リーフ NISMO RC

音やニオイのないレーシングカーでも走りには迫力が感じられ、それがかえって新鮮だった

 日産「リーフ NISMO RC」を試乗させていただきました。カッコイイではありませんか。日産のデザイナーの方がデザインをされたそうです。が、市販車「リーフ」のEVパワートレイン(モーター、バッテリー、インバーター)を使用するも、それ以外はNISMOが手掛けた本格的なEVレーシングカーです。おかげでドキドキ&ワクワクの新鮮な体験ができました。

 リーフ NISMO RCは、カーボンモノコックとチューブラーサブフレームを採用。ボディーサイズは市販車リーフに対して全長で20mm長く、全幅が172mm広く、全高は333mmも低い。そしてカーボン製のボディーを採用した車重は約600kgも軽い925kg!

 レーシングカーとしては当然と言うべき重量配分にもさらにこだわり(市販型リーフもかなりこだわっていましたけど)、バッテリーがシートの後ろに、そして市販型ではフロントにあるモーターもリアミッドに移動。駆動方式はFFからMRに、サスペンションはダブルウイッシュボーンに変更されています。ブレーキはキャリパーがAP Racingの既製品、ローターは日産の量産モデルのものを使用しているとのことでした。タイヤは、市販型ではブリヂストンのエコピア(低転がり抵抗タイヤ)ですが、こちらは同じブリヂストンながらポテンザのSタイヤ(ハイグリップ系)を履いていました。

 ところで、これまでレーシングカーは、音やニオイという感覚的なものに走りの迫力を強める効果があり、私は今でもそれはそれで大好きです。しかしリーフ NISMO RCの走行を外から見ても、それらに刺激されることはない。

 ところが、ナイスショットをしたゴルフボールが空を切る音とともに勢いよく飛んでいくがごとく、リーフ NISMO RCの走りには迫力があり、見るものを興奮させてくれます。ゴルフをされる方ならたとえ他人事であっても「うわ~」とか「スゴッ!」と感動する感じ、お分かりいただけるでしょうか。

 これまでの内燃機関を搭載するレーシングカーの、“動力”に魅せられた重量感ある走行感覚とは違い、空気の中を切り裂くようにシューッ、キーンと走る姿には軽さと透明感、そして新鮮な迫力と興奮が湧き上がりました。私にとってはパイクスピークの大自然の中を走るEVマシンでその感覚はすでに味わっていたはずでしたが、テストコースで見るGTマシンのようなリーフ NISMO RCの走りもまた新鮮でした。

リーフ NISMO RCは市販型リーフのパワートレインを搭載しながら、その他は日産のモータースポーツのプロフェッショナル集団であるNISMOによって開発された。ちなみにカーボンモノコックは東レ製コクピットの様子は本文中で説明しているが、消火器はEVのレーシングカーにはまだ明確な規定がないため、NISMOが自主的に搭載しているとのことだった

 なんてことを考えながら他の方の試乗風景を見ていたら、私の試乗の順番に……。NISMOのメカニックの方に手伝っていただきながら、BRIDEのバケットシートに座り、“NISMO”マーク入りの4点式ベルトを締めます。コレだけでもレーシングドライバー気分が味わえましたが、私にとっては着座位置が低く、前方視界が良好とは言い難い状況だったのがちょっと残念。

 目の前にOMP製のステアリング、そしてその奥には専用デジタル・メーター。さらに目線を少し右に移すとセンターパネル上にメインスイッチや回生量を調整するダイヤル、後退時に使用するスイッチなどがあり、一通りの操作説明を聞いてから試乗開始しました。するといきなり市販車との違いを体験することに……。

 アクセルを少し踏み込むと「ガツン」という衝撃があり、私は一瞬何か操作を忘れているものがないかと不安になったのです。2度試したけれど同じなので、そのまま走行を始めたのですが、後にうかがったら、それこそEVのダイレクトなトルク伝達能力の強さによるものだったのだそうです。

 EVはアクセルを踏み込んだ瞬間から最大トルクを発生することができます。そこで市販型リーフでも、そのダイレクト感を加速感とともに味わうことができるのですが、実は一般の方が扱いやすいようにかなりマイルドにチューニングされているのだとか。その点ではリーフ NISMO RCもチューニングされているそうなのですが、やはり市販車に比べより発進トルクが強いセッティングになっていたのでした。恐るべしEVパワー! ちなみに0-100km/h加速は6.85秒。パワーやトルクは市販型と同じながら、最高速度は145km/hから150km/hとわずかに高められています。

 EVと言えばやはり音がない印象が強いですよね。リーフ NISMO RCも徐行レベルの極低速では、モーターやインバーターの音がわずかに「ミーン」と聞こえるだけです。しかしアクセルをめいっぱい踏み込めば、その音も「キーン」と大きく高くなり、ドライバーには速度の高まりを加速Gとともに明らかに音で演出してくれます。

 ではコーナーリングはどうだったかというと、コースに入り最初のコーナーでハンドルを少し切っただけで、このEVマシンのダイレクトさにビビりました。ボディー剛性はもちろん操作に対する反応もクルマの動きもカッチカッチなんです。ステアリング操作してからタイヤが路面を捉える間に少しの遊びもない。これがカーボンモノコックを採用するホンモノのレーシングカーなのですね。市販車のスポーツカーでも得られないダイレクトなハンドリングと瞬間トルクの強さを、私のレベルながら体感することができました。まっ、どちらかと言えばこの日の私は、「直線番長」に近かったかなぁ……(汗)

この日、新開発の急速充電器も披露された。サイズはこれまでの約半分。普通充電型なら価格もこれまでの半額以下にできるそうで、市販車リーフのインフラも確実に進んでいるようだ市販型リーフのドレスアップコンセプトモデル「エアロスタイル コンセプト」。ルックスはもちろん空力もよくなっているらしく、ドレスアップの質実に貢献してくれそう

 このリーフ NISMO RCはまもなく8台目ができ上がるのだとか。欧米や中国でも、EVレーシングカーの魅力を伝える電動車、いや「伝道車」になる予定なのだそうです。ならば、来年のパイクスピークはフル舗装路面にもなることだし、北米日産からでもよいので出場してはどうでしょうか。筑波サーキットを12~13LAPくらいできるそうですから、パイクスの頂上まで走るのも可能でしょう。

 日本では来年からワンメイクレースを開催することを検討中だとか。充電のインフラなどが整えば、本格的なEVレーシングカーのレースを、参加者も観客も楽しむことができるようになるのかもしれません。

 レースってその昔は、現代以上に市販車の開発の役割を担っていましたから、EVの進化や性能を披露する場になってもいいのではないかと思います。そのためにリーフ NISMO RCの今後の活躍を期待したいものです。

EVは現段階では長時間&長距離を走るレースには不向きかもしれないが、スプリントの競技であれば、そのパフォーマンスを発揮することができ、歴史のあるパイクスピークのヒルクライム競技でも大注目されている今年のパイクスピーク・ヒルクライムに登場した市販車ベースのリーフ。このリーフとともに、NISMO RCのパイクス参戦を大いに期待したい! 走る姿をぜひ見てみたい~!

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2011年 10月 6日