人や車両を自動認識して危険を知らせてくれる装置
「Mobileye(モービルアイ)衝突防止補助システム」
メーカー:アイモバイル
価格:13万5000円(取り付け費込み)

 

 衝突防止・軽減装置というと、「ぶつからないクルマ?」のCMでお馴染みのスバルのEyeSight(アイサイト)を思い浮かべる方は多いだろう。今回紹介する製品は、現在使用しているクルマに後付けできる、衝突防止・軽減装置「Mobileye(モービルアイ)衝突防止補助システム C2-270」だ。

 「Mobileye C2-270」はフロントウインドーに取り付けたカメラの映像から、車両、歩行者、車線などを認識。危険を察知すると衝突に対する警報、車間距離の警報、車線逸脱の警報などを発してくれる。後付け装置なので、メーカー標準の衝突防止装置のように自動的にブレーキを踏んではくれないが、実際に使用してみると事故防止や事故発生時の被害軽減の効果は充分にあると感じられる。

 百聞は一見にしかず。まずは「Mobileye C2-270」の5つの機能をまとめた映像を用意したのでご覧いただきたい。5つの機能は以下のとおりだ。

前方車両衝突警報……車両との衝突の2.7秒前に警告
前方車間距離警報……設定した車間距離より前車に近付くと警告
歩行者衝突警報……歩行者との衝突の2秒前に警告
車線逸脱警報……車線を逸脱すると警告
低速時前方車両衝突警報……バーチャルバンパーと呼ばれ、低速時に前車に接近しすぎると警告


Mobileye C2-270 機能紹介

交通事故の状況
 「Mobileye C2-270」の詳細をお伝えする前に日本の交通事故の現状を見てみよう。筆者自身、年間の交通事故死の人数が以前は1万人を超えていたが最近は大幅に減少していることや、都道府県別の死者数で筆者の地元である愛知県は毎年首位?争いをしていることは認識していた。今回、詳細なデータを目にして筆者なりに理解を深めたので紹介してみたい。

 まずは昭和23年(1948年)からの交通事故発生状況のグラフを見ていただきたい。赤線が死者数で昭和45年(1970年)に1万6765人を記録した後減少し、昭和63年(1988年)から再び1万人を超え、平成4年(1992年)の1万1451人から微増の年はあるが20年間減少し平成23年(2011年)には4612人となっている。ピーク時の約1/4、この20年で6割も減少している。

交通事故死者数など

 減少の理由は様々なことが考えられるが、警察庁長官のコメント(平成23年中の交通事故死者数について)を抜粋すると「シートベルト着用者率の向上、最高速度違反等の悪質・危険性の高い違反に起因する事故の減少等が挙げられますが、これも、全国警察が関係機関・団体等と協力し……中略……熱意をもって諸対策に取り組んできた結果であると認識しております」ということで、警察の努力で事故死は減っていて、エアバッグ、ABS、衝突安全ボディなどテクノロジーの進歩は関係ないらしい。

 果たしてそうなのだろうか。ちなみに警察庁長官のコメントを過去数年分読んでみたが、数字以外の8割は毎年同じで、「全国警察が……認識しております」の部分は一字一句変化がなく、確証と自信が感じられるコメントとなっている。

 年間の死者数と一緒に発表され、ニュースなどで目にするのが都道府県別の死者数だ。平成23年の1位は愛知県。以下東京都、埼玉県、兵庫県、大阪府、北海道と続いている。これらの都道府県は常連で、「運転が荒い」といった印象を持っている人も多いだろう。都道府県別の死者数に加え、事故発生件数、負傷者数、さらに自動車の県別保有台数(平成24年5月のデータ)を加味した100万台当たりの死者数を算出してみた。

順位死者数発生件数負傷者数100万台当たりの死者数
1愛 知225東 京51,477愛 知61,534香 川99.4
2東 京215愛 知49,998大 阪59,489福 井93.9
3埼 玉207大 阪49,644東 京58,140愛 媛90.8
4兵 庫198福 岡43,326福 岡56,720滋 賀85.8
5大 阪197神奈川38,800埼 玉45,567高 知82.7
6北海道190埼 玉37,410静 岡48,055徳 島80.0
7神奈川180静 岡37,238神奈川46,226京 都77.5
8千 葉175兵 庫36,195兵 庫44,100佐 賀74.6
9茨 城169千 葉23,378千 葉28,885新 潟73.0
10静 岡164群 馬18,667群 馬23,569和歌山72.6

 それぞれのワースト10の顔ぶれをみると、事故発生件数、負傷者数は北海道以外は死者数と同じ傾向となっている。北海道は事故や負傷は少なく、事故が起こったときの致死率が高いため死者数のワースト常連となっている。次に自動車の県別保有台数との関係をみると、100万台当たりの死者数のワースト10は香川県がトップで福井県、愛媛県と続き、死者数とはまったく異なる府県となった。

 筆者の住む愛知県は保有台数が全国1位、100万台当たりの死者数は44.9人でなんとベスト3に入る低い数値となった。要するにクルマが多いため死者数は1位だが、台数当たりの死者数は極めて少なく「安全運転の県」と言えるのかもしれない。東京も48.7、埼玉も52.5と全国平均より少なくなっている。「あれ、今までの認識と違っているぞ」と感じたのは筆者だけだろうか。

 年間の死者数をもう少し詳しくみてみよう。まず平成23年(2011年)に亡くなった4612人の事故発生時の状態をみると、最も多いのは歩行中で全体の37%。次は自動車乗車中で31%となっている。自動車、2輪車、原付に乗車中の合計と、歩行中、自転車乗車中の合計はほぼ半々だ。

 それらの過去10年の推移をみると、全体的に減少傾向だが、突出して減っているのは自動車乗車中の死者数で3711人から1442人と6割近く減少している。自動車乗車中ということは、追突したり追突されたり、出会い頭の衝突、自損などの事故が発生した際の運転者、同乗者の死者が減っているということだ。

事故発生時の状態
事故発生時の状態の推移

 もう一度最初のグラフをよくみると、死者数は平成4年(1992年)から減少しているが、事故の発生件数(青線)と負傷者数(緑線)は平成13年(2001年)まで上昇を続け、平成16年(2004年)をピークにその後大幅に減少している。平成4年と平成16年に何があったのかを探ってみた。

 平成4年は一般道でシートベルトの着用が罰則付きで義務付けられた年だ。昭和60年(1985年)の9月に高速道路において前席でのシートベルトの着用が罰則付きで義務付けられ、平成4年の11月から一般道でも同様に実施されている。ちなみに平成23年の一般道と高速道路の死亡事故件数を比較すると、一般道が全体の94%、高速道路は4%程度で、高速道路の事故はニュースなどでは目立つが、実際には大半の死亡事故は一般道で発生している。よって、一般道でシートベルトの着用が罰則付きで義務付けられた効果は絶大だったと言えよう。

 交通事故死を減らす要因はシートベルトだけではない。エアバッグ、ABS、衝突安全ボディなど多くの安全機能があるが、ここでは代表的なエアバッグとABSの普及率について調べてみた。

 正確な数字が見つけられなかったので、生産台数におけるエアバッグとABSの装着率、新車の販売台数、国内の自動車保有台数、自動車の平均使用年数から普及率を推計してみた。それぞれのデータは単独でも興味深いものなのでグラフを用意した。

 生産台数におけるエアバッグの装着率は平成8年(1996年)で74%、平成10年(1998年)には90%を超え平成14年(2002年)には99.5%とほぼ全車に搭載されるようになった。平成18年(2006年)以降はほぼ100%に到達したということでデータは公表されていない。ABSはやや遅れて平成8年には45%。平成12年に80%、平成21年に90%を越えている。

 新車の販売台数はここ最近は大幅に減り、これにより上昇し続けてきた保有台数は横ばいに転じている。加えて平成23年(2011年)の新車登録から抹消までの平均使用年数は、乗用車で12.43年、トラックなど貨物車で13.04年、バスなど乗合車で17.37年と伸び続けている。ちなみに人間の平均年齢に相当する平均車齢は乗用車で7.74年となっている。

生産車のエアバッグとABSの装着率の推移平均使用年数と平均車齢

 これは回りを走っているクルマは、新車もあるが10年越えのクルマもあり、平均すると8年経っていて、廃車になるのは購入から12年後ということだ。確かにクルマは故障したり、錆びたりしなくなった。国内自動車販売の不振は不景気の影響もあるが、品質が向上したことで売れなくなった面も否定できない気がする。

 エアバッグとABSの普及率の算出の方法は、平成8年に生産された台数の45%に装着されたABSは、平成19年の平均使用年数が約12年なのでこの年まで12年残存し、翌年はゼロとする。同様に平成10年に生産されたABSは、平成22年の平均使用年数が約13年なのでこの年まで13年間残存すると仮定して、保有台数における累計のABS台数を普及率とした。あくまで推計値だが、数値なしでグラフだけ発表されていた普及率とほぼ同じ数字となったので大きくずれてはいないだろう。

 死者数、事故発生件数、負傷者数の推移とエアバッグとABSの普及率の推移をグラフに重ねてみた。死者数は平成4年(1992年)を100、事故発生件数と負傷者数は平成16年(2004年)を100としている。

 エアバッグの普及はシートベルトと同じく事故の発生件数には影響しないが、ABSの普及は死者数、事故発生件数、負傷者数を減少させる可能性がある。事故発生件数が平成12年頃から横ばいになり、平成16年をピークに下降したこととABS普及の関係はグラフから明確に読み取ることはできないが、なんとなくABSの普及率が50%を越えたあたりから発生件数が減り始めたと考えられる。負傷者数に関しては逆の面もみられ、シートベルトの義務付けで死者数は平成4年以降急激に少なくなっているので、負傷者数もある程度は減りそうに思うのだが、現実には増加している。

 今回はシートベルト、エアバッグ、ABSに着目してみたが、GOA、ゾーンボディ、G-CONなど各社呼び方はまちまちだが衝突安全ボディーも平成7年あたりから普及が始まり今では当たり前となっている。ほかにも衝突時にシートベルトを瞬時に巻き上げるシートベルトプリテンショナーやブレーキアシストなど、安全技術は日々進化することで事故の発生も減り、事故発生時にも相互の効果で死者数が減っていると考えられる。

 最後に実際どの様な事故が多いのかをみてみたい。平成23年の死者数は4612人に減ったが、事故の発生件数は69万1937件とピーク時の95万件からはかなり減ったが約70万件もの事故が発生している。毎日2000件弱の事故が起こっている計算となる。事故の分類をみると、車両相互の事故が圧倒的に多く全体の86%を占めている。人対車両の事故が10%、車両単独の事故は4%だ。

事故の分類車両相互の事故の内訳

 車両相互の事故の内訳をみると、最も多いのは追突で38%。次は出会い頭の事故で30%、右左折時の事故が10%、6%と続いている。上位の2つで70%近くを占めているが、最も多い追突は、出会い頭の事故と比べればドライバー自身が注意することや、スバルのEyeSightのようなテクノロジーで減らすことができそうだ。人対車両の事故の内訳は横断中の歩行者が6割と圧倒的に多く、次に通行中の歩行者が16%となっている。

 データは事故を起こした人の年齢、事故が起きた場所、亡くなられた方の年齢など多岐にわたっていて興味深いが、今回はここまで。機会があればまた触れてみたい。

 安全技術は多々あるが、シートベルト、エアバッグ、衝突安全ボディなどは事故が起こったときに乗車中の人を守る技術だ。これに対しABS、ブレーキアシスト、横滑り防止装置(ESC、ESPなど呼称はまちまち)、アイサイトのような衝突防止・軽減装置は事故そのものを起こさない、あるいは事故発生時の被害を軽減する技術となる。

 平成23年の死者数の内訳で最も多いのが歩行中であるように、シートベルトやエアバッグでは救えない命がある。事故を起こさない技術が浸透すれば、死者数も負傷者数も事故発生件数も減らすことができる。もちろん、乗車中の人も歩行中の人も守ることが可能だ。

 横滑り防止装置はドイツでは普及率が70%に達しているが、日本では認知度も低く普及率は10%と言われている。横滑り防止装置の効果は高く、事故率が30~40%減ると言われているが、日本ではメーカーも国も積極的ではない印象だ。国土交通省はようやく重い腰を上げ、2012年10月1日以降(軽自動車は2014年10月1日以降)に新たに型式指定を受ける車両から義務化となった(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20101209_412989.html)。ABSの普及率の推移を考えると、5年~10年後には事故件数が大幅に減ることが期待できる。

 もう1つ期待できる技術が衝突防止・軽減装置だ。日本では「ぶつからないクルマ?」のCMの効果もありスバルのEyeSightが有名だ。外国車ではボルボのS60なども自動停止するシステムを搭載している。今後の普及が期待されるが、現状はまだまだ車種の選択肢が少ない印象は否めない。

 そこで登場するのが今回紹介する後付けの衝突防止・軽減装置「Mobileye C2-270」だ。「Mobileye C2-270」はオランダのMobileyeが世界42カ国で販売している製品で、日本では2012年4月からアイモバイルが一般ユーザー向けの販売、取り付けを開始した。

Mobileye C2-270

 「Mobileye C2-270」の仕組みを簡単に説明しよう。「Mobileye C2-270」はカメラユニット、表示ユニット、コントロールユニットの3点で構成されている。

 カメラユニットは640×480ピクセルの解像度を持つCMOSカメラを搭載し、画角は横方向が38度、縦方向が30度と焦点距離50mmのカメラレンズに近い数値となっている。このカメラにより、約80m先の対象物まで検知することが可能だ。カメラは水平より3~5度下向きに取り付け、無限遠から自車の手前までをより多くの画素でとらえる様になっている。

 コントロールユニットには画像処理用のIC「EyeQ2」というチップが搭載され、カメラユニットが撮影した映像から、車両、歩行者、車線などを検出しそれぞれの距離、位置などと車速により衝突、車線逸脱などの危険を察知する。取り付け時に車両から取り込む情報は、車速、ブレーキ、左右のウィンカー、ワイパーなどとなっている。

カメラユニットコントロールユニット表示ユニット(表示例)

 ちなみに画像処理用のIC「EyeQ2」は多くの自動車メーカーにOEM供給されている。日本で販売されているボルボS60の衝突防止システムにも採用されているし、BMW、シトロエン、オペル、GM、フォードなどにも供給されている。オランダのMobileyeのホームページには、2014年までに日本の自動車メーカー3社に対し供給すると掲載されているので、このシステムを搭載した「ぶつからないクルマ」が近い将来、国産車として登場すると思われる。

 表示ユニットはアイウォッチと呼ばれ、車両の検出、歩行者の検出、車間距離、車線などを必要に応じて表示してくれる。車間距離は前方の車両までの距離を車速で割って秒数で表示される。60km/hで走行している場合は、以下のように車間距離が30mなら1.8秒、10mなら0.6秒と走行状態(速度)を加味した秒数が表示される。

60km/h走行時の車間距離と秒数

車間距離秒数
10.0 m0.6 秒
13.3 m0.8 秒
16.7 m1.0 秒
20.0 m1.2 秒
23.3 m1.4 秒
26.7 m1.6 秒
30.0 m1.8 秒
33.3 m2.0 秒
41.7 m2.5 秒

 次はメーカーから提供いただいた車両、歩行者、車線などの検出映像を見ていただこう。映像に映る車両は立方体として認識され、走行ラインの上に乗るとターゲットとして認識され赤色に表示される。各車両までの距離は随時計算されている。車線を検出すると緑色に表示され、車線をまたぐと赤色に表示される。車両自体の認識は、ボディ、テールランプ、タイヤにより車両と認識しているとのことだ。

 歩行者は走行ライン上の危険な位置にいると赤、安全な位置にいると青、その境目の微妙な位置にいると白で表示されている。車両と同様、歩行者までの距離も検出されている。

車両を立方体で認識しそれぞれの距離が算出される。車線は緑線、自分の走行ラインは青線で表示されている歩行者は危険な位置にいると赤、安全な位置にいると青で認識され距離も算出される車両はボディー、テールランプ、タイヤにより認識される


Mobileye C2-270 認識状態 1


Mobileye C2-270 認識状態 2

 それぞれの機能の詳細を見て行こう。

・前方車両衝突警報(Forward Collision Warning)
 前方車両衝突警報は前方の車両に衝突しそうになると警告が発せられる。前方車両との速度差により2.7秒で衝突する距離まで近付くと表示装置のマークが赤く点滅、強い警告音が鳴る。2.7秒は赤信号で前方車両が停止している場合は、30km/hで22.5m、60km/hで45mとなる。映像を見てもらえばわかるが、急ブレーキというほどではなく、少し強めのブレーキで止まれる距離で警告が鳴る感じだ。ただし、撮影時は警告が鳴ることを前提にブレーキペダルに足を置いて走行しているので、実際に脇見運転をしていて警告によりあわててブレーキ操作に入った場合は空走時間により急ブレーキを踏まないと止まれないかもしれない。

速度差警告される距離
0km/h0.0 m
10km/h7.5 m
20km/h15.0 m
30km/h22.5 m
40km/h30.0 m
50km/h37.5 m
60km/h45.0 m
70km/h52.5 m
80km/h60.0 m
90km/h67.5 m
100km/h75.0 m


Mobileye C2-270 前方車両衝突警報(Forward Collision Warning)

 前方の車両が動いている場合は速度差となるので、警告が鳴る車間距離は短くなる。高速道路を100km/hで走行していたとして、前方の車両が60km/hであれば速度差は40km/hとなり、30mまで近付くと警告の対象となる。前方車両衝突警報の作動可能な速度は0~200km/hとなっている。前述の通り、追突は最も多い事故なので前方車両衝突警報は事故発生件数を大幅に減らしてくれるだろう。仮に警告が鳴ってからブレーキを踏んでも間に合わず衝突してしまったとしても、ある程度は減速できるので被害を小さくすることができる。

・前方車間距離警報(Headway Monitoring & Warning)
 前方車間距離警報は30km/h以上で走行中に、自分で設定した車間距離より前方車両に近付くと表示装置のマークが赤く点灯、「ポーン」と柔らかめの警告音が鳴る。設定は車間距離を車速で割った秒数で、筆者の場合は普段から車間距離を広めにして運転しているので1.6秒に設定している。

 1.6秒の場合、40km/hなら車間距離は17.8m、60km/hなら26.7mとなる。普段通りに走行している状態で、表示される秒数を見て、それより小さめの秒数を設定しておけば近付き過ぎたら警告音が鳴るといった感じだ。交通量の影響は大きく、混雑すると車間距離は短くなる。前を空けて走ることはできるが、割り込まれると車間距離が短くなり、その度に警告音が鳴ってしまうため運転環境に合わせて設定したい。東京都内だと1秒以下に設定しないと頻繁になってうっとうしく感じられるだろう。


Mobileye C2-270 前方車間距離警報(Headway Monitoring & Warning)

 ターゲットとなる前方車両が同じ場合、1度警告音が鳴ると設定値より1.5倍離れなければ警告されないようになっている。具体的には1.6秒に設定した場合、1度警告音が鳴った後、車間距離が2.5秒(1.56倍)まで離れるとリセットされ、再び1.6秒に車間距離が縮まったところで警告音が鳴る。車間距離が2.0秒(1.33倍)まで離れてから再接近しても警告音は鳴らない。


Mobileye C2-270:1.6秒にセットした場合、2.5秒まで離れるとリセットされ同じ前方車両に対し警告が発せられる。2.0秒以内の距離であれば警告は発せられない

 車間距離の設定は0.1秒から2.5秒まで可能だが、表示装置のマークは0.6秒以上の設定した秒数で赤色に点灯するので、0.1秒と設定しても0.6秒で赤色に点灯する。運転の仕方にもよるが通常は0.6秒以上に設定するべきだろう。

時速0.6 秒0.8 秒1.0 秒1.2 秒1.4 秒1.6 秒1.8 秒2.0 秒2.5 秒
0km/h0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m0.0 m
10km/h1.7 m2.2 m2.8 m3.3 m3.9 m4.4 m5.0 m5.6 m6.9 m
20km/h3.3 m4.4 m5.6 m6.7 m7.8 m8.9 m10.0 m11.1 m13.9 m
30km/h5.0 m6.7 m8.3 m10.0 m11.7 m13.3 m15.0 m16.7 m20.8 m
40km/h6.7 m8.9 m11.1 m13.3 m15.6 m17.8 m20.0 m22.2 m27.8 m
50km/h8.3 m11.1 m13.9 m16.7 m19.4 m22.2 m25.0 m27.8 m34.7 m
60km/h10.0 m13.3 m16.7 m20.0 m23.3 m26.7 m30.0 m33.3 m41.7 m
70km/h11.7 m15.6 m19.4 m23.3 m27.2 m31.1 m35.0 m38.9 m48.6 m
80km/h13.3 m17.8 m22.2 m26.7 m31.1 m35.6 m40.0 m44.4 m55.6 m
90km/h15.0 m20.0 m25.0 m30.0 m35.0 m40.0 m45.0 m50.0 m62.5 m
100km/h16.7 m22.2 m27.8 m33.3 m38.9 m44.4 m50.0 m55.6 m69.4 m

・歩行者衝突警報(Pedestrian Collision Warning)
 歩行者衝突警報は1km/hから50km/hで走行中に、2秒以内で歩行者に衝突しそうになると警報を発する。前方に歩行者がいると、警報は鳴らないが表示装置は赤色に点灯する。筆者の体験ではほとんど歩行者衝突警報が鳴ることはないが、道路工事の交通整理の方や、スーパーなどの駐車場の警備員の方の横をすり抜ける時に警報音が鳴ったことはあった。


歩行者衝突警報(歩行者は筆者の息子)


歩行者衝突警報…点灯のみで警告なし

 歩行者衝突警報は夜間は作動しない。実際に明るい街灯の下や、そこそこ照明の明るい立体駐車場で試してみたが夜間は歩行者を認識しなかった。夕方で少し暗くなってきた時間帯は認識したが、昼間でも地下駐車場では認識しなかったので、基本的にはそこそこ明るい時間帯で有効と考えた方がいいだろう。車両は夜間でも認識できるので、夜間の歩行者が認識できないのは少々残念に思う。

・車線逸脱警報(Lane Departure Warning)
 車線逸脱警報は55km/h以上で走行中にウィンカーを出さずに車線を越えようとすると、表示装置に点線の表示が出て警告音が鳴る。

 車線逸脱警報は2段階に設定が可能で、タイヤが車線を踏む瞬間くらいに警告が鳴る設定と、踏み越えたぐらいで警告が鳴る設定を選ぶことができる。


車線逸脱警報(Lane Departure Warning)

 筆者の場合、前方車両衝突警報や歩行者衝突警報は滅多に警告されることはないが、車線逸脱警報は何度も警告音を聞いてしまった。例えば東名高速の大井松田から御殿場への登りはカーブが多いため、少しイン側によるとタイヤが白線を踏んでしまい警告音が頻繁に鳴った。このあたりは運転の癖によるもので、「Mobileye C2-270」は安全運転の診断装置的な役割をしてくれる。

 販売元のアイモバイルのホームページでは「安全運転養成ギプス」と謳われている。知らず知らず危険性の高い運転をしている場合は、車間距離、車線逸脱などの警告により「Mobileye C2-270」は安全運転を心掛けるきっかけになりそうだ。

 一度警告音が鳴ると、車線から30cmほど離れないとリセットされない。また、ウィンカーを戻しても1~2秒は有効と判断しているようで、ウィンカーを1回だけ出して、戻した後に車線変更をしても警告音は鳴らなかった。

 道路の白線がかすれていると車線の認識ができないため警告が鳴らないとされているが、実際にはかなりかすれた白線でも警告は出るようだ。


かすれた車線でも検出

 この車線逸脱警報を体験して、高速道路での居眠り運転防止に威力を発揮する機能だと痛感した。2012年の4月末、ゴールデンウィークに関越自動車道で起きた高速バスが防音壁に衝突した事故は、この機能があれば防ぐことができた可能性がある。

・低速時前方車両衝突警報(Urban Forward Collision Warning)
 低速時前方車両衝突警報は別名バーチャルバンパーを呼ばれている。赤信号などの停止時に車間距離を詰めると警告が鳴る機能だ。

 これも前方車間距離警報と同じように距離の設定が可能なので、普段停止する車間距離より少し小さめに設定しておけば通常は警告音がなることはなく、近付き過ぎたときに警告してくれる。


低速時前方車両衝突警報(Urban Forward Collision Warning)

 AT車の場合はブレーキから足が離れると車両が前進するので、不注意で前方車両への接触を避けることができる。

万能ではないが安心感は絶大
 軽い衝突事故でもクルマは凹む。クルマも凹むが心も凹むし、場合によっては財布も凹む。万が一の大きな事故も回避できる可能性があるので「Mobileye C2-270」の有効性は高い。

 自動車の保有データによると、平成23年の乗用車の新車登録から抹消までの平均使用年数は12.43年となっている。数年後に新車を購入するときは衝突防止・軽減装置が搭載されたクルマを購入すればいいが、購入したいクルマに衝突防止・軽減装置が付いていない場合や、購入してまだ数年であれば「Mobileye C2-270」のような後付けできる装置は有用だろう。

 筆者が「Mobileye C2-270」を取り付けてから数ヶ月が経過した。先日、運転中に眠くなったときに、もしものときは「Mobileye C2-270」が警告をしてくれると、あってはならないが頼りにしている自分に気付いた。万能とは言えないし、完璧でもないが「Mobileye C2-270」を取り付けたことで事故に対する安心感はかなり増したと言えよう。

 実際に起こる誤報や認識されないケースも紹介しておこう。まず誤報は歩行者衝突警報で書いた交通整理などの警備員の方の近くをすり抜ける場合だ。通常の歩行者と違い、警備の方は自動車の直前に立ったり、車両のすぐ近くで警備作業を行うため警報が鳴りやすい。運転する側も警備の方がいることは認識しているので、「あっ鳴った」と思うだけだが、歩行者衝突警報を大きな警告音を発するので同乗者などは驚くかもしれない。

 前方車両衝突警報で1度だけ起こった誤報は、左折車が曲がり掛けて停止し、その横を直進した際に「Mobileye C2-270」は追突すると誤認識して警報を鳴らしたことがあった。筆者がギリギリを通過したために誤報となったと思われるが、それほど車速が速くなかったし、充分すり抜けられると判断していたのであわててブレーキを踏んだりすることはなかった。誤報が発生したのはこの2つのケースだけだった。

 ちなみにスバルでEyeSightを体験試乗した際にディーラーの方に誤認識について聞いてみたところ、同じようにギリギリをすり抜ける時に誤認識をして急ブレーキが掛かりビックリさせられることがあるらしい。これら誤認識のケースではいきなり急ブレーキが掛かるより、警告音が鳴る方が安心感があるように思える。

 次は前方の車両を認識しないケースだ。「Mobileye C2-270」は対象となる車両の全貌をカメラで捕らえないと車両として認識することができない。例えば渋滞している車列に側道やガソリンスタンドなどから入る場合、車間距離が極めて短いため前方の車両を認識することができない。

 そのまま渋滞が続くと前方車両を認識していないためバーチャルバンパーは作動しない。1度車間距離が広がり、カメラが前車を認識すれば車間距離が詰まっても認識は継続される。極まれにこの様に前方車両を認識できないケースはあるが、通常の走行では問題を感じたことはない。

 最後に取り付けの様子を紹介しよう。現在「Mobileye C2-270」の輸入販売元のアイモバイルは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県の関東4県で出張取り付けを行っている。筆者の様に愛知県在住でもアイモバイルのある東京・恵比寿まで車両を持ち込めば取り付けは可能だ。

 取付に際し、車両のサイズの計測から作業は始まる。左右のタイヤの外幅、カメラ取り付け高さ、カメラ位置からフロントバンパーまでの距離、フロントウィンドーの傾斜角などを測定する。

 次に車両から取り込む車速、ブレーキ、左右のウィンカー、ワイパーなどの情報を取り込む。CANデータが取り込める場合はCANを利用するが、筆者のステップワゴンはアナログ信号から取り込むこととなった。各種信号はハンドル回り、運転席足下まわり、カーナビまわりなどから探し出す。

カーナビ、ステアリングコラムなどから車速、ウィンカー、ワイパーなどの情報を取る

 カメラユニットはドライバーの運転の妨げにならないように、ドライバーが運転する際にルームミラーに隠れる位置に貼り付ける。取り付ける角度が重要なので複数のアダプタから最適なものを選んで使用している。表示装置(アイウォッチ)はどこに取り付けても問題ない。今回は記事用の撮影を考慮してセンターとしている。


カメラユニットはルームミラーでドライバーから見えない位置のフロントウインドーにアダプタで貼り付けるアダプターは車種(窓の角度)によって異なるものを使用する表示装置は今回は撮影もあるのでセンターに取り付けた

 コントロールユニットは足下の見えない位置に設置する。コントロールユニットには電源)、クルマからの情報、表示装置、カメラユニットと設置作業では設定用のPCがつながれる。PCから最初に測定した車両の各所のサイズなどを入力する。

コントロールユニットには電源(PWR)、クルマからの情報(B)、設定用のPC(A)、表示装置(E)、カメラユニット(F)がつながれるパソコンから各種情報を入力今回はCANデータではなくアナログ情報を使用した

 取り付けが済むとキャリブレーション用のTACと呼ばれるボードをフロントバンパーの直前に立て映像を取り込む。そのボードを1m離して再度映像を取り込む。TACボードには5cm間隔でチェック柄が描かれていて、交点部分が認識され2つの映像の差によりCMOSピクセルと映像に映る位置関係をキャリブレーションすることができる。

キャリブレーション用のボードを直前に設置して映像を取り込むボードの位置を移動する

映像に映るボードの四角のサイズ、位置からカメラユニットの画素と映像の位置関係を構成する

 最後に試走して作業は完了する。平均的な作業時間は4時間程度とのことだ。過去に取り付けをした車種は各種情報の収集が済んでいるので作業時間は短縮できる。当然、営業車など同じ車種に大量に取り付ける場合はかなり作業効率があがる。

 「Mobileye C2-270」は乗用車、商用車だけでなくバス、トラックへの装着も可能だ。ゴールデンウィークに発生した夜行バスの事故は記憶に新しい。車両価格3000万円クラスのバスなら「Mobileye C2-270」の価格はそれほど負担にならないと思われるので、大手バス会社は積極的にこれらの安全装置を取り付けて欲しいものだ。「衝突防止・軽減装置を全車搭載」と広告等でアピールすれば集客効果もありそうだ。

 ちなみに、海外ではEUが2013年11月から新型商用車、2015年11月に全ての商用車の新車に自動ブレーキ装備が義務化される。日本では車両総重量により22t以上の新車は2014年11月以降、継続生産車は2017年9月以降義務化となっているが、車両総重量8t以上20t以下は時期未定のままだ。

 乗用車以上に使用年数が長いトラック、バスに関しては、十数年先になるかもしれない新車購入からの標準装備を待たず、「Mobileye C2-270」のような後付けの警告装置を国が補助金などを用意して義務付けにしてもいいと思われる。そう思うほど、「Mobileye C2-270」を使用したときの安心感は大きい。

(奥川浩彦)
2012年 9月 7日

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