インプレッション
日産「ティアナ」
Text by 日下部保雄(2014/3/14 00:00)
「ティアナ」は今や世界120カ国に販売されるグローバルモデルで、マザーカントリーである日本をはじめ、北米、中国を中心として各国で生産されている。年間販売台数は60万台以上に及び、日産自動車の中核を成すモデルでもある。
そのティアナがフルモデルチェンジされて3代目に入った。初代から続く、広く上質なキャビンというコンセプトは変わらない。デビュー時の「モダンリビング」というキャッチコピーはデザイン性の高いシートやインテリアで説得力のあるものだったし、2代目の「おもてなし」は助手席オットマンシートで寛ぎを表現していた。
3代目になった新しいティアナのキーワードは快適。従来のキャビンの快適さに加えて、移動空間としてドライバーの快適さにもフォーカスしたもので、“走りも楽しめる大人のクルマ”を目指している。
ティアナの真骨頂はインテリアだ。モダンリビングをさらにリファインして気品のあるキャビンを演出している。ダッシュボードのデザインは無難にまとめられて、2013年11月にデビューした新型「スカイライン」とも近似性のあるものだが、スカイラインに比べてゆったりとした雰囲気を出し、質感も実車で見るとなかなかレベルが高い。また、開放感があるのもティアナの特徴で、シートに座るとなんとなくしっとりとした気持ちになり、車格感はさらにアップしている。同時に、ティアナがアッパーグレードでも300万を少し出るぐらいの価格設定になったことは驚きだ。一番安いXEグレードでは約243万円のプライスタグが付けられている。
シートに座ったときに落ち着く感じは、新しい「スパイナルサポート機能付きシート」の効果も大きい。しっかりサポートするというより、ふわりと受け止めてくれる感覚が心地よい。また、サイドウインドーも居住空間を優先して立ち気味になっており、解放感のあるキャビン演出に一役かっている。そして助手席には電動オットマンが備わっている。ロングドライブなどでふくらはぎをサポートしてくれるこの装備は、実際に使ってみて女性に限らず喜ばれるだろうと感じた。
リアシートの広さもティアナの特徴の1つだが、新型はフロントシート形状が変更され、座面下に後席パッセンジャーのつま先が入りやすくなっており、さらにリラックスしてリアシートに座れるようになった。フロントシートの座面後端をわずかに9mm削っただけだが、これが結構効いている。
フロントシートからの視認性はAピラーの形状が立っているので見やすく、ボンネット形状もよいので車両感覚を掴みやすい。これら座ったときの印象も含めて解放感がある。また、ドライビングポジションではテレスコピックステアリングが装備されたので、さらにドライバーにフィットするようになった。もともと座面が高めだが、良好な視界と余裕のあるヘッドクリアランスを両立させている点が、ボディーサイズに余裕のあるグローバルカーのティアナらしい部分だ。
エンジンはすべて直列4気筒DOHC 2.5リッターのQR25DEのみ。このエンジン、特に飛び道具はないが、レギュラーガソリンを利用できてフラットトルクなのが使いやすい。127kW(173PS)/6000rpm、234Nm(23.9kgm)/4000rpmの動力性能を持ち、大容量のCVTと組み合わせている。ドライバビリティは4気筒エンジンのパンチ力とCVTの効果で滑らか。追い越し加速も十分な余裕を持って行える。重量が40kg軽量化され、VXで1470kgに収まっていることも効いている。
このCVTは軽量化とフリクションロスを低減した新開発トランスミッションで、従来からは80%が新規開発。ギヤレシオもよりワイドになって、燃費と加速力の両方に性能向上している。急加速ではエンジン回転が上がるCVT感はあるものの、大きなトルクでCVT嫌いなユーザーでもそれほど違和感なくドライブできるだろう。JC08モードでの燃費は14.4km/Lだが、瞬間燃費計を見ていると実燃費も意外とよさそうだ。
アイドルストップの装備がないのは残念だが、振動や静粛性などで条件の厳しい上級モデルに適合させるのはなかなか難しかったのかもしれない。しかし、燃料消費の削減効果が高い技術だけに、今後導入の必要性があるだろう。ちなみに、アイドリング振動、およびノイズなどはよく抑えられており、6気筒エンジン車と比較してもそれほど遜色はない。
コーナーリングで新しいティアナの一面を見せる
ボディーは静粛性の向上を狙って剛性アップが図られている。初代のティアナからリラックスできる空間だったが、さらに磨きがかけられている。エンジンマウントやエキゾーストマウントの最適化と風切音の低減、それに吸音材を適切に使うことで、低速から高速までキャビンの静粛性が実感でき、解放感のあるキャビンと相まって疲れの少ない空間を楽しめる。さらにXVグレードでは前席エアコンディショニングシートを採用。冷暖房を使って冬場から真夏まで快適なシート温度が保てるので、冬にひんやりとする本革シートでもなかなかに心地よい。
サスペンションはフロントがストラット、リアはマルチリンクと形式上は変わりないが、トー変化を抑えたブッシュ構造になっており、接地性が高くなったと言われる。具体的にはリンクブッシュに加えてコネクトブッシュを初採用。接地性は明らかに向上しており、これはボディーへの取り付け剛性向上の効果も上げている。乗り心地では凹凸路面でサスペンションの追従性が向上し、バタバタする感じが少なくなっている。
新しいティアナはただゆったりと走るだけではなく、積極的なドライビングも楽しめるクルマというキャラクターが与えられており、スカイライン、エクストレイルに続いて「アクティブトレースコントロール」を装備している。この機能は必要ならコーナリング中にイン側2輪に軽くブレーキをかけて旋回力を補うものだ。ただ、通常ではほとんど働かず、速いスピードでコーナーに入った場合などに補助的に機能するため、ドライビングの邪魔にはならない。
ティアナは優れたライントレース性を発揮するために、もちろんアクティブトレースコントロールだけに頼るのではなく、車体側でのライントレース性を向上させている。従来のティアナから飛躍的に向上したハンドリングは適度に固められたサスペンションで成立させているが、ステアリングに伝わるグリップ力、操作したときの応答性などは、アッパークラスのティアナらしさがある。しっとりとしたなかにもガッチリと路面を捉え、ロールも小さく安定感があり、コーナーリングパフォーマンスは高い。新しいティアナの一面を見せている。
半面、中高速でのコーナーリングでは車体とサスペンションの動きが一体化せず、ドライバーに若干の違和感を与える。言ってみれば、ステアリング操作に対してロール収束が一瞬遅れる感じである。バネ上とバネ下の動きの位相遅れともいうべきか? また、低速では本革シートの張りがやや強く、細かい突き上げを感じることもあるが、これは常識的な範囲だ。前述のように大きいシートはサポート性や大きなショックの吸収性などは優れており、シートの持つポテンシャルはかなり高い。
これらの動きはティアナのハンドリングや乗り心地のレベルを損ねるものではないが、より一体感のある動きを実現することでさらに走りの質感向上が望めるのではないかと思う。
高速走行時の安定性は、フロア形状の変更、および外観形状を空力的に洗練させたことから空力特性が向上しており、Cd値(空気抵抗係数)が0.29と小さいながらも適度なダウンフォースを得ている。高速巡航時にはステアリングに手を添えているだけで安定感のある走りができる。
ちなみに同じ2WD車でも、FFのティアナとFRのスカイラインでは求められているものが異なり、コストパフォーマンスに優れたティアナはスカイラインとは違ったポジションを築いている。平たく言ってしまえば、アクティブでハイブリットのみを設定するスカイラインに対して、ティアナはコンベンショナルなFFを(日本では)ラージクラスのボディーにまとめ上げるという作業に成功しているように見える。
さて、こうしてみると、ティアナが目指した“目的地まで疲労なく到着する”というプロセスのなかに、パッセンジャーとの快適な空間を持ちながらドライビングそのものを楽しむというコンセプトをどのような形で実現しているのか理解できる。グローバルな車種展開のなかでちょっと遅れてやってきた日本だが、市場からは好意的に受け止められて、順調にユーザーを増やしている。