【インプレッション・リポート】
三菱自動車、今夏発売予定の「ミラージュ」プロトタイプ試乗会【後編】

5人乗りコンパクトカーをクローズドコースでチェック
Text by 岡本幸一郎


 6月5日に、三菱自動車工業のグローバルコンパクトカー「ミラージュ」のプロトタイプ試乗会が行われた。

 前編では新型ミラージュの概要に触れたが、後編では自動車ジャーナリスト・岡本幸一郎氏によるインプレッションを紹介する。

 今回の試乗会はクローズドの特設コースで行われた。コースは取り回しのよさを体感するための縦列駐車コースおよびクランク路、アイドリングストップからの再始動やヒルスタートアシストを体感する上り勾配からの発進、そして動力性能を体感するスラローム&ストレートコースが用意された。






 三菱自動車から久々のニューモデルが登場する。今回、その次期ミラージュ(日本仕様)のプロトタイプに、ごく簡単にではあるが試乗することができた。

 次期ミラージュは報じられているとおりタイで生産され、日本や欧州など世界中にデリバリーされる。すでにタイ国内では今年の4月に発売されており、約2カ月で2万5000台を受注したというから大したものだ。

 日本では7月末に発表、8月末の発売が予定されている。JC08モード燃費では、スカイアクティブのマツダ「デミオ」やホンダ「フィット ハイブリッド」をも凌ぐ27.2km/Lを達成する見込みで、価格についても100万円を切るところからスタートするという情報もあり、期待したいところだ。

新型ミラージュ(プロトタイプ)のボディーサイズは3710×1665×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2450mm
装着タイヤは専用開発となるブリヂストンの低燃費タイヤ「ECOPIA EP150」。サイズは165/65 R14ハイマウントストップランプ付きのリアスポイラールーフ中央にアンテナが付く
運転席のドアおよびリアゲートは、キーを携帯していればワンプッシュで開けられる。助手席はエマージェンシー用として鍵穴が備わる
スモールランプ、ヘッドランプ、ターンシグナルランプを点灯させたところ
スモールランプ、ブレーキランプ、リバースランプ、ターンシグナルランプを点灯させたところ

感覚として軽自動車に近いボディーサイズ
 車両自体は、2011年秋の東京モーターショーで初公開されていたので、すでに目にしていたのだが、こうして実車をコルトの横に並べると、そのサイズの小ささが際立って見える。感覚としては軽自動車に近い。

 可愛らしいエクステリアデザインは、オーソドックスでありながらユニークでもあり、若い女性から年配者まで、幅広い層に似合いそうな雰囲気がある。開口部を極力小さくしたフロントマスクや、ボトムをカナード形状としたフロントバンパー、エッジを立てたリアバンパー、ゆるやかに2段階に落ちるルーフスポイラーなど、空力を向上させるための数々のアイデアも視覚上の特徴になっている。ボディーカラーについても、鮮やかなカラーを豊富に設定するらしく、こちらも楽しみだ。

 ボディー外寸は小さいが、室内はそれほど狭さを感じさせない。比較用に用意されていたコルトと比べても、さすがに天地方向では全高のずっと高いコルトに及ばないものの、縦方向や横方向の印象はあまり変わらない。ラゲッジスペースに至っては、なんとVDA法でいうとコルトより広いというから驚きだ。非常に効率的なパッケージングである。

 インテリアデザインはスッキリとしたもので、何がどこにあるか一目瞭然に分かる。パーキングブレーキは足踏み式ではなく、センターコンソールのレバーで操作するタイプ。収納スペースやシートアレンジなども至ってシンプルな、直感的で使いやすい設定となっている。

 運転席にはダイヤル式のハイトアジャスターが付く。回すと座面の前側だけが上下して、おかしな角度になるものもよく見受けられるところだが、ミラージュのものは座面全体が上下するので、適切な角度が維持されるところもよい。

 センターパネルは、オーディオ付きでは写真のような体裁になっているが、DIN規格のパネルも用意され、カーナビも問題なく収められるので心配ない。インテリアカラーはブラック&アイボリーの2トーンと、ブラックのモノトーンの2色が設定されるものの、ボディーカラーによってあらかじめ組み合わせが1種類ずつに決まっているとのこと。見たところ、2トーンの明るい雰囲気がなかなかよかったので、行く行くは自由に選べようになるといいかなと思う。

インテリアカラーはブラック&アイボリー、ブラックの2色が用意される。撮影車はブラック&アイボリー
リアシートは分割可倒式

機動力の高さが好印象
 さっそく特設コースへ。まずは縦列駐車を試す。

 こんなに狭いところに止められるのかという、ちょっとイジワルな設定だが、全長が短く小回りも効くので、楽に入る。ハンドルの操舵力もかなり軽くて扱いやすいし、ボンネットの微妙に膨らんだ形状が車両感覚を掴みやすくしてくれている。

 次はクランク路へ。ここでも取り回しと視界のよさが光る。Bセグと言えども全長4m超、全幅1.7m超という車種もある中で、ミラージュのこの感覚はかえって新鮮。車体の大きさを気にすることなく、スイスイと進んで行ける。ハンドルの切れ角も大きく、最小回転半径は4.4mとのことだったが、感覚としてはもっと小さいようにも感じられた。

 登録車でこの機動力というのは、こうした日本の道路環境や駐車場事情の中で、大きなアドバンテージになると思う。「小さいことは、イイことだ!」である。そして、視界がとてもよい。Aピラーが細くベルトラインが低いので、視野を遮られる感覚が小さい。

 続いては上り勾配の途中で一旦停止し、ヒルスタートアシストやアイドリングストップの性能を確認。ヒルスタートアシストは、付いていればよいというものでもなく、動作のスムーズさが問われると常々思っている。価格の安いクルマでは、音がしたり、ひきずり感があったりするものが少なくなく、高価なクルマほどスムーズになるという現状が見受けられるところだが、ミラージュのものは比較的スムーズだ。

 また、アイドリングストップからの再始動直後の飛び出し感も抑えられており、アクセルを強めに踏んでも不快な思いをすることはない。タイヤ空気圧は2.7Kとかなり高めだが、乗り心地については専用開発となるブリヂストンの低燃費タイヤ「ECOPIA EP150」の恩恵もあってか、今回のコースを走る限りではとくに気になることはなかった。

新型ミラージュ(プロトタイプ)を試乗
比較用として用意されていたコルトでも同様のコースを走ってみた

 さらに、加減速やスラロームを試したところ、ちょっとロールは大きめ。スタビライザーは付かない。ちなみに欧州仕様のみ細いながらもフロントにスタビライザーが付くらしいのだが、それはロールを抑えるというよりも、中立から微少に操舵したときの正確性を狙ってのこと。一方で日本仕様をスタビライザーなしにする理由は、あくまで乗り心地を重視してとのことだったが、個人的にはもう少し何らかの形でロールを制御してもいいように思った。

 速度が増していくと、ステアリングの操舵力がやや重くなり、据わりがよくなる。駐車やクランク路ではとても軽かったのと比べて、しっかり感が増していく。聞いたところでは、高速走行が主体の欧州市場で通用する操縦安定性を確保するため、150km/h超での走行テストを綿密に行ったとのことだったが、これもその賜物なのだろう。

新型ミラージュ(プロトタイプ)でスラロームを試したところ、ロールはやや大きめ

新開発の直列3気筒 1.0リッターエンジン。JC08モード燃費27.2km/Lを目指している

軽さが際立った新型ミラージュ
 1リッター3気筒MIVECエンジンは新開発で、INVECS-IIIと呼ばれるCVTは日産「マーチ」などと同じジヤトコ製の副変速機付き。軽くアクセルを踏み込むとグッと前に出て、そのまま軽やかに加速していき、やがて副変速機が高速側に移る。エンジンを回すと軽自動車っぽい音がするのは否めないが、加速感はなかなか力強い。

 そして、運転している間ずっと感じたことは、とにかく軽いこと。最近の背高系の軽自動車と比べても、感覚としてはもっと軽いように感じられたほど。前述のパワートレーンや空力に加え、この軽さを武器に、ガソリンエンジンの登録車でトップの燃費を実現するというのもうなずける。

 それでいて、いざとなれば大人5人が乗れる居住空間を確保しているところもポイントだ。さすがに中央席は広くはないが、後席の居住性はわるくなく、自然な感覚のシートポジションを取ることができるのもよい。

 そもそも乗車定員が4人か5人かというのは、エントリークラスのユーザーにとっては無視できない問題。もちろん軽自動車はどんなに広くても4人になるのに対し、ミラージュは5人乗りである点は強みだ。

 詳しくは量産仕様に乗ることができた際に改めてお伝えしたいが、久々の登場となる三菱自動車のオールブランニューモデルの実力を垣間見て、新世代のベーシックなコンパクトカーとして、これはなかなか期待できそうだと感じた次第である。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 6月 8日