インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ R ヴァリアント」

「ゴルフ R」のヴァリアント登場

「すごい加速力でしたね!」と走行シーンを撮影してくれたカメラマンが驚きの声を上げた。とはいえ、運転していた当の本人は、いつもと変わらない走りをしていたのだが……。

 ゴルフ史上最強と謳われた「ゴルフ R」にヴァリアント(ステーションワゴン)が加わった。その名も「ゴルフ R ヴァリアント」だ。直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは280PS(5100-6500rpm)、38.7kgm(1800-5100rpm)を発揮する。駆動方式にはオンロードでの走破性能を重視したフルタイム式4WDの「4モーション」を採用し、これに6速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)が備わる。

 乗ってみると確かに力強いのだが、数値だけみれば昨今の2.0リッタースポーツモデルのなかでは群を抜くほどではない。しかし、冒頭のカメラマンが漏らした感想には、ゴルフ ヴァリアントとは明らかに一線を画す迫力のあるスタイリングと、ゴルフ R&ゴルフ R ヴァリアント向けに開発されたアダプティブシャシーコントロール「DCC」の「レース」モードによる鋭いエンジンレスポンスが大いに関係しているようだ。

 外観上の違いは多岐にわたる。R専用のフロントとリアのバンパー形状に加え、ブラックアウト処理されたフロントグリルと、控えめな造形ながらリアスポイラーも存在感をアピールする。これにシルバークロームのドアミラーカバーや4本出しのエキゾーストパイプ(中央2本がメインで左右2本がサブ)なども備わる。全高はベースモデルのゴルフ ヴァリアントから20mm下げられ1465mmとなるが、最低地上高は130mmと10mmダウンに留まる。足下では5本スポーク18インチホイールと、ブラック塗装が施されたキャリパーが目を惹くアイテムだ。インテリアでは、専用デザインの3本スポークステアリング&シフトノブ、同じくR専用のドアシルプレートに加えて、8ウェイ調整式のブラックレザーシートがおごられた。

「ゴルフ R」のステーションワゴン版となる「ゴルフ R ヴァリアント」のボディーサイズは4595×1800×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2635mm。価格は559万円
エクステリアでは専用デザインの前後バンパー、リアスポイラー、ディフューザーなどを装備するほか、アダプティブクルーズコントロール「ACC」(全車速追従機能付)、プリクラッシュブレーキシステム「Front Assist」、レーンキープアシストシステム「Lane Assist」などの安全装備に加えてブラインドスポットディテクション(後方死角検知機能)、リヤトラフィックアラート(後退時警告・衝突軽減ブレーキ機能)をゴルフシリーズに初採用した。足まわりは専用の5スポーク18インチアルミホイール(タイヤサイズ:225/40 R18)
インテリアではR専用レザー3本スポークステアリング、ブラックのレザーシートなどを装備。ラゲッジスペースは通常で605L、後席を倒せば最大で1620Lまで拡大可能
タコメーターとスピードメーターの間にフルカラーマルチファンクションインジケーターを備え、瞬間/平均燃費、走行距離、平均速度、運転時間などの情報を確認できる

アメリカンV8エンジンのような骨太ビート

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力206kW(280PS)/5100-6500rpm、最大トルク380Nm(38.7kgm)/1800-5100rpmを発生。アイドリングストップ機能などを備え、JC08モード燃費は14.2km/Lを実現

 試乗は高速道路をメインに周辺の市街地を走行したのだが、予想通り、高速道路でのパフォーマンスは大したもので、ドライバーや同乗者からすれば荒々しい速さは感じないものの、気付けば周囲の交通環境を終始リードしていることが多かった。例えば高速道路で本線に合流後、何げなく前走車を追い抜こうと軽くアクセルペダルを踏み込むだけで、まるで右足とボディーが直結したかのような加速がすぐさま始まるのだ。その際、ターボの過給圧上昇を待つこともなければ、DSGのダウンシフトも必要としない。にも関わらず、さりげなく速いのだ。

 とはいえスポーツモデル。ゴルフ R ヴァリアントの真骨頂は、前述した「DCC」のレースモードにある。車内のタッチパネル画面では合計5つのモード(エコ/ノーマル/コンフォート/カスタム/レース)が選べるのだが、もっとも過激なレースモードの味付けは格別で、エンジンレスポンスの向上とともに、ギヤ段のシフトプログラムが高回転寄りとなり、さらにサスペンションの減衰特性も高めに設定される。

 レースモードのキャビンはさらに刺激的だ。エンジンサウンドに電子デバイスによる演出が加わりスピーカーからも図太い(疑似的な)エンジンサウンドが鳴り響く。また、1500rpm前後からグッとアクセルペダルを踏み込むと、ドアインナーパネルが身震いするほどの重低音が加わり、さらに右足を踏み込んでいけば往年のアメリカンV8エンジンのような骨太のビートも奏で始めるのだ。「この演出はやり過ぎか!?」とも試乗当初は感じたが、しばらく試乗を続けていくうちに「せっかくこうしてスポーツモデルを選んだのだから、せめてドライバーが任意でレースモードを選んだ際には徹底的に楽しむべき」と改心……。乗れば乗るほどに、妙に説得力のある味付けだ。

 今回の試乗では、R専用に仕立てられたサスペンションによるハンドリング性能を本格的に堪能するシーンには恵まれなかったが、それでも引き締められた足まわりとともに、大口径ハイグリップタイヤ(ブリヂストン「ポテンザS001」。225/40 R18)をしっかりと履きこなしているボディーの造り込みが印象的だった。一般的に、ステーションワゴンのスポーツモデルではフロントサスペンションをがっちりと硬めつつ、開口面積が大きく歪みが出やすいボディー後半部を受け持つリアサスペンションを取り付け部を含めてさらに硬める方向で(特に縮み側を引き締めて)セットアップしていくが、ゴルフ R ヴァリアントは、ゴルフ Rがそうであるようにリアサスペンションを上手に使って(≒動かして)、積極的に旋回力を生み出しているところに好印象を抱いた。

 具体的にはフロントサスペンションで操舵された車体の向きを、リアサスペンションがボディーのいなしも計算に入れながらしなやかに受け止めている。だから、旋回中に路面の大きな段差を乗り越えても進路が乱される量が極めて少ない。これは路面の状況がわるくなればなるほどに光る美点で、路面の接地感が4輪から伝わってくることから、たとえ悪天候下であっても安心したドライビングが行える。また、こうしたしっかりとした足まわりの基本性能に4モーションによる連続駆動配分制御が加わるため、ドライバーにはさらに一段上の快適でダイナミックな走りが約束されるのだ。

ゴルフシリーズはもっとも選びやすい輸入車群の1台

 しかし、市街地走行ではDSGが潜在的に抱える問題点を改めて意識した。頻繁なゼロ発進加速では、どうしてもワンテンポ遅れて駆動力が伝わる傾向にあるからだ。DSGの導入当初からすればずいぶんとその傾向は薄らいだが、ハイパワーエンジンとの組み合わせとなるゴルフ R ヴァリアントでは、DSGを搭載する他の車種以上にライムラグを実感する。

 たとえばこれがアクセル開度の大きな領域だけ、つまりはゼロ発進からほぼ全開で加速する際にだけ発生する事象であれば許容範囲としたい(ホントはこちらも解消してほしい)が、信号待ちからのスタート時、前走車に合わせて発進しようとする場面であってもわずかな遅れが生じ、これがちょっとした(3%程度の)登り勾配路であると、なおのことその症状が助長されてしまうため気になってしまう。もっともオーナーともなれば、その事象を踏まえて事前にアクセルペダルを少し余計に踏み込み、ボディーの動き出しに合せて少しずつ戻しながら欲しい加速力に同調させるという技が自然と身につくだろうが、いずれにしてもゴルフ R ヴァリアントの特徴の1つであることは確かだ。

 ゴルフ、ゴルフ ヴァリアント、ゴルフ GTI、ゴルフ オールトラック、そしてゴルフ R ヴァリアントと、立て続けに増加するゴルフ・ファミリーだが、Rシリーズは別としても同セグメントの国産車と比較した場合、充実した装備からすると決して高価であるといえなくなってきた。今やもっとも選びやすい輸入車群の1台ともいえよう。

 昨今では、耳に残るTV-CMのフレーズに代表されるようにフォルクスワーゲン・ブランドの華やかさや楽しさがクローズアップされているが、こうして多用な個性の演出方法を実車として見せつけられると、フォルクルワーゲンが昔から大切にしている工業製品としての高い完成度、すなわち質実剛健さに絶対的な自信があるからこそ打てる策なのだと、改めて感心した。

Photo:安田 剛

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員