インプレッション

ルノー「メガーヌ ゼン」

モデル末期ながら「ゼン」を追加したのは?

 少し前に「ルーテシア」に「ゼン」が追加されたのは分かるとして、まさかこのタイミングでモデル末期の「メガーヌ」にもゼンが設定されるとは思わなかった。価格は「GTライン」の275万9000円に対し、およそ1割引きとなる249万円だ。

 この背景にはいろいろ事情もあったことだろうが、欧州では極めてメジャーな大衆車メーカーであるルノーの本来の姿からすると、日本市場での販売がかなり偏っているのは事実だ。ルーテシアや「キャプチャー」の登場で少し流れが変わったとはいえ、今では多くの車種に設定されている「ルノー・スポール」や、本国では“働くクルマ”である「カングー」が一般ユーザーに売れている。一方で、本来はボリュームゾーンであるはずのメガーヌの量販グレードがあまり売れていない。

 そんなメガーヌは、今秋のフランクフルトショーあたりで新型モデルの発表が控えている見込みであり、その半年後ぐらいには日本市場にも導入されるはず。あえてこのタイミングでエントリーグレードのゼンを追加したのは、それを視野に入れつつ、メガーヌにも低価格のベーシックなモデルが存在すること、そして少しでも多くの人に今一度メガーヌに目を向けてほしいというルノー・ジャポンの思いが垣間見える。なお、メガーヌにはエステートも存在するが、ゼンはハッチバックのみの設定となる。

 エクステリアはスポーティさを強調したGTラインと同様のデザイン。ただし、ホイールはゼン専用の16インチ仕様となる。そして、サスペンションセッティングが乗り心地重視に変更されているのもポイントだ。

 装備面ではデジタルメーター、乗り降りしやすい形状のシート、バックソナー、オートワイパー、オートエアコンなど、日本向けに充実した装備を維持しながらも、この低価格を実現しているのが魅力だ。

直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボエンジンに6速DCTを組み合わせるハッチバックボディーの「メガーヌ ゼン」。ボディーサイズは上級グレードの「GT 220」と同様、4325×1810×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2640mm。車重はGT 220よりも70kg軽い1310kg。価格は249万円
エントリーグレードとはいえ、GT 220と同じLEDポジションランプやグレーメタリックランプグリル付ボディー同色バンパーなどを装着
ハロゲンヘッドランプもGT 220と同じ装備
GT 220が18インチアルミホイール(タイヤサイズ:225/40 ZR18)を装着するのに対し、ゼンは16インチアルミホイール(タイヤサイズ:205/55 R16)となる
リアのグレーメタリックリアディフューザーもGT 220との共通パーツになる
インテリアはグレーメタリックフィニッシャー付ダッシュボードとダークカーボンファブリックシートの組み合わせ。GT 220はアナログタコメーター/スピードメーター(RENAULT SPORTロゴ入り)だが、ゼンはデジタルスピードメーターになる。またGT 220では電動パーキングブレーキを採用するが、ゼンは手動式のサイドブレーキとなる
後席は6:4分割可倒式

フットワークの妙味

 GTラインではやや硬い乗り味という声が少なくなかったのに対し、ゼンではサスペンションセッティングを変えたという事前情報から抱いた印象としては、もう少しソフトな乗り心地をイメージしていたのだが、実際にドライブすると予想したよりも引き締まった乗り味だった。

 試乗車は走行距離1500km台の卸したてのモデルで、ゆくゆくはそれももう少しマイルドになるかもしれないが、意外や路面の凹凸を拾いやすく、荒れたところではやや硬さを覚える。

 そんなことを感じつつ、高速道路やワインディングを走ってみると、今度は妙味のあるフットワークに感心させられることとなった。引き締まった中にしなやかさのある足まわりは、高速巡航時にはドッシリと安定した走り味をもたらし、フラット感も高い。直進性も高く、長時間のドライブでも疲労感は小さくてすみそうだ。

 コーナリングでは姿勢変化を抑えた中で、Gの高まりとともに自然な感じでロール角が増えていくので、クルマが今どのような状態にあるのかが分かりやすい。限界性能は高くはないが、タイトなコーナーが折り重なるところでも気持ちよく意のままに駆け抜けていける。

1.2リッター直噴ターボ+DCTによる走りは?

ゼンに搭載する直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボ「H5F」エンジンは、最高出力97kW(132PS)/5500rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/2000rpmを発生。6速DCTを介して前輪を駆動する。使用燃料は無鉛プレミアムガソリン(タンク容量は60L)

 直列4気筒の1.2リッター直噴ターボとDCTの組み合わせとなるパワートレーンは、絶対的な動力性能としては十分。トルクバンドに乗ったときの力強い加速感は、高速道路でもストレスを感じることもない。

 市街地では、極低回転域でトルクの薄い小排気量エンジンと、トルコンを持たないDCTの組み合わせが苦手とする部分も垣間見えるものの、流れに乗ってしまえば問題ないし、DCTとしては違和感が小さい方だと思う。このクラスの排気量1.5リッター程度までのエンジンでは3気筒も増えているところだが、フィーリングとしては4気筒の方がよいなと改めて感じた。

 燃費もそこそこ期待できそうなものの、残念ながらエコカー減税の対象ではない。冷静に考えると大した金額ではないし、そもそもの価格設定がそれを補って余りあるほど十分に値ごろ感がある。とにかくそれを理由に購入検討者がためらうようなことにはならないよう願うのみだ。

 ところで、ちょっと気になったのがブレーキフィールだ。このクルマに限らずラテン系の右ハンドル車はおしなべてそうなのだが、ハンドル位置を問わずマスターバックが左側あり、右ハンドル車では右側に配されたブレーキペダルからロッドを介して動かしている。これではフィーリングがよくなるわけがない。少々のコストをかければ解決する問題だと思うので、次期型ではぜひブレークスルーしてほしい。

 そんなメガーヌに加わったゼンは、いろいろよいところもある上で、とにかくこの価格は魅力。ここで存在感を示し、次に控える新型車につながればよいなと思う次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸