インプレッション

ランボルギーニ「ガヤルド LP560-2 50°アニヴェルサリオ」

ランボルギーニ創立50周年を記念した限定モデル

 ランボルギーニが創立50周年を迎えた2013年末に、奇しくも生産終了のときを迎えた「ガヤルド」は、1万4022台というランボルギーニとしては過去にない規模の台数が生産された。ランボルギーニ全体の生産台数が50年間で約3万台なので、実に半分近くをガヤルドが占めるということになる。

 ランボルギーニでは、V12エンジンを積むフラグシップのイメージがあまりに強かったせいか、ガヤルド以前の「ベビーランボ」と呼ばれる下位モデルは、その影に隠れて今ひとつ存在感を発揮することができずにいたように思う。同じように「ピッコロ(小さな)フェラーリ」と呼ばれたフェラーリのV8モデルはキャラクターが立っているのとは、実に対照的だと感じていた。

 ところが、アウディ傘下に収まり、ベビーランボとしては十数年ぶりの復活となったガヤルドは、当初から注目度が高かった。登場時には5.0リッター、後にボアアップによって5.2リッターとなるV10エンジンを積むガヤルドは、「ベビー」という表現が似つかわしくない感があったことはさておき、それまでのランボルギーニ車にはなかった「メジャー志向」ぶりを感じさせた。

 そんなガヤルドの登場からちょうど10年目に発売された、全世界での生産台数が90台以下という貴重な特別仕様車「ガヤルド LP560-2 50°アニヴェルサリオ(以下「50°アニヴェルサリオ」)をドライブする機会を得た。これまで多くの限定モデルが世に送り出されてきたガヤルドだが、50°アニヴェルサリオは、走行面では2WDであることと、通常の2WDモデルでは最高出力が550PSのところ、10PS向上の560PSに引き上げられているのが特徴。内外装はシンプルな中にも特別感のある装いを見せている。

 2WDで色が白というと、ひょっとするとランボルギーニは、モデル末期に送り出すこの限定モデルに原点回帰の思いを込めたのだろうか? という気もしてくる。

2013年7月に日本へ導入されたアウトモビリ・ランボルギーニの創立50周年記念モデル50°アニヴェルサリオ。ボディーサイズは4345×1900×1165mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2560mm。ボディーカラーは専用色の「ビアンコ・オパリス」(白色)。導入時の価格は2291万6250円
足下はダークグレーの19インチ鍛造アルミホイール(フロント8.5×19、リア11×19)にピレリ「P ZERO(フロント235/35 ZR19、リア295/30 ZR19)」の組み合わせ。赤く塗装されたブレーキキャリパーはフロント8ピストン、リア4ピストン
カーボン製のハイ・リアウイングを装備

 エクステリアでは、まず光の反射が強い粒子の層を追加した専用の白色である「ビアンコ・オパリス」を採用したというボディーカラーからして特別だ。これは既存のランボルギーニ車にはなかった新しいカラーである。

 基本的には白なので、それほど目立たないのではないかと思ったら、まったくそんなことはなく、異様なほどに光を反射するボディーによる存在感は強烈。さらにカーボン製で脚部の長いハイ・リアウイングや、ダークグレーのスコルピウス19インチ鋳造アルミホイールを標準装備するほか、透明なカバー越しにエンジンルームを覗くことができる。

 大部分がブラックのアルカンターラで覆われているインテリアは、随所にカーボンパーツが与えられているのも印象的。実はランボルギーニというのは、30年以上も前から業界に先駆けてカーボンファイバーを採用してきた経験があり、ボーイング社やワシントン大学とも技術提携して研究開発を継続。現在ではイタリア本社にカーボンファイバーセンターを設立するほど世界をリードするカーボンファイバー技術を持っており、50°アニヴェルサリオにもそれが活かされている。バケットシートもカーボン製で、そのシートやルーフライニング、ドアトリムなどには赤のステッチが配されている。

 これまでもガヤルドは、内外装のデザインにおいてさまざまなコンセプトを披露してきたが、50°アニヴェルサリオでは、あまり派手すぎない中で“さりげなくスペシャル”な感覚を演出している。

インテリアはブラックを基調としたアルカンターラ内装で、カーボン製スポーツ・バケット・シートなどを装備。室内には50周年を記念したモデルであることを示すバッヂも備わる。スピードメーターは340km/hまで刻まれる

10PS向上したV型10気筒DOHC 5.2リッターエンジン

V型10気筒DOHC 5.2リッターエンジンは最高出力560PS/8000rpm、最大トルク540Nm/6500rpmを発生

 5.2リッターの排気量を持つV型10気筒エンジンは、ボア×ストロークが84.5mm×92.8mmとロングストローク。最高出力の560PSを8000rpm、最大トルクの540Nmを6500rpmという高い回転域で発生する。1リッター当たり実に112PSを達成していることになり、0-100km/h加速は3.9秒、最高速は320km/hに達するという実力の持ち主だ。

 エンジンフィールは独特で、ロングストロークにより低回転域からドンと図太いトルクを発生しながらも、回すと強烈にパンチの効いた加速力を発揮する。下から上まで瞬発力のカタマリのようなエンジンで、レッドゾーンの8500rpm手前まで一気に吹け切ってしまう。フェラーリのV8モデルが奏でる甲高いサウンドとは対照的な、低音の効いた迫力あるV10サウンドもガヤルドのイメージによく似合う。モデルライフ前半のガヤルドはもう少し荒々しい印象が強かったが、後年は改良されて豪快な中にも繊細さを感じさせるものとなったように思う。

 セミオートマチックのシフトチェンジマナーも、後年のモデルほどよくなっている。センターコンソールスイッチで走行モードを切り替えると、それに従いドライブフィールは大きく変わる。最強の「CORSA」モードを選ぶと、素早くダイレクトなシフトチェンジを実現している。

2WDならではのハンドリング

 シャシーについて改めて述べるが、50°アニヴェルサリオではガヤルドが当初から採用してきた4WDではなく、後輪駆動とされているのも特徴だ。

 もともとガヤルドは大きなエンジンをリアミッドに搭載するがゆえ、本来あまりバランスのよろしくないところを4輪駆動とすることで補っていた。ところが、ドライビングプレジャーを追求した2009年発売の限定車「ガヤルドLP550-2 バレンティーノ・バルボーニ」で初めて2WD(MR)モデルを設定した。2WDは特殊な位置づけという印象だったが、やがて2WDモデルがガヤルドの正式なラインアップとして加えられたのは、ご存知のことと思う。もちろん2WDとすることによって失うものと得られるものがある。失うものは絶対的なトラクションと安定性、得られるものは軽さと運動性能、低価格化などだ。

 リアデフに組み込まれたLSDは、加速時に25%、減速時に45%のロック率となる非対称ロックとされている。これによりターンインでの安定性とニュートラルなハンドリングを追求していることがうかがえるが、スーパーカーにとって命といえる“走り”の素性は、4WDと2WDでかなり性格が異なるに違いない。誰でも速く安定して走れることを是とした4WDモデルとは違い、2WDモデルは一連の運転操作による挙動変化が大きく出るので、ちゃんと操作しないとキレイに走れない。じゃじゃ馬ならぬ暴れ牛になるのだ。

 半面、そのぶん自由度も上がり、積極的に自分で姿勢を作っていける。だからこそ面白く、刺激的なドライブフィールを味わうことができるのだ。走行モードを切り替えるとESPの介入の具合など操縦性も大きく変わり、気分によって任意に変えられるのもよい。

乗り心地も、かつてのガヤルドは市街地走行ではゴツゴツする印象が強かったが、だいぶマイルドになっている。速度を上げるほどにフラットになっていくのは、実は以前からガヤルドはそうだったが、よりフラット感が増したように感じられた。これにはエアロダイナミクスの向上も寄与していることと思う。

 2014年のジュネーブショーでガヤルドの後継機「ウラカンLP 610-4」が登場したが、ガヤルドはランボルギーニのターニングポイントを華やかに飾った、記憶に残るモデルとなることはいうまでもない。そして、50°アニヴェルサリオは、ランボルギーニの50周年を記念するに相応しい特別感とドライビングの高揚感を楽しませてくれるモデルであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一