インプレッション

S660のポテンシャルを引き出す。ホンダアクセス「Modulo(モデューロ)」試乗会

 都内を早朝に発ち、2時間あまり。関越自動車道を群馬県北部の月夜野IC(インターチェンジ)で下りて、約20分走ったところに試乗会場となった「群馬サイクルスポーツセンター」はある。“日本のニュルブルクリンク”とも評されるこのコースからインプレをお届けするのは、おそらくCar Watchでは初めてのことだと思う。

“日本のニュルブルクリンク”で開催する意味は?

 群馬サイクルスポーツセンターはその名前のとおり、もともとは自転車のためにつくられたコースだが、近年ではラリーイベントや自動車情報ビデオ撮影の定番のメインステージとして登場するなど、クルマ関連にも積極的に使われている。もう何年ぶりだろうか、筆者も過去に何度か走ったことがあるのだが、タイトでアップダウンに富み、ブラインドコーナーが続き、しかも路面のアンジュレーションがきつく、とてもスリリングなコースには少なからず恐怖感を覚えたものだ。

 そんなコースであえて試乗会を行なったのは、ホンダアクセスの自信の表れにほかならない。ご存知のとおりホンダアクセスではホンダの純正アクセサリーを「Modulo(モデューロ)」ブランドで展開している。純正アクセサリーというと、純正の延長上で、信頼性は高い半面、言葉はわるいが無難というか、それほど凝ったことをやっているイメージがないように思えてしまう。

「群馬サイクルスポーツセンター」にホンダアクセスが手がけるカスタマイズモデルが集結

 ところがホンダアクセスは、商品開発において想像を絶するほど手間をかけていることを、まずお伝えしておこう。開発の場所としてホンダの鷹栖のテストコースだけでなく、ここ群馬サイクルスポーツセンターや、さらにはニュルブルクリンクにも赴くなどして、時間をかけて納得がいくまで開発しているというのだ。

試乗会場に登場した土屋圭市氏

 さらに、社内にも優秀な開発陣を擁する上に、アドバイザーとして、あの土屋圭市氏が深く関わっているということも、あらためて強調したい。そして今回、「S660」のような興味深いクルマが登場し、アイテムが出そろったところで、その真価をより実感できる場として、群馬サイクルスポーツセンターで試乗会が開催されるはこびとなったわけだ。

ホイール、サスペンション、エアロでそれぞれ変わる「S660」の走り

 S660の試乗車は、ホイールだけ交換したモデル、加えてサスペンションを交換したモデル、さらにエアロパーツを装着したモデル、という3段階に手を加えた3台を用意。

 実際の話、一般的新型車の試乗会の場でも、カスタマイズされたデモカーに乗れる機会はしばしばあるものの、その場合、すでにすべてのアイテムが装着されていて、どのアイテムがどのように効いているのかよく分からないケースが多い。ところが、今回のように段階的に乗り比べられると、それぞれのアイテムの効果をより如実に体感することが期待できる。

 とはいっても、“ホイールだけでそんなに違うのだろうか?”と思ったのだが、乗ってみて予想以上に違いが感じられたことに驚いた。

 ホンダアクセスの開発陣は「ホイールはサスペンションの一部と捉え、最適な剛性バランスがあるのではないかと考えた」と述べていて、ノーマルよりも、剛性としてはいくぶん落とす方向で、ただしリムからディスクにかけては、より変形しにくい形状としている。重量も、トータルで約3.5kgの軽量化となる。タイヤはノーマルと同じである。

 乗り味としては、コーナリングがより素直になったというのが第一印象。ステアリング切り始めの応答性が向上し、スッと曲がるようになった。ゴーカートフィールを狙ったと思われるノーマルよりも、ゲインを落としつつレスポンスは上がったという印象だ。

モデューロのアルミホイール「MR-R01」を装着したS660

 そして、乗り心地がよくなって突き上げ感が減っていた。ギャップを越えたときなどは、ホイールがしなって、衝撃を上手く吸収しているようで、しっとりとした乗り味になっている。けっこう違うものだ。

 それにしても、ホイールだけでこれほど変わるとは思ってもみなかった。ホイールというのは、えてしてデザインで選びがちだが、好みの乗り味を手に入れるためにホイールを替えるというのも、大いにアリということだ。

モデューロのアルミホイールを装着したS660の試乗

 続いて、ホイールに加えてサスペンションとブレーキなどを交換したS660をドライブ。

 サスペンションは純正と同じサプライヤーによるもので、味付けをホンダアクセス独自の仕様に変えている。ブレーキは、クラックの危惧から採用を躊躇していたところ、問題が解決したことから、今回S660用にホンダアクセスとしても初めて設定したというドリルドディスクローターとなる。

 これまでも、ホンダアクセスのサスペンションを装着したいろいろな車種のデモカーをドライブし、そのたび感心させられてきたのだが、S660でもやはりそれは変わることはなかった

モデューロのサスペンションに、ドリルドタイプのディスクローターとスポーツブレーキパッドなどを装着したS660

 ノーマルの足もそこそこよくできていると思っていたのだが、路面の荒れたところで跳ねがちでピッチングも気になったところ、モデューロの足はしなやかによく動いて、それが抑えられおり突き上げ感も小さい。また、ストローク感があって、タイヤの接地感も増して全体的にしっとりとした感じの乗り味になっていた。クルマの動きも手に取るようにわかり、より素直でコントローラブルな操縦性を身に着けている。さすがである。

 ブレーキも、約6kmのコースで全開に近い走りを3周した程度では、フェード性にはまったく不安なし。ブレーキの加減で荷重を操り、ターンインでの曲がり具合を積極的にコントロールしやすい。まさしく、意のままの走りである。

モデューロのサスペンション、ブレーキパッドなどを装着したS660の試乗

 S660の最後はエアロパーツを装着したモデルを試乗。これ以上どうよくなるのか?と思いつつ乗ってみると、さらに上の境地があった。

 リアはもちろん、フロントもしっかりエアロパーツが効いている印象で、クルマの姿勢が、より乱れにくく、収まりがよくなっている。もはや、ボディサイズとエンジンだけ小さい本格的なミッドシップのスーパーカーに乗っているかのようだ。

 さらに、より曲がりやすくなったように感じられた。それは空力でタイヤを押し付けているというのとはまた違った感覚で、ステアリングを切ったときに、その方向に、よりスッと素直に曲がり始めるのだ。

アルミホイール、サスペンション、ブレーキに加えて、アクティブスポイラーを装着したS660

 エアロパーツの効果で曲がりやすくなるとは、どういうことかと思って開発関係者に訊いたところ、横方向の空気の流れも制御しており、外輪側と内輪側にそれぞれ最適な機能を与えて、より曲がる方向にアシストするようにしたとのことで、納得である。

Moduloフルパッケージ岡本幸一郎氏ドライブ
モデューロのパーツをフル装備したS660を土屋圭一氏がドライブ

接地性が高くライントレース性に優れるN-ONEの「モデューロX」

 S660の試乗に続いて、「N-ONE」に設定されたコンプリートモデル「モデューロX」も、同じく群馬サイクルスポーツセンターで試乗した。N-ONEと「N-BOX」に設定されるモデューロXというのは、ホンダアクセスの新しいコンプリート事業から誕生したモデル。

 N-ONEのモデューロXは、スタンダードモデルのターボ車に対して約30万円高ぐらいで、およそ80万円相当のアイテムが装着されたモデルで、“小さなグランドツアラー”というキャラクターを、より引き出すセッティングが施されている。20mmローダウンの専用サスペンションはリアのチューブ径を拡大、さらにCVTのSレンジに専用セッティングをしたり、EPS(電動パワーステアリング)も専用チューンを施している。

 チューニングしてあるとはいえ、N-ONEでこのコースを走るのはちょっと厳しいかなと思ったのだが、なんのなんの、これはこれでとても楽しめた。CVTは分かりやすく速さを伝えてくるし、ステアリングフィールもしっかり感が増しているし、直進性もいい。重心がそれなりに高いので、コーナリングの限界はS660とは比べものにならないが、その中で自在に操っていける。

N-ONEのコンプリートモデル「モデューロX」

 乗り心地に関しても、ノーマルではやや粗さが見られたところに“しっとり感”を増している。軽自動車ながらツアラーとしても十分に通用するドライバビリティを身に付けている。

N-ONE「モデューロX」の試乗動画

「N-BOX」の「モデューロX」や「N-BOX スラッシュ」「ジェイド RS」のデモカーもドライブ

 同試乗会では、そのほか「N-BOX」の「モデューロX」、「N-BOX スラッシュ」「ジェイド RS」の2台にはモデューロの各種パーツを装着したデモカーを、周辺の公道でドライブすることができた。

 いずれのモデルも、見た目の特別感もUPしていることに加えて、乗り味では共通して接地性が高いことを感じられた。動かすべき部分は動かし、抑えるべきところを抑えることで、乗り心地の快適性と路面への追従性、操縦安定性の両立を図っているのだ。

 N-BOXのモデューロXは、狭いトレッドに対し重心の高さが峠道ではネックとなるが、それをできるだけ感じさせないよう、挙動変化を抑えつつも、乗り心地にも配慮したセッティングが施されていた。

N-BOXのコンプリートモデル「モデューロX」

 市販状態でも軽自動車の常識を超えた走りの完成度を誇る「N-BOX スラッシュ」も、約15mmローダウンするサスペンションを組み込んだ試乗車では、さらにハンドリングの切れ味が増していた。

約15mmローダウンするサスペンションなどを装着したN-BOX スラッシュ
ホンダアクセスによるインテリアパーツを装着

 ジェイド RSは、RSと呼ぶにふさわしくスポーティな走りを訴求しているが、こちらはノーマルではやや突き上げを感じたところに、モデューロのサスペンションを組み込んだ試乗車では、引き締まった中にもしなやかさを感じさせる乗り味となっていた。

モデューロのサスペンションを組み込んだジェイド RS

 いずれも乗り味は上々。大きめのギャップを越えてもラインが乱れにくいのは、それだけタイヤが路面をしっかり捉えているからだろう。これには空力パーツも少なからず貢献していることと思う。

 こうしてホンダアクセスのデモカーに触れて、それぞれのよさを実感するとともに、手間をかけて開発されたアイテムは、それ相応に素晴らしい乗り味を提供してくれることを、あらためて実感した次第である。愛車の走りをレベルアップしたい人は、ぜひお試しあれ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛