【インプレッション・リポート】
三菱自動車「ミラージュ」

Text by 岡本幸一郎


 6月に大磯で行われた事前試乗会に次いで、いよいよ公道で試乗した三菱自動車「ミラージュ」なのだが、さて困った。

 久々の三菱の新型車を、個人的にも応援したい気持ちはあるし、積極的によさを伝えたい。ところがよいところもあるのだが、よくないところも少なくないし、そもそもこのクルマの最大のポイントは「価格」と「燃費」ということで、文字で表現するよりも数字を伝えたほうが話は早い。そんなわけで、このクルマの試乗記をお届けするのは難しいのだが、ひとまず初期受注は好調らしく、訴求すべきことはちゃんと伝わっているんだと思う。

 価格については、100万円を切ったのは最廉価版の「E」で、装備を考えると実際には真ん中の「M」以上を買うことになるだろうが、それでも「M」が118万8000円、上級の「G」でも128万8000円と安い。これを軽自動車と比較して、人によって小さいとも大きいとも感じるであろう価格差(維持費を含め)を考える前に、まずは乗車定員が5人である点を、ミラージュのアドバンテージとしておこう。

燃費向上のためのエクステリアデザイン
 ところで、個人的になかなかいいなと思っているのがデザインだ。タイで生産される日本車として先輩であり、ライバルでもある日産「マーチ」は、タイではそれなりに売れているらしいが、没個性的になったデザインが日本だけでなく欧州でも不評とか。

 しかしミラージュは個性もあり、普遍的でもある。若者~筆者程度の中年の男性を除けば、老若男女を問わず幅広いユーザーに似合うと思う。また、かわいらしさが前面に出たデザインながら、実は燃費向上のための空力のノウハウが詰め込まれていることもお伝えしておく。ボディーカラーの選択肢は全8色とそれほど多くはないが、印象的なカラーが多く、そのうち半数でブラック&アイボリーのインテリアカラーを選べるのもよい。

 室内の広さは、このサイズとフォルムゆえ、やはり「広々」と表現できるものではないが、十分と言えるものだ。ステアリングにテレスコピックは付かないものの、シートハイトアジャスターは付く。座面全体が上下するタイプなので調整しやすい。後席も広くはなく、頭上の余裕もあまりないが、シートのサイズは比較的大きく、大人2人が乗るには十分だろう。


一般走行ではあまり気にならないロール
 運転して思うのは、すべてが価格に見合っているかなということだ。乗り心地はソフトだが、「快適」と表現できるものではなく、3気筒エンジンはいかにもな振動と音を乗員に伝え、速さもそれなり。Dsレンジに入れても大して速くならない。せっかく設定するなら、もう少し差が分かりやすくてもよいかなと思う。

 前記事でもお伝えした、CVTの副変速機の切り替わりポイントは、街中を普通に走る分にはほとんど気になることはなかった。半面、減速エネルギー回生によるペダルフィールへの影響をあまり感じないのはよしとして、車速がもっと落ちたときに、燃料をカットオフし、直結を解除する際のショックを消しきれていない部分があるのはちょっと気になった。

 燃費については、今回は限られた時間の中で色々と試しながら乗ったため、あまり参考になりそうなデータは得られていないのでここでは記さないが、いずれ機会があればぜひ計測してみたい。

 今の時代、すぐに抜かれてしまうのかもしれないが、執筆時点ではJC08モード燃費はガソリンエンジン登録車トップの27.2km/Lを誇り、感触としては、さすがに額面通りは出ないが、誰が乗ってもそこそこ燃費が出せそうな味付けではあった。速度計の右側に配された踏み方によって変化するエコドライブアシストも、シンプルで直感的に分かりやすい。

 大磯ではスラロームした際のロールの大きさが気になったのだが、これまた一般走行においてはあまり気になるシチュエーションはない。この感想を開発者に伝えたところ、まさに「狙いどおり」とのこと。

 開発者いわく、「調べるとやはりロールは嫌われる。確かにロールはしないに越したことはない。しかし、ロールを抑えようとすると乗り心地がわるくなる。それに女性はぜんぜん気にしていない傾向だし、リニアなロールはドライバーへの注意喚起にもなる。また、お金をかければロールと乗り心地を両立できないことはないが、クルマの性格とコストを考え合わせ、乗り心地を優先するのが合理的と判断した」。

 半面、ピッチングがやや気になり、それが荒れた路面となるとさらに増長されてしまうところは難点。また、ブレーキとステアリングを同時に操作したときに、ブレーキングの具合によって、操舵に対する反応がかなり違うところも少々気になった。

 そのステアリングについては、軽すぎるとか、中立の据わりが甘いという声もあったそうだ。確かに高速道路ではそう感じるかもしれないが、市街地を普通に流すには、軽くて運転しやすく、クルマの性格を考えるとこれでもよいのかなと思う。また、軽いステアリングと最小回転半径4.4mという取り回しのよさは、駐車時に重宝する。

 最小回転半径の数値としては、トヨタ「パッソ/ブーン」に劣るものの、オーバーハングはミラージュのほうが短いので、実質的には勝っているのではないかと思われる。同社の調査によると、女性ユーザーは走りもさることながら、取り回し性を非常に重視する傾向だったとのことで、ミラージュにはその調査結果がよく反映されているわけだ。

上級装備を備えた新型ミラージュ
 また、ミラージュは徹底してコストダウンを図っているものの、安全性や利便性に関するものは削っていないということに気づいた。色々なものを省いてシンプルさを極めたイメージがあるが、オートライトコントロールやフルオートエアコンは言うまでもなく、欧州車では当然の装備である、軽く操作すれば3回点滅するコンフォートフラッシャーや、急ブレーキをかけた際やABS作動時に自動的に点滅するエマージェンシーストップシグナル、閉じたまま走り出しても30km/h以上で自動展開するドアミラー、リバースポジションに連動して自動的に作動するリアオートワイパーなども設定されているのだ。

今後さらに燃費が向上?
 そんなミラージュだが、他の車種と比較せずに単体で評価するなら「リーズナブル」だとお伝えしておこう。それは「お買い得」とか「値ごろ」というよりも、「理にかなった」「妥当」という意味で。同じクラスで周囲を見渡すと、もう少しの出費でホンダ「フィット」や日産「ノート」が買えることを考えると悩んでしまうのは否めない。しかも相手は時を追うごとにどんどん洗練させている。ミラージュも価格と燃費だけでなく、ライバルよりもミラージュに目を向けさせるためのプラスαに期待したいところだ。

 肝心のエンジンだって、まだ燃費を上げる余地はある。そもそも三菱が他社よりもずっと早く本格的に取り組んだ直噴エンジンが、ミラージュには採用されていない。ちなみに業界内では、三菱はGDIで懲りたかような言われ方をしているが、あれはリーンバーンだったからであって直噴で失敗したわけではない。そこが混同されている。もっと燃費に特化したエンジンを積めば、ミラージュの燃費はさらによくなるのは確実。つまり、現状でさえこれほどの燃費が出せているのだから、ゆくゆくはもっとよい燃費を出せるはず。

 ちなみに海外には1.2リッターエンジンを積んだMT仕様があり、欧州仕様にはスタビライザーも付くようだ。無責任に「日本でもMTを売って欲しい」なんて言うつもりはないけれど、あったらあったで注目されることには違いないだろうと思うのは、筆者だけだろうか。

【お詫びと訂正】記事初出時、「横滑り防止装置のASCは全車標準装備」と記載しましたが、正しくは全車オプション装備でした。その一段落は落として再掲載しております。お詫びして訂正します。


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2012年 11月 12日