インプレッション

STI「レガシィ2.5i EyeSight tS」

2.5i EyeSight tSの開発責任者である渋谷真氏(写真中央・右)ら開発陣と

 マイナーチェンジによりD型へと進化したスバル(富士重工業)「レガシィ」。そのD型レガシィをベースに、STI(スバルテクニカインターナショナル)が300台限定のコンプリートカー「レガシィ2.5i EyeSight tS」を発売した。

 tSモデルは2010年に「フォレスター tS」「WRX STI tS」「レガシィ2.5GT tS」が発売され、今回が4台目のtSモデルということになる。STIのコンセプトに「Sport Always!」というものがあったが、tSとはturned by STIのtとSを取ったものとなる。

 では、STIにおけるtSとはどのようなモデルなのだろう? それは、装備仕様をハンドリング主体に磨きあげることに傾注して、ベース車の運動性能を向上させたSTIコンプリートカーということ。エンジン等のパワートレーンに関してはベース車の仕様を踏襲し、サスペンションや装備類などで性能向上を狙っている。これに対し、エンジンも含めたフルチューニングアップのコンプリートモデルにはSTIのネームが記される。

レガシィ B4 2.5i EyeSight tS

 さて、今回の2.5i EyeSight tSのトピックは、初めて運転支援システム「EyeSight(ver.2)」がSTIのコンプリートカーに採用されたことと、初めて自然吸気の水平対向4気筒DOHC 2.5リッターエンジンがラインアップされたこと。今回の2.5i EyeSight tSは、ベースモデルと比べて車高が15mmダウンしているため、ステレオカメラで前方障害物を認識するEyeSightを調整する必要がある。この作業はスバル本社とのリレーションがなければなかなか困難なこと。3000km以上の実走テストを行ったということだが、STIならではのEyeSight導入と言えるだろう。

 そして、もう1つの初めての自然吸気エンジン(アイドリングストップ機構付き)の導入だが、現在スバル車を購入する人の約8割がレギュラーガソリンを使用する自然吸気エンジンをチョイスすると言う。つまり、今回の自然吸気エンジンの導入には、よりエコで経済的なSTI車に乗りたいというユーザーへの配慮があったとみてよいのではないだろうか。300台限定車であろうともそのような心遣い、勝手な読みかもしれないがユーザー目線での設定に心が温まる。

レガシィ ツーリングワゴン 2.5i EyeSight tS。B4とともに搭載エンジンは水平対向4気筒DOHC 2.5リッター自然吸気エンジン「FB25」で、最高出力は127kW(173PS)/5600rpm、最大トルクは235Nm(24.0kgm)/4100rpmを発生。ともに駆動方式は4WDとなる
インテリアでは専用本革巻きステアリングやアルカンターラと本革を組み合わせた専用シート、専用ルミネセントメーター(STIロゴ入り、260km/h表示)などを装備

 と、勝手にセンチになることはさておき、少し残念なのはスプリングやダンパーなどの細かな数値の公表は行われていないことだ。

 まず、前後のダンパーはtS専用にチューニングされたビルシュタインが採用されている。さらに前後スプリングはSTIのオリジナル。黄色いビルシュタイン製ダンパーに赤いSTIスプリングのセットがフェンダーの隙間から覗く図は、只者ではないSTIコンプリートカーであることを主張している。エクステリアではtS専用のオーナメントがフロント、リヤ、サイドにあしらわれるとともに、フロントアンダースポイラーとB4、ツーリングワゴンそれぞれにトランクスポイラーやルーフスポイラーが大人しめに装着されている。

 さらにエクステリアで注目なのは、マフラーが左右2本出しであること。スバル車の場合、自然吸気エンジンモデルは左出しの1カ所と決められているのだが、tSモデルはターボモデルと同じ左右2本出しなのだ。これには、スバル工場でのホワイトボディー製造工程から生産ラインに混ぜなくてはならず、手のかかる作業を敢えて行うことでユーザーに希少性を提供しているのだ。エンジンはノーマルだが、敢えて言うならばこの左右2本出しのマフラーによる排圧調整が行われている。

 一方、インテリアはSTIのロゴが刺繍された専用シートや専用ステアリングなどを装備し、人気の高いブラックインテリアが基調となっている。ほかにもタコメーターとスピードメーターの間にあるマルチインフォメーションディスプレイが変更されているが、これもtS専用となりドアを開けると「STI Performans」の文字とともにフロントフェイスのイラストが現れ、次にライト部分が点灯し、さらにプッシュボタンを押すとtSのロゴが現れるという凝った作りだ。

専用マルチインフォメーションディスプレイ
専用マルチインフォメーションディスプレイに表示されるSTI PerformansやtSロゴ
2.5i EyeSight tSの開発責任者、渋谷真氏

 ところで、STIのレガシィtSには2010年にリリースされた2.5GT tSがある。このモデルは、スバルの実験部からSTIに入社した辰己英治氏がプロデュースを担当しているのだが、今回の2.5i EyeSight tSはやはりスバルから入社した渋谷真氏が担当している。私のようなレーシングカードライバーからすれば、クルマというものは作り手によって個性が変化するものであることは常識。このようなロードカーの場合、その変化を体験することも楽しみだし、作り手の意図していることを読み取ることも快感なのである。

 まず走り始めて感じたことは、サスペンション全体が締まっているということ。突起を乗り越える時のハーシュなど比較的強めに感じるのだが、サスペンションを含めたボディーの振動が小さいのでそれほど気にならない。フロントにフレキシブルタワーバーとフレキシブルドロースティフナー、リヤにフレキシブルサポートリヤ、ピロボールブッシュリヤサスリンク等の、いわゆるSTI流の補強パーツが組み込まれているから絶妙のボディーバランスが達成されているのだろう。

 このサスペンションの動き始めの締まり感によって、ステアリングを切り始めたときの応答性がこれまでの2.5GT tSに比べてシャープ。レースの世界でいうとステアリングスピードが速いということになる。つまり、操舵初期から応答性が速く少ない舵角からよく曲がるキャラクターということになる。

 ただし、このようなハンドリングは得てしてニュートラルからオーバーステアになりやすいという背反性がある。しかしリヤセクションのスタビリティが高いので、ステア初期の切っ掛けがしっかりと始まり、落ち着きのあるロールとコーナーリング姿勢へと変化してゆく。初期に締まりのあるサスペンションなので、市街地などの低速走行では入力が小さくてもシャキシャキと曲がるし、ブレーキングも無駄な動きが少ない。2.5GT tSはそのあり余るパワーを有効に、そして誰にでも扱いやすくするために、ある程度ファジーな領域をわざと持たせていたと筆者は理解しているのだが、今回の自然吸気エンジンになったことでその領域を必要としなくなったのではないだろうか。つまり、水平対向4気筒DOHC 2.5リッターのFB25エンジンと、それにコラボするリニアトロニックの扱いやすさが、よりスポーティーなハンドリングを可能にしていると考えるのである。

レガシィ2.5i EyeSight tSではリヤのフロア剛性を上げるために、エクシーガの純正部品を流用する

 最後に、STIはパーツ販売も本業としているので、今回のコンプリートカーはベース車に同様のSTIパーツを組み合わせることで同じものが製作できるのではないかと考えたが、答えはNOなのだ。それを行ったとしても80%レベルの性能にしか達しないのだと言う。では、どこに残り20%の秘密があるのか。そのうち、1つだけ聞き出すことができたので報告しよう。あくまでこのインプレッションを読んだ私たちの間の秘密ということで。

 実は、レガシィ2.5i EyeSight tSではリヤのフロア剛性を上げるために、エクシーガの純正部品「ステーリアフレーム」(15cmほどの短いパーツ)をフロア下の両側に流用しているのだ。特に左側はそのまま装着できないため、レガシィ用に加工が必要と言う。こんなものの積み重ねが操縦性に効くのだから面白い。

 要するに、見えないところの剛性アップなど総合的なチューニングが施されているわけで、やはりコンプリートモデルを手に入れることの希少性と重要度は高いのだ。2.5i EyeSight tS は、STIコンプリートカーのこだわりである「走りの愉しみ」と「持つ喜び」をしっかり味わえるモデルなのである。

足まわりは独自セッティングのビルシュタイン製フロントダンパーとSTI製コイルスプリングを組み合わせるほか、STI製のフレキシブルドロースティフナー・フロントLH、フレキシブルサポートリア、ピロボールブッシュ・リアサスリンクなどを装備

(松田秀士)