特別企画

【特別企画】「V2H」もいよいよ身近に! 移動して楽しく家に置いて便利な「アウトランダーPHEV」

V2Hとの連携を見据えた“一歩先のクルマ選び”はいかが?

 ここ数年で耳にするようになった言葉「V2H(Vehicle to Home)」。直訳すれば「クルマから家へ」となるが、つまりは「巨大なバッテリーを積む電気自動車(EV)から家に電気を供給しよう」といった技術だ。V2Hについては家電Watchの記事(http://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/solar/20150320_692469.html)なども参照いただければと思うが、このV2H、EVの電力を家で使いきってしまったら、その時点でEVは走れなくなってしまう。もちろん、ほかにもクルマを持っていれば問題ないが、これまでのV2Hはどこか不便を感じるものであった。

 しかし、2014年12月に事情が変わった。「アウトランダーPHEV」がプラグインハイブリッドカーとして世界で初めてV2Hに対応したのだ。アウトランダーPHEVはEV並のバッテリーを積みながら、エンジンでの走行や発電も可能なクルマ。つまり、V2Hとひと言で言っても、アウトランダーPHEVであれば、仮にバッテリーを家で使い切ってしまったとしても、燃料タンクにガソリンさえ入っていればクルマとしてしっかり走れるというワケだ。

 ということで、実際にアウトランダーPHEVをV2Hで使うとどれほど便利なのか? V2Hのシステムがある三菱電機の研究施設にアウトランダーPHEVを持ち込み、特別に体験させていただいた。

エネルギーの効率利用=電気代を抑えられるV2H

三菱電機の研究施設にあるスマートハウスにアウトランダーPHEVを停めて連携を体験してみた

 V2Hが目指しているのは「エネルギーの効率利用」だ。クルマのバッテリーを家の電力システムに組み入れることで、電気代の安い時間帯(時間帯別料金設定は別契約)に蓄電しておき、電気代の高い時間帯に使ったり、あるいは太陽光発電からの売電量を増やしたりすることができる。

 少し詳しい人なら気づくところだろうが、実はこれは家庭用の定置型蓄電池と発想は同じだ。わざわざEVやPHEVのバッテリーを使わなくても、家庭用の蓄電池システムというものが存在しており、すでに市販されている。

 それでも、V2Hを使うことには意味がある。それはEVやPHEVのバッテリーのほうが圧倒的に大容量で、電池容量だけを見れば、ある意味で蓄電池システムよりもリーズナブルだということ。

 例えば、市販されている蓄電池システムの主要製品は約5kWhの容量で100万円を大きく超える金額。それに比べ、アウトランダーPHEVのバッテリー容量は12kWhと倍以上となっている。これだけの容量があれば、一般家庭の1日分の使用電力をまかなえてしまう。それでいて、アウトランダーPHEVと同ガソリンエンジンモデルの価格差は100万円程度。実際には補助金や燃費などに差があり、PHEVモデルのアドバンテージはこれだけではないが、それらを抜きにしても蓄電池を買うよりコストパフォーマンスに優れる。

 もちろん、充電されている電力を使ってしまえば、EVとして走行できる距離は短くなってしまうので使い方には工夫が必要だが、普段からそれほど長い距離を走らないという人や、平日は全くクルマを使わないという場合には、うまく活用することで電気代を抑えることが可能になる。

三菱電機のV2Hシステム「SMART V2H」

 V2Hを実現するには、EVやPHEVのほかに家とクルマを繋ぐ「V2Hシステム」が必要になる。すでにいくつかの製品が発売されているが、今回テストで使ったのは、三菱電機の最新のV2Hシステムである「SMART V2H」だ。

SMART V2Hの配線図。電力会社からの電力、太陽光発電からの電力、EV/PHEVからの電力を集めた後、ホーム分電盤につながっているのが特徴

 実は従来のV2Hシステムは、クルマから電気を供給しているときには電力会社からの電気が使えず、電力会社の電気を使う時にはクルマの電気は使えないというものだった。しかも、その切り替え時には瞬間的に停電してしまうなど、あまり使い勝手のよいものではなかった。

 ところが、SMART V2Hはクルマから供給された電気と電力会社から購入する電気、さらに太陽光発電の電気をミックスして、配分を変化させながら使うことができる。さしずめ、従来のV2Hがパートタイム4WD、しかも手動式のフリーホイールハブを装備した車両という感じならば、SMART V2Hはセンターデフを持つフルタイム4WD。さらにその比率が「エコノミーモード」「グリーンモード」などを切り替えて簡単に選べるので、前後比を自在に可変させるトルクスプリット4WDとでもいう感じだろうか。

 クルマの電気が足りなくなれば、電力会社からの電気の割合を増やしていく。その切り替え時には一瞬たりとも停電は発生しない。さらに、夜間電力を使ってクルマに充電し、太陽光発電は売電するエコノミーモードや、できるだけ電気の自給自足を目指すグリーンモードを選ぶことが可能。例えばグリーンモードであれば、太陽光発電が家の消費電力を上まわった時点で、その余剰分を自動的にクルマの充電に振り分けるよう制御してくれる。

従来のV2H(左)とは異なり、SMART V2H(右)ではEV/PHEVからの電気と太陽光発電、電力会社(系統)の電気を混ぜて使える
従来のV2H(左)は太陽光からはEV/PHEVに充電ができないが、SMART V2H(右)では可能
宅内に設置するリモコン。電気利用の状態を表示するほか、設定変更などの操作もこれで行う
アウトランダーPHEV、太陽光発電、電力会社からそれぞれ電気を受け、自宅内で3.1kWの電気を使っている様子
運転モードもリモコンで変更可能。グリーンは環境配慮を優先するモード、エコノミーは電気代節約を優先するモード。また、EV/PHEVの充電予約も可能

クルマを倍速充電。家のブレーカー落としナシ!

 SMART V2Hの説明をしていると、クルマの活用からどんどん話題が離れていってしまいそうなので、ここで1つ、SMART V2Hが実際のドライブに与える分かりやすいメリットを紹介しよう。それは、家庭のEV用充電コンセントにつないだときよりも短時間でクルマを充電できるということだ。

 三菱電機の施設で充電を試してみたのだが、まず、持ち込んだアウトランダーPHEVとSMART V2HをCHAdeMOコネクタで接続する。EVやPHEVを所有している人なら分かると思うが、通常の家庭用充電ではCHAdeMOではなく、サイズが小さいほうの充電コネクタを使う。しかしV2Hの場合、電気の双方向のやりとりや通信を行う必要があるので、このCHAdeMOのコネクタによる接続が必要となるのだ。

 そしてCHAdeMOのコネクタを使うことにより、通常の充電ケーブルでは最大3kWでしか充電できず、アウトランダーPHEVの場合ではフル充電に4時間かかるところが、SMART V2Hでの接続であれば倍の最大6kWとなり、最短で2時間あれば満充電に近づけることが可能になる。

充電は大きいほうのCHAdeMOコネクタで接続する
ケーブルはSMART V2Hから出ている

 ただ、CHAdeMOのコネクタを使うからといっていつでも単純に大電力を流し込むのではない。そんなことをしてしまうと、例えばIHクッキングヒーターで調理し、エアコンで冷暖房をフル活用しているときにクルマの充電を開始するとブレーカーが落ちてしまうことになりかねない。

 しかし、そんな部分もSMART V2Hの優れたところ。このSMART V2Hは家の電気使用量を監視して、それに合わせてクルマへの充電量をコントロールしているので、そのときの家の状況に合わせて最速の充電ができる。これもCHAdeMOのコネクタによってクルマと通信し、充電量をコントロールしているからだ。実際に試してみたが、IHクッキングヒーターなどのスイッチを入れて使用電力が増えると、スムーズにアウトランダーPHEVへの充電量を落とし、IHクッキングヒーターの利用を止めればすぐに充電量が自動的に増えた。SMART V2Hの機能により、使う人が意識することなく家のブレーカー(契約容量)を超えないよう連続的に充電量を変化させるからだ。

 倍速充電ができるといっても、特別に高圧の電気を引き込んだり、特殊な電気の契約が必要になるということもない。今回のテスト現場となった三菱電機の研究所内にあるスマートハウスも、通常の家と同様の電力の契約や引き込みとなる。詳しく言うと、単相3線の200Vで契約容量は8kVA。オール電化住宅ならば10kVA契約というケースも珍しくはなく、エアコンやIHクッキングヒーターを使うために60Aを超える契約も一般的な現在では、いたって普通の電力契約と考えてよいだろう。

5.9kWとほぼフルパワーでアウトランダーPHEVに充電している状態
ここで家庭内の電力消費が増えてしまい、電力会社からの買電が容量を超えそうになったので自動的に充電パワーが落ちた
充電スケジュールは細かく設定できる。普通充電のスケジュールはクルマ側の設定だが、CHAdeMOコネクタで接続する場合は給電側で設定できる
充電や給電のスケジュールを設定可能

 なお、短時間で充電できることにはもう1つメリットがある。将来の電力自由化で、安い電気料金が時間帯ごとに細かく設定されるようになった場合、安い時間帯に短時間で充電しておくという使い方が期待できることだ。

 現在の安い時間は、ざっくりと深夜や早朝に限られるが、近い将来は深夜のある一定時間だけ特に安くなったり、昼間でもある時間帯を割安にするという料金プランを用意する電力会社が現れないとも限らない。そうなった場合に短時間で充電できるとなれば、安い時間帯にさっと充電してしまうことが可能なのも倍速充電のメリットだ。

停電時に頼れるアウトランダーPHEV&SMART V2H

 クルマから家に電力が送れるV2H。その大きなメリットが停電時に発揮される。停電は大規模な地震や災害以外にも、例えば雪の重みで電線が切れるといった送電網のトラブルから長時間停電に繋がることも現実に起きている。そんなときでもアウトランダーPHEVとV2Hシステムが接続されていれば、すぐにアウトランダーPHEVに貯えられた電気が家に供給される。

 過去にも記事で紹介しているが、アウトランダーPHEVは車両単体としても車内のコンセントから100V 15Aの電気を引き出すことができる。しかし、V2Hでの接続はそれとはひと味もふた味も違う。なにしろ家の電源の大もととなる分電盤に接続しているので、使う機器ごとにコンセントをわざわざ差し替えたり、電源延長ケーブルを家の中まで引き回す必要もない。なにより、備え付けの電源コンセントでは絶対にできない、IHクッキングヒーターでの調理なども可能になる。

 また、太陽光発電も単体で停電時に電力を取り出すことができるのだが、こちらも電力を供給できるのは非常用のコンセントからのみで、最大で15Aまでしか出力できない。たったコンセント1個をフル活用する程度の容量だ。そして太陽光は100V 15Aが安定的に使えるわけではなく、この最大出力が出るのは太陽光パネルの容量が大きい家や、天気がよく十分な発電が行われているときに限られる。多めに電気を使っていると、雲が太陽を遮っただけで電源が落ちてしまうこともあるのだ。

アウトランダーPHEVの車内に用意されたコンセント。100V 15Aまでなので、IHクッキングヒーターや大きめのエアコンは動作させられない
このSMART V2Hがクルマと直接つながり、電気のやりとりをする
太陽光発電のパワーコンディショナ。太陽電池パネルからの電気を、電化製品で使えるように変換したりする機械
停電時の単体での電気供給は、通常はパワーコンディショナの自立運転用コンセントからのみ供給される。SMART V2H利用時は停電時でも通常の連系運転のまま電気を供給できるため、供給量に違いがある

 しかし、ここにもSMART V2Hのメリットがある。SMART V2Hはクルマからの電気を太陽光発電システムに少しだけ供給し、停電していないと認識させることで太陽光発電を通常運用状態にしてフルに発電させることが可能なのだ。発電した電気はもちろん部屋のどのコンセントでも使うことができるし、IHクッキングヒーターのような電力消費の高い家電製品も動かすことができる。

 さらに太陽光による発電が十分なときには、その電力でアウトランダーPHEVを充電し、曇って発電容量が減ったときには、アウトランダーPHEVのバッテリーで補完する。こうしたコントロールもすべて自動で行ってくれるため、電源供給が落ちるリスクを低減できる。

 今回訪れた施設では、外部からの電気をシャットダウンして擬似的に停電状況を作りだすこともできた。停電状態にしてみると家中のあらゆる電気が消えるが、唯一SMART V2Hのリモコンだけが内蔵のバッテリーで稼働している。ここから自動的に自立運転に移行することはないが、これは大きな地震などの発生後に漏電から二次災害が出る可能性を考慮してのことだという。

 リモコンの自立ボタンを押すと十数秒でアウトランダーPHEVからの電力供給が始まり、まるで停電から復帰したかのように家中の電気が点灯する。さらにしばらくして太陽光発電システムが復帰すると、そこからの電力も供給され、部屋の使用電力を抑えると太陽光からアウトランダーPHEVにも充電されていた。取材日はあいにくの小雨であったが、天気さえよい状態なら、日中にクルマに充電し、夜間はクルマの電気を使うといったスタイルで、震災時のような長期的な停電時にもかなり我慢の少ない生活が送れそうだ。

擬似的に停電状態にして、アウトランダーPHEVから電気を供給しているところ。3.1kWと多めに電気を使っているが、その場合でも大丈夫そうだ
電化製品の利用を抑えれば、太陽光発電からアウトランダーPHEVの充電にも回すことができる
停電状態でも吊り下げられたランプ類がしっかり点灯
アウトランダーPHEVからの電気で、キッチンにあるIHクッキングヒーターが使えるのもSMART V2Hならでは
200V駆動の大型エアコンも動作する
三菱電機の太陽光パネル
停電を挟んで動作をする場合は、安全確認のために自動で切り替わらず、ユーザーの操作を待つ仕組み
停電から復帰するときの自立運転やEV充電には、リモコン本体にも分かりやすい専用ボタンが付いている

アウトランダーPHEVだからできること

 実は倍速充電も、クルマから家への電気の供給も、太陽光発電からクルマの充電も、基本的にはCHAdeMOの規格に沿ったEVならば対応できる。別に三菱電機+三菱自動車の組み合わせだからできるというわけではないので、今後、新型のEVやPHEVが登場した場合でも基本的には利用できると思ってよいだろう。

 しかし、現時点ではアウトランダーPHEVにしかできないことがある。それは、電気がまったくない状態からでも、ガソリンさえあれば発電できるということだ。つまり、停電したうえに天気がわるく、太陽光発電も期待できないといった場合、EVであれば家への給電はできても家からEVに充電する方法がない。EVが充電設備まで自走できないのであれば、天候の回復や停電の復旧まで待つか、レッカー車を呼ぶしかない。

 これに対してアウトランダーPHEVであれば、自らエンジンを回して発電することができるし、仮に電気を使い切っても燃料が残っていれば自走できる。これがEVとPHEVの大きな違いである。

EV同様の大容量バッテリーに加え、走行と発電の両方に活躍するガソリンエンジンを搭載していることがアウトランダーPHEVの大きな魅力
アウトランダーPHEVの車内には、停車/走行にかかわらずエンジンを作動させ、満充電近くまでバッテリーを充電できる「バッテリーチャージモード」(左)のスイッチも用意している

 注意すべき点は、SMART V2Hに接続したままの状態ではエンジンを始動させることが不可能になるということ。これは法律上でも問題にならないよう敢えて行っている制約で、アウトランダーPHEVやSMART V2Hの能力によるものではない。必要なときにはCHAdeMOのコネクタを外せばエンジンの始動が可能になる。アウトランダーPHEVは最短で2時間ほどあれば充電が終わるので、そこから再びSMART V2Hにつないで給電を再開できる。ガソリン満タン(45L)で約10日分の電力をまかなうことができるし、ガソリンさえ手に入れば、もっと長期間でも対応できるということ。自分では電気を作り出すことができない純EVに比べて、アウトランダーPHEVならではといえるメリットだ。

気になる設置費用は? SMART V2Hだけで40万円の補助金

 さて、このSMART V2Hはどれぐらいの予算で設置できるのだろうか。機器代は充電ケーブルの長さの違いにより95万円~97万円(税別)だが、実は機器代に対して国から補助金が用意されており、補助金として機器代の2分の1の金額が支給される。これを引けば消費税込で約50万円となる。さらに場所によっては地方自治体から補助が出る地域もある。詳細や最新情報は「次世代自動車振興センター」のWebサイト(http://www.cev-pc.or.jp/)に掲載されている情報を参照するか、各自治体に問い合わせてみてほしい。

 これに加えて設置する工事費も必要になるが、これは家の状態や電気の配線、引き込みによって大きく左右されるので一般論で語るのは難しい。また、アウトランダーPHEVの購入に際しても補助金が出るので、組み合わせによってダブルで補助金が受けられる。

 なお、SMART V2H設置を目的とした補助金は、設備を5年保有することが条件となっている。この「設備」というのはSMART V2Hのことで、その間にクルマを買い替えて手放してしまっても問題はない。今後、新型のPHEVやEVが出たときに、新しいクルマに乗り替えて家と連携させられるということも期待できる。

 今回、アウトランダーPHEVとの組み合わせを試した三菱電機のSMART V2H。現在は認証などの制約からモニター販売となっているが、今すぐ導入してもその効果や導入のメリットがあると感じられた。

 現時点でPHEVやEVを購入しているオーナーは、住まいのエネルギー活用についても興味やなんらかの考えを持っている人が多いだろうと想像する。家の電気系統と深い連携が可能でメリットの多いSMART V2Hについて、少し調べてみてはいかがだろうか。

 今、クルマ選びでは先進安全技術を装備しているかが選び方の大きなポイントになっており、アウトランダーPHEVでも「衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM)」「車線逸脱警報システム(LDW)」などを装備している。それに加えて、家のエネルギーと連携する「V2H対応」というこのモデルならではといえる魅力も、今後のクルマ選びにおける新しいポイントの1つになるのではないだろうか。

正田拓也