インプレッション

ホンダ「NSX」プロトタイプ(ホンダR&Dセンター)

新型NSXに初乗り

 栃木県にあるホンダR&Dセンター。ここでホンダバッヂを付けた新型「NSX」のプロトタイプに試乗する機会を得た。新型NSXの開発主査であるテッド・クラウス氏よる車両概要説明の後、いよいよ実車と対面する。

 2012年に開催されたデトロイトモーターショーの会場で初めてその存在を確認した際には、ずいぶんと大味なデザインで平べったく抑揚が足りないと感じたが、完成形ではボディーラインがより立体的になり、細部に渡ってエッジ処理が強調されたことから存在感は劇的に向上した。それでもまだ、ワイドさを強調し過ぎたフロントセクションや現行「オデッセイ」に通ずるテールレンズのデザイン処理にスポーツカーとしての独創性が感じられないが、初代NSXの凜とした佇まいとはひと味違う新たな方向性が示されたことは素直に歓迎したい。

 ドアに刻まれたキャラクターラインに平行した形状のドアノブを引き起こし、右ハンドルの運転席に乗り込む。サイドシルはそれなりに幅があるものの、足先方向が広いためスッと車内へといざなわれる感覚は新鮮だ。シートに腰を下ろすと当然ながらヒップポイントはかなり低い(数値は未公表)が決してタイト過ぎず、車高の低いスポーツカー特有のすっぽりと収まるようなコクピットとは一線を画す。

今後導入が予定される先進技術を体感するとともに、未発売モデルの運転もできる「2015 Honda ミーティング」が開催。会場ではホンダバッヂの付いた新型NSX プロトタイプも公開された。フロントリップやリアスポイラーなどがカーボン化されるオプションがついていた
こちらはアキュラバッヂのついたNSX プロトタイプ。オプションなどはついていない、素のエクステリア
縦置きV型6気筒直噴3.5リッターツインターボエンジンと9速DCT、エンジンと9速DCTの間にレイアウトされるモーターをリアに搭載。これに加えフロントに独立左右制御の2モーターを配置する3モーターシステムを採用し、高い出力&トルクとともに高レスポンスを実現。ヘッドライトには6灯のLEDが採用される
タイヤはコンチネンタル「ContiSportContact 5P」。サイズはフロントが245/35 ZR19、リアが305/30 ZR20。ブレーキシステムはフロント6ピストン、リア4ピストンキャリパーにカーボンローターの組み合わせ(カーボンローターはオプション装備で、標準ブレーキは現在開発中)
空力性能が高そうなリアディフューザーを装着。センターには4本のエグゾーストエンドが覗く

 新型NSXのパワーユニットは、エンジンに3モーターを組み合わせたSH-AWDによるハイブリッド方式だ。主力のエンジンは新開発の縦置きV型6気筒直噴3.5リッターツインターボ(タービンサイズは共通でシングルスクロール方式)で、最高出力500PS/最大トルク550Nm。これを車体後方にミッドシップ方式で搭載し、こちらも新開発の9速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)と組み合わせた。エンジンとDCTの中間には148Nmの「ダイレクトドライブモーター」(1モーター)が収まるが、これはホンダでいうところのIMAに近い方式。

 一方、エンジン駆動が行われない前輪には、左右輪それぞれに対して73Nmのモーターが各々駆動を受け持つ。これはインホイール方式ではなく、モーターそのものはフロントフード下の中央付近に「ツインモーターユニット」(2モーター)として配置される。結果、エンジン+1モーター+前輪2モーターが総合的に生み出すシステム出力は573PS、システムトルクは646Nmと第一級のパフォーマンスを生み出した。車両重量はシートのバックレスト付近に搭載されるリチウムイオンバッテリー込みで1725kgだ。

V型6気筒直噴3.5リッターツインターボエンジンと1モーター、前輪の2モーターによって573PS/646Nmを生み出す

 ところで、新型NSXでは前輪に独立したモーターによる駆動システムを持っていることから、100km/h程度までEV走行が可能だ。しかし、EV走行は距離にして最大3km程度であり、EV走行を任意で選択する「EVボタン」も付かない。ちなみにドイツでは、2015年春以降、EV/PHEV/FCVに対する普及を目的に、それらに対する利用可能な駐車場の拡大やバスレーン利用許可など各種の優遇措置を期間限定で講じているが、EVでその措置を受けるには一定距離以上、EV走行ができなければならない。そのため「欧州での販売ではこれがネックになるのでは」との見方もあるが、この点は「ホンダとしても認識している」(本田技術研究所 四輪R&Dセンター 執行役員 松尾歩氏)という。

 ステアリングの左側に配置されたほのかに光る赤いスタートスイッチを押すとシステムが起動し、同時にインパネには「走行可能」と漢字でディスプレイ表示がなされる。また、この時点でアクセルを煽るとエンジンが始動してレーシング(空ぶかし)させることができ、アクセルを離すと自動的にエンジンが停止するなどの演出が組み込まれた。もっとも、エンジンの水温や油温、さらにはバッテリーのSOCとの関連もあり、どんな状況でもこうした演出が楽しめるわけではないだろうが、スタートスイッチではなくシステム起動後にアクセルを煽るという儀式を経てエンジンの咆哮を耳にするという試みは興味深い。

 シフト操作には「レジェンド」と同じ方式の「エレクトリックギアセレクター」が採用された。「D」ボタンには新たに「M」表示が追加され、D選択時に再度押すとステアリングに配置されたパドルシフターを使った自動的にDモードへ復帰しないマニュアル変速が可能になる。この「エレクトリックギアセレクター」の上部には「ダイナミックモードセレクター」がある。これは「Quiet」「Sport」「Sport+」「Track」の4つの走行モードを切り替えるスイッチで、走行中であっても操作を受け付ける。「Quiet」では可能な限りエンジンを停止させ穏やかな出力特性となり、反対に「Track」モードでは選択した際にエンジンが始動し、エンジン特性はもっとも過激になるが、いずれのモードでもシステム出力/システムトルクに違いはなく、最高点に到達するまでの特性に変化をもたせている。

NSX プロトタイプのインテリア
ブラックを基調に効果的にシルバーの加飾が配される。運転席と助手席を分断するセンターコンソールのデザインも特長的
メーター表示例。日本語表示も可能になっている

V6 3.5リッターツインターボと3モーターの共演

 まずは「Sport+」を選択し走り出す。ブレーキペダルを離してゆっくりとアクセルを踏み、EV走行のまま試乗ステージである高速周回路の長い合流路に入る。ここですぐさまアクセル全開! といきたいところだが、アクセルを徐々に開きつつハイブリッド走行に切り替る際のフィーリングを確認する。すると、イメージしていた通りのタイミングでエンジンが始動し、これまで「フィット EV」のような軽やかな動きを見せていた新型NSXが本来の姿となり、アクセル開度に応じた加速力で突き進むことが確認できた。

 ここでひと息つくためブレーキ操作で5km/hまで減速、そしてモードを「Track」に変更してアクセルを全開にしてみた。すると次の瞬間、車体全体が1つの塊になったかのように強烈に引っ張られ、同時に身体はシートバックに強く押しつけられる。発進加速力を左右するのはトルク値だが、新型NSXのV型6気筒直噴3.5リッターツインターボはエンジン単体でも1500rpmで450Nm近いトルクを生み出し、2000-6500rpmで550Nmの最大トルクを発揮し続ける幅広いトルクバンドを持つ。これに3つのモーターが共演することからこうした怒濤の加速力となるのだが、不思議と荒々しさがない。

 荒々しさを感じない理由は「フラットなエンジントルク特性にモーターの組み合わせ」ということで説明がつくが、想像よりもジェントルなエンジンサウンドにもその要因があるように思う。具体的には、走行中のエンジン音を外から聞いている限り野太く力強いのだが、それがキャビンでは少しおとなしく感じられるのだ。ミッドシップレイアウトであるからドライバーには迫りくるエンジンサウンドが届くことを期待していたが、全体的にマイルドな印象を受けた。クラウス氏によると「エンジンサウンドの演出には秘密があるが、今日は明かせない」とのことなので、ひょっとするとプロトタイプであるが故に秘密が組み込まれていなかったのか……。

 エンジン特性とならび注目される9速DCTも期待以上の働きをみせた。1速ギヤはスタート用、そして9速ギヤはクルージング用に割り切られ、2速~8速の7速分をかなりクロスさせた独特のギヤ比構成が特徴。ご存知のように、ホンダは4輪だけでなく2輪でもDCT搭載車を市販する世界唯一の自動車メーカーだ。ちなみに筆者はその2輪DCTであるホンダ「VFR1200F/X」に5年乗り継いでいることもあり、日ごろからDCTの切れ目のない加速感には慣れ親しんでいる。それだけに、クラウス氏が目指した「バイクのようなテンポよい加速感」がどういうものなのかよく分かる。高回転域を保ちながら、瞬時に1段上のギヤへとバトンを渡す小気味よさはまさしくバイクのそれだ。

 本来であればハンドリング性能もお伝えしたかったのだが、前述のとおり試乗は高速周回路のみで、走行レーンも限られていたことから隣の車線へのレーンチェンジ時に感じた印象に留まる。しかし、それでもSH-AWDによるトルクベクタリング効果によって直進安定性は高く、外乱に対する収束も素早いことが分かった。ただし、少し気になるのはステアリングへのわずかな入力に対して過度に反応し過ぎる点。ここを日本の開発チームに確認すると「現状、ハンドリング特性はアメリカ開発チームの意向が強く反映されており、アメリカ市場で好まれる切ってすぐ車体が反応するやや過敏な特性になっています。よって日本向けには特性変更が必要かもしれません」とのこと。また、残念ながら今回は180km/hでの速度リミッターが作動する条件付きでの試乗だったので、新型NSXのすべてを体感することはできなかったが、たとえば100~180km/hに到達する際の強烈な加速感と優れた空力特性(Cd値は未公表)からすると、300km/h近い最高速が期待できそうだ。

 ワンチャンス約4分で終了した新型NSXの試乗だったが、ホンダの最先端技術が詰まったメカニズム、そしてそこから生み出される走りは驚きの連続だった。また、アクセル全開走行が続く高速周回路試乗でありながら、インパネに表示される平均燃費は4.2km/Lと、こちらもハイブリッドモデルを意識させる驚異的な数値を記録していた。「新しいホンダのスポーツカーは人間主体」(クラウス氏)というスローガンのもと最後の調整が進む新型NSXだが、発売(2016年中で北米→日本の順)が近づくにつれ詳細がより明らかになってくるだろう。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学