インプレッション

クライスラー「ジープ・チェロキー」

 自然に囲まれた生活を夢見る筆者だが、現実はほど遠い。でも、そんな夢が将来叶うのであれば、「チェロキー」のような逞しい4×4モデルを愛車リストに必ず加える。

 6年ぶりに4代目となった「チェロキー」は、これまでの路線とは一線を画す斬新なフロントマスクと上質なインテリア、そして定評ある走破性能を昇華させたフィアット・クライスラー渾身の1台だ。ラインアップは、FFの2WDが1モデル、4WDが2モデルの合計3モデル。FFモデルの「Longitude(ロンジチュード)」は、マルチエア(無段階可変吸気バルブ機構)直列4気筒SOHC 2.4リッター(170PS/23.4kgm)を搭載し、4WDモデルの「Trailhawk(トレイルホーク)」と「Limited(リミテッド)」には、V型6気筒DOHC 3.2リッター(272PS/32.1kgm)が組み合わされる。トランスミッションは、3モデルともZF製9速ATだ。

 エクステリアでは、一新された“顔”がすべてを物語っているように、非常にシャープなデザインが特徴だ。ピカピカに磨き上げてフォーマルな場所に乗り付けても似合うが、きっとオフロード走行で土まみれになったとしても絵になることだろう。フロントセクションでは、ジープブランドの伝統である「7スロットグリル」の左右に配置された横長LEDの“フィーチャーライト”が真っ先に目を惹く。ただ、これはヘッドライトではない。被視認性を向上させつつ「チェロキー」のキャラクターを主張するアクセント(クリアランスランプ)として与えられたもので、このライトケースにはウインカーも組み込まれている。ヘッドライト(4WDモデルはHI/LOWともにディスチャージ式)はフォグランプの上部、ボンネットフード境界線のライン上に配置されている。

2WD(FF)で直列4気筒SOHC 2.4リッターエンジン搭載の「Longitude(ロンジチュード)」。価格は379万円
4WDでV型6気筒DOHC 3.2リッターエンジン搭載の「Trailhawk(トレイルホーク)」。価格は429万8400円
最上級モデルとなる「Limited(リミテッド)」。価格は461万1600円

 サイドセクションでは、これまたジープブランド伝統の台形ホイールアーチがデザインされた。この台形ホイールアーチは力強さを演出すると同時に実用性も高く、大径タイヤのロングホイールトラベルを妨げないために採用され続けているものだ。尻上がりのウエストラインが与えられているが、Aピラー付け根部分が低くなっており、ドアミラーの視認性とオフロード走行で大切な見切りのよさを両立させた。リアセクションでは、左右で48個ものLEDがちりばめられたテールランプと、フロントセクションから続くバンパー機能が与えられた樹脂トリムで構成されている。フロントセクションの強烈なインパクトに対して、サイドやリアをシンプルにまとめるデザインテイストは、世界的な兆候としてSUVにも浸透してきた感がある。しかし、個人的な趣味を言わせていただくなら、SUVであるからにはリアビューでもっと力強さを誇示してほしいと思う。

 今回の試乗ステージは「チェロキー」にふさわしく、山梨県にあるオフローダーに人気の「スタックランドファーム オフロードコース」を中心に行われた。取材日の前日は深夜まで土砂降りの雨だったこともあり、コースは深い轍だらけ。いたるところに深度不明の水たまりができた泥濘地と化しており、元から本格的なオフロードコースの難易度をさらに上げていた。

オフロードでの試乗は「スタックランドファーム オフロードコース」を中心に実施。前夜の雨でコース難易度が高まっていたが、「チェロキー」の走破性やいかに!?

専用装備の電子デバイスを使いこなせば高難易度のコースも楽しめる

 この難関コースを走らせるのは、4WDモデルでシリーズ一番の駆動力を誇る「Trailhawk」だ。このモデルには、上級仕様の「Limited」が搭載する4WDシステム「アクティブドライブII」をベースとした、「アクティブドライブロック」が搭載される。この「アクティブドライブロック」は、悪路での走破性能を高めるためにロッキングリアデファレンシャルを用いる「Trailhawk」専用の駆動システム。また、トラクションコントロールやESCなどとも連携させ、路面に応じて最適な駆動パターンを生み出す「セレクトテレインシステム」にも、「Trailhawk」専用装備として岩場などより険しい路面に最適な速度を保ちやすく駆動力をコントロールする“ROCK”モードが追加されている。

 コースインしたそばから路面はかなりのぬかるみ状態だ。まずは「セレクトテレインシステム」を“AUTO”モードにセット。本格的な4WDシステムを搭載しているだけあって車両重量は1990kgとかさむものの、轍にはまりそうになるとすぐさま電子デバイスが介入。なにごともなかったかのように通過する。ここで挙げた電子デバイスとは、スロットル制御やトラクションコントロール、さらにはトランスファーのコントロールに加えて、トランスミッションのシフトスケジュールやESCの制御にまで至る。つまり、「走る」「曲がる」「止まる」に関するすべてのデバイスに対して、路面状況にあわせた最適なアウトプットがなされるわけだ。

水浸しのぬかるみだが、なにごともないかのように走り切る「セレクトテレインシステム」

 気をよくしながら進んでいくと、ぬかるみに連続する大きな凹みが現れた。「チェロキー」はお構いなしにグングン進むが、凹みを通過するたびにゆったりとしたサイズのドライバーズシート上で身体が大きく上下する。そうなるとアクセルを踏む右足が安定しなくなり、ときにアクセルワークがラフになってしまう。そこで「セレクトテレインシステム」を“AUTO”モードから“SAND/MUD”モードにスイッチ。その瞬間からアクセル操作に対する駆動力の発生が穏やかになり、暴れる右足でもスムーズな走りが可能となった。

センターコンソールのシフトセレクター前方に「セレクトテレインシステム」の操作パネルを設置
「Trailhawk」はロッキングリアデファレンシャルを備える「アクティブドライブロック」を搭載。さらに「セレクトテレインシステム」に“ROCK”モードが追加される

 20°近い下り勾配路にさしかかったところで、「セレクトテレインシステム」のダイヤルスイッチ上部右上に配置された「ヒルディセント機能」をONにする。下り勾配で一定の車速を保ちながら車両を安定させる機能で、SUVでは一般的な装備。今では軽自動車の「ハスラー」にも装備される実用性に富んだデバイスだ。「チェロキー」の場合、1~8km/hの間で目標速度の設定が可能。意地悪く1km/hに設定して下り勾配に挑んでみたのだが、ESCなど電子デバイスをフルに稼働させながら抜き足差し足のごとく泥と小石が混ざった非常に滑りやすい路面をしずしずと下りていく。

 下りきったところで今度は30°近い登り勾配路にさしかかった。ここでは上り勾配路を目標速度どおりに走らせる「ヒルアセント機能」を試す。「ヒルディセント機能」と同じく目標速度の設定可能は1~8km/hであるため、今回は3km/hに設定した。すると、システムを起動させた瞬間からアクセルとブレーキ操作なしに、4輪の駆動力を独立してコントロールしながらグングンと上り勾配を駆け上がっていく。「ヒルディセント機能」ではなるべくタイヤをロックさせないような制御が働いていたが、「ヒルアセント機能」では、必要に応じて適度に各車輪をホイールスピンさせながら駆動力を生み出す。また、この機能が働いている最中でもドライバーのアクセル操作を受け付けてくれるため、進路の路面状況を見ながら、先読みしたアクセルワークを加えたシステムとの協調運転も可能だ。

ヒルディセント機能は泥と小石が混ざった路面をゆっくりと安全に下っていく
作動中でもドライバーのアクセル操作を受け付けてくれるヒルアセント機能

 こうして難易度の高いオフロードコースを堪能したわけだが、「ヒルディセント機能」と「ヒルアセント機能」を包括した「セレクテレインシステム」本来の目的は、ドライバーの負担を減らすことにある。周囲の安全確認とステアリング操作に集中できるので、オフロード走行では必須のアイテムとなってきている。「チェロキー」ではそのありがたさを心底実感することができた。

 しかし、システムには限界があるのも確かだ。「Trailhawk」は今回のような悪路の走破性能で定評のあるヨコハマ「GEOLANDAR SUV」(245/65 R17)を装着しているが、コースの難易度に合わせるため、事前に標準空気圧から40kPaほどエア圧を落とし、タイヤの接地面積を増やしてコース走行に臨んでいる。くれぐれも自然の摂理にあらがうことなく楽しみたいものだ。

大雨で難易度が上がってしまった路面に対応するため、試乗車は空気圧を下げて接地面積を増やした
「タイヤプレッシャーモニタリングステム」は全車に標準装備

トルクフルなエンジンと先進装備でオンロード走行も快適

 短時間ながらオンロードでも試乗したが、こちらではFFモデル「Longitude」の軽快で上質な乗り味が心地よかった。車両重量は1730kgと、4WDモデルの「Trailhawk」から260kgも軽量化されていることに加え、ロングストロークエンジンの太い低速トルクに助けられてボディーサイズからは想像できないほど活発に走らせることができる。

 興味深かったのは、6~9速までがオーバードライブ設定となる9速ATのフィーリングだ。変速そのものは滑らかなのだが、スタートから3速にシフトアップするまでのギヤ比間隔が狭く、市街地での頻繁なストップ&ゴーでは少し煩わしく感じることもある。これは9段と小刻みに区切りながら、全体としてはワイドとなるように設定されたギヤ比によるものであり、トランスミッションを共有する4WDモデルでオフロード性能を向上させるためにとられたもの。いわばトレードオフの関係にあるのだが、FFモデルは最終減速比が4WDモデルよりも13%ほどローギヤードになるため、その傾向がさらに強くなっている。

 また、4WDの「Limited」が持つオンロード性能は目を見張るものがあった。4WDモデルは両グレードともに“オフロードサスペンション”を装着しているが、「Limited」はオンロード性能が高められた225/55 R18サイズのSUV専用のスポーツタイヤであるブリヂストン「DUELER HP」を装着していることもあり、ワインディング路でもハンドリングは素直。“オフロードサスペンション”となるため乗り味には少し硬さを感じ、突き上げが強い場面もあったが、これはパワフルな3.2リッターエンジンの特性に見合ったセッティングとも言える。「Trailhawk」でのオンロード走行は叶わなかったが、オフロードでの終始安定した走りから想像するに、245/65 R17の大径タイヤによって40mm高められた車高(最低地上高も40mmアップの220mm)であっても、走行性能は不満を抱くものではなさそうだ。また、「Limited」と「Trailhawk」の4WDシステムは、リヤアクスル分離機能が搭載されているため、平坦路など大きな駆動力が必要ない場合には、後輪の駆動力を自動的にカットして燃費数値を稼いでくれる。

直列4気筒SOHC 2.4リッターエンジンは無段階可変吸気バルブ機構「マルチエア」を備え、最高出力130kW(170PS)/6400rpm、最大トルク229Nm(23.4kgm)/6400rpを発生。「Longitude」のJC08モード燃費は10.4km/L
“ペンスター”の愛称を持つV型6気筒DOHC 3.2リッターエンジンは、最高出力200kW(272PS)/6500rpm、最大トルク315Nm(32.1kgm)/4300rpを発生。JC08モード燃費は「Trailhawk」が8.8km/L、「Limited」が8.9km/L
「Longitude」の装着タイヤは225/60 R17
ワイドサイズの245/65 R17タイヤを採用する「Trailhawk」
オンロード走行を意識した「Limited」は225/55 R18サイズの「DUELER HP」を装着

 安全装備ではACC(アダプティブクルーズコントロール)に加え、前面衝突警報、車線逸脱警報などの先端装備が「Limited」に標準、「Longitude」はセーフティパッケージIとして、「Trailhawk」はセーフティパッケージIIとして、それぞれ32万4000円高でメーカーオプション設定される。IとIIの違いはグレード違いによる装備差を埋めるもの。また、カタログにはACCの注釈として“STOP&GO機能”という表記があるが、これは追従走行中に先行車が停止すればそれにあわせて自車も停止。そのクルマが発進した場合は、ドライバーがワンアクション(スイッチ操作、またはアクセルを少し踏む)すれば追従走行がスタートするという機能。いわゆる「衝突被害軽減ブレーキ」のことではない。

 さて、夢が叶った場合に筆者はどのグレードを選ぶか? これはもう断然「Trailhawk」だ。車幅が40mmワイドになる専用オーバーフェンダーを備え、専用グリル&ルーフレール、そしてドアミラーがマットカラーになる演出はSUVらしさが満点だ。さらに「Trailhawk」だけが搭載する「アクティブドライブロック」に代表される卓越した走破性能は「チェロキー」の魅力を最大限発揮していると言える。ワガママついでに、ボディーカラーはディープチェリーレッドクリスタルで、メーカーオプションのセーフティパッケージIIをチョイス追加。ディーラーオプションにあるボンネットフードの「フードデカールマットブラック」をおごりたい。

 ジープブランドならではの卓越した悪路走破性能に憧れて選んでも、また、マッドで存在感あふれるデザインに惹かれたとしても満足度が高いアメリカンSUV、それが「チェロキー」だ。

「Limited」のインパネ。ステアリングスポークの右側にはACC(アダプティブクルーズコントロール)の操作スイッチを設定
助手席は背もたれが可倒式になっており、シート下に収納スペースを用意する
「Limited」は運転席8ウェイパワーシート/助手席6ウェイマニュアル調整機構やシートヒータを持つナッパレザーシートを標準装備
6:4分割可倒式のリアシートは前後スライド機構も備える

Photo:高橋 学

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員