準車と、「バージョンC」、「バージョンL」、「Fスポーツ」という4タイプだ。

 エクステリアは、筆者の第一印象としては、まあレクサスとしての風格はあるかなと。2ボックスの範疇で、スポーツカー的なスタイリッシュさや、クオリティ感を上手く表現するのは難しい作業だと思うが、CTはレクサスの一員としての体面は保っているかなという感じ。仮にこのデザインでトヨタブランドだったら、ずいぶん無理したなという印象が残りそうではある。とはいえ、プレゼンでライバルとして挙げられた、アウディA3、BMW1シリーズ、ボルボC30、アルファ147等のような「主張」や「存在感」はあまり感じられない気も。まあエクステリアは好みの問題なので、ひとまずヨシとしよう。

 CTのボディーサイズは、4320×1765×1430mm(全長×全幅×全高)となっている。ご参考まで、プリウスが4460×1745×1490mm、オーリスが4245×1760×1505~1515mmだ。つまりCTは、プリウスよりもだいぶ短く、オーリスよりも少し長く、両車よりわずかにワイドで、車高はだいぶ低い、ということになる。2600mmというホイールベースはオーリスと共通で、プリウスより100mm短い。そして車両重量は、アルミ置換やハイテン材の積極導入などにより軽量化への努力はもちろん行っているものの、内装に上質な素材を用いたり、装備を充実させたりしたことで、開発者によると「同等の装備で比較するとプリウスより35kgほど重くなった」とのこと。もっとも軽いCTともっとも重いプリウスが同程度の重量となるイメージ。バージョンCで1400kgとなる。

2ボックスハッチバックスタイルのCT200h。撮影車はスポーツモデルとなるFスポーツ
LEDを用いたヘッドライト
16インチアルミホイール。この他15インチもある17インチアルミホイールFスポーツは17インチアルミホイールが標準。専用カラーのタイプとなる

 インテリアを見ると、あまり目新しいものはないが、それこそCTのコンセプトを表す一面。デザインの上質感や、縫い目をあえて見せるなどして、「オーセンティックな雰囲気を目指した」と開発陣は語る。レクサスの慣例どおりカーナビは全車標準装備となる予定で、コンソールにはRXやHSと同じくリモートタッチが設定される。そんな中で、運転席のシートポジションをかなり低く設定できることに気づいた。これもまたCTのコンセプトを表す一面だろう。乗降性も良好だ。

 とくに後席は、ドア面積が大きいわけでもないのに、やけに乗り降りしやすいと思ったら、シートの座面の角を上手く丸めただけでなく、足が通るあたりのドア内張りの厚みを、内蔵されるスピーカーを極限まで薄くするなどして、かなり薄くしたとのこと。やはり、いろいろ工夫されていたのだ。

内装のバリエーションも豊富だ
フロントシートリアシートインパネ
ステアリングにはシフトパドル、オーディオやハンズフリーの操作スイッチなどがつくカーナビも標準装備。エアコンは左右独立温度調整タイプだ中央にあるダイヤルがドライブモードセレクトスイッチ。下に見えるのがリモートタッチだ
メーターの表示はセレクトしたドライブモードで切り替わるECOモードセレクト時。左下にECO MODEのランプが点く。メーター内照明は青スポーツモードセレクト時。メーター内照明が赤くなり、左のメーターがタコメーターに変わる
センターコンソールにはドリンクホルダーなどのほか、USB外部入力の端子も持つステアリングコラム横に視認系や警告系のスイッチが集約ドアのスイッチ類。シートポジションは3つのメモリーが付く
コンパクトボディーながら奥行きのあるラゲッジ後席は6:4分割可倒式後席を倒せばフラットで広い荷室が完成する
トノカバーも用意されるフロア下のサブトランクサブトランクの下にテンパータイヤや工具が収まる

 今回、幸運にも4グレードある中の標準車以外の3つに乗ることができた。走りに関するチューニングは、もちろんプリウスやHSと目指すものが違うし、さらにFスポーツでは足まわりが専用に味付けされている。

パワーユニットはプリウスと同じ

 まずは動力性能からお伝えしよう。単体で最高出力73kW(99PS)/5200rpm、最大トルク142Nm(14.5kgm)/4000rpmを発生する1.8リッターのアトキンソンサイクルエンジンに、60kW(82PS)、207Nm(21.1kgm)のモーターがプラスされたパワートレーン。スペックは、プリウスと共通であるものの、実はCTではエンジンの吸排気系が異なる。さらに、3段階の調整が可能なドライブモードセレクトスイッチにより、動力性能を変化させることができるのだが、それぞれの違いをより体感しやすいようマッピングにメリハリがつけられている。

 ドライブすると、加速性能は概ねプリウスと大差はないというイメージだ。ちなみにプリウスは、現行モデルになって動力性能面での評判が著しく上がったことをお忘れなく。もちろん燃費(とくに実燃費)も気になるところだが、プリウスに対してそれほど大きく落ち込むことはないのではと思われる。

 また、擬似的に6段に区切り、マニュアルシフトできるようにされた、トヨタHV初採用となるパドルシフトもCTの注目ポイントのひとつだ。ただし、機構的な事情もあってか、シフトダウンのレスポンスは早くなく、またアトキンソンサイクルはエンジンブレーキが効きにくいという宿命もあり、あまり期待したほどの減速度は得られない。回生ブレーキを強めるという方法もあったはずだが、バッテリーが満充電で回生失効となった際に減速度の差があまり大きくなるのも好ましくない。よって現状では、とりあえずこのようになっているようだ。むしろこのパドルシフトは、シフトアップして、どんどんエンジン回転を下げていくことのほうに楽しさを見い出すことができるように思う。いずれにしても自分の意志でマニュアルシフトできるというのは、どうこういってもやっぱり楽しいものだ。

 「人車一体」を追求したというフットワークは、快適性を確保しつつも、積極的にドライビングプレジャーを提供することを感じさせる味付け。このあたりは、アウディA3やBMW1シリーズなど欧州プレミアムブランドのエントリーモデルと同じ路線といえる。

前後にパフォーマンスダンパーを装着

 接地性を確保し、リアの踏ん張り感を出すため、リアをダブルウィッシュボーン式の独立懸架としたシャシーは、前後にパフォーマンスダンパーを採用したのも特徴。また、ステアリングレシオは14.5と、けっこうクイックに設定されている。ちなみにHSが15.9なので、CTは1割もクイックということになる。このセッティングが可能となったのも、リアがちゃんと安定しているおかげ。リアがブレークする心配がないから、フロントの俊敏で軽快なレスポンスを、より楽しむことができる。

 前記のドライブモードセレクトスイッチを「SPORT」モードに設定すると、加速フィールやトラクションコントロールがスポーティになり、ステアリングの手応えも増す。さらに、スイッチやオーバーヘッドコンソールの照明色が変わり、メーター左端がハイブリッドシステムインジケーターからタコメーターに切り替わる。こうした演出も面白い。

 そして、専用サスを持つFスポーツについていうと、その他のグレードと比べると、けっこうフットワークの印象が違う。具体的には、Fスポーツとそれ以外では、スタビライザーは共通だが、Fスポーツのほうがフロントのバネレートを高く、リアを低く、ダンパーの減衰力については、圧側を高めに、伸び側を低めにしているとのこと。これが意味するのは、Fスポーツのほうが、フロントのロール剛性が高くなっているということだ。ロール剛性が高いと、荷重移動の速度は増すが、移動量は減る。よって、ステアリングを切り始めた初期の応答性は高まるものの、ハンドリング特性としてはアンダーステアになる。そして、いったんコーナリング姿勢をつくってしまえば、よりスムーズにラインをトレースしていける。これによるハンドリングの違いも体感することができた。

Fスポーツ(上段)とスタンダードモデル(下段)それぞれを乗り比べることができた。コース外周路のほか、広い駐車場でパイロンを使ったコースの試乗も行えた

 また今回、17インチが標準のFスポーツ以外で、16インチと17インチの違いも試すことができたが、印象の違いは予想どおり。普通に乗るには、Fスポーツ以外の足まわりの、それも16インチのほうが気になる部分もなくラクに乗れる。とはいえ個人的には、やや乗り心地は固めでも、このFスポーツの足まわりほうが、CTが目指すキャラクターには合っているように感じられた。

16インチアルミホイール装着車の試乗も行えた

 レクサスのエントリーモデルとして登場するCTが、果たしてどのように受け入れられるか? 実のところ、日本での始動から5年が経過したレクサスの販売状況はあまり芳しくないとも伝えられる。そもそもレクサスは、販価帯の高い車種ばかりであるため、店舗に足を運ぶ人が限られる。そんな中でCTの投入は、レクサス店に客を呼ぶよいキッカケとなるはずだ。さらには、ハイブリッドというだけで注目度ががぜん高まる時代にあって、CTはハイブリッド専用車という強味もある。プリウスでは物足りない人、上級モデルからのダウンサイジングを図りたい人、あるいはライバルと想定している欧州Cセグメント車に興味を持つ人の一部からも目を向けてもらえるはずだ。

 ちなみに価格は300万円台中盤~と予想される。本音としては、ボトムが300万円を切って欲しいところだが、プリウスだって上級グレードは300万円オーバーであることだし、CTには高価なカーナビが標準装備されることを考えると、けっして割高でもないだろう。まずは、「プレミアムコンパクトハッチバックハイブリッド」というカテゴリーを開拓するこのCTが世に出る日を楽しみに待ちたい。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 1月 11日