レビュー
【スタッドレスタイヤレビュー】横浜ゴム「iceGUARD 5 PLUS(アイスガード ファイブ プラス)」
コンパウンドを進化させ、氷上性能と省燃費性能を大幅向上
(2015/10/17 00:00)
スタッドレスのユーザーニーズに変化アリ
3年ぶりの新作となる横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD 5 PLUS(アイスガード ファイブ プラス)」(製品名:アイスガード アイジーゴジュウ、以下アイスガード 5 プラス)が登場した。このタイヤはこれまで販売していた「ice GUARD 5」の進化版であり、トレッドパターンはこれまでと変わらず。しかしながら、中身については構造からコンパウンドまでかなりの変更が行われているらしい。
スタッドレスタイヤはサマータイヤに比べれば誰もがタイヤの限界を飛び越す可能性が高い。たった20km/h~30km/hで狙ったラインを外したり、意図した停止位置に止まり切れないアイスバーンやスノー路面を走るからだ。だからこそユーザーの意見に耳を傾け、何を求めているのかをリサーチしてからタイヤ開発が行われる傾向が強い。
横浜ゴムが今回行った調査によれば、ユーザーが求めているのは氷上路面におけるブレーキ性能だったとのこと。続いて、雪上ブレーキ、コーナーリングという要求が続いている。スタッドレスタイヤなのだから、主戦場である雪道における性能が高ければ高いほどよいのは当然のことだ。
しかし、それらの走行性能とは全く異なる領域の要求が近年は増加しているという。それは燃費性能。つまり、スタッドレスタイヤとはいえ、エコであることが求められているというのだ。この要因はスタッドレスタイヤにすると燃費の悪化が著しく、そこに不満を持つユーザーが多くなってきたということのよう。燃費に対するシビアな目線が、ついにスタッドレスタイヤにも波及してきたということなのだろう。最近のスタッドレスタイヤの販売地域を調査すれば、かつてよりも明らかに非降雪地域での販売が伸びており、降雪地域との割合はおよそ半々とのこと。近年は都市部での記録的な大雪があり、それに備えての購入も増えたことで、ドライ路面における要求も高まってきたということなのかもしれない。
氷上性能に加えて燃費性能にも気を配るスタッドレス
そこでアイスガード 5 プラスを開発するにあたって横浜ゴムが掲げた目標は、氷上性能をさらに高め、燃費性能も向上させたスタッドレスタイヤであること。氷上性能と転がり抵抗の低減という、相反する難題に挑戦したのである。
氷上ブレーキにおける性能向上については、主にトレッドコンパウンドの進化がキモだ。アイスガード 5 プラスには、これまでと異なるスーパー吸水ゴムと名付けられたコンパウンドが採用されている。これは氷とタイヤとの間にできる滑る原因となる水膜を除去することを狙ったもの。スーパー吸水ゴムの中に存在する新マイクロ吸水バルーンと、吸水力をより高めた吸水ホワイトゲルによって、ミクロの水膜をタイヤが吸収することで、タイヤをきちんと氷に接地させようとしている。
吸水率は従来品に対して20%向上したらしい。この技術は北海道地区限定で少量販売された「ice GUARD Evolution iG01」に搭載されていたコンパウンド技術を踏襲したもの。摩耗などの問題もあり、コンパウンドもトレッドパターンも全てを受け継いだわけではないが、極寒の地域で鍛え上げられてきた技術がアイスガード 5 プラスにも投入されたとなれば、氷上性能はかなり期待できそうだ。
転がり抵抗に対する回答は、ベースゴムが改められている。新開発された低発熱ベースゴムは、剛性を保ちつつエネルギーロスを低減することに成功。従来のベースゴムのエネルギーロスを100とすると、新開発の低発熱ベースゴムは性能指数が132にも高まるというから興味深い。これによりトレッド部もショルダー部も発熱が減ることで転がり抵抗は低減。横浜ゴムの低燃費タイヤである「ECOS ES31」と同等の転がり抵抗係数だというから驚きだ。
さらに、経年劣化を抑えたこともアイスガード 5 プラスのトピックの1つ。シミュレーションによれば、従来品に対して氷上摩擦指数の低減は1/3に抑えられており、4年後でも性能がかなり維持できているそうだ。非降雪地域のユーザーはドライ路面になれば即座にサマータイヤに履き替え、その後は保存することでできるだけ長くスタッドレスタイヤを使おうとする人も多い。そうなれば、タイヤの溝残量は何年も維持が可能で、ついつい長きに渡って同じスタッドレスタイヤを装着してしまう。実際は3年以上経過したスタッドレスタイヤはグリップがかなり落ちてしまうものだが、このアイスガード 5 プラスなら、そんな心配も少なくなることだろう。
氷上のブレーキ性能は確実に向上
今年2月に北海道にある横浜ゴムのテストコースで従来品とアイスガード 5 プラスとを比較試乗してきた。ここではその模様を振り返ってみる。そもそも横浜ゴムのスタッドレスタイヤは縦方向と横方向のバランスがよく、コントロール性に優れていることがポイント。つまり、クセなく手の内に収めやすいところが特徴的だ。従来品に久々に乗ってみると、その印象は変わらず。操舵に対する反応、リアタイヤの追従性、そして限界を迎えた時の素直な流れ出しなどが実にマイルドであり、氷上も雪上も好感触。これでも十分に扱いやすいため、さほど不満は出ないのだが……。
アイスガード 5 プラスを装着した試乗車に乗り換えると、明らかに縦方向のグリップが増している感覚が伝わって来る。氷上ブレーキを行えば、たしかに短く止まる。従来品に対して7%短く止まれるという触れ込みは間違いなさそう。試乗時はグングン気温が上昇していた環境で、同条件での比較で極端な制動距離の違いは出なかった。だが、従来品に比べれば制動時のふらつきがなく、リアの安定感が高い状態で真っ直ぐ止まってくれるところが好感触。先ほど、従来品は縦方向と横方向のバランスがよいと書いたが、裏を返せば縦方向のグリップが少なかったということなのかもしれない。
その後は雪上のスラロームやワインディングロードを走ってみたが、縦方向のグリップが高い傾向は変わらず。もちろん、全てが雪ではなく、所々にアイスバーンが混在する状況だったから、威力を発揮したのだと見るが、従来品よりも安心感が高まっていることは明らかだ。ただ、横浜ゴムの特長だと捉えていたコントロール性は影を潜めたように感じる。微小舵角時における応答の鈍さや、リアの追従が遅れること、さらに流れ出しの唐突さがやや目立ち始めてきたのだ。限界値が高まりスピードレンジが上がったせいなのか、はたまたトレッドとベースゴムとの剛性バランスの変化なのか? 性能向上したことに気をよくして走るのではなく、あくまで真っ直ぐきちんと止めて走ったほうがこのタイヤの特性を活かすことができそうだ。
いずれにしても、トレッドパターンの変更をせずして、中身の進化によって氷上性能から燃費までをカバーしたアイスガード 5 プラスは、マイナーチェンジと呼べないレベルのタイヤであることは事実。これなら、降雪地域でも非降雪地域でも歓迎されるスタッドレスタイヤになるだろう。