写真で見る「MINI E」


 2008年11月に開催されたロサンゼルス・モーターショーで初公開された、コンパクトな電気自動車(EV)「MINI E」。残念ながら市販車ではなく実証実験車と位置づけられたモデルで、当初は500台が製造されカリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーの各州で個人ユーザーおよび企業ユーザーが使用。その後、100台以上が追加製造されドイツ、イギリスでも実地テストが行われてきたが、2011年からいよいよ日本でもテストが開始されることになった。

 日本向けとして用意されるのは150台程度で、アメリカで走行していたクルマが引き続き使われることになる。そこで得られたデータは他国でのテスト同様、ドイツ本国および日本国内でも分析され、次世代モデルのデータとして活かされると言う。

 今回、撮影した車両はアメリカ仕様で、メーター表示がマイル表記となっているが、デザインや基本仕様は「MINI E」共通のもの。

 エクステリアは基本的にベース車両となるMINIそのもの。ただし、カラーリングは専用となり、ダークシルバーのボディーにピュアシルバーのルーフというコーディネート。また、ルーフトップなど随所に電源プラグをデザイン化したインターチェンジ・イエローのロゴ・マークが配置されるのが特長となっている。

アメリカ仕様車ゆえの違いはあるものの、それ以外はノーマルミニとの違いは少ない。ドア部分に描かれた大きな文字とロゴ・マークがなければ、少しドレスアップを加えたノーマル車にしか見えない。ただ、リアから見ればマフラーがないことに気づくフロントグリルとボンネットにロゴ・マークが付く。ヘッドライトはクーパーSなどに採用されているウォッシャー付タイプ
フューエルリッドにもロゴ・マークフェンダーダクト部分にはシリアルナンバーが表示される。「007」はロサンゼルス・モーターショーに展示された車両だ
タイヤはコンチネンタルのContiProContact SSRの195/55R16。クーパーSと同じサイズだ

 イエローをアクセントとするのはインテリアも同様。インストゥルメントパネルやドアトリム、シートの縫い目など、ダークグレーを基調とした中にイエローを配置することで、MINI Eらしさを強調したコーディネートとなっている。

 運転席まわりを見る限り、EVであることを感じさせる部分はほとんどなく、パッと見ただけの印象ではノーマルモデルとなんら変わりがない。ただ、リアに目を移すと本来シートスペースであるべきところには座席がなく、代わりに大型のサブウーファーのようなボックスが搭載されている。これがMINI Eの要となるバッテリーだ。

インテリアも漠然と眺めただけではごく普通のミニといった印象。エアコンやオーディオも装備されているステアリングも同じ形状に同じカラーリング。ただし、スイッチ類は装着されていない運転席まわりで違いが目立つ部分がメーター。本来タコメーターの部分はバッテリーの残量計になっている
メーター最下部のオンボードコンピュータの表示はMINI E専用。バッテリー残量や温度、航続距離などを確認することができる
センターメーターはノーマルモデルとほぼ同じ表示内容。丸いステッカーはkm/h表示の目安のために後から貼られたものセンターメーターの燃料計部分は出力を示すインジケーターに変更されている。9時の位置を基準に加速時は右方向に、減速(回生)時は左方向にインジケーターが点灯していく
キーそのものやプッシュボタン式のスターターはノーマルモデル同様。ただ、エンジンスタートボタンを押してもエンジンがかかることはないので無音&無振動。温度が高いときは電動ファンが回転するため音が聞こえるものの、普通のクルマに慣れているとちょっとした驚きを感じるシフトレバーはマニュアルモードなしのごく普通一般的なATタイプ。動力源がモーターのためクリープがなく、Dレンジに入れただけでは動かない
ペダルもごく普通のAT車と同じ2ペダルタイプ。回生システムによってアクセルを離すだけで減速する(最大0.3G)ため、ブレーキの使用頻度は低くなりそうだサイドシルガードも専用タイプとなる

 蓄電ユニットの中身はノートパソコンのバッテリーなどにも利用されている「18650」と呼ばれるリチウムイオン・バッテリーで、5088個のセルが48のモジュールに分けて搭載されている。このユニットの定格電圧は380V、最大蓄電容量が35kWhで、充電時には最大28kWhの電力供給が可能。1回の充電での走行可能距離は約240kmとなっているが、アクセルOFF時に回生システムを働かせることで、最大で20%程度距離を伸ばせると言う。

フロントシートの直後にバッテリーが搭載されるため、リクライニングはあまりできない。室内空間は2シータースポーツカー並みフロントシートを前方に倒すと蓄電ユニットを少しだけ見ることができる。この中身はリチウムイオン・バッテリーで、単3電池のような形状をしたセルが合計5088個搭載されている。接続方法はセルを53個並列接続したもの(ユニット)を2つ直列に接続(モジュール)、さらにモジュールを直列に48個接続と、メンテナンスなども考慮したものとなっている。蓄電ユニットはこの部分から室内の空気を取り入れて、冷却される
リアから見るとバッテリーがかなりの空間を占めていることがわかる。とはいえ、ラゲッジスペースはノーマル車並みに確保されているラゲッジルームには緊急用のキルスイッチが用意されている

 

日本国内向けに車検も取得済み。自動車税などの免税措置も受けられる

 搭載するモーターのスペックは定格出力150kW、最大トルク220Nm。数値だけ見ればターボエンジンを搭載したクーパーSの135kW、240Nmに匹敵するモノ。実際、0-100km/h加速性能はクーパーSが7秒半ば、クーパーが10秒程度なのに対し、「MINI E」は8.5秒。車両重量が1480kgと250kgあまり重くなっている(クーパーSのAT車で1230kg)ことを考えると、ガソリンエンジン車とあまり変わらない動力性能を持っていると言っていい。

 加えて専用チューンのサスペンションやダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)、新開発の電動負圧式ポンプを内蔵したブレーキ・システムを採用するなど、単純にエコを謳うだけでなくドライビングの楽しさも兼ね備えているあたりは「BMWならではのクルマ造り」と言えるだろう。

ボンネットを開けるとエンジンの代わりに大きなボックスに納められたコントロールユニットが。ボックスには封印がされており、日本では開けることができないと言う蓄電ユニットなどを結ぶハーネスの接続部いわゆる普通のバッテリーも搭載されている
ブレーキフルードのリザーバータンクボンネット裏には電気自動車であることを示すコーションプレートが張られる。「Fuel:electric」や「Fuel:Li+」などの記載も電気自動車だけに当然マフラーは非装着。リアアクスルの前の大きなボックスは蓄電ユニットのようで、エンジンルームのパワーユニットへとケーブルが伸びている
充電用のコネクターはフューエルリッドの中に。専用コネクターで接続はワンタッチで行える
専用の充電ケーブル。電源プラグはアース付タイプだが一般家庭用の100V電源からも充電が可能充電時はステアリング前のメーターパネル上部がオレンジ色に点滅する電気自動車であるMINI Eの走りは独特。エンジン振動や排気音がまったくなく、アクセルを踏むと静かに力強く加速していく。回生ブレーキによる減速も最初は違和感があるものの、すぐに慣れてしまいそう。「このまま量産車として市販もできるのでは?」とすら思えてしまうほどの完成度だ

(安田 剛 )
2010年 7月 8日