レビュー
【ナビレビュー】フルモデルチェンジしたケンウッドの「彩速ナビ MDV-Z700」
静電式タッチ液晶&デュアルコアCPUなどスマートフォンテクノロジーを全面採用
(2013/6/11 08:50)
2011年から“彩速ナビ”をうたうケンウッドのカーナビ。これは「美しく高精細な地図描画&AV画面表示」と「高速レスポンス」を両立することから名付けられたものだ。この1月に登場した2013年モデルは彩速ナビとしては3世代目となり、従来のコンセプトを継承しつつ、さらに大きく進化を遂げているのが特長だ。
美しさを実現しているのが「プレミアム・ファインビュー・モニター」。解像度はワイドVGA(800×480ドット)と従来どおりだが、バックライトに高輝度ホワイトLEDを採用することで明るさを大幅にアップしたほか、高濃度カラーフィルターにより色再現性を、グレアパネルにより明るく高コントラストな映像表示を可能としている。
速さという点では新開発となる「ジェットレスポンスエンジンIII」搭載がトピック。名前だけ見るとスゴそうだけど何のことやら? といった感があるけれど、PC的にいえば「デュアルコアCPU+DDR3メモリ+16GB SSD」な、まさにイマドキのシステムを採用しました! って感じ。加えてOSもAndroidベースのカスタマイズ版(ケンウッドは、LinuxベースのカスタマイズOSといっている)モノに変更されているなど、まったくの別物に生まれ変わっているのだ。下の起動速度映像や、マルチタッチオペレーション映像を見ていただきたい。
2013年モデルはラインアップを拡大し、光学ディスクレスも
フルモデルチェンジを遂げた2013年モデルはラインアップも充実。2DIN一体型のいわゆるAVNタイプという基本センはそのままに、装備や機能の異なるモデルがリリースされている。
フルセグ地デジチューナーやBluetooth、HDMI/MHL接続などすべての機能を詰め込んだ全部入りとなるのが「MDV-Z700」。トヨタ車やダイハツ車で採用されているワイド2DIN(200mm幅)に対応した「MDV-Z700W」も選択可能だ。
MDV-Z700からCD/DVDドライブを省き、リッピングが不要なことから内蔵SSD容量を減らすなど一部機能を省略したのが「MDV-R700」。価格の安さはもちろん、トラブルの要因も減らすことができるのがメリットで、映像や音楽はスマホを繋いで再生すればいい、なんて層にはピッタリなモデルだ。
MDV-Z700からモニターのノングレア化をはじめBluetoothレス、HDMI/MHL接続非対応、USBポート数減少(2→1)など、機能を削減したのが「MDV-X500」。SSD容量はR700と同じ8GBながらCD/DVDドライブを内蔵しており、自分でSDカードを用意することで録音が可能。スタンドアローンで使うことを重視したモデルといえる。
ベーシックモデルに位置づけられるのが「MDV-L500」と「MDV-L300」。こちらはベースとなるエンジンが「ジェットレスポンスエンジンII」となるのをはじめ、100mスケールでの表示内容が異なるなど、さらにコストを意識したバリューモデルとなる。特にMDV-L300はディスプレイが6.1型だったり、地デジがワンセグのみ対応だったりと、コストパフォーマンスを重視したスペックとなっている。
彩速の名がふさわしいフルスペックモデル「MDV-Z700」
レビュー用として用意されたのはフラグシップモデルのMDV-Z700。価格はオープンプライスながら実売価格は10万円前後。冒頭で軽く紹介したように静電式タッチパネル式の7型ワイドVGAディスプレイ、16GB SSD、CD/DVDドライブ、Bluetooth、フルセグ地デジなどを標準搭載。さらにiPhoneをはじめMHL/HDMI、USB/SD接続に対応、音楽や動画の再生を可能にするなどフルスペックといえる内容だ。
本機を前にしてまず最初に驚くのが液晶の美しさだ。新採用となったプレミアム・ファインビュー・モニターは、従来モデルよりも明るさが大幅にアップしており、表示される映像はコントラストが高く色ノリもよい。逆光下でも輝度が確保されているのに加え、センサーにより明るさを細かく調整しているため、外部光の影響を受けづらいのも評価できるポイント。難点を挙げるとすればグレアパネルのため若干映り込みが気になることと、左右方向と比べて上下方向の視野角が狭く感じられる点。ただ、ケンウッドが以前から実現している「逆チルト」機構に加え、新たに「視野角調整」機能が追加されているため、セッティング次第でカバーすることが可能だ。
次に実際に操作して驚かされるのがレスポンスのよさ。「スマホと同等の操作感を追求した」というだけに、地図のスクロールや拡大といった操作はこれまでのカーナビとはひと世代違う、と思えるなめらかさ。フリックやピンチイン、ピンチアウトといった指先の動きにしっかりと追従して動いてくれるのは実に気持ちがイイ。ムダに地図をグリグリと動かしてしまいたくなるほどだ。高速化の恩恵は起動時にも絶大。キーオンからすぐに使うことができるようになるため、駐車場からのリスタートなどでもナビが立ち上がるまで待つ、なんてムダな時間が少なくなった。
画面の「フチ」からメニューを引き出せるのも面白く実用的な機能。従来ならメニューキーを押して希望のボタンを押して~、と複数の操作が必要なところをワンアクションで実現できる。最初はちょっと戸惑うかもしれないが、こちらのほうがスピーディで直感的なぶん、すぐに使いこなすことができるハズだ。
もうひとつ先代モデルから大幅に強化されたのがスマホ連携機能。iPhoneと「NaviCon」を使ったリモート操作や目的地検索&設定は先代譲り。ナビにはまだ収録されていないスポットを検索して目的地として設定したり、走行中に助手席から操作してもらったりと便利に使える。
そして新たに搭載されたのがスマホ用アプリ「KENWOOD Drive Info.」との連携機能だ。これはスマホの通信機能を使ってリアルタイムに情報を取得するモノで、「スマートループ渋滞情報」のほか「ガソリンスタンド価格表示」「駐車場満空情報」「天気予報情報」などのコンテンツが利用可能。手持ちのスマホの通信機能を使うことができるため、別途機器を購入したり通信契約をしたりといったムダがないのは素直に嬉しい。アプリの利用は「期間限定で2014年1月31日まで無料」とされているけれど、できれば無料のままでなんて思ってしまうのは欲が深すぎだろうか。
基本機能もブラッシュアップ
大きく変わったのは実は機能面ばかりじゃなかったりする。フリック操作をフル活用するためにメニュー体系も一新されているのだ。一般的なナビではまずメニューボタンを押してから目的の操作を選んでいくが、本機は「HOME」ボタンを用意。これを押すことにより専用の地図とAV画面、それにカレンダーなどウィジェットをまとめて表示する「HOME画面」が現れる。さらにフリックやタップによる操作でそれぞれの画面に移動することができる。この画面に表示される地図やスペクトラムアナライザーはダミーでなく、実際の状況を反映しているから、この表示のままでも十分にナビとして活用できるほど。
地図表示も100mスケールを中心にリファインされている。先代モデルまではシンプルかつスッキリという表示だったけれど、本機では市街地図レベルの情報まで盛り込まれリッチな内容に。同時に文字の書体や色、信号のアイコンなども整理することで「情報量は増えたけどスッキリ」な表示を実現している。使用頻度の高いスケールだけに嬉しいリファインといえるものの、その一方で半角カナ表示は健在。気にならない人も多いだろうけど個人的には残念な部分だ。
目的地検索は住所約3850万件、電話番号が訪問宅とタウンページ合わせて約3350万件と登録数の変化に応じた増減はあるものの基本的には変わらず。項目はそのほか名称、ジャンル・周辺、そしてMDV-Z700/Z700Wだけには「MAPPLEガイドデータ」による全国の観光スポット情報約7万件が用意されるなど充実している。もっとも、本機の購入者層はスマホユーザーも多くネット検索を多用すると思われるが、定評のある出版社による観光スポット情報はありがたいところだ。
ルート探索は「推奨」をメインに「距離」「高速」「一般」「高速/距離」の5パターンが用意される。数パターンを試してみた感じでは所要時間や距離、料金とそれぞれメリハリのあるルートをチョイスしている印象だ。例として挙げた八王子~横浜間の探索では「高速~首都高速」の遠回りだけど分かりやすいルートを「高速」、「高速~一般道(環状八号線)~有料道路」と走行するルートを「推奨」とするなど、バランスの取れたチョイスをしてくれる。
据え置き型のナビで問題になるのが地図データの鮮度だ。年1回更新とか、その都度データをダウンロードして更新とか、メーカーによって対応がまちまち。本機の場合は年次更新の際に開通予定の道路データをあらかじめ格納しておき、開通後にキーとなるデータをダウンロード、本体をアップデートすることで地図鮮度を確保する方法をとる。そのため先頃開通したばかりの圏央道も、開通当日に地図表示はもちろんルート探索も可能と素早い対応を実現しているのだ。
年次更新に関しては「MapFan」アプリ(月額315円)を12か月以上継続利用&「KENWOOD MapFan Club」に登録することで無料となる。費用が発生する点は痛いが一般的な地図更新よりはずっと低価格だし、その間はスマホ向けのMapFanサービスが利用できるため、実質的にはそれほど大きな負担にはならないはずだ。
処理速度の高速化によりルート案内の安心度もアップ
一般道での案内は交差点拡大図との2画面表示がメインとなる。マップ画面の左側にウインドウのように表示される拡大図は通常のマップを拡大したもので、距離や各種ランドマークも表示され分かりやすい仕上がり。ただ、レーンガイドがメイン地図側に表示されるため、ほかの情報に埋没気味になってしまう。100mスケールが市街地図化した数少ない弊害といえる部分だけれど、従来どおりの線画も設定で選択することができる。これは嬉しい配慮だ。
また、案内ルートを間違えてしまっても素早くリルートが行われるとともに、自車位置の描画が2回/秒から4回/秒と倍増しているため、入り組んだ路地などで迷っても「どこを走っているのか分からない」なんてケースが減少。安心して走行できる。
高速道路での案内は従来どおり。SA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)、IC(インターチェンジ)、JCT(ジャンクション)などをウインドウ表示するハイウェイモードを主体に、分岐や出口ではイラストによる案内に切り替える。わかりやすさ、情報量ともに必要十分といえる。
精度面でのトピックは3Dジャイロに加え、全国主要道約140万個所の高低差データを収録したこと。それを踏まえての実走チェックの結果からは、ほぼ先代モデルと同じような傾向がうかがえた。
AV機能もパワーアップで一層魅力的に
先代モデルからして12セグ/ワンセグのフルセグ地デジをはじめDVDビデオ、Bluetooth、SDカード&USBメモリーからの音楽再生、そしてiPhoneおよびAndroidにも対応と、これ以上望みようがないフルスペック状態。そこで本機が目指したのは音質および映像品質の向上だ。具体的にはナビとオーディオのセパレートシャーシ化を推し進めてノイズを排除したのをはじめ、独自のデジタル回路の採用、端子の金メッキ化およびOFC(無酸素銅)スピーカーケーブルの採用など、ナビでは見落とされがちなベース部分の底上げを図っている。
再生可能なオーディオファイル形式についても一般的なMP3やWMA、AACだけでなく、FLACやVorbisといった高音質フォーマットやお手軽フォーマットにも対応するなど、マニアもナットクのスペックを実現。と、なればその実力が気になるところだろうけど、音質に関してはもっと適任なライター氏にオマカセしたい。個人的にはAVN機であることおよび価格帯を考えると、タイムアライメントなどの調整機能も含め、相当にハイレベルだと感じられた。
Androidへの対応が強化されたのも見逃せないポイント。同社オリジナルアプリ「KENWOOD Music Control」により、iPhone同様にジャンルやアーティストといった分類で管理できるほか、動画に関してもHDMI/MHL端子を装備したことで再生が可能となった。各メーカーがiPhone対応ばかりを強化する中、指をくわえて見ていたAndroid派ユーザーには朗報といえそうだ。
バックカメラなどオプション接続にも対応
ミドルレンジのナビだと省かれてしまいがちな拡張性も備えている。ミニバンなどには必須のバックカメラは、通常映像のほか俯瞰やコーナービューなど5つのビューモードを切り替え可能な「CMOS-310」のほか、スタンダードモデルとして「CMOS-210」をラインアップ。都市部で重宝する光・電波ビーコンユニットの接続、MDV-Z700/Wのみパナソニック製DSRC車載器との連動も可能だ。
長足の進化で魅力度をアップ
ハードウェアおよびOSを一新した新彩速ナビ。それによってもたらされるパフォーマンスは素晴らしく、地図のスクロールや拡大/縮小、目的地の検索、ルート探索といったベーシックな部分はタイムラグを感じさせず相当に快適だ。フリックやピンチイン/アウトといったスマホライクな操作性もストレスを一切感じさせない仕上がりといえる。
iPhoneばかりでなくAndroidへの対応が強化されたのもマルな部分。通信による情報取得もそれらスマホがそのまま利用でき、カンタンに活用できるのも大きなメリットだ。
スマホの操作性と据え置き型ナビならではの機能の数々を備えた本機。これだけのスペックながら実売価格もお手頃のため、スマホを日常的に使っている、なんて人にこそお勧めしたいモデルといえる。