【インプレッション・リポート】
レクサス「CT200h」

Text by 武田公実


若年層を意識したプレミアムハッチ
 カテゴリーのベンチマークとも言うべきVWゴルフに加えてアウディA3シリーズ、BMW1シリーズなど、ドイツ勢の魅力的なライバルがひしめくCセグメント。とくに、それぞれの上級バージョンに関しては、その高い動力性能もあってコンパクトなプレミアムカーとしての評価を受けているのはご存知のとおり。

 翻って日本車では、これまでプレミアムCセグメントのマーケットに参入するクルマは事実上存在しなかったのだが、今年1月に、注目に値するモデルが正式リリースされることになった。現時点の日本市場で展開している唯一の日本製プレミアムブランドであるレクサスが、同ブランドのエントリーモデルとしての役割も込めて誕生させたCT200h。現在の日本市場ではレクサス・ブランドの稼ぎ頭となっているHS250hと同じく、ハイブリッド専用設計のモデルである。

 CT200hは、プリウスですでに高い評価を得ているプラットフォーム、および1.8リッターのアトキンソンサイクルエンジン+モーターのハイブリッドシステムを使用し、リアにHS250h譲りのダブルウィッシュボーン式の独立サスペンションを組み合わせるという基本構成を持つ。ホイールベースはプリウス/HS250hの2700mmから2600mmに短縮。つまり、これもプリウス用シャシーのベースとなったと言われているオーリス/ブレイドと共通となっており、結果としてボディーサイズはプリウスよりも少しだけ小さい。

 しかしリアのダブルウィッシュボーン式独立サスペンションや、レクサスに相応しい静粛性を図るための遮音材を奢ったほか、インテリアの豪華なフィニッシュなどもあって、重量はほぼプリウスと同じものとなっている。

 日本市場での販売価格帯が近いゴルフGTIやアウディA3、BMW120iなど、群雄割拠のごとき様相を呈するプレミアムCセグメントにて、日本代表たるレクサスCT200hがいかなる闘いぶりを示すのか? ショートドライブではあるが、その片鱗に触れてみることにしよう。

意外なほど(?)のセンスのよさ
 近年のレクサスが提唱しているデザイン哲学、「L-Finesse」最新モデルとなるCT200hのエクステリアデザインは、2BOXスタイルということもあって、比較的重厚かつ穏当なテイストを身上としてきた従来のレクサス各モデルに比べても、明らかに軽快感とダイナミズムが強調されたものとなっている。

 その一方で、レクサスの新しいデザイン言語を体現する、左右端をつまんでねじったような複雑な意匠を持つラジエーターグリルが、これまでの同社には無かったアグレッシブなマスクを形成。もしバックミラーにこの顔が映ったら、もっと大きなサイズの車と勘違いさせてしまうほどの押し出しを感じさせる。

CT200h“version C”CT200h“F SPORT”

 インテリアに目を移すと、まずはコンパクトハッチとは信じ難いほどのフィニッシュレベルの高さに圧倒されてしまうに違いない。本革や新開発という超細繊維を使用したファブリックを使用した上質なトリムはもちろん、スイッチ類やステッチなど手に触れるすべてのパーツで、レクサスの上級モデルと同等のレベルの質感が保たれている。この点については、購入検討時に比較対象となるであろうプリウスやVWゴルフはもちろん、すでに定評のあるアウディA3と比べても高級感では勝っているように感じられた。

 また、かつての日本車ではあまり期待できなかったインテリアのセンスも特筆しておきたいところ。近年レクサスは、ミラノで毎年春に開かれるファニチャーを中心としたインテリアデザインの国際見本市「ミラノサローネ」にて、自社製品をモチーフとした大型オブジェなどのアート作品を出品するアートエキシビションを連続開催し、そのアート感覚を磨き続けているのはご存知のとおりである。CT200hでは、そんな不断の努力の成果が生かされているのだろう。シンプルながら上質なデザインにカラー&マテリアル遣いの巧みさなど、随所にソフィスティケートされたセンスが感じられるのだ。

 これは、単に道具としてだけでなく、車を自身の表現手段とするユーザーが多勢を占めるであろうプレミアムカーの分野では重要なことである。レクサス側が新しいファンとして期待している若年層にも「L-Finesse」の世界観を浸透させていくには、絶好のモデルとなり得ると思われるのである。

CT200h“version C”のインテリア。デザインはシンプルながら上質なもので、若年層に「L-Finesse」の世界観を浸透させていくには絶好のモデルとなり得る
CT200h“F SPORT”のインテリア

 ただ1点だけ、個人的に気になったのがCT200h全バージョンに標準装備されるHDDカーナビシステム、およびエコドライブをサポートする“ハーモニアスドライビングナビゲーター”を兼ねた格納式マルチディスプレイの液晶画面である。上質感を強調したインテリアにあって、少々PND的にも見えるポップなデザインのグラフィックが、いささかながら浮いてしまっているようにも感じられてしまったのだ。

HDDカーナビシステムはエコドライブをサポートするハーモニアドライビングナビゲーターを兼ねる

発売日前に報道陣向けに公開されたCT200hのプロトタイプ

成瀬さんの遺作
 今回、我々のテストドライブに供された車両は、発売日直前に本サイトでも試乗リポートをお送りさせていただいたプロトタイプではなく、一般に正式販売される市販バージョン。プロトタイプから比べると、ボディーパネルの接合部のチリ合わせなどがブラッシュアップされ、よりレクサスのイメージに相応しい質感としたほか、スポット溶接の最適化も図ったことで若干ながらボディー剛性も高まっていると言う。

 しかし、たとえ試作車であろうとも、もとよりレクサスの創るクルマに剛性の問題があったとも考えられないのだが、この“カイゼン”が功を奏したのか、今回乗ったCT200hの剛性感は「素晴らしい!」の一言に尽きるものとなっていた。加えて、コストの高騰や重量増といったデメリットを度外視しても、高度なダブルウィッシュボーン式後輪サスペンションを採用した効果はてきめん。小型車とはいえ、レクサスに期待される快適な乗り心地と高度なハンドリング性能の両立に成功していたのである。

 今回は標準モデルに加え、スポーツバージョンの“F SPORT”にも乗ることができたのだが、やはり注目すべきはこのF SPORTだろう。昨年、独ニュルブルクリンク周辺の一般道で発生した悲しい事故のため急逝した名テストドライバー、故・成瀬弘氏が最終期に手掛けたF SPORTは、レクサス技術チーム内では「成瀬さんの遺作」と称され、特別な思い入れとともに完成させたチューンドサスを身上とする。このF SPORTの足まわりは、たしかに市街地での第一印象はかなりハードなものだったのだが、スピードレンジが上がるに従って、回頭性やスタビリティともに極めて優れていることに気づかされる。

ヤマハ製パフォーマンスダンパー

 また前後のアクスルに採用された、ヤマハ製のパフォーマンスダンパーの効力も素晴らしいもので、ハードな乗り心地を示す例の多いドイツ製プレミアムカーに比べれば、とくにスタンダードチューンのversion Lでは、当たりの柔らかい快適な乗り心地を実現しつつも、一般のワインディング走行ペースであれば充分に楽しめるだけのハンドリングを示してくれる。

 あくまで実用車としての本分に忠実であり、ハンドリングマシンとはお世辞にも言い難いプリウス。そして高級車然とした大人しさが目立つHS250hと基本構造を一にするせいか、ことドライビングプレジャーという見地での期待感は正直なところ薄かったのだが、今回乗ったCT200hは、F SPORT/標準サス版ともに、筆者の意地のわるい予想をよい方に裏切ってくれたのである。蛇足ながら筆者のパーソナルチョイスは、version Lに設定される、標準サス+17インチタイヤの組み合わせである。

 また、上記の4輪独立サスペンション採用は、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)という観点から見ても有益だったようだ。おそらくフロアまわりに遮音材をふんだんに使用しているであろうことの効力もあって、路面からの透過音はプリウス以上に小さいものとなっている。また、ちょっと深めにアクセルペダルを踏み込んでしまうと聴こえてくるエンジンの唸り音もHS250hから大差無いレベルに抑えられており、このセグメントでは望外に贅沢なマークレビンソン製オーディオシステムのクリアなサウンドを愉しめる、高級な空間となっているのだ。

CT200h“version C”に装備される16インチアルミホイール。タイヤサイズは205/55 R16CT200h“F SPORT”に専用装備される17インチアルミホイール。タイヤサイズは215/45 R17

 一方、ハイブリッドシステムはすでに定評のあるプリウス用ということで、市街地走行ではほとんど痛痒を感じさせないパワー感を持つ一方、モーター走行とガソリンエンジンの切り替えも実にスムーズ。アイドリングストップと再始動のクランキングも、存在をほとんど感じさせない洗練ぶりに完成度の高さを実感させられた。

 さらに、今回のCT200hへの搭載に当たって、システムのアップ・トゥ・デートがなされたという説明はとくに無かったが、プリウスでは若干フリクション感が指摘されることもあったブレーキ回生も、ややスムーズになっていたように感じられた。

ドライブモードセレクトでは、「NORMAL」モード、「ECO」モード、「SPORT」モードを選択できる

 ところで、ドライブモードはNORMALモードに加え、ECOモードとSPORTモードが任意で選択できるのだが、このモード別の乗り味が明確に異なるのも印象的。1月11日に行われたCT200hの発表会場で強調された、この車のキャラクター設定の軸である「二面性」を明確に感じさせる仕立てとなっていた。HS250hではそれぞれ専用スイッチで切り替えることになっているが、CT200hでは1個のダイヤルを回すのみ。しかもそのスイッチをプッシュすれば直ぐにデフォルトのNORMALに戻るのが、とてもシンプルでよかった。

 加えて、プリウスではオプションとなる車両接近通報装置も全車に標準装備されているのだが、このシステムが発する、最新鋭の地下鉄電車に採用されるVVVLインバーターの作動音のごとく未来的な発信サウンドによって「新世代の乗りもの」を感じさせてくれるのが、なんとも新鮮だったこともお伝えしておきたい。これも、新時代のプレミアムカーとしては、アリだと思うのだ。

エコロジーがプレミアムの新価値基準になるか?
 今回のテストドライブで、素晴らしいトータルバランスとクォリティ、そしてセンスを持っていることが判明したCT200h。しかし、少々贅沢な悩みなのかもしれないが、これだけ「シャシーが速い」と、「必要にして充分」な性能をもっているはずのハイブリッドユニットに、モアパワーを要求したくなってしまうのもクルマ好きの人情である。例えば、ゴルフで比較すると販売価格の近いGTIの2.0TSI(211PS)はもちろん、1.4TSIツインチャージャー(160PS)にも及ばないシステム合計136PSのパワーは、これまでドイツ勢がリードしてきたプレミアムカー界の価値観では、若干アンダーパワーと評されてしまう可能性も否めないのだ。

ハイブリッドシステムは直列4気筒 DOHC 1.8リッターアトキソンサイクルエンジンにモーターを組み合わせる

 ただし現代のレクサスは、プレミアム性の表現方法として絶対的パワーや動力性能という旧態的なベクトルには依存しないのだろうが、エコロジーとアジリティを両立するというテーマに対しては、パワー・トルクともに余裕のあるHS250h用ハイブリッドユニット(システム合計190PS)に軍配を上げたくなる。今回の試乗に際して開発エンジニアに尋ねてみたところ、HS250h用ユニットは大きな改造なくCT200hにも搭載可能とのことなので、いずれ上級バージョンの製作を考えるならば、こういった可能性も排除すべきではないだろう。

 さらに言ってしまえば、今やかなりのアナクロ派となってしまった筆者などは、例えばトヨタ・ブレイド・マスター用のV型6気筒3.5リッターに、エンジンの基本を一にするIS350と同程度のチューニングを与えた350PS級ホットハッチを製作し、「CT F」として市販するなどという、少々時代錯誤的な夢も抱いてしまうところである。

 とはいえ、現代レクサスの企業フィロソフィーに則って考えれば、ゴルフで言うところの“R”などのスペシャルモデルに対抗する特別なCTは、例えばプラグイン・ハイブリッドなどの方向性に向くのかもしれない。ちなみに、これもレクサスのエンジニアから伺った話によると、プリウス プラグイン・ハイブリッド車(PHV)のプラグイン・システムをCT200hにコンバートするのは、極めて容易とのことなのである。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 3月 11日