インプレッション

ボルボ「V60 クロスカントリー」

V60とXC60の間に位置するニューモデル

 車名が示すとおり、「V60」をベースにSUVテイストを与えたニューモデル「V60 クロスカントリー」が登場した。60シリーズにはすでに本格SUVである「XC60」が存在し、今回のニューモデルはV60とXC60の間に位置づけられる。

 エクステリアデザインは見てのとおりで、ワゴンの既成概念を打破したスタイリッシュなフォルムが特徴のV60だが、こうしたテイストのデコレーションもよく似合う。スポーツワゴンとSUVの融合を図ったクロスオーバーであるというのもこのクルマのポイントだ。

 カラーコーディネートもV60に対して差別化されており、ドアミラーカバーはブラックとなるのも相違点の1つ。最低地上高は+65mmの200mmで、車高は1540mmと1550mmを下まわっているが、全幅が1865mmあるので機械式立体駐車場に収まるかどうかはそちらの方が問題となりそうだ。

 ホイールについても、クルマのキャラクターに合わせた力強いデザインの専用品が与えられており、タイヤの外径もV60に対して拡大されている。その影響で最小回転半径は6.0mと大きめ。実際、小回りの効かない印象があったのは、このクルマの数少ないウィークポイントとして挙げておこう。

撮影車は直列4気筒2.0リッター直噴ターボディーゼルに8速ATを組み合わせる「D4 SE」(494万円)。ボディーサイズは「T5 AWD SE」と共通で4640×1865×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2775mm。足まわりではクロスカントリー専用のサスペンションを搭載し、V60比で全高は60mm高い1540mm、最低地上高は65mm高い200mmとなっている。車両重量は「T5 AWD SE」から60kg軽い1730kg
エクステリアではハニカムデザインのフロントグリルやフロント&リアのスキッドプレート、サイドスカッフプレート、グラファイトカラーのフェンダーエクステンション、グロッシーブラック・ドアミラーカバーなどを専用装備として装着。アクティブ・ベンディング機能付きデュアル・キセノンヘッドライト(自動光軸調整機構/コーナリング・ライト機能)やLEDポジショニングライト(フロント)も標準装備する。「D4 SE」は17インチアルミホイールが標準装備となるが、撮影車はオプションの18インチアルミホイール(235/50 R18)を装備。なお、全モデルに歩行者・サイクリスト検知機能付き追突回避・軽減フルオートブレーキや全車速追従機能付ACCをはじめとする先進安全装備・運転支援機能を標準装備する
直列4気筒2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンは最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmを発生。JC08モード燃費は19.5km/Lを実現している

 パワートレーンは、「D4」の2WD(FF)と「T5」の4WDの2種類が用意される。「D4」はおなじみ直列4気筒2.0リッター直噴ターボのクリーンディーゼル+8速AT。一方のガソリンの「T5」は直列4気筒2.0リッターではなく、直列5気筒2.5リッターターボ+6速ATとなる。「T5」については旧来の5気筒が復活したのではなく、新開発のエンジンだというから気になるところだが、今回試乗したのはディーゼルの「D4 SE」。イッキに5車種もラインアップしたと思えばすぐさまチューンドモデルを導入するなど、矢継ぎ早にディーゼル攻勢をかけるボルボに、また1つ魅力的なモデルが加わったことになる。

高めの目線とV60譲りのフットワーク

 運転席に収まると、目線がだいぶ高くなっていることを感じる。むろんXC60ほど高くはないが、この見晴らしのよさに魅力を感じる人は少なくないことだろう。

 190PS/400NmというスペックのD4エンジンは、相変わらず低速域から力強く、上までスムーズに吹け上がるのが身上だ。筆者はすでにD4搭載車を何台もドライブしているが、完成度の高さを改めて実感する。クルマの外にいるとディーゼルっぽい音は聞こえるものの、車内にいるとほぼ気にならない静粛性の高さも特長だ。

「D4 SE」のインテリア。インテリアカラーはアンスラサイトブラック/ソフトベージュの2トーン
後席は4:2:4分割可倒式を採用する
オプション設定の「ファミリー・パッケージ」(4万2000円)を選択すると、後席にチャイルドシートが備わる

 車高が高くなると重心が上がり、車両挙動が大きく出る傾向にあるが、それを上手く抑えつつ、新世代のボルボらしいスポーティな乗り味を表現するためか、専用にチューニングされたサスペンションはかなり引き締まった味付けとなっている。V60の美点である俊敏なフットワークは程よく残っていて、フロントヘビーな感覚も巧く抑えられている。

 前席の乗り心地は十分に快適である半面、後席ではやや硬さを感じる。後席にはオプションのチャイルドシートが付いているため、クッション厚が足りないこともあって、着座感からして硬い印象だったのだが、そのあたりを差し引いても後席ではV60やXC60に比べて振動を強めに感じる印象があるのは否めない。そういえば、最新版では事情が違うのだが、初めて「V40 クロスカントリー」が出たときも似たような乗り味だったことを思い出した。

V60、XC60との棲み分けは?

 では「XC60はもっと車高が高いではないか」と思う人もいることだろうが、実はXC60というのは60シリーズの一員であるとはいえ、プラットフォームは1つ上のV70系のものを採用している。それゆえ基本的な走りの資質に少なからず違いがあるのだ。

 そのXC60は、SUVとしてはオンロード走行もかなり得意としていて、後席も含め快適性では上まわるが、運転する楽しさにおいてはより乗用車に近い感覚で、スポーティな走りを味わえるのはV60 クロスカントリーの方が上まわる。そのあたりは、それぞれのキャラクターの棲み分けと理解すればよいかと思う。

 それでいて十分に確保された地上高により、たとえ2WD(FF)でも悪路走破性に優れるという両面を持ち合わせているのも、このクルマならではである。

 今回はオンロードのみでのドライブだったが、これだけロードクリアランスが確保されていれば、それなりに凹凸の激しい場所でも入っていけるはずだ。さらに4WDの走破性を求める人には「T5」も用意されていて、価格も519万円と「D4」の494万円に対してそれほどかけ離れているわけではないことも改めてお伝えしておこう。価格については、XC60に対してかなり買い得感のある設定であることもこのクルマの強みだ。

 そんなV60 クロスカントリー。V60もXC60もそれぞれに魅力的だが、その間に位置するこのクルマを待ってましたと思う人も少なくないことだろう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳