【インプレッション・リポート】 スバル「インプレッサ G4&SPORT」 |
これまで約8年のスパンで変わってきたインプレッサが、今回は4年あまりでモデルチェンジした。これまでと比べるとやけに早いような気もするところだが、思えば先代の3代目は、たとえば4速ATや油圧パワステを採用し、オートライト/ワイパーやドアミラーウインカーの設定がないことなど、出たときから古さを感じさせる部分が目についたのは否めなかった。
いや、そうした表面的なものよりも、むしろスバルが急務と考えたのはクルマ全体のアップグレードを図ることの必要性だったと言う。実車を見て、てっきりキープコンセプトかと思いきや、プレゼンの場で語られたのは、「4代目はキープコンセプトではない。3代目でいろいろなことを勉強し、次のモデルを、というときに考えたのは、スバルの中でのポジショニングにおいて何をすべきなのか」である。
ご存知のことと思うが、4代目インプレッサのワールドプレミアは、2011年4月のニューヨークショーだったので、日本ではやや待たされた気もしなくない。そして、すっかりその姿も板についてきた感のあるハッチバックに加え、先代では遅れて追加されたセダンも最初から用意され、車名はハッチバックが「SPORT」、セダンはレガシィとの統一性を図るためか、アネシスではなく「G4」とリネームされた。
エクステリアデザインは、第一印象としては、フロントマスクの雰囲気やフェンダーアーチを強調したデザイン処理など、よりレガシィの弟分というイメージが強まった。個人的には、過剰演出気味のレガシィよりもスッキリとしていて好み。やや新鮮味に欠ける感もあるところだが、とにかくインプレッサとしては確実に上級移行を果たしたといえるものだ。
車内に乗り込むと、先代よりも明らかに広い。フロントスクリーンはかなり前に出ているし、ヘッドクリアランスも大きい。また、先代はドライビングポジションに対してステアリングコラムの角度が浅く、どうもしっくりこない印象もあったが、今度は自然になっている。インストルメントパネルは端正なデザインとなり、ソフトパッドの多用も効いて、クオリティ感がかなり高くなったのも一目瞭然だ。
さらに、ダッシュボード高が低く、ピラーの形状や位置やドアミラーの位置も、死角を極力作らないように設定されている。全体的にガラスに囲まれているよう開放感があり、非常に良好な視界を確保することに成功している。
リアドアの開口部も拡大しており、非常に乗り降りしやすい。リアシートのニースペースもかなり大きくなった。座面と背もたれの角度がちょうどよく、着座姿勢が自然で、どこかの部位にストレスがかかることもない。4代目は後席の乗員にとっても歓迎すべき多くの進化をとげている。加えて、サイドウインドーは前後とも仕切りが入れられ、リアもフルに下げることができるようになっている。
運転席 | 後席 |
G4のトランクルーム |
トランクはSPORT、G4のいずれも奥行き・横幅とも十分。先代のように左右ホイール間のフロアが盛り上がっているようなこともない。とにかく、先代でイマイチと感じられた問題部分のほとんどを解消している。
タイヤ&ホイールは、1.6リッター車が15インチ、2.0リッター車は標準グレードが16インチ、i-Sが17インチ。そしてスタビライザーは、1.6リッター車がフロントのみ、2.0リッター車が前後に装着されるといった違いがある。ドライブフィールも違いはそれなりにあるが、まずは標準モデルの乗り心地のよさが印象的だった。これほど当たりがソフトで、しなやかにストロークする足は、いまどきちょっと思い当たらないほどだ。
ただし、コーナリングでのロールの仕方がまったく違って、1.6リッター車も実用車としては十分だろうが、リアのロールがフロントに影響して内輪の接地性が抜ける感覚がある。走りを求めるのであれば、やはりリアにもスタビライザーの付く2.0リッター車、それもi-Sが本命。i-Sの足は、よく引き締まっているが、乗り心地もそれほどわるくなく、日本車にはあまりない、ドッシリ、シットリした感覚もある。いわばドイツ車のスポーティバージョンのような乗り味に仕上がっている。また、SPORTとG4ではリアの軸重が20~30kgほど違うのだが、一般道ではあまり違いは感じられなかった。
4代目で新たに採用された電動パワーステアリングの完成度も手伝ってか、ステアフィールも良好。15インチの2WDは、やや軽いきらいもあるが、全体としては適度な重さで頼りなさはなく、スッキリとした操舵感に仕上がっている。
さらに、走ってみてシートのできのよさにも気づかされた。大ぶりなシートは、一見ソフトなのだが、柔らかさの中にコシがあり、身体をほどよくサポートしてくれる。これなら長時間の移動でもあまり疲れずにすみそうだ。
エンジンは新世代の自然吸気が2タイプ。ともに「FB型」となった2.0リッターと1.6リッターが用意された。資料の性能曲線を見ると、2.0リッターは従来比で出力よりもトルクの向上が目立ち、1.6リッターは従来の1.5リッターと比較すると出力、トルクともに大きく向上している。これに、レガシィなどでも評判のよいCVT「リニアトロニック」が、インプレッサ用に最適化した上で初採用された。
1.6リッターに搭載されるFB16 水平対向4気筒エンジン。最高出力85kW(115PS)/5600rpm、最大トルク148Nm(15.1kgm)/4000rpm | 2.0リッターに搭載されるFB20 水平対向4気筒エンジン。最高出力110kW(150PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpm |
トルク特性に優れるエンジンに出来のよいCVTが組み合わされたことで、走りはいたってスムーズ。リニアトロニックはCVTながらダイレクト感がある。i-Sにはパドルシフトが付く。
そして、SI-DRIVEは付かないが、シフト後方にあるスイッチで、「S」モードと標準モードを任意に切り替えることができる。普通に流すぶんには標準モードで十分ではあるものの、できるだけ3000rpm以上を使わないような設定になっている。加速感もおとなしめで、ECOモード的な印象が強い。
時代を考えるとあまりそうも言っていられないところだが、Sモードのほうが気持ちよく走れて好印象だった。とくに、やや低速トルクの薄い印象の残る1.6リッター車はそうだ。ちなみに、1.6リッター車では5速MTも選べる。機会があればぜひ乗ってみたいところだ。
アイドリングストップ機構は、あまり販売比率が高くなりそうにない最廉価グレードとMT車を除くモデルに標準で付くので、実質的には全車標準装備と考えてよい。こちらの仕上がりも上々で、「チェンジオブマインド制御」により、一般的にありがちな空白の時間がなく、瞬時にスタートできるところもいい。信号が急に赤から青に変わって、止まろうと思ったけどやっぱり進みたい、というような状況を想定して試しても問題なかった。再始動時には、ややブルンという音と振動を感じるが、それほど気になるものではない。なお、ステアリング操作も再始動のトリガーになっている。
センターのマルチファンクションディスプレイの多彩な表示機能も4代目インプレッサの特徴のひとつだ。どのくらいアイドリングして燃料を節約できたかをはじめ、燃費に関する情報の表示が非常に充実している。
さらに、VDCの作動状態に関する表示もユニーク。これはVDCがいかに有益なものであるかを認知させる上でも効果的だと思う。ステアリングを切ったら、ディスプレイの車両の前輪そのように表示されるのも分かりやすい。
マルチファンクションディスプレイではVDCの作動状態や燃費情報を確認できる |
また、EyeSight(ver.2)装着車にも別の機会に試乗することができた。基本的な制御は、2011年夏に改良されたレガシィにも採用されたアイサイトver.2と共通であり、車両重量がレガシィよりも軽いことに合わせて最適化を図っているとのこと。もちろんAT誤発進抑制の制御も入っている。今回、プリクラッシュブレーキを試すことはなかったが、追従クルーズコントロールは夕暮れや悪天候を含め、いろいろなシチュエーションで試すことができた。
インプレッサに初搭載された先進安全技術EyeSight(ver.2) |
制御は本当によくできていて、いたってスムーズ。発進も減速も唐突感がなく、まるでベテランドライバーが運転しているかのよう。ブレーキングでは最後に圧を抜いてカックンとならないようにするところまで気が配られている。レガシィよりも車重が軽いぶん、よりストレスなく追従しているようにも感じられた。コーナーにさしかかると、安全のため一定の舵角を超えると速度を抑えるという制御も入っている。
渋滞路でも、あまり先行車と車間が開いてもどかしい思いをさせられることなく追従してくれる。ただし、それにはわずかでも動いていることが必要。レガシィと違って電子パーキングブレーキが付かないので停止状態は保持されず、約3秒でリリースされるところだけは仕方がない。加減速やノーズダイブなどの細かな挙動はパワートレインやサスペンションなどクルマ側の問題だが、それもあまり気にならない仕上がりだ。
また、悪天候下や暗い中でEyeSight(ver.2)が機能しなくなるのは、カメラを用いているがゆえの宿命だが、使えるかどうか微妙な状況下では、フェールするとなかなか復帰してくれない。そうした条件のわるいときにはEyeSight(ver.2)をあてにしないように、という意味も込めてのことだと思うが、もう少し早く復帰してくれてもよいかと思う。
前述のマルチファンクションディスプレイには、先行車と自車を模した絵柄が表示され、ブレーキランプ部分が本当のブレーキランプと連動して点灯するので、追従走行時にドライバーがブレーキペダルを踏んでいないのに減速が行われた場合でも、車内で分かるところがよい。また、「前方注意」「はみ出し注意」など、カメラ映像を活かした警告が発せられるところも安全に寄与してくれることだろう。
ところで、EyeSight(ver.2)装着車を試乗したのは、SPORTの2.0リッターi-Sの4WD車で、快晴に恵まれた試乗会時とは違って、ドライ路面だけでなく激しい雨の降る状況下も含め試乗した。その際も操縦安定性が高く、ドライと同じような感覚で、大きな安心感を持ってドライブすることができた。市街地ではやや硬さの感じられた乗り心地も高速道路ではちょうどよく、むしろしなやかに感じられた。やはりフットワークの仕上がりはなかなか素晴らしい。
発売直後の受注も非常に好調で、その後も販売は順調に推移している。インプレッサというと、ハイパフォーマンス版の存在も気になるところで、今後どうなるのか定かではないが、ひとまず現状で販売されているモデルの実用車としての素性が非常にハイレベルであることはよく理解できた。この価格でこの内容であれば、コストパフォーマンスは極めて高いし、その上、EyeSight(ver.2)のような先進安全装備が手軽に選べるところも大きな魅力に違いない。
欲を言うと、インプレッサの「見せ方」にはもうひとひねりあってもよかったような気もしなくない。デザインがどうこうという話ではなく、とても新しいクルマなのに、なんだかあまり新しさが伝わってこないのだ。冒頭で述べた「新たなスバルファンを獲得」という部分では、いまひとつ推しが弱いように思えてしまう。クルマ自体の完成度が非常に高いだけになおのこと、さらなるプラスアルファに期待したいところだ。
■インプレッション・リポート バックナンバー
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2012年 7月 5日