特別企画

【特別企画】本田雅一が考える「初めての輸入車購入術」(前編)

今どきの輸入車購入は難しくない!?

メルセデス・ベンツのAクラスやフォルクスワーゲンの7代目ゴルフ(以下、ゴルフ7)、ボルボ V40と、まさに新型車花盛りの輸入コンパクトカー。価格も200万円台からと国産車オーナーにとってもなにかと気になる存在だが、輸入車ってやっぱり大変なんじゃないの? なんて不安がる声も聞く。そこで長年国産車を乗り継ぎ、6年前に初めて輸入車を買った本田雅一氏に、今どきの輸入車購入事情について取材してもらった。


ゴルフ5 R32に乗りながら「基本的に国産派」という本田雅一氏が考える輸入車選びとは!?

 “初めて”というけれど、輸入車も国産車も買い方は同じじゃないの? 初めての輸入車購入術と今回の企画を聞いたとき、そんな風に担当者に尋ねてみた。この記事を読んでいるみなさんの中にも、ボクと同じように「輸入車だから特別だなんてことはないよね」と思っている方も少なくないのでは、というのが僕の考えだったからだ。しかし、その一方で「価格やメンテナンス体制の面で、国産メーカーのネットワークほど充実していないのでは?」「もしや修理にとんでもない金額が……」なんて訝しんでいる方も、実は決して少なくないのだとか。

 なるほど。確かにこうして記事を書いているボク自身、6年前に初めて輸入車を買う前には、色々な意味で輸入車というものに対して斜めに構えていたこともあった。今、個人的に所有している2007年式のゴルフ5 R32の前までは、輸入車が欲しいと露程にも考えたことがなかった理由を思い出すと、なんとなく今回のコラムの道筋が見えてきた。世界的な自動車メーカーがひしめく日本に住んでいて、なぜわざわざ輸入車を選ぶの? といった部分を含め、昨今注目されているCセグメントの欧州車を中心に話を進めていきたい。

ボクが輸入車を選んだ理由、選ばなかった理由

 今回のテーマで執筆を引き受けておきながら、冒頭でこういうことを書くのも気が引けるが、ボク自身の車選びは基本的に国産派。なぜか友人・知人には輸入車好きと思われているようだけど、これまでに輸入車を選択したのは現所有車の1台だけだ。

 冒頭でも書いたように、日本には世界的な自動車メーカーがある。確かに大昔は性能や安全性で輸入車に及ばない部分もあったけれど、今どきの日本車が設計・生産などの技術で輸入車に負けているとは思えない。各国の道路事情や生活スタイルは異なるが、国産車はおおむね日本の消費者をターゲットに開発を行っている。輸入販売というコストも考慮するならば「このブランド、このデザインがどうしても欲しい!」という感情的な欲求を別にすれば、国産車を選んだ方がシックリくるハズ……というのが、ボク個人の車選びにおける考え方だったのだ。

 ところが昨今、こうした考え方では自分好みの車が選べなくなってしまった。国内の自動車ニーズがミニバンに集中し、ちょっとプレミアム性のあるコンパクトカーというジャンルには、選択肢が少なくなっているからだ。大きな高級車ではなく、コンパクトだけど内外装ともに質が高くて走りも満足できる。そんな車が欲しくても、国産車でコンパクトサイズに拘ると実用車の方向に行ってしまう。

 6年前、国産車を乗り継いできたボクがゴルフという輸入大衆車を選んだのは、コンパクトだけどプレミアムな車種を用意しているところに、ボクのニーズがピッタリと一致したからだった。もちろん、国産にもプレミアムコンパクトはあるのだけど、実際にディーラー巡りをしてみると、そんなごくあたりまえの輸入車の特徴に気付いたのだ。

 どんな国であっても、自国に優秀な自動車メーカーがあればそのメーカーの車を買うのが経済的だ。自国生産なら輸送コストや在庫コストを圧縮できるというのもあるけれど、充実した販売網を作り、販売量も多くできるから、自然にサプライチェーンの効率はよくなる。しかし、一方で自国民のニーズに敏感であるが故に、力を入れる車種のラインアップに偏りもできやすいのかな? とも思う。そんなわけで、ボクのように車選びに趣味性を求める人間から見ると、今の国産車は「う~ん、わるくはないけど、そこじゃない」というラインアップになってしまうのかもしれない。

 輸入車の場合、もちろん自国向けには多様な製品があるのだろうが、日本まで運んで販売するならコスト効率はわるくなる。北米のような一大消費地ならともかく、輸入販売の歩留まりやコストを考えたら、何らかのプレミアム性(単に高級というだけでなく、何らかの特徴を持つという意味を含む)がなければ商品として成り立たないのだろう。ボクが6年前に輸入車を選んだ理由は、そんなちょっと他とは違うところに魅力を感じたからだ。そして今、6年の歳月を経て新しい車を探そうかな? と思っていたところに、ちょうどこの企画の話が来たというわけだ。

 もちろん、今回も最初は国産車から検討を始めたのだけど、車幅1.8m以下のコンパクトなプレミアムカーというと、やはり選択肢は狭い。その一方で今、欧州車はプレミアムコンパクト花盛り。欧州でいうCセグメントと呼ばれるカテゴリに、魅力的な車種が数多く並んでいる。

個性豊かなプレミアムコンパクトたちが多数

 中でも昨今、大きな話題を集めているのが、ボルボのV40だ。今年、ボクが買い換え期を迎えることを知っていたある編集者に「V40いいよ~」と勧められて知ったが、確かにスタイリッシュな外観に、先進性を感じさせる若々しい内装とメータークラスタ周りのデザインは魅力的だ。それにレーダーセンサーやカメラを活用した最新のセーフティ機能が安価に用意されているうえ、今ならセーフティパッケージが無料。これで269万円~は充分に安いと思える内容だ。

充実した装備で「269万円~は充分に安い」と思わせるV40
コンパクトなFR車という希少性が購入意欲を刺激する1シリーズ

 V40はエンジンのスペックはともかく、アクセル操作への反応やハンドリングの切れもよく、軽快でなかなか愉しく試乗できた。絶対的な価格もなかなか頑張っていて、コレなら人気が出るのも当然だろうと納得できる1台である。他にもシトロエン・DS4(310万円~)、ルノー・メガーヌ(268万円~)といったフランス車は、しなやかさと強さを兼ね備えた足まわりで、これまた試乗してみると面白い。人気のドイツ車も個性的な面々が揃う。走り重視ならBMW・1シリーズ(308万円~)。コンパクトカーの後輪駆動車は、もうこの1シリーズと近く発表が見込まれるクーペボディーの2シリーズしか手に入らない。なんて思えば購買意欲も刺激されるというもの。

 さらに今年は、メルセデス・ベンツの新Aクラス(284万円~)、フォルクスワーゲンのゴルフ7、そしてアウディの新A3シリーズ(現行モデルは273万円~)と、新シャシーのオンパレードだ。新A3は日本市場で未発表だが、新Aクラスは従来のAクラスとはまったく異なる、まさにプレミアムを感じさせるハッチバックに仕上がっているし、このクラスの輸入車としては最量販車となるだろうゴルフ7も、V40に刺激されてか249万円からという、これまたなかなかお買い得感たっぷりの価格。ここまでに名前を上げたCセグメント車は、いずれも250万円~300万円ほどにエントリーグレードを設定している。

劇的な変化でプレミアムに生まれ変わったAクラス
クラスのトップランナーながら価格競争も真っ向勝負のゴルフ7

 それぞれの車種の魅力をボクが語る必要はないと思うが、いずれも劣らぬ個性を持ったCセグメントの欧州車。単に「個性的だから」「ブランド力があるから」「少し贅沢な仕様になっているから」といったことだけでなく、装備内容も考慮したお買い得感も演出されるようになってきている印象だ。これは、ボクが初めて輸入車を買った6年前とは異なるところで、日本での輸入車販売が伸びているという背景もあるのだろう。輸入車は少しづつ、しかし着実に身近な存在になってきていると感じる。

輸入車は買ったあとが大変? いやいや、そんなことはありません!

 ところが、今でも耳にすることがあるのが、輸入車購入に対する心配ネタだ。確かに昔、経済の発展と所得の増加といった経済情勢の中で輸入車が急増すると、さまざまなトラブルを耳にしたことはあった。しかも、半分はミエもあって高級外車に乗っている人の中には、そういったトラブルや高額修理を自慢話のように口にする人までいた。さすがに今はそんなことはないと思うが、ボクのように40代ぐらいの年齢層には、輸入車に対して一種の嫌悪感や不信感を持っている人もいる。

 しかし、それも今や昔のこと。現代の欧州車は、走りがよい、ボディー剛性が高いといった基本性能だけでなく、細かな部分や信頼性などについてもまったく問題ないレベルになってきている。たとえば筆者が乗っているゴルフ5。その前の世代となるゴルフ4はパワーウィンドーのデキがわるく、ガラスがドアの内側に落ちて閉まらなくなるという持病があった。それでもドイツ車は信頼性が高いと言われていたのだから、輸入車にマイナートラブルが多かったことは確かなのだろう。だが、最近の欧州車はどれも、こうした部分の品質が劇的に上がっている。

 確かに、あまりに少量のレアな車種であれば、修理のノウハウや不具合の対策といった情報が販売店同士で充分に共有できないケースも考えられる。しかし、それなりに量販されている輸入車を正規の代理店で購入するのであれば、国産メーカーとほとんど変わらないと思って構わないと思う。実際のところ、ボクも6年ゴルフ5に乗っているが、とりたてて大きなトラブルに悩まされた経験はない。

 もうひとつはメンテナンスに関する心配。かつては輸入車を買ったはよいけれど、旅行先で故障したからと近くのディーラーに持ち込んだら「それはウチが販売した車両じゃないから」と修理を断られ、なんとか修理を……とお願いしたら、法外な修理代金を請求された。なんて今ならニュースになりそうな事例も珍しくはなかった。また、わるい冗談のような話だが、あるディーラーで新車購入後1年の点検に出したとき、「奥様、よくお乗りになっておりますので、大切なお車の乗り味を損なわないためにも、サスペンションのブッシュ交換を行わせていただきます」と告げられ、分解してブッシュ交換。高価な代金が請求され、ご主人が驚いてクレームを入れたなんて話も聞いたことがあるほどだ。

 しかし、今自らが輸入車のオーナーになって思うのは、少なくともメーカーの名前を看板に掲げるような販売店ともなれば、プレミアム性を求めて足を運ぶ消費者を相手にそんな詐欺まがいの行為はまずないと言うこと。もちろん、ディーラーとのトラブルが絶対にないとは断言できないが、それは国産メーカーの販売網に置き換えても同じことだろう。

 また「残価設定ローンのような初期費用が少なくても車を手に入れやすい仕組みなんて存在しないんでしょ?」といった問いかけを受けたこともあるが、もちろんメーカーにもよるが、輸入車にだって残価設定ローンは存在する。

 というわけで、実際に輸入車オーナーになってしまえばなんてことはないことなのだが、買ったことがない人には確かに何かと不安な部分もあるのかもしれない。そこで後編では、実際に輸入車販売店で取材をしながら、輸入車購入に関するさまざまな不安や疑問に対する答えを紹介することにしたい。

本田雅一