知っておきたい自動車保険2010
【第4回】契約編その1 保険の金額を設定してみる

プルダウンメニューひとつで変えられる保険金額。その設定は慎重に選ぶ必要がある

 知っておきたい自動車保険の連載もいよいよ4回目。前回は保険の種類や用語について解説したが、今回は実際に契約する際の保険金額(補償額)の設定について調べていきたい。

 もちろん保険金額は高く、無制限があるなら無制限にしておくことが一番安全であることは間違いない。しかし補償を充実させればさせるだけ支払う保険料は高くなる。ではいったいいくらに設定すべきだろう。

 これが代理店タイプであれば、代理店のスタッフに相談するところだが、ダイレクト系の場合、自分で決めなくてはならない。これはなかなか不安な部分でもある。

 しかし実際に見積もりをしてみると、各社オススメのプランというものをいくつか用意してくれる。そこで筆者も実際に各社で見積もりを出してみて、その設定額を調べてみた。

対人賠償保険
 まず対人賠償保険に関して。これは有無を言わず無制限にしておくべき。三井ダイレクトなど無制限以外選べない保険会社もあるほど。下記は日本損害保険協会が発行しているファクトブック2009年に掲載されている人身事故の高額判決例。これは過去の判決例として掲載された例の中から高額なケースを集めたものであるが、それでも3億円を超える例が19件もある。このように人身事故では高額になるケースが多いので、必ず無制限にしておくべきだろう。

人身事故高額判決例

認定総損害額裁判所判決年月日事故年月日被害者性年齢被害者職業被害態様
3億8281万円名古屋地裁2005年5月17日1998年5月18日男29歳会社員後遺障害
3億7886万円大阪地裁2007年4月10日2002年12月11日男23歳会社員
3億6750万円大阪地裁2006年6月21日2002年11月9日男38歳開業医死亡
3億5978万円東京地裁2004年6月29日1997年4月24日男25歳大学研究科在籍後遺障害
3億5332万円千葉地裁佐倉支部2006年9月27日2001年10月4日男37歳アルバイト
3億4791万円大阪地裁2007年1月31日1996年10月21日女18歳高校生
3億4614万円仙台地裁2007年6月8日2003年5月22日女25歳会社員
3億3678万円千葉地裁2005年7月20日2000年8月18日男17歳高校生
3億3547万円大阪地裁2006年4月5日2000年7月31日男17歳高校生
3億3531万円東京地裁2004年12月21日1998年4月29日男32歳銀行員
3億2776万円大阪地裁2005年9月27日1999年2月17日男42歳会社員
3億2403万円大阪地裁2005年3月25日1999年11月7日男42歳財団職員
3億2246万円名古屋地裁一宮支部2004年3月30日1998年10月7日男25歳アルバイト
3億1636万円東京地裁2005年10月27日1999年9月15日男25歳記者
3億1201万円東京地裁2003年8月28日1997年8月12日女21歳会社員
3億594万円旭川地裁稚内支部2007年12月21日2003年6月20日男7歳小学生
3億484万円大阪地裁2007年7月26日2003年8月21日男7歳小学生
3億377万円広島地裁2005年9月20日2001年9月28日男43歳競艇選手
3億277万円広島地裁福山支部2004年5月26日1999年7月23日症状固定時男38歳会社員
2億9966万円名古屋地裁2007年10月16日2001年2月19日男21歳会社員

(ファクトブック2009より)

対物賠償保険
 対物賠償保険では、こちらも高額事例では2億6000万円を越える事例がある。といっても2億を超える事例はその1件のみで、他に1億円を超える事例が3例のみ。3000万円を超える事例でも9例のみと、人身事故と比べれば大分被害額は少ない。しかし電車を巻き込むような事故の場合、あるいは店舗に被害を与えた場合はその休業補償など、高額になる可能性はある。また、事例が少ないとは言え、裁判に至らなかったケースも多数あるので、やはり安心はできないだろう。

 実際に各保険会社のオススメプランを見てみると、やはり多くは無制限を勧めている。なかには安く済ませるプランとして1000万円という設定もあったが、それはあくまで一番安く済ませるパターンとしてなので、過去の事例から見ても、少なくても2000万円ないし3000万円以上には設定しておいた方がよさそうだ。

 さらに言うと、ノンフリート等級などにもよるが、対物補償の保険金額を上げても、支払う保険料はあまり変わらない場合が多い。筆者の場合、保険金額を2000万円にした場合と3000万円にした場合の年間保険料の差額はわずか120円、それを無制限にしてもプラス440円しか変わらなかった。逆に見ればそれだけ高額事例が少ないという意味でもあるのだろうが、年間数百円の差額で安心が手に入るなら無制限にする意味はあるだろう。まずはそれぞれで見積もりを出してみて、差額が大きくなければ無制限を選んでおくのがオススメだ。

物損事故高額判決例

認定総損害額裁判所判決年月日事故年月日被害物件
2億6135万円神戸地裁1994年7月19日1985年5月29日積荷(呉服・洋服・毛皮)
1億3580万円東京地裁1996年7月17日1991年2月23日店舗(パチンコ店)
1億2037万円福岡地裁1980年7月18日1975年3月1日電車・線路・家屋
1億1347万円千葉地裁1998年10月26日1992年9月14日電車
6124万円岡山地裁2000年6月27日1996年9月26日積荷
4141万円大阪地裁2008年5月14日1999年9月25日積荷
3391万円名古屋地裁2004年1月16日2001年3月9日大型貨物車・積荷
3156万円東京地裁2001年12月25日1999年11月5日4階建ビル
3052万円東京地裁2001年8月28日1999年5月16日店舗(サーフショップ)
2858万円東京地裁2002年12月25日2001年3月28日積荷
2796万円高松地裁1997年8月14日1994年10月5日大型貨物車3台・積荷
2629万円名古屋地裁1994年9月16日1991年3月20日観光バス
2389万円名古屋地裁1992年10月28日1991年4月23日トレーラー・積荷
2082万円東京地裁1995年11月14日1994年2月22日観光バス
2057万円東京高裁1993年6月24日1979年7月11日トラック2台・積荷
1966万円福岡地裁2000年6月28日1997年10月8日フルトレーラー・積荷
1928万円宇都宮地裁足利支部1999年1月29日1996年9月3日大型貨物車・積荷
1739万円大阪地裁1999年2月4日1994年10月4日大型トレーラートラクター・積荷
1698万円大阪地裁1997年4月25日1993年4月1日大型貨物車・積荷
1673万円広島地裁1997年9月17日1996年2月23日大型貨物車・積荷

(ファクトブック2009より)

人身傷害保険
 続いて人身傷害保険。事故を起こした相手や、あるいは自分のクルマに同乗していた他人の補償は、前出の対人・対物補償で基本的にはカバーできるので、これは自分自身やその家族、運転者の怪我を補償する保険となる。そういう意味で、いくらまで保険金額を上げるかは本人次第と言える。もちろん掛けないというのも手ではあるが、自分の過失分もカバーしてくれる上に、相手の過失分もまずはこの保険から支払うことができるので、実際に事故を起こした時には非常に頼りになることは間違いない。さらに自損事故や歩行中の事故なども補償の範囲に含まれるので、絶対に入っておくことをオススメする。

 実際各社でも加入を勧めており、保険金額は3000万~7000万円。多くの会社が5000万円を設定していた。人身傷害保険では休業による損害や入院費、死亡の場合は生きていれば将来にわたり得られたはずの利益(逸失利益)が保険金額を上限に支払われるので、収入の高い人は保険金額を高く設定しておけば、それだけ十分な額を滞りなくもらうことができるわけだ。自分の収入や家族構成も合わせて保険料を設定するのがよいだろう。ちなみに筆者の場合、5000万円を基準として、3000万円に設定した場合で年間保険料が810円安く、無制限に設定した場合で760円高くなった。

搭乗者傷害保険
 搭乗者傷害保険は、やはりオススメプランでは、各社加入を勧めているが、価格を抑えたプランでは外している会社も少なくない。実質的に人身傷害保険とカバーする範囲がほぼ同じで、かつ補償される額は人身傷害保険のほうが多いため、人身傷害保険に入っていればなくてもよい保険という見方もできる。ただし、人身傷害保険や、あるいは相手の対人賠償保険から支払われる保険金とは別に支払われるため、加入していて無駄になることはない。

 各社オススメの保険金額は1000万円。人身傷害保険の補償額と合算して選ぶのがよいだろう。また、治療費の場合は保険金額に関わらず一律で支払われるので、人身傷害保険を充実させて、搭乗者傷害保険は保険金額を抑えて加入するというのもよいだろう。

車両保険
 車両保険はもちろん入っていたほうがよいが、クルマがある程度古くなってきた場合は、入るべきかよく考えた方がよい。というのも車両保険はその車両の時価に対して支払われるので、古くなって時価が落ちたクルマでは、その時価以上の金額は支払われない。筆者の場合は時価で20万円。免責(自己負担額)を5万円に設定すると実質15万円しか支払われなくなる。もちろん時価の安いクルマの方が保険料は安くなるが、それでいても年間の保険料は、筆者の場合で1万2000円程度、車種によってはもっと大きく変わってくるので、保険料を安く抑えるという意味では、よく考えるべき部分だろう。自分自身の運転の技量なども含めて判断しよう。

 以上、今回は保険の設定金額について調べてきた。しかし保険は特約と組み合わせることによって、さらに保険料を抑えたり、カバーの範囲をお得に広げることができる。次回は特約の使いこなし方について掘り下げる。

(瀬戸 学)
2010年 10月 7日