【インプレッション・リポート】
MINI「クロスオーバー」

Text by 河村康彦


 商標権の関係から日本での愛称は「クロスオーバー」。けれども、それ以外のマーケットでは“本名”の「カントリーマン」を名乗るのが、MINIブランドにして初の4ドアモデルであり、初の4WD仕様が設定され、さらに初の3ナンバーサイズでもある……と“初物づくし”となった、「MINIファミリーで4番目のモデル」を謳うこのシリーズだ。

「BMWならではのMINI」を提案するフェーズへ
 MINIのプロデューサーであるBMWでは、2001年にこのブランドを冠した最初のモデルをリリースする以前から、「『MINI』は単なる車名には留まらず、ブランド全体を表すネーミング」と公言してきた。全てのベースとなったハッチバック・モデルにその発展型としてのコンバーチブル、さらにはユニークな観音開きドアを採用するカントリーマンに今回のクロスオーバー……と、次々と発表をされる様々なバリエーションに、かつて表明されたコミットメントが、まさに現実のものとなりつつある事を実感させられる。

 「遅かれ早かれMINIに4ドアモデルが追加される」と予想をした人は、世に多く存在しただろう。しかし、蓋を開けてみればそれが“3ナンバーサイズ”でのデビューとなった事には、自分も含め多くの人が驚いたのではないだろうか?

 何しろ、4ドアとはいえそれはMINIを名乗るブランドのモデル。にもかかわらず、特に1.8mに迫ろうというその全幅に対しては、「これの一体どこが“ミニ”なのか!?」と、世界中のマーケットからそんな声が沸き上がるであろう事は、きっと当の開発陣も承知の上であったに違いない。

 そう、それは間違いなく確信犯であったはず。当初リリースしたハッチバック・モデルで「ここには大きなマーケットがある」と確信し、かつての“オリジナル・ミニ”を愛する人々の「こんなクルマはミニではない!」という声をむしろ糧とするかのように成長を続けて来たBMWがプロデュースする新世代MINIは、もはや「恐いものナシで何でもアリ!」とも思える強固なブランド・イメージの確立に成功しているのだ。

クーパークーパーS

 もちろん、そうは言っても、もしも2001年の時点でハッチバック・モデルと共にこのクロスオーバーがいきなり発表されていたならば、きっとそこでは多くの人から「こんなものはMINIではない」という大きな声が続出したはず。けれども、新世代モデルの提案以来、10年という歳月をかけてブランド力を高めてきた今の段階では、もはやニューモデルを出すにあたって“昔のミニ”などに遠慮する必要など無いということなのだろう。

 そうした事情ゆえに、クロスオーバーの眼差しがこれまでの各シリーズのいかにもキュートな“丸目”に対して、今度は少々険しい表情をも連想させる角張った異型デザインへと変わったとしても、「可愛らしさが後退したナ」と個人的にはちょっとばかり残念には思ったものの、さほどの違和感を受けることはなかった。

 確かにBMWは当初、この歴史あるブランドに対する強いオマージュを礎に、そのオリジナルモデルにヒントを得たモチーフを、どうやって現代へと“復興”させるかということに開発のエネルギーを集中させていた。しかし、今やそうした段階は見事に乗り切り、今度は「BMWならではのMINI」を提案するというフェーズへと差しかかっているわけだ。

 自分も含め、もはや多くのクルマ好きの人々は「MINIだったら何をやっても許される」と、半ばそのように感じ始めているのではないだろうか。BMWのブランドでは到底許されない冒険でも、MINIでやるのであれば問題ナシ──こうした雰囲気こそ、BMWがこのブランドを手に入れたことの最大の強みであるのかも知れない。

大きくても“MINI”
 そして、そうしたスタンスは実は走りのテイスト上からも感じることができるものだ。

 「ゴーカート・フィーリング」を標榜し、ドライバーの操作に対して挙動がダイレクトに現れることこそを『善』としてきたのが、BMWが手がけるようになって以来のMINI各車の走りの特徴であり、個性というもの。

 そして実際、そうしたフィーリングはこのブランドの様々なモデルで色濃く演出されてきた一方で、フル加速のシーンで昨今では珍しいトルクステアに見舞われたり、長時間のクルージングでは飛び跳ねるような乗り味が辛く感じられるといった、他のブランドであれば糾弾されてしまいそうなポイントもまま見受けられたものだ。

 こうした、このブランドならではの雰囲気というものは、やはりクロスオーバーにも受け継がれている。すなわちそれは、大きくなっても、見た目のキュートさは薄れても、このモデルは生粋の「ミニの一員」であるという印象だ。

 今回テストドライブを行ったクロスオーバーは、1.6リッターの排気量から90kW(122PS)/6000rpmの最高出力を生み出す心臓を搭載する「クーパー」と、同排気量ユニットにターボチャージャーをプラスし、最高135kW(184PS)/5500rpmのパワーを4輪に分散するシャシーを採用する、ミニとしては初の4WDシステムを備えた「クーパーS オール4」の2タイプ。クロスオーバーも含め、「どのグレードでもMT仕様を選べる」というのは現行ミニの大きな特徴だが、今回の2モデルは共に6速のトルコン式AT搭載車だ。

クーパーの1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン(左)とクーパーSの同ツインスクロールターボエンジン

 1.3tを軽くオーバーと、これもまたとても“ミニ”というイメージではない重量に、前述のように最高90kW(122PS)と「ちょっと控えめ」なパワーの心臓を組み合わせた今回のクーパー。

 しかし実際には、そんなこのモデルの動力性能に不満や不足を感じることは「全くナシ」と言っても過言ではなかった。確かに、軽々とホイールスピンさせるほどにパワフルという印象ではないが、しかし例えばこのモデルを“MINIのファミリーサルーン”として受け取ろうという人にとっては、十分以上の余力を残しているのもまた事実だろう。

 一方で、「やっぱりMINIには“スポーティ”なテイストが溢れていないと」という人には、当然クーパーSの方が魅力的に映るはず。4WDシステムを搭載するゆえに駆動力は4輪に分散されるもの、それでも全力加速時にはステアリング・フィールが微妙に変化し、路面凹凸を拾うとキックバックも強めに伝えられるあたりは「ミニならではのテイスト」というところだろうか。

 2ペダル方式の欧州モデルに採用されるトランスミッションは、このところDCTが幅を利かせているが、このモデルに搭載のATは、トルクコンバーターの働きによってスタートの瞬間が「滑らかなうえに力強い」のも大きな美点と言える。

 もっとも、そんなクロスオーバーでもやはり4ドアモデルらしく(?)クルージング時にはそれなりのフラット感を提供してくれるのは、ホイールベースが「MINIシリーズ中で最長」といった影響ももちろん小さくはないはず。

 ちなみにこの点では、18インチのシューズを履くクーパーSよりも、16インチのクーパーの方が明確に有利になる。シリーズ中唯一「ゆったり座れる後席」を備えたモデルであるだけに、後席ゲストの視点から“ベストバイ”のモデルを探るとなれば、そこでは16インチのシューズを履いた仕様で決まりと言ってよいかもしれない。

 このクロスオーバーの登場によって、ミニというブランドがカバーする顧客層は一気に広がることになる。新世代ブランドのスタート以来、ついに約10年にして投入された“4ドアのミニ”。それは恐らく、BMWがこのブランドを手に入れる際に夢見た悲願の、ひとつの達成なのかも知れない。


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2011年 4月 22日