特別企画

【特別企画】本田雅一が考える「初めての輸入車購入術」(後編)

ヤナセで聞いた輸入車購入のポイント

メルセデス・ベンツのAクラスやフォルクスワーゲンの7代目ゴルフ(以下、ゴルフ7)、ボルボ V40と、まさに新型車花盛りの輸入コンパクトカー。価格も200万円台からと国産車オーナーにとってもなにかと気になる存在だが、輸入車ってやっぱり大変なんじゃないの? なんて不安がる声も聞く。そこで長年国産車を乗り継ぎ、6年前に初めて輸入車を買った本田雅一氏に、今どきの輸入車購入事情について取材してもらった。


Aクラスの上位グレードになるA250 シュポルト。高くて手が届かない!? いえいえ、実はそんなことないんです。詳しい購入ガイドは終盤でご紹介

 さて、モータージャーナリストでもない筆者が、国産メーカー好きの輸入車乗りという微妙な立ち位置から書き進めている今回のコラム。ふと思い立って編集担当者に尋ねると、本誌読者の9%が輸入車オーナーなのだとか。日本国内の登録台数でおよそ5~6%が輸入車と聞いたことがあるので、Car Watchは輸入車比率がやや高めの媒体ということになるだろう。

 もっとも、自分からCar Watchにアクセスして情報収集するような車好きだから、車は必要だから使うだけで、それほど興味を持っていないという人よりは輸入車が身近な存在でもあたりまえの数字とも言える。ただ、さらに掘り下げれば、興味のある記事カテゴリでナンバーワンはやはり「新車情報」だが、2番目に滑り込んでいるのが「輸入車情報」なのだ。昔のように国産車と比べて輸入車の情報が手に入りにくいなんてことはないはずだが、それだけ輸入車に興味のある層は、積極的にネットから情報を得ようとしているのかもしれない。

輸入車販売の代名詞「ヤナセ」の本社で、輸入車購入に立ちふさがる疑問や不安点を販売のプロに問いかけてみた

 さて、前回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20130701_605424.html)は「欧州のプレミアムコンパクトは熱いぜ!」という話を中心に、輸入車と言っても特別に買いにくかったり、メンテナンスに苦労するなんてことはないよ、という解説をしたが、実際にはどのような体制で販売されているのだろう。輸入車販売の代名詞とも言える存在の「ヤナセ」本社を訪問し、販売体制やメンテナンスについてさまざまな疑問をぶつけてみた。

 ちなみに、ヤナセは多くの輸入車ブランドを扱っているが、芝浦にある本社周辺にはヤナセ系列のメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディ、GMといった各販売店が軒を並べており、それぞれの販売店を歩いて回ることも可能だ。

2012年12月にアウディ最大級のショールームとして生まれ変わった「アウディ芝浦」
大通りを挟んでヤナセ本社の道向かいにある「フォルクスワーゲン芝浦」
メルセデス・ベンツ、スマートを取り扱う「ヤナセ東京支店 メルセデス・ベンツ東京芝浦」

意外に低い輸入車販売店の敷居

 実は、取材前に編集担当者から「輸入車の販売店って、敷居が高くて入りにくいよね」と言われていた。でも、本音ではその意見に同意できない部分がある。確かにバブル時代にはそんな雰囲気もあったが、当時は物価がどんどん上昇し、高級品が人気で価格も高騰しがちな時期だった。20歳そこそこの小僧にとっては、輸入車なんてハナから問題外だったので敷居が高く感じて当然だ。しかし、それもホントに昔のことで、もし抵抗感や敷居の高さを感じるとしても、それはさまざまな事例や噂話を耳にして、自分の心に敷居があるのだろう。

 6年ほど前に、筆者が個人的に所有するゴルフ5を購入しに足を運んだ販売店は、一番近かったのがトヨタ系のDUO店だったこともあって、ほとんど国産ディーラーと同じ雰囲気だった。確かにもっと輸入車販売店然としたお店では、さらに上質で近寄りがたく演出されている可能性もある。とはいえ「ちょっとオシャレなブティックでも足を踏み入れると照れちゃう」なんてシャイな人でもなければ、さすがに敷居の高さを感じるなんてことはないんじゃなかろうか。

 とはいえ、今回の相手は高級車比率が高いヤナセであり、かつてはメルセデス・ベンツを独占輸入販売していたヤナセだ。そんなお店ともなれば、やはり気後れしそうという人はいるかもしれない。だが、実際の印象はまったく逆である。実は筆者自身、ヤナセの販売店に足を踏み入れるまでは、あんまり丁寧にセールスマンに対応されると困っちゃうなぁとか、実車を見て興味が湧いたら説明を聞いて、世間話でもしながら進めたいけど、いきなり本気モードでセールストークをされたら困ってしまうなぁなんて思っていた。

 しかし、考えてみてほしい。訪れた人をこういった、あまり心地よくない気持ちにさせるのは優れたセールスマンではないだろう。あくまで顧客にとって心地よい空間でなければ、プレミアムなブランド価値を持つ製品を売ることなどできるはずもない。ステレオタイプなお金持ち相手のビジネススタイルなんて、今の世の中では通用しないだろう。

 そんなふうに考えて、実際にお店に足を踏み入れると、そこは想像どおり適度に心地よさが演出された空間だった。なにしろ、車を売ろうという圧力をまったく感じない。こちらから質問すれば、もちろん内容に応じて必要な情報を伝えてくれるが、展示車両について質問しているのに、車好きの知人と愉しみながら会話している気分になってくる。

 国産、輸入を問わずディーラーに足を運ぶのが苦手という人は、おそらく“買うの?買わないの?”という圧迫感が苦手なのだろう。そんな人は、きっとこの気軽な雰囲気を知れば驚くことだろう。高額な車を扱っているお店ほど、顧客との接し方を工夫しているなという実感は以前からあったが、ヤナセの雰囲気はそうした中でも別格だと思う。“敷居の高さ”と表現するなら、むしろ低いなぁというのが実感だ。

顧客の気持ちが最優先

 実は今回の取材直前のことだが、個人的な興味から自宅近くのヤナセに足を運んだことがあった。新Aクラスを試乗してみようかな?と思ったからだ。そのときも、やはり同じように圧迫感のない接客を受け「日本未発表のCLAクラスはいつぐらいでしょうね?」などとセールス担当と話していた。アンケートも普通に書いてきたが、むしろ会話の中からこちらのニーズを察知しようとしていると感じた。そこで「今は試乗車がないけれど、A250 シュポルトの試乗車が用意されたら興味が出てくるかな?たぶん予算が合わないけれど、A45 AMGが日本でいくらぐらいになるでしょうね?」と伝えてきた。

 こうして具体的なコンタクトを取ると、ディーラーによってはDM・電子メールによって新車、特別仕様車の情報がこちらの希望とは関係なく送られてきたり、イベントやキャンペーンがあれば直接電話がかかってきたという経験すらある。これがヤナセになると、まずセールス担当からの連絡がすべて電子メールで統一(担当者の個人的なこだわりという可能性もあるが)されていて、なるほどと感心する。そして、実際に会話した内容に添った車種やグレードについて、適切な情報を送ってきてくれるのだ。気になった部分を確認すればメールで返信してくれて、最後に「試乗車が出てきたら連絡くださいね」と返信すると、お礼のメールは来てもその後は押しつけがましいセールスメールが送られてくることはない。

 こうした実体験があったので、取材に対応してくれたヤナセ東京支店 メルセデス・ベンツ販売部の加藤孝史氏に尋ねてみると、まずはヤナセのセールスマンの接し方について「担当者としては、この車のよさはこんなところにあります。お客様ならば、この車種のこのグレードが合うと思いますよ。といった具合に、お伝えしたい言葉が喉元まで出てくるんです」と応えた。もちろん、顧客側から情報や見積もりを求めれば、ニーズに応じて必要な情報を伝える。しかし、必要以上のアピールや、押しつけになるような売り込みはしない。何よりも顧客が何を考えて、どうしてほしいのかが優先されるべきだからだと、入社7年目、今年で28歳という加藤氏は話す。

あくまでユーザーの希望や要望が最優先ですと話す加藤氏
展示車のAクラスの前で談笑する加藤氏と筆者。会話の中に、聞き手となって相手の要望を見いだす「ヤナセ流接客術」が垣間見える

「昔からのヤナセのお客様は、メルセデス・ベンツとヤナセの両方を信頼して任せていただいています。一方、新たに興味を持ってヤナセのお店に来ていただく若い世代のお客様は、ネットで情報を集めてから、自分で見積もりの概算まで用意してくる方も多いのです。グレードや特別仕様の情報はもちろん、細かなオプション設定やボディーカラーまでを決めて来店される方も多いですね。特に新しいAクラスが発売されてからは、30代の方の来店が急増しています。そうした方は、充分に多くの情報を持っていらっしゃいますから、通り一遍のセールストークは心地よいものではないでしょうね(加藤氏)」。こうしたヤナセ流の接客術はヤナセ全体で統一され、しっかりとした研修を経てから現場に配属されるそうだ。

車は購入してからの付き合いが長いもの

 これまで高級輸入車を中心に扱ってきたヤナセだからこそ、そんなしっかりした人材がいて、手厚いサービスが受けられるのだろう。しかし、そんなふうに認識することで「きっと他で買うよりお高いんですよね」と想像する気持ちは理解できる。上質なサービスを提供するためには、やはりそれだけコストが必要になるのは当然の流れだ。その分だけ出費が増えるだろうと連想して、高級輸入車ディーラーの敷居が高いと感じさせる理由の1つになっているはず。

 加藤氏も「自分が車を購入する立場になって考えれば、限られた予算の中でなるべくリーズナブルに買いたいと思うのは当然のことです」と価格について話した。「たとえば“このぐらいの予算で”というラインを示していただければ、希望に沿ったお見積りを出せる場合もあります。もちろん、金額的に難しいケースもありますが、まずは相談していただければ方向性も見えてきます。また、長期的な視点から見れば、むしろ割高感のないサービスをご提供していると考えています」と説明する。

加藤氏は「価格ではなく、ご提案の中身が勝負だと考えています。トータルで考えればご満足いただける内容になっていると思います」とアピール

 たとえば、メルセデス・ベンツの場合、購入してから初回車検を受ける前までの最初の3年間は、標準的な走行距離であればガソリン代ぐらいしか車を動かすためのコストがかからないのが現状とのこと。利用回数に上限はあるが、なんとオイル交換まで無償になるのだ。さらにこの保証期間を2年延長し、トータルで5年間はメンテナンス費用と無縁になる付加サービス契約も用意されている。また、フォルクスワーゲンでも、新車購入から3年間にかかる主要な消耗品などの費用がパッケージ化されたサポートプランが用意されており、これに加入するとメルセデス・ベンツ同様のサービスが利用できる。

 こうしたサービス・メンテナンスのパッケージはメーカーによって内容に差があるものの、輸入車メーカーに限って言えば、そんなパッケージサービスの期間や適応範囲は拡充する傾向にあるという。それなら、せっかく受けられるサービスを有効活用するため、ヤナセのように幅広いネットワークを持っている販売グループから購入することで、さらにメリットが増えるという面は確かにある。アフターサービスの質については別途、話をうかがっているが、個人的には「全国を網羅する唯一の販売グループ」という点に興味を惹かれる。日本の場合、国産メーカーでも地域ごとに異なるディーラー網が存在しており、全国的なネットワークを持つのはヤナセだけだ。

 これは、もともとヤナセがメルセデス・ベンツやキャデラック、フォルクスワーゲン、アウディといった輸入車の国内販売を独占していた頃の名残で、全国のユーザーに手が届くよう店舗整備を進めた結果、全国のネットワークが完成したわけだ。車に乗って長距離を移動する場合、普段お付き合いしている販売会社が店舗を持たないエリアに足を伸ばすのも珍しくない。国産車の場合、購入した店とは異なる販売会社だったとしても、同じメーカー系列なら修理入庫を拒否されることはないだろうが、輸入車の場合は入庫できず、レッカー車で住んでいる地域まで運んでもらったという笑えない話を耳にしたこともあるほどだ。

 もっとも、加藤氏が「自信がある」と表現するのは、アフターサービスでも質の部分。「車は購入するまでのプロセスより、購入した後のお付き合いの方が圧倒的に長いものです。アフターケアで他社にはないアプローチを取っていることが、僕らの強みになっているんですよ」とアピールする背景には、他社にはないユニークなサポート体制があった。

顧客ごとに細かな情報管理を行うサービスアドバイザー

 店舗の雰囲気やセールスマンの接し方などは予習済みだった筆者だが、そこから先はヤナセでの購入経験がない人間にとっては未体験ゾーンだ。しかし、なるほどと納得できたのが、「サービス営業」という職種の存在だ。このあまり耳慣れない職種は、ヤナセで車を購入したあとに顧客との関係を担当するポジション。国産車、輸入車を問わず、一般的にディーラーで車を購入すると、サービスフロントや整備工場の連絡先、その時点での工場長などが紹介される。しかし、それは属人的な関係ではなく、困ったとき連絡すると誰かが対応しますよという窓口としての意味合いが強い。このため、購入後も仲良くなったセールスマンが継続的に連絡を取る相手で、点検などで入庫するときも、サービスフロントや工場ではなく、まずセールスマンに連絡をして仲介してもらうという人も多いのではないだろうか。

 ヤナセの場合でも、セールスマンに連絡すればもちろん手配してくれるが、購入後のきめ細かなサービスや、顧客ひとりひとりと向き合った「One to One」のサービスを実現するための専門スタッフとして、購入直後にサービス営業の担当者が紹介される。セールスマン同様に顧客ごとに担当者が割り振られ、より責任を持った対応をしてもらえる。

 このサービス営業のスタッフが「サービスアドバイザー」。ヤナセのサービス体制を象徴する要の仕事だ。彼らは車に関する技術的な知識、ニューモデルの情報や機能・スペックなどを幅広く理解し、アフターサービスに関するヤナセと顧客とのコミュニケーションを一手に引き受ける。車両が整備に出された場合、不具合や故障に関する情報の伝達と共有なども彼らが行うため、顧客が工場と直接やり取りする必要はない。車を販売した後の担当者を統一することで、それぞれの車両がどのようなコンディションなのか正確に把握。何らかのトラブルが発生した場合でも、それまでの履歴も含めた総合的な判断とサービスが提供できる。顧客の目に見える部分で考えても、検査や補修部品の交換などを的確にアドバイスできるので安心だ。

「たとえばオイル交換。多くの場合では、半年あるいは1年の定期点検時期に入庫していただき、そこで走行状況など現車を見ながら交換が必要か判断するというのが一般的だと思います。私たちは日頃からお客様が車をどのようにお使いになっているのか、履歴を参考にしてメンテナンスのアドバイスをします。年間5万kmを走るというお客様の場合、半年や1年といった単位ではメンテナンス頻度として明らかに不足です。定期メンテナンスの時期に消耗品を勧めるのではなく、お客様ごとに異なる適切なタイミングでのメンテナンスをお勧めしています」と語るのは、ヤナセ東京支店 メルセデス・ベンツ販売部でサービスアドバイザーを務める高橋弘行氏。

ヤナセでサービスアドバイザーを15年続けているという高橋氏は「購入後しばらくは担当セールスマンと連携してお客様に連絡を入れるようにします。入庫で来店された機会などにお客様との信頼関係を築いていき、十分に認知していただいてからはサービスアドバイザーがお客様の対応の中心になるというパターンもあります」と話す

 さらに、車の状態を把握し、適切な状態に保つアドバイスや解析を行う一方で、難しい言葉を使わないことも心がけているという。「専門用語を並べられて、よく理解しないままメンテナンスを頼んだら想像以上に高い料金を請求された」などという、輸入車ディーラーにまつわる信じがたい噂もあるが、ヤナセではまずは顧客が解りやすいように車の状態を説明し、どのような選択肢があるのかを説明する。あたりまえのことだが、大切なことをサービスアドバイザーは顧客に提供しているのだ。

 このように、顧客との接点となるサービスアドバイザーの役割は重大であるが、それだけに担当するサービスアドバイザーが対応できないような場合であっても、きちんと同質のサービスを提供できるようヤナセは腐心してきたという。そのためにサービスアドバイザーは、社内のどの担当者が見ても顧客が持つ車の状態や、走行距離が伸びるペースといったこれまでの乗り方などの情報をすぐに把握出来るように顧客ごとの入庫履歴を整理してデータ化してきた。現在ではこれらの情報を発展させ、全国のヤナセ店舗で共有するシステムを構築している。たとえば、かつては担当店舗以外のエリアで整備入庫をした場合、担当店舗のサービスアドバイザーが管理する情報を送り、それを手に入れてから現地のスタッフが対応していた。しかし、今ではどの店舗に入庫しても、サービスアドバイザーが管理するすべての情報を必要になったとき即座に参照できるのだ。唯一の全国ネットワークを実現しているヤナセならではのシステムと言えるだろう。

 さらに、自動車販売店のセールスとサービスの担当者は、それぞれ1:1程度の割合というのが一般的。しかし、新車販売で新しく増える量と、すでに顧客の元に行って稼働し続けている車では、後者の方が圧倒的に多いのは自明だ。担当者の割合が同程度では、どうしてもサービスの負担が大きく細やかな気配りができなくなる。そこでヤナセの場合、この割合を1:2.3とサービス側の比重を大きくし、セールスの2倍以上になるサービス担当を配置している。

 その結果、サービスアドバイザーは顧客のニーズを先回りして対応する余裕ができる。いきなり「そろそろメンテ時期なので○○を交換しましょう」と連絡するのではなく、定期検査などで入庫したときに「お車がこのような状態なので、年末ぐらいには○○を交換しましょうか」という感じで、顧客がじっくりと吟味して先々のカーライフを組み立てられる提案が行われている。また「お客様のカーライフの前面に立っているので、車種ごとのクセなどもいち早く把握できます。“この車種は経年変化でここが傷みやすい”といった情報は、私たちがどこよりも早く実感を伴って把握しているので、そうした情報をサービスアドバイザー同士で共有しながらお客様に情報提供できるのが大きな強みですね(高橋氏)」。

ヤナセ本社ビル内にあるサービスフロア。広々としたスペースに、点検や整備で入庫した多くの車両が整然と並ぶ。ブランド別にエリア分けされており、ここは最も大きなスペースが割り当てられたメルセデス・ベンツのエリア

 はじめてヤナセの販売体制を取材して感じたのは、あらゆるシステムの中心に“顧客”が存在していること。自動車ディーラーは車を売ることで利益を得ているわけで、そのまま自然に企業システムが成熟していくと、どうしても“新車販売数を伸ばすこと”を中心とした組織になっていくものだ。ヤナセが顧客のニーズや満足を満たすことを中心に組織を構成しているのは、創業時から続く輸入車を求める顧客との信頼関係に加え、たくさん売りたくても調達できる車両の台数に限りがある輸入車を長年扱ってきたという経緯があるからだろう。販売することより、販売した後に顧客との関係を良好に保つことが重要という企業姿勢は、自動車に限らずあらゆる工業製品で通用する考え方なのかもしれない。

販売プログラムは国産車と同じ。意外に身近なCセグメント輸入車

 取材の最後に、今が旬のCセグメント車種の見積もりを取ってみた。アウディはCセグメントのA3がモデルチェンジ直前なので対象から外し、世代交代したばかりのフォルクスワーゲンのゴルフ7 TSI コンフォートラインと、メルセデス・ベンツのA180の2台を選んで見積もりを出してもらった。それぞれ車両本体価格に対して100万円の頭金を設定し、諸費用は別途支払うという形で見積もりを計算している。したがって乗り出し時には、頭金に諸費用をプラスして130万円程度が必要となる。

 それぞれのケースで、3年あるいは5年の残価設定ローン(ボーナス増額なし)で見積もりを取ってみた。なるべく条件は合わせているが、ゴルフ7は見積もりの段階で内蔵ナビの設定がなく、現在はオンダッシュのみで内蔵ナビは後から追加される予定ということなので、純正ナビは装着しない設定。Aクラスは純正ナビを装着して見積もりを計算している。残価率は3年プランで43%、5年プランは23%とした。これはゴルフ7に設定されている残価設定の最大値でもある。

 この2グレードで、ゴルフ7にオプション設定のバイキセノンライト、Aクラスには純正ナビ(20万円弱)をオプション装着するという条件だと、差額は27万6000円ほど。ゴルフ7と同じようにオプション設定のナビを切ることも可能なので、ザックリと“ほとんど同じ価格帯の車”と考えていいだろう。同程度の車両価格で同割合の残価設定ローンなら、支払もほぼ同じになるのが道理というものだ。結果的に、ゴルフ7は毎月2万3000円程度、Aクラスは2万8000円程度の支出で乗ることができると試算が出た。3年プランと5年プランのどちらにするかはカーライフのスタイルで決めるといいだろう。両車ともに残価設定ローンの金利が低めに設定されていることもあって、輸入車とはいえイメージしているよりずっと気軽に購入できそうな金額が出ているのではないだろうか。ちなみに、ゴルフ7の頭金がわずかに100万円を超えたものになっているが、これはフォルクスワーゲンの場合、ローン金額は原則的に1万円単位になるため、端数になる金額をここで吸収するのが一般的という理由からだ。

モデル(支払いプラン)A180 (3年プラン)ゴルフ TSI コンフォートライン(3年プラン)
車両本体価格2,840,000円2,690,000円
付属品・装備品239,400円86,500円
頭金1,000,000円1,006,500円
初回支払額30,898円24,487円
2回目以降支払額27,900円×3523,100円×34
ボーナス払い0円0円
最終回支払額(据置額)1,220,000円1,130,000円
料率(実質年率)2.9%3.89%
支払総額3,227,398円2,946,387円
モデル(支払いプラン)A180 (5年プラン)ゴルフ TSI コンフォートライン(5年プラン)
車両本体価格2,840,000円2,690,000円
付属品・装備品239,400円86,500円
頭金1,000,000円1,006,500円
初回支払額28,329円29,693円
2回目以降支払額27,200円×5923,800円×58
ボーナス払い0円0円
最終回支払額(据置額)650,000円600,000円
料率(実質年率)2.9%3.99%
支払総額3,283,129円3,016,593円

 ただし、輸入車に限った話ではないが、残価設定ローンはその名前のとおり、最後に据え置く残価の割合によってその利用方法が大きく変わってくる。ゴルフ7の例では、3年プランの終了後、買い取りには113万円が必要となる。5年プランならば60万円だ。筆者の場合、ここのところ買い替えサイクルが長くなってきているので5年プランを選ぶかもしれないが、3年サイクルを考えるなら選択肢は変わるだろう。また、気に入って車を買い取る決断をした場合、さらに残金をローンで支払うパターンもあるので、担当のセールスマンと“ライフスタイルプラン”についてじっくり相談して残価設定しよう。たとえば上記のケースでも、毎月の支払額を3万円にできるなら、残価設定はもっと低く設定することも可能。それによって最終回の支払額と利息分を抑えることができる。

残価設定で大きく変わる買い方、乗り継ぎ方

 また、Aクラスに関しては、ゴルフ7より高い残価率のファイナンスプランが存在する。2013年7月の時点では、3年プランなら181万円(62%)、5年プランの場合でも132万円(45%)という高い据置額が設定可能なので、頭金を100万円入れる今回の計画で計算すると、3年プランで毎月1万2300円、5年プランなら毎月1万6800円の支払いで乗れてしまう。ただし、前述したように残価設定ローンはライフスタイルプランだ。それぞれのプラン終了後に車両を買い取りたいと希望すれば、3年プランは181万円、5年プランは132万円の支払いが必要になる。仮にAクラスで残価額を最高にするのであれば、頭金なし(乗りだし時の諸費用のみ)で3年プランを組み、3年後には別の車に乗り替えるというのも手だ。この場合、毎月およそ4万1000円程度を支払えば、頭金なしでもAクラスに乗れる。

 あるいは、ここまで据置額を高く出来るなら、パワフルなエンジンとAMGチューンの足まわりが手に入る2グレード上のA250 シュポルトを検討してみたいという方もいるだろう。AMGチューンの足まわりは、装着するタイヤがA180はランフラットタイヤ、A250は通常のラジアルタイヤという違いもあって、引き締まった硬さの中に快適性も感じる乗り心地が印象的だった。筆者が乗り替えるならばこのA250 シュポルトかな?と考え、一緒に見積もりを取ってみた。こちらでは、内装やシートが変更になるAMGエクスクルーシブパッケージと、レーダーやカメラを用いた安全システムを追加するセーフティパッケージ(合計42万円)も加えており、Aクラスとしては特別なモデルを除けば最も贅沢な構成だ。

モデル(支払いプラン)A250 シュポルト(3年プラン)A250 シュポルト(5年プラン)
車両本体価格4,200,000円4,200,000円
付属品・装備品619,500円619,500円
頭金1,000,000円1,000,000円
初回支払額41,211円40,896円
2回目以降支払額39,700円×3538,100円×59
ボーナス払い0円0円
最終回支払額(据置額)2,680,000円1,960,000円
料率(実質年率)2.9%2.9%
支払総額5,110,711円5,248,796円

 すると、頭金に100万円を納めるなどの諸条件は同一。3年あるいは5年のプランで、それぞれの支払い額は毎月4万円前後となった。仕事でも車を使う自営業の筆者なら充分にターゲットとして考えられる金額だし、企業勤めのサラリーマンならボーナス併用などで月々の負担を減らすこともできるだろう。

残価設定ローンなど買い方を工夫すれば、輸入車も購入ターゲットに十分入ってくるはず。まずはディーラーに足を運んで相談するところから始めよう
今回の取材では取り上げていないが、ヤナセでは中古車販売も積極的に展開している。輸入車購入の選択肢をさらに広げる一手だ

 このように輸入車は、残価割合の設定幅が国産メーカーより広くとられているといった注目点もあり、それぞれのメーカー、車種ごとにチェックしてみると思わぬ発見もありそうだ。車の乗り方や資金運用、支払方法などのスタイルは購入者ごとに異なるもの。どのような乗り方、乗り継ぎ方、支払方をしたいのかを専門家であるセールスマンに相談して、一緒にプランを練ってもらうのがよいだろう。

 昨今は輸入車にもエコカー減税対象車が急激に増加しており、輸入車=高価、輸入車=贅沢というステレオタイプな図式は成り立たなくなってきている。もし、自分の好みに合う車が輸入車に多いかな?と思ったならば、臆せずに販売店に飛び込んでみてはいかがだろうか。

本田雅一