【インプレッション・リポート】
スバル「フォレスター」

Text by 岡本幸一郎


 2007年に登場した現行モデルを初めて目にしたときの第一印象は、ずいぶん洗練されたデザインになったなというものだった。

 先代2代目フォレスターの後期型が、ちょっと野暮ったい気がしていたので、なおのことかもしれないが、現行型はなかなかスタイリッシュだと思っている。乗ってみても、フォレスターの美徳である素直な操縦性は、新プラットフォームになってもしっかり継承されていて好印象だった。前後左右のバランスに優れ、SUVながら重心を低くできるボクサーエンジン+シンメトリカルAWDの恩恵は、いかんなく発揮されていた。それは同カテゴリーのライバルでは持ち得ない、フォレスターならではの強みに違いない。

 ただ、ターボ車は十分なのだが、自然吸気エンジン車の動力性能がちょっと残念。乗って「どうでしたか?」と聞かれても、返事をするのが心苦しかった……。いや、回せばそれなりにキレイに回るエンジンだというのは分かる。しかし、低速~中間トルクの薄さにはストレスを感じること多々。せめて海外ではフォレスターにも設定のある2.5リッターの自然吸気エンジンか、2リッターのままでもエクシーガのように新世代CVTの「リニアトロニック」を組み合わせてくれると、だいぶ状況は変わるはずと思わずにいられなかった。

 ちなみにリニアトロニックは、フォレスターとインプレッサのプラットフォームにはスペースの都合で積めないらしい。上にターボがあるから、速いのが好みの人はターボを選べばよいと言われれば、ごもっともではあるが、やはり量販モデルである自然吸気エンジン車が、もっとよい走りになることが望まれた。

 そんな中、すでに報じられているとおり、フォレスターのマイナーチェンジの少し前に新しいボクサーエンジンが発表され、そのエンジンがマイナーチェンジを機にフォレスターに搭載された。こうした新しいものは、レガシィかインプレッサから導入するものと思っていたが、時期的なものもあって、フォレスターからとなったのは、ちょっと意外な気もするところだ。

新型エンジンを搭載したフォレスター。写真は「2.0XSプラチナセレクション」上部にインテークマニホールドがくる水平対向エンジンのため、エンジンルームの見た目に大きな違いはないが、オイルフィルターが上部にあるのが特徴

 型式名が「FB」とされたこのエンジン、スバルの4気筒としては待望のロングストローク仕様であることが、まずは大きな特徴だ。ただし、ロングストロークばかりに目が向きがちなところだが、新エンジンの開発テーマは、ストロークを拡大してトルクを稼ごう、という単純なものではなく、あくまで追求したのは、エンジンの基本である燃焼の改善だったと言う。燃焼速度を上げ、冷却損失を減らすため、径を小さくして燃焼室を球体に近づけようとした。そのためのショートボア×ロングストロークである。デバイスに頼り燃費を上げるという手法もあるはずだが、それよりもまず「基本」から見直したところが、いかにもスバルらしい。

 ただし、ボクサーエンジン特有の問題を解決しなければならないのは言うまでもなし。サイドフレームがあるところに、180度にシリンダーが開いた水平対向エンジンを搭載するわけで、ストロークを伸ばしてエンジン全幅が拡がると、当然クルマに載らなくなる。いかにエンジン全幅を抑えてストロークを伸ばすかがカギになるだが、FB型は従来のEJ型と同等の全幅を実現したと言う。

 また、FB型では吸気側だけでなく排気側にもAVCS(可変バルブタイミング機構)を採用。これにより、ミラーサイクル的な高膨張比の効果を狙える領域も存在するようになった。さらに、吸気側に中間ロックタイプのAVCSを採用したのもニュースだ。EJ型では、エンジンを停止させると必ず最進角か最遅角にはりついた状態になり、そこから再始動せざるを得なかったところ。しかし、中間ロックタイプのAVCSによって中間位置で止まり、再始動時は状況に合わせて遅角側に振ることが可能となり、早閉じ、遅閉じのいずれも可能に。よりポンピングロスを低減できるようになった。

2リッター自然吸気モデルに搭載されるFB20エンジン右が従来のEJ型、左がFB型エンジンのピストンとコンロッド。コンロッドが左右非対称なのはロングストローク化のために組み付け手順を変更する必要があったため吸排気ともにAVCSを装備。吸気側には中間ロックタイプのAVCSを採用している

 NOxや燃費向上に貢献するEGR(排気再循環)については、大前提として、燃焼がよくないと再循環させたくてもできないのだが、前述のとおり燃焼がよくなったことを受け、より積極的に行っている。EGRは、ポンピングロスを減らすために、温度を冷やしてたくさん循環させたい。そこで、通常は排ガスをそのままインテークマニホールドに戻しているところ、FB型では水冷式という新しい手法を用いている。左右バンクの冷却水をラジエターに返すために1本に集約するパイプがあるのだが、その水路の横にもう1つ通路を作って、EGRを冷やすようにしたわけだ。これにより大幅に温度を下げられるようになったと言う。

 ちなみに、一部で直噴になったという誤解もあるようだが、ポート噴射であることに変わりはなく、燃料噴射インジェクターの装着位置をシリンダーヘッド直付けとしたことで、噴霧したガソリンの燃焼室壁面への付着を抑えたとご理解いただければと思う。

 エンジン自体は文字どおり全面新設計で、パーツとしてEJ20型と同じものはセンサー類とボルトのみらしい。それでも、見た目上はあまり変わっていないのだが、いくつか大きなポイントがある。

 まず、オイルフィルターの位置が上になったことで、整備性が向上した。これまでのEJ型エンジンではオイルフィルターが下にあったので、フォレスターでは関係ないが、インプレッサなどでサーキットを走った際、縁石にひっかけて破損し、オイルをコースに撒いた……なんていう話も。こうしたトラブルは、やがてインプレッサにFB型が積まれればなくなるのだろう。

 そして、ウォーターポンプが内蔵タイプから外に出て、EJ型ではカムを駆動するベルトでいっしょに駆動していたが、FB型は一般的なものになった。また、今まではオートテンショナーを使わずに2本かけていた補機のベルトが1本になった。さらに、見えない部分の大きな違いとして、カムを駆動するタイミングベルトが、FB型ではチェーン化されている。

水冷式を用いたEGRパイプ。EGRとは酸素がほぼなくなった燃焼後のガスを再循環させることでNOxを低減するもの。燃費にも貢献するEJ型ではエンジンの下側、オイルパンの横あたりにあったオイルフィルターを上部に移動。フィルター交換の作業性が大幅に向上補記類を駆動するベルトは1本化。ウォーターポンプもこのベルトで駆動する。カバーに隠れて見えないが、タイミングベルトはチェーン化されている

いざ新型エンジンを試乗
 試乗会会場には旧型のフォレスターも比較用に用意されていて、ほぼ同じ条件下で直接比較することができた。実際に運転してみると、FB型では2000rpm台、アクセル開度3割以下ほどの領域でのピックアップがよくなっていることを感じ取ることができた。スペック上では大差のないように見えるEJ20型とFB20型だが、体感ではスペックの変化以上に、特性が変わっていることを実感できる。

 また、EJ20型では3000rpmあたりにトルクの谷が見受けられたが、FB20型では、ほとんど気にならない印象。厳密にいうとピークトルク発生回転数の4200rpmの少し前の3000rpm台後半にかすかに感じられるレベルだ。「パワフル」とまでは言わないが、ゆるやかな登坂路でもけっこう印象が違う。巡航からゆるく加速したいときなど、ペダル操作に対して加速がついてくる感覚がよくなっている。また、EJ型では、2速ならまだしも、3速になると1000~2000rpm台が物足りず、トルクがないので、ATもどうしても頻繁にキックダウンしていたが、その症状も薄れている。通常の運転で使うのは、ほぼこのあたりの回転数がメインだろうから、この差は小さくないと言えるだろう。一方の高回転域ではいずれもスムーズに回るので、EJ20型もFB20型もほとんど差はなくなる印象だ。

 4速100km/hでのエンジン回転数は2200rpmぐらい。ここで、巡航から交通状況によりスピードダウンして、またもとの速度に復帰させたいといった状況での、復帰させやすさも違う。しかも4速ATのまま、これまでの13.8km/Lから15.0km/Lと、燃費がクラストップになったことは、大いに評価したい。フォレスターというと、どうしてもATが4速であることが気になるわけだが、その弱点はずいぶん払拭されたと言えるだろう。

 ただし、エクストレイルをはじめCVTを積む同クラスのライバル車に比べると、燃費の公表値では上回ったものの、動力性能として弱いのは否めない。あくまでフォレスターの中でよくなった、とご理解いただければと思う。ターボはトゥーマッチだが、自然吸気では物足りないと感じていた人も、これならあまり不満を感じることもないだろう。

 乗り心地については、もともとそれほどわるくなかったが、さらによくなっていることが、新旧を乗り比べるとよく分かる。変更点としては、ダンパー減衰力の最適化や、リアサブフレームを止めている4個所のブッシュの特性を最適化したこと。乗り心地と操安性を両立し、軽快感をそのままに、安心感を高めたとのことであったが、実際、突起を乗り越えたときのフロア振動で比べてみても、MC前は一瞬大きく触れて、わずかに振動が続いていたところが、MC後では入力のピークも小さくなり、その後もスッと即座に振動が収まるようになった。これは、漫然と乗っていると大差なく感じられるかもしれない部分だが、けっこう大きな差である。

 あらためての話だが、ヒップポイント、アイポイントこそ高いものの、操縦感覚としてSUVっぽさを感じさせないのはフォレスターならでは。基本素性がよいので、姿勢変化を抑えるために無理する必要もなく、SUVにありがちな突っ張った印象もないところも好印象だ。

2.5リッターターボエンジン搭載グレードも登場
 また、今回、XTグレードのさらに上に、インプレッサWRX STI A-Lineゆずりの2.5リッターターボを搭載する「S-EDITION」という新グレードが設定された。「STI」ロゴマークの入ったホイールや、ブルーをあしらったスポーティなシートが標準で付くことにも驚いたのだが、走ってみると、それも納得させるだけの相応しいパフォーマンスを身に着けていた。

今回から追加された新グレード「S-EDITION」搭載されるのは2.5リッターターボ。インプレッサWRX STI A-Lineに搭載されているものをベースに専用開発
ホイールにはSTI製の専用17インチアルミホイールを装備。ただしS-EDITIONの“S”はSTIの意味ではないと言うメーターも専用デザイン。またステアリングにシフトパドルを備えるブラックレザーとブルーのアルカンターラを使った専用内装。前席にはS-EDITIONの刺繍も入る

 エンジンは若干デチューンされており、レブリミットもA-Lineが6700rpmのところ、6500rpmに引き下げられているのだが、文句なく速い。聞けば、0-100km/h加速も6秒台というから、スポーツカー顔負けだ。3つのエンジン特性を切り替えられるSI-DRIVEも、ベースの性能が高ければ、よりメリハリがついて感じられる。惜しむらくは、せっかくパドルシフトも与えられたATのマニュアルシフト時の変速レスポンスがあまり俊敏でないこと。これは、制御でどうこうというより、ハードウェアの限界があると思うので、次世代に期待することにしよう。

 フットワークの基本的な方向性は自然吸気モデルと共通で、十分な快適性を確保しながらも、より姿勢変化が小さく、荷重移動が俊敏に行えるよう味付けされている。スポーティなフィーリングを楽しめながらも、けっして乗り心地がわるいと感じるほどではないところも好印象だ。

 しかもこのS-EDITION、強力なエンジンを積み、アルミホイールなど付加価値の高い装備が標準装備されながらも、2リッターターボを積む「2.0XT」の約40万円高となる312万9000円という控えめな価格設定も大いに魅力と言えるだろう。

圧倒的なパワーと背の高さを感じさせないフットワークでスポーティな走りを満喫できる


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2011年 1月 7日