特別企画
【新生SF応援企画】なぜ、レノボ・ジャパンはチーム・インパルをサポートするのか
PCメーカーが考えるレーススポンサーのメリット
(2013/5/31 18:54)
チーム・インパルは、元祖日本一速い男の異名を持つ星野一義氏が設立したインパルを母体にしたレーシングチーム。スーパーフォーミュラやSUPER GTなどに参戦しており、日本のレースファンにはおなじみだろう。
そのチーム・インパルを今年からスポンサードすることになったのが、中国のPCメーカーであるLenovoの日本法人となるレノボ・ジャパンだ。レノボ・ジャパンはスーパーフォーミュラでチーム・インパルのメインスポンサーをつとめるほか、SUPER GTでもスポンサーとなり、リアウインドーには同社のロゴが貼られている。
PCメーカーのレノボ・ジャパンが、なぜスーパーフォーミュラへのスポンサードを開始することになったのか、レノボ・ジャパン マーケティング責任者 クリストファー・ヌーフェルド氏にお話しをうかがってきた。
レノボ・ジャパンとは?
僚誌「PC Watch」をご愛読いただいている方には、レノボ・ジャパンについて改めて説明する必要はないと思うが、PCメーカーにあまり興味がない方には、初めて聞く会社かもしれないので、説明しておきたい。
レノボ・ジャパンは、世界的なPCメーカーであるLenovoの日本法人で、日本においてLenovoブランドのPCを販売する役割を担っている。そもそもLenovoは中国の国営PCメーカーとしてスタートした会社で、その後民営化され、中国市場では圧倒的な規模で1位の座を占めている。以前は中国ローカルのPCメーカーだったが、2005年にIBMからPC事業を買い取ってから、一挙にHPやDellといった世界的なPCメーカーと肩を並べる規模となったのだ。
Lenovoは現在、プレミアムPCブランドとしてのThinkブランド(ノートブックPCのThinkPadと、デスクトップPCのThinkCentre)と、一般消費者向けのIdeaブランド(ノートブックPCのIdeaPadと、デスクトップPCのIdeaCentre)という2つのブランドを抱えており、特に日本ではプレミアム向けのノートブックPCであるThinkPadシリーズが高い評価を受けており、ビジネスユーザーやハイエンドなPCユーザーなどから支持されている。
日本とThinkPadブランドの関わりが深いのは、もう1つ理由がある。というのも、Lenovoは、本社がある北京、北米本社があるラーレ、そして日本の横浜と3つの開発拠点を持っているのだが、ThinkPadは横浜にある大和研究所(以前、IBM時代には神奈川県大和市にあったのでこの名前で呼ばれている)で開発されており、日本とのゆかりが深い製品なのだ。
そうしたLenovoだが、PCビジネス全体が若干停滞気味の今でも、毎年成長を続けている。IBMがPCビジネスをLenovoに売却した段階では3位だった市場シェアは年々増えて、2012年の段階で2位のDellを抜き、1位のHPに迫っている。調査会社によってLenovoが1位だったり、HPが1位だったりするため、世界1位というのは難しいが、2013年はHPを抜き去り世界1位のPCメーカーになると考えられている。
Lenovoはトップメーカーになるために、多大な投資を行ってきた。世界的にPCメーカーの買収をしており、ドイツのローカルブランド「MEDION」(F1ドライバーであるエイドリアン・スーティルのスポンサーとしても知られており、今年フォース・インディアチームをスポンサードしている)を買収したほか、日本でもNECのPC部門を分離して設立した会社とのグループを発足し、現在NEC・レノボ・ジャパン・グループの傘下で、NECブランドのPCを製造・販売するNECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンがあるという形になっている。
両社を合わせたNEC・レノボ・ジャパン・グループとしては、現在日本のPC市場でトップシェアを誇っており、世界だけでなく日本でもトップメーカーとなっているのだ。
Lenovoブランドのアピールを目指すレノボ・ジャパンにとって格好の場となるモータースポーツ
そうしたLenovoの日本法人となるレノボ・ジャパンだが、なぜチーム・インパルをサポートしようということになったのだろうか。レノボ・ジャパンのマーケティング責任者 クリストファー・ヌーフェルド氏は「日本ではThinkPadブランドに対して非常に高い認知度をいただいていますが、Lenovoという会社のブランド認知はまだそこまで達していません。そこで、Lenovoという会社のブランドを認知してもらうべくさまざまなマーケティング活動を行っているのです。今回のチーム・インパルへのスポンサードの決定はそうした活動の一環になります」と説明する。
ThinkPadは、IBMから1992年に最初の製品が販売されて、すでに20年以上が経過しており、製品ブランドとして十二分に確立されている。これに対して、Lenovの認知度は、残念ながらThinkPadほどではないというのが現状だろう。Lenovoが世界的なPCメーカーとなったのは、2005年にIBMのPC事業を買収した後となり、その後自社ブランドの確立に努めてきてはいるものの、ブランドの確立には時間がかかるモノなのだ。
実際、Lenovoはグローバルにも、広告宣伝費をかけて自社ブランドの浸透を図ってきた。よく知られているところで、2006年~2008年までのウィリアムズへのスポンサード、2009年~2012年までのマクラーレンとのテクニカルパートナー契約などで、F1という世界的なフィールドを利用して、マーケティング活動を行ってきた。また、日本ローカルでも、かつてのサッカー日本代表選手 中田英寿氏をイメージキャラクターに採用して、マーケティング活動を行っている。
今回の契約もそうしたLenovoブランドを確立するための一環だと考えることができるだろう。ヌーフェルド氏は「モータースポーツは、お子様からご年配の方まで全年齢のファンがいらっしゃいます。そうした方にLenovoのブランドをアピールする場として最適だと考えました」と、幅広い年齢層にブランドの認知を図るための場としてモータースポーツを選んだと説明する。すでに反響はあったそうで、同社のコールセンターには「チーム・インパルをサポートしてくれてありがとう」という“お礼?”ないしは激励?のコールがあったそうだ。
ヌーフェルド氏によれば、今後レノボ・ジャパンとしても、PC関連の販売促進を行う時に、スーパーフォーミュラの車両を展示するなど、チーム・インパルとコラボレーションした活動ができないかどうかを検討していきたいとのことだった。こうした活動は地味ながら重要で、PCにはあまり興味がないけど、モータースポーツは好きだというユーザーにとっては、ブランドを知るよい機会になる。
私事で恐縮だが、そういうことは筆者にも記憶がある。筆者が小学生の頃、インパル代表の星野一義氏が現役のドライバーで走っており、あるタバコメーカーがイベントで星野氏の車の展示とサイン会をやっていた。もちろん筆者は子供だったしタバコは吸わなかった(大人になった今でも吸っていないが)がイベントには参加しサインをもらった記憶がある。その時にそのタバコのブランドを覚えたし、タバコを吸う自分の父親に「~に変えないのか」と聞いた記憶がある(当時は今よりもタバコの宣伝にはおおらかだった……)。
結局筆者は愛煙家になることはなかったが、ブランドの認知度というのはそうやって上がっていくものだし、レノボ・ジャパンとしてもそうした効果を狙ってチーム・インパルのサポートを決めたのだろう。
世界PC市場のトップを争うLenovo vs. HPが、日本のサーキットでも!
今回レノボ・ジャパンがSUPER GTではなくスーパーフォーミュラのメインスポンサーになったのは、「チーム・インパルは、SUPER GTではとても歴史のあるメインスポンサーを持っていて、そこは難しいと考えました。しかし、やはりこの業界の“レジェンド”である星野氏のチームであり、プロフェッショナルとしてレベルが高いチーム・インパルをサポートしたいと考え、スーパーフォーミュラのメインスポンサーになることを決めました」(ヌーフェルド氏)と述べ、まずはチーム・インパルをサポートしたいという意向が先にあった。サポートするカテゴリーに関してはチーム側と相談し、スーパーフォーミュラをメインで、SUPER GTに関してもメインではないもののサポートするという形に決まったとのことだった。
ヌーフェルド氏によれば、契約はいわゆるファイナンシャルスポンサー(資金を提供し、その見返りとしてロゴをマシンなどに掲載してもらう契約)だけでなく、テクニカルパートナーとして、同社のPCなどをチーム・インパルに提供することも含まれていると言う。「弊社のThinkPadシリーズはミリタリースペックとよばれる軍隊が過酷な環境で使っても十分耐えられる仕様になっており、そうした製品のうちThinkPad X230、ThinkPad Helix、ThinkPad Tablet 2などをエンジニアリングワーク用として提供します」(ヌーフェルド氏)とのとおり、同社製品を実際にチーム・インパルのエンジニアに使ってもらい、PCには厳しい環境のサーキットでもエンジニアが快適に仕事ができるようにしていくという。このほか、チーム・インパルのゲストやドライバーなどが使えるようにIdeaPad Yoga 13という、ノートPCからタブレットに変形するPCも提供していくとのことだった。なお、ヌーフェルド氏によれば、公式な契約期間は今年1年となっているが、その効果や反響などを見ながら、来年以降の契約に関しても検討していきたいとした。
冒頭で述べたとおり、LenovoはグローバルなPC市場で、これまで1位だったHPと激しいシェア争いを繰り広げている。そのライバルとなるHPも、スーパーフォーミュラにはHP Real Racingという形で1台エントリーさせており、PCのシェアだけでなく、サーキットでも“Lenovo vs. HP”という戦いが繰り広げられていくことになる。
開幕戦では、レノボ・ジャパンがスポンサードするチーム・インパルは、20号車の松田次生選手が2位表彰台、19号車のジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手が6位となり、表彰台に加え2台がポイントを獲得した。これに対してライバルのHPがスポンサードする10号車の塚越広大選手は、9位とポイント獲得ならず。悲願のPCでシェア1位を目指すLenovoとしては、幸先のよいスタートを切ったということができるのではないだろうか。