【インプレッション・リポート】 メルセデス・ベンツ「CLSクラス」 |
CLS 350 ブルーエフィシエンシー |
2003年の独フランクフルトショーにおいて「SLRマクラーレン」とともに、メルセデス・ベンツが描く次世代の高級車像の提案として披露されたコンセプトモデルは、クーペとサルーンを掛け合わせた、かつてない衝撃的なスタイリングをまとっていた。
当時「ヴィジョンCLS」と呼ばれていたそのクルマは、ほどなく市販化に向けてのゴーサインを社内で得て、約1年後の2004年10月に世に送り出された。世界初の、4ドアクーペのラグジュアリーサルーン「CLSクラス」の誕生であった。
日本には翌2005年2月より導入され、高価なクルマながら登場初年度だけで約5000台を受注したという。
■デザインを堪能するがために存在するクルマ
あれから6年が経過し次世代を迎えたCLSクラスは、持ち前の美しさを受け継ぎつつ、よりダイナミックかつエクスクルーシブに新しく生まれ変わったわけだが、これがえもいわれぬスタイリッシュさである。
大型のスリーポインテッドスターを配したフロントグリルや、鋭い目つきのヘッドライトを持つフロントマスクは、より押し出し感が増したように目に映り、暗闇で見ると妖艶な表情を見せる、世界初のLEDハイパフォーマンスヘッドライトも強烈なインパクトがある。
サイドビューでは、4ドアクーペのプロポーションに加わった、フロントからリアに流れるドロップラインと、リアフェンダーから立ち上がるラインが融合する新感覚のフォルムが印象的。
さらにそのラインは、これまた特徴的なアーモンドボール型のリアコンビランプへとつながり、きらびやかに光るLEDが後方からの視認安全性にも寄与しつつ、走り去る姿をより印象深いものとしている。
ところで、あくまで個人的な意見ではあるが、CLSというのは、あの線の細さこそセールスポイントのクルマであって、初代のときはAMG仕様よりもむしろ、まっさらの標準モデルのほうが似合うと感じていた。
ところが2代目では、標準モデル自体のダイナミックさが増したせいか、AMG仕様のほうが似合うように思う。
ちなみに、デザイン性の追求だけでなく、初代に比べてエアロダイナミクスも向上し、Cd値はスポーツカーなみの0.26に達している。
ボンネットやフェンダー、トランクリッドはアルミ製で、ドアもオールアルミ製のフレームレスとして重量増を最低限に抑えたとのこと。また、ボディー剛性については、静的曲げ剛性が28%、ねじれ剛性が6%、それぞれ向上しているという。
インテリアも色気たっぷりだ。思えば初代CLSも、当時とかく質感の低下が指摘されることの多かったメルセデスが、このままではいけないとばかりに名誉挽回を図った、その皮切りといえるモデルだったと思うが、2代目ではさらに一皮剥け、Sクラスをもしのぐものを得たように思える。
ウッドとレザーを組み合わせ、メタルパーツをあしらった上質な空間に、助手席から後席にかけて独特の包まれ感を演出するラップアラウンドデザインを採用したのも特徴だ。
リアシートを仕切り、4人乗り仕様のみと割り切っている点は初代と同じ。BMW X6やVWパサートCCが、少々日和って(?)5人乗りを設定したのに対し、CLSは相変わらず潔く4人乗りのみに絞っている。
CLS 63 AMG |
室内空間については、肩まわりやひざまわりが若干拡大されたとのことだが、言われてみればそんな気もするという感じで、体感できるほどではない。もともと初代より、外見からイメージするよりも室内空間は意外と広く、後席の頭上空間も確保されている。
ただし、初代もそうだが、このアーチ状のルーフラインを実現するがために、前後ピラーもそれに合わせた形状となっているため、乗降時には頭を少々かがめる必要があるのは否めない。
また、ゴルフバッグの積載性についてはちょっと残念な面も。標準サスペンションのモデルであれば、ゴルフバッグを横向きに3つ積めて問題ないのだが、AMGモデルや、標準モデルのAMGスポーツパッケージ装着車などのリアがエアサスとなるモデルでは、エアタンクを収める都合でタイヤハウス後方のトランクの横幅がやや狭くなっている。そのため、横向きに積むことができず、リアシートを前倒しして縦方向に積まなければならない。ゴルフバッグというのは、やはり横向きに積めたほうがありがたいので、ここはひとつ改善に期待したいところである。
そのあたり一連のことで何かしら心にひっかかる点があるようであれば、このクルマは選ぶべきでないかもしれないのだが、とにかくこのデザインを堪能するがために存在するクルマ。とにかくデザイン最優先のクルマである。
エアサス車のトランクルーム。6:4の分割可倒式トランクスルー機構が付く | エアサス非装着車。装着するとタイヤハウス後方のスペースがなくなり、ゴルフバッグが横置きできなくなる |
新開発のV6 3.5リッターエンジン |
■パワーと燃費を向上させた新開発エンジン
デザインに続く2代目CLSの大きなハイライトがパワートレーンだ。いまや非常に多くの車種を抱えるメルセデスにおいても、「初」となるものがいくつかも与えられているのだが、その1つがパワートレーンである。
「CLS 350 ブルーエフィシェンシー」に搭載されるのは、新開発のV型6気筒3.5リッターエンジン。メルセデスの第3世代の直噴エンジンで、最大圧力200barのピエゾインジェクター、スプレーガイド式の燃焼システムといった機構的特徴を持つ。
そして、希薄燃焼(リーンバーン)方式を採用しており、理論空燃比による均質燃焼と、成層燃焼と均質燃焼を組み合わせた均質成層燃焼という、3ステージの燃焼モードをエンジン負荷をモニターしながら自動的に制御。動力性能を従来よりも大幅に向上させつつも、10・15モード燃費は12.4km/Lと、従来比46%もの向上をはたしている。
また、従来はV8とモジュラー設計だったところ、今回は60度という専用のバンク角に設定されたのも特徴で、これによりクランクシャフトに発生する2次振動が減少しており、バランサーシャフトが不要となった。さらに、新開発のチェーンドライブシステムの採用により、振動や騒音も低減しているという。
試乗すると、まさにそのとおり。低回転から十分なトルクを生み出してくれるため、いたって運転しやすい。従来のV6ユニットも十分にスムーズだったと思うところだが、「最新」を謳うエンジンに相応しく、より滑らかな回転フィールを身に着け、振動も小さくなったように感じられた。将来的に追加されるCLS550は不要なのでは? と感じさせるほどの仕上がりだ。
一方の「CLS 63 AMG」について。AMGとなればエンジンも重要だが、CL 63 AMG、S 63 AMGに次いで、V型8気筒5.5リッター ツインターボユニットが採用された。CL 63 AMGやS 63 AMGに対してややデチューンされているとはいえ、こちらも従来の6.3リッターV8自然吸気ユニットに対し、動力性能、燃費とも向上している。
ドライブすると、あまり過給しているという感覚はなく、大排気量の自然吸気エンジンのような、低回転から図太いトルクをフラットに発揮する特性で、こちらもいたって運転しやすく、しかも圧倒的にパワフルである。
トランスミッションには、トルコンに代えて湿式多板クラッチを用いた「AMGスピードシフトMCT」が搭載されるが、これによるダイレクト感あるドライブフィールも身上。そして、同機構のシフトチェンジのスピードやサスペンションのダンパーセッティングを任意で調整できるところもAMGモデルならではだ。
7速AT「Gトロニック」の350 ブルーエフィシェンシー(左)はコラムのシフトレバーで操作するが、AMGスピードシフトMCTの63 AMGはフロアシフトとなる |
CLS 63 AMGに用意された「AMGパフォーマンスパッケージ」を選ぶと、エンジンの最高出力が386kW(525PS)から410kW(557PS)へ、最大トルクも700Nm(71.3kgm)から800Nm(81.6kgm)へと向上し、あまり大きな声でいえないが、スピードリミッターの作動する速度が250km/hから300km/hへと上がる。
ドライブすると、その差は歴然だ。ただでさえ速いCLS 63 AMGのエンジンが、より吸排気の抵抗がなくなり、「抜けた」ような感覚となり、トップエンドまで痛快に吹け切ってしまう。
さらに、専用の鍛造ホイールや、レッドにペイントされたブレーキキャリパーなどが与えられるほか、カーボンセラミックブレーキなど、より走りを高めるアイテムもオプションで用意されている。
そして、いずれのモデルにも、ECOスタート/ストップ機能(アイドリングストップ機能)が標準装備されるのも特徴の1つだが、こちらの仕上がりも驚くほどよく、出て間もない頃の(今は違う)Sクラスハイブリッドよりもスムーズなのではと思うほど、振動が小さく、再始動に要する時間も短いのだ。執筆時点で、世にあるアイドリングストップ機能を有する車両で、ハイブリッド車以外の駆動モーターに頼らず再始動を行うタイプでは、世界中でベストを思える仕上がりであった。
■プレミアムスポーツを凌駕するハンドリング
フットワークも素晴らしく、CLS 350 ブルーエフィシェンシーの「AMGスポーツパッケージ」装着車に与えられるAIRマティックサスペンションは、しなやかによく動き、なめるように入力をいなしてフラットな姿勢を保ってくれる。
ちなみに、その他の付加価値の高い諸々の装備を含めた同パッケージが、60万円という従来の半値近いバーゲンプライスで設定された点も特筆したい。
一方の同パッケージ非装着車では、リアもコンベンショナルなコイルサスとなるのだが、そちらもややコツコツ感が認められるものの、基本的な素性に変わりはない。
そしてCLS 63 AMGでは、あくまで快適性を確保した中で、全体的にハードなセッティングとなり、同等の価格帯のプレミアムスポーツモデルをも凌駕するほどのハンドリングを身に着けている。
また、新たに採用された電動パワステのフィーリングもスムーズでスッキリとしていて好印象だった。
もう1つ感じたのが、パワステの操舵角に応じてステアリングギア比を変化させる「ダイレクトステアリング」の進化だ。これまで他モデルに採用されたものは、徐々に洗練されてきたものの、どうしても操舵時のイメージと実際の舵角が微妙にずれる感があったところだが、CLSのものはその感覚がかなり薄れたように感じられるところもよかった。
というわけで、スタイリングはいうまでもなく、ハードウェア面の仕上がりも申し分なく、2代目CLSにはすっかり魅せられてしまった。
麗しのCLSに触れてからというもの、CLSをさっそうと乗りこなす自分の姿に憧れる、悩ましい日々が始まってしまった次第である……。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 6月 17日