トピック

奥川浩彦の「撮ってみましたF1日本グランプリ 2016」(前編)

 毎年ほぼ同じ書き出しだが……。Car Watchが創刊した2008年から毎年掲載している「撮ってみましたF1日本グランプリ」もいよいよ9年目となった。来年があれば10周年のアニバーサリーとなる。過去記事を読んでいる人はご存じだと思うが、この記事は筆者の私的な撮影記。さして役にも立たない個人のブログといった感じなのでご了承いただきたい。

 過日、Car Watchの編集の方から「友人が奥川さんの撮影記のファンで、家も奥川さんの近所なんですよ」と言われた。まぁ稀少な方がいるものだと思い、毎年の連載でネタ切れ感もあり、編集の方にお願いしてお話を聞くことにした。友人T氏は稲城、筆者は百合ヶ丘とクルマなら10分ほどの距離。F1日本グランプリの1週間ほど前、Car Watchの編集の方とT氏夫婦と筆者で自宅近所で飲み会となった。

 筆者が想像していたこの連載の読者層は「F1好きで撮影をする人」と思っていたが、お話を聞くと一眼レフは持っていないとのことで、撮影記と言うよりは観戦記として読まれているそうだ。色々な話をしたが「前のクルマはステップワゴンですよね」と細かなところまで記憶されていて少々驚いた次第だ。ちなみにT氏はクルマのチューニングパーツの通販会社を経営されていて、飲み会の後でWebサイトを見に行くとフューエルポンプ、レブシフトタイマーなど筆者には無縁なパーツが並んでいた。T氏夫婦は土曜日から鈴鹿入りするとのことだった。

 これまで撮影記以外のネタとして、カメラ機材の話、渋滞の情報、駐車場の情報を主なテーマとしてきた。渋滞情報などは筆者が川崎のオフィス兼住居から名古屋の自宅を経由してアクセスしているので名古屋側の情報しかない。鈴鹿から直線距離で約100kmの大阪はサーキット近郊の最大都市なのに、西側からアクセスする人には何の役にも立たない情報とあって不要かと思っていたが、どこかに役に立つ人もいそうなので継続することにした。

 今年のテーマは従来どおりの撮影記とアクセス情報に加え、「カメラマンエリア拡張計画」を紹介しようと思っている。ここまで1000文字も書いていないが、多分長文となるので必要のないところはバンバン読み飛ばしていただきたい。

祝F1日本グランプリ30年連続開催

 今年のF1日本グランプリは30年連続開催のアニバーサリーグランプリだ。もし2007年、2008年の富士スピードウェイの開催がなく、鈴鹿サーキットで30年連続開催されていれば大々的に「30周年……」と謳われたと思うのだが、鈴鹿で20年、富士で2年、鈴鹿に戻って8年で合計30年だ。筆者も皆勤賞で参加したので30年連続のF1日本グランプリ観戦となった。

1987年の日本GPはフェラーリF187が優勝(写真はSUZUKA Sound of ENGINE 2015から)

 少しF1の歴史を話そう。F1はヨーロッパを中心に行なわれてきたスポーツで、1950年にイギリスのシルバーストーンで始まった。1950年から今年2016年まで67年間連続開催している国はイギリスとイタリアの2カ国。主要な国を見ると、モナコは同じ1950年に初開催して4年空白があり、1955年から現在まで連続開催。ベルギーも1950年に初開催しているが、途中で6回開催していない年があり、2006年が不開催なので連続の年数は10年だ。日本グランプリの30年連続開催は実はなかなか凄いことなのだ。

 同じサーキットでの連続開催は、モンテカルロ市街地コースが62年で断トツの1位。イギリスは過去にシルバーストーンとブランズ・ハッチで隔年開催の時期があった。イタリアは67年連続開催の中で1980年の1回だけイモラで開催している。この1年がモンツァ開催であれば同一サーキットで67年連続となっていた。ちなみにイモラは以前サンマリノGPが開催されていたサーキットで、アイルトン・セナが亡くなったサーキットでもある。

モナコGPでカジノ前を走るアイルトン・セナ。同一サーキットの連続開催はモンテカルロ市街地コースが62年連続で1位だ

 現時点で連続開催が継続中の国をランキングで見てみよう(ブラジルは今年の開催を含む)。

イギリス:1950年~(67年連続)
イタリア:1950年~(67年連続)
モナコ:1955年~(62年連続)
ブラジル:1973年~(44年連続)
オーストラリア:1985年~(32年連続)
ハンガリー:1986年~(31年連続)
スペイン:1986年~(31年連続)
日本:1987年~(30年連続)

 日本は8位だ。1987年に鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催された年は全16戦。上記の8カ国以外のフランス、ドイツ、オーストリアなど8カ国はその後F1が開催されない年があったということになる。日本で毎年F1グランプリが開催されることは当たり前のように思えるが、招致する鈴鹿サーキットはもちろん、サーキットに観戦に行くファンなど多くの関係者の支えがなければ40年、50年連続開催はできない。筆者の年齢は現在55歳。筆者が50年連続観戦できるように皆さん頑張ってほしい(日ハム武田投手の「俺のために優勝しろ」風)。

今年はバタバタと木曜日から鈴鹿入り

 筆者は28年鈴鹿サーキットのF1日本グランプリを観戦しているが、木曜日からサーキットに入った記憶はない。木曜日の夜にサーキットの駐車場(昔は早い者勝ちだった)に入ったことはあるが、今年は木曜日の午前中からサーキット入りとなった。

 水曜日の夜に川崎を出発して名古屋の自宅へ。東名高速の集中工事と台風通過の豪雨があり普段より時間がかかったが、今年2月に新東名高速の浜松いなさJCT(ジャンクション)~豊田東JCTが開通したので、それ以降は名古屋、鈴鹿への移動が随分楽になった。

 木曜日にサーキットに入る理由はメルセデスのピット見学。木曜日14時にパドック集合という案内をもらったが「パスは間に合うの?」と不安を感じた。昨年は木曜日の午後にライターの笠原氏がサーキットを訪れた際、パスが完成しておらず金曜日の朝に受け取った実績がある。F1のパスはICチップが埋め込まれていて、ゲートのセンサーにかざすと顔写真がモニターに表示され本人確認が行なわれるものだ。FOMが作成機材を持って各国を転戦し、現地で作成する。

 鈴鹿の前週に昨年はシンガポールGP、今年はマレーシアGPが開催されているので、月曜日か火曜日に日本に入り、それから作成するのでギリギリとなる可能性が高い。鈴鹿サーキットの広報に確認すると「私たちスタッフのパスもまだでして、いつもらえるか……」と前日の回答。

 もしパスが間に合わなければパドックに入れないので、メルセデスのピット見学は諦め、ピットウォークやコースウォークの取材に変更する覚悟で鈴鹿入りした。筆者は今年も自腹でチケットを購入。パスはなくても観客としてピットウォークやコースウォークに参加できるという算段だ。

午前中はコースウォークなどを取材
午後はメルセデスのピット見学

 8時過ぎに名古屋の自宅を出て9時半に鈴鹿サーキットに到着。大した渋滞はなかったが、所々抜け道に入り工事などで通れないところがないか確認、翌日から3日間の渋滞に備えた。懸念していた取材パスは問題なく発行されていた。午前中はピットウォークやコースウォークを取材(掲載記事)し、午後はメルセデスのピットを取材(掲載記事)。ピットウォーク、コースウォークの記事を編集部に送って鈴鹿サーキットを後にした。

帰り際、リカルドがインタビューを受けていたのでFaceBook用にスマホで撮影

 夕方には名古屋に戻るが、この日は撮影機材を受け取るという重要な仕事が残っていた。2015年はCar Watch以外に「デジタルカメラマガジン」からも仕事の依頼があり、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」と「EOS 7D Mark II」の貸出機を手配してもらった。1カ月近く借りたのでWTCC、SUGOのSUPER GT、F1と3戦連続でお腹いっぱい使うことができた。

 今年は自分のカメラ機材で撮ればいいかと思っていたら、F1前週にCar Watch編集部から「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを使ってみてください」との電話。月刊誌は事が計画的に進むのだが、日刊のWeb媒体は思い付きで事が進むことが多い。直前の手配だったのでキヤノンの機材の発送が10月5日。筆者は6日から鈴鹿入りなので名古屋の自宅宛に送るように依頼したが、結局6日に編集部に届くこととなった。

EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

http://cweb.canon.jp/ef/lineup/tele-zoom/ef100-400-f45-56l-ii-usm/

 デジタルカメラマガジン編集部が今年もF1取材をすることは聞いていたので、Car Watch編集部に届いた機材を、デジタルカメラマガジンの副編集長に名古屋まで運んでもらうことにした。20時名古屋着の新幹線なので20時半にホテルで合流。それぞれの付属品でEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは本体とレンズキャップとケース、EOS 7D Mark IIは本体とストラップとバッテリーだけ受け取った。箱や充電器は編集部に保管してもらい、レース後に筆者が機材だけ送るという計画だ。

 当然の流れで名古屋・栄で副編集長、同行していたフォトグラファーの大籏英武氏(Webサイト)と飲み会。初対面の大籏氏は若きイケメン。元自衛隊員というフォトグラファーとしてはユニークな経歴。写真が好きで自衛隊を辞めてフォトグラファーになったという。昨年、ヘアピンの土手で滑落した副編集長は靴を強化してきたとのこと。写真好き同士、話は尽きないが翌日は5時起きなので、そこそこの時間で解散となった。

金曜日は6時25分までにみえ川越ICを通過せよ

 この撮影記、もしかすると一番役に立っているのは筆者自身かもしれない。金曜日の国道23号四日市方面の通勤渋滞を避けるには何時に出発しなければならないか。2014年の記事を見ると「6時25分前後にみえ川越ICを通過する」とある。この日は5時56分に自宅近所の名古屋高速・呼続IC(インターチェンジ)から高速に入り伊勢湾岸道・みえ川越ICを6時17分に降りた(高速道路の利用時間はETCの履歴に残された時間)。

 国道23号は四日市競輪のあたりまで順調に進み、そこから四日市市内まで想定通りの渋滞。カインズホームのある踏切でJR関西本線の西側に移動。JR四日市駅の手前で国道23号に戻った。その後は順調に進み、7時20分にサーキットの関係者駐車場に到着。シャトルバスでパドックに移動し、メディアセンターで7時半過ぎの渋滞状況を見ると、みえ川越ICから四日市市内までビッシリ渋滞していた。早起きして正解だ。ちなみに7時過ぎにレンタカーで名古屋のホテルを出発したデジタルカメラマガジン様ご一行は、8時半頃に大渋滞に巻き込まれていた。

四日市競輪場付近から渋滞。JR関西本線の西側に回避
JR四日市駅の手前で国道23号に復帰
7時半過ぎにはみえ川越ICから四日市市内まで国道23号はビッシリ渋滞

 セッション開始までは2時間半ほどあるが、撮影前にしなければならないことは山積みだ。最も時間を要するのはお借りしたEOS 7D Mark IIの設定を普段使用しているEOS 7D Mark IIと同じにすることだ。このカメラを持っている人は分かると思うが、もの凄い数の設定が可能なので1つ1つ合わせていくと数十分はかかる。MENU内の設定以外にもピクチャースタイルやAFポイントも同じ設定にする。筆者の場合、ピクチャースタイルは晴天用と曇り&雨用の2種類。AFはスポットの1点を常用している。

借りた機材はEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMとEOS 7D Mark II。カメラに貼られた緑色のシールにはSTILL PHOTO ONLYと書かれている
2台の設定を1つ1つ確認して同じ設定にする
右が筆者の私物。背面の液晶モニターにガラスフィルムが貼ってある

 カメラに貼られた緑色のシールは「STILL PHOTO ONLY」と書かれていて、F1取材では義務付けられている。このカメラで動画を撮影してはいけないことを表している。筆者のカメラは背面の液晶モニターにガラスフィルム(製品紹介記事)が貼っているので、外観上2台のEOS 7D Mark IIにはほんの少し違いがある。スマホではお馴染みのガラスフィルムだが、カッターでこすっても傷が付かない硬さと、油性マジックをはじく撥油性はありがたい。カメラの液晶モニターが汚れた際は、タオルでも服の袖でもティッシュでも傷が付くことを心配せずに拭き取ることが可能だ。

今年の撮影テーマは「カメラマンエリア拡張計画」

 初日の撮影テーマは「カメラマンエリア拡張計画」だ。F1日本グランプリのカメラマンエリアは鈴鹿復活2年目となる2010年から販売されるようになった。最初の年はカメラマンシートとして逆バンクの席と撮影エリアがセットになっていた。その年、2010年の撮影記で筆者は「カメラマンシートを購入する方は、席はいらないのかもしれない。その分1万円でも安くしたほうが、喜ばれるような気もする」と書いている。

 翌年には指定席なしのカメラマンエリアに変更となり大幅に価格を引き下げ、その後も入れるエリアごとに3種類のカメラマンエリアが販売されるなど様々な変更が行なわれた。だが、ここ数年は変化がなく、個人的にカメラマンエリアの拡張を望んできた。

 カメラマンエリアの拡張、改善はF1以外のレースでもアマチュアカメラマンの撮影がしやすくなる。その代表はヘアピン常設席の下のカメラマンエリア。以前は金網が高く、金網の根元まで土手が傾斜していたため脚立を立てることができなかった。当時、筆者は閉じた脚立を金網に立て掛け、右足は脚立、左足は土手という姿勢で撮っていた。

 カメラマンエリアのお陰で盛り土され、今ではF1以外のレースでも大人気の撮影ポイントとなった。F1のカメラマンエリアの拡張・改善は、国内レースで鈴鹿サーキットを訪れる多くのアマチュアカメラマンに恩恵を与えることとなる。

 F1に限って言えばヘアピンの常設席下と逆バンクの最上段のカメラマンエリアが混雑し、それ以外のカメラマンエリアはそれほど混んでいない。もっと魅力的なカメラマンエリアが増えれば混雑しているエリアから分散するであろう。筆者が拡張や改善を望む場所はいくつもあるが、今年はC席とスプーンについて触れてみたい。

2コーナーポスト付近

 最初は2コーナーが撮影できるポスト付近だ。正直、ここはカメラマンエリアになったとしても撮影できる人数が多くないので、あまり有効とは言えないポイントだ。そのためカメラマンエリアにならなくてもよいから、撮りやすくしてほしいという提案だ。

 2コーナーの定番の撮影ポイントは二重金網が切れたポスト付近だ。写真を見てもらうと分かりやすいが、2コーナーのクリッピングポイントと二重金網が切れた部分を結ぶラインに沿ってカメラマンが集まっている。結果、スタンドの席に対し斜めに人のラインが形成される。

セッション30分前。2コーナーと金網の切れ目を結ぶラインに沿って、斜めに人が集まっている。走行が始まると数十人が撮影する人気スポットだ

 最下段まで降りると観客の方に「昨年、ヘアピンで取材されていましたよね」と声をかけられた。「一緒にいた方が転倒して……」。そう、昨年ヘアピン常設席脇の土手で会った方がここにいた。やはりデジタルカメラマガジンの副編集長が滑落して、ドロドロになったことは印象的だったようだ。

「カメラマンエリアを拡張・改善したい」という筆者の思いを伝え、セッションまで時間はあったが、そこにいた方にご協力いただきカメラを構えてもらった。金網に貼り付いて撮影できるのは4人ほど。4人が金網の前に立った状態で筆者がスタンド席に座ってみると、4列目であれば着席している観客の視線をカメラマンが遮ることはなさそうだ。

この撮影ポイントの金網付近は4人くらいが撮影できる
4列目に座ればカメラマンにコースを遮られることはない

 根本的な話として、この付近はポストや二重金網があるため観戦には不向きだ。鈴鹿サーキットの指定席の販売方法は極めて良心的で、見づらい席は元々販売していない。少し見づらい席はアウトレットとして販売している。おそらくこの付近は非販売席扱いになっていると思われる。また、国内レースでは自由席となるので多くの観戦客は金網がコースを遮らない上段で観戦している。金網に近付きたいカメラマンと金網を避けたい観客が自然にすみ分けられている。

 撮影する際に金網の影響を避ける方法は、金網に近付いて撮る、金網の上から撮る、この2つが基本だ。もしこの場所の金網がヘアピン常設席のように胸くらいの高さであれば、下段から数段は人気の撮影ポイント(20人くらい)になると思われる。とは言え金網の高さを変えるのは難しそうなので、まずはカメラホールの設置をしてほしい。次に金網上部の有刺鉄線の撤去。これがなければ随分撮影しやすくなるはずだ。

カメラホールと有刺鉄線がなければ、かなり撮影はしやすくなる

 金網に貼り付いてファインダー越しにコースを見たのが以下の写真(焦点距離100mm)。焦点距離400mmのレンズであればマシンをそこそこ大きく撮ることができる。この日は快晴。高速シャッターで絞りを開くと金網の影響は減るが、低速シャッターで絞り込まれるとかなり金網の影響を受ける。

焦点距離100mmで金網越しにコースを見るとこんな感じ。金網の緑色がうっすら色被りしている
焦点距離400mmであればそこそこマシンを大きく撮れる
フォトギャラリーと同じフルHDサイズにレタッチしてみた
立ち上がりも撮影できる

 筆者は4人並んだ右横に立って撮影開始。クリッピングポイントはポストに遮られるので、撮影できるのは進入してくるマシンだけ。その後、並んだ方が移動していなくなると左に移動して撮影。上記の写真は左に移動した後の写真。移動前の撮影ポイントは厳しいものがあった。

進入するマシンは撮れるが
クリッピングポイント付近は撮れない
時々ブルーフラッグ攻撃にも遭遇

C席S字側

 次はC席のS字側。決勝直前にスマホで撮ったパノラマ写真を見ていただきたい。C席スタンドの下段はほとんど観客がいない。2015年の決勝直前のスタンドも同様だ。先ほど指定席の販売方法が良心的と書いたが、席の配分も良心的に行なわれている。例えばB2席(2コーナーの2階席)は人気の高い1コーナー側から席を配分しているので、C席側の方が空席が多い。Q2席(シケインの2階席)も上段から配分し下段が空席になるように配分されている。C席は6つのブロックに分かれているが、おそらく各ブロックの上段の2コーナー側からS字側に配分し、徐々に下段の席を配分していると思われる。金網付近の最下段はもしかすると非販売席にしているかもしれない。

決勝直前のC席。下段はほとんど観客がいない
2015年の決勝前も下段はほとんど観客がいない

 金曜日のFP1のC席を見ると金網付近と少し上段にカメラマンが多数いる。少し上段にいる人は金網の上から撮る人達だ。筆者も金網の上、有刺鉄線ギリギリの高さから撮影をした。

2コーナーの立ち上がり付近から撮影すると
下の方に金網が写り込んでいる。焦点距離200mm
S字進入付近
焦点距離200mmで撮影
焦点距離400mmで撮影
フルHDにレタッチしてフォトギャラリーで使用した写真

 この左右に長いエリアがカメラマンエリアになったら、100人以上のキャパがありそうだ。拡張方法1つ目はカメラホールを開ける。2つ目は金網の高さを下げる。3つ目は金網の位置を下げる。現状の鈴鹿サーキットの金網は観客席の目の前にある。ツインリンクもてぎの風景を見てみよう。コース、グラベル、ガードレール、サービスロード、金網となっていて、金網はコースと同じ高さに立っている。金網の外が土手になっていて観客エリアは高い位置にある。C席の目の前にある金網を土手の途中まで下げれば最下段から数段は絶好の撮影ポイントになるはずだ。

鈴鹿サーキットの金網は席の目の前に立っている
ツインリンクもてぎの金網はコースと同じ高さに立っている

 3つ目の金網を下げる方法だと、そもそも非販売(推定)の席が不要となり最下段までチケットを売ることができるので微妙なのだが、現状はC席下段S字寄りのブロックが完売になることはないので、カメラマンエリアの購入者が増えれば営業面ではプラスになると思われる。ここで午前中のセッションは終了。メディアセンターに戻り、国内レースより豪華なお弁当を食べた。

今年も人気のEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを借りて撮影

 午後はスプーンで撮影予定。グランドスタンド裏からスプーンは地の果てほど遠い。当たり前だが、行ったら戻ってこなければならない。55歳+メタボな筆者には辛いので、サーキットの広報の方にお願いして西パドック駐車券を用意してもらった。

 西パドックは西ストレートのピットの外側に位置する。サポートイベントのSuper-FJのマシンなどがこのパドックを利用している。このパドックまで自分のクルマで移動し、西パドックゲートからヘアピンとスプーンの間に出る作戦だ。

 機材も少なめ(軽め)とした。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMとEOS 7D Mark IIに一脚、カメラマンベストにEF24-105mm F4L IS USMを入れ、サンニッパ(300mm F2.8)ともう1台のEOS 7D Mark IIはメディアセンターに置いてコースに向かった。

 実は、午前中もサンニッパはC席まで持って行っただけで使わなかった。サンニッパは素晴らしいレンズで画質もAFも申し分なく、気持ちよく撮れるレンズだが、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMはサーキットでは超便利レンズで、このレンズとEOS 7D Mark IIがあればほとんどの撮影に支障はない。強いて言えば報道エリアで撮影していると「カメラを2台くらい持っていないとカッコわるいかなぁ」といった感じだ。

 スプーン遠いし、サンニッパ重いし、観客席の撮影だし……ということで軽装で出発した。せっかくお借りした機材なのでEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMについて少し話をしよう。昨年は初めてこのレンズを使用したので詳しく説明したが、筆者が一番魅力に感じるところは逆光に強いことだ。

 F1のように昼間の走行でヘッドライトがないマシンの場合は問題が少ないが、鈴鹿1000kmのように夜間走行でヘッドライトのあるマシンを撮影すると、設計の古いレンズは盛大にゴーストが発生する。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの場合は、ASC(Air Sphere Coating)というフレアやゴーストを抑制するコーティングがされている。

 今シーズンはサーキットに来るプロカメラマンでも使用者が増え、メディアセンターでも頻繁に見るようになった。今回のF1日本グランプリでは金曜日のFP1、FP2はほとんどこのレンズで撮ったので、レタッチなしの元画像を貼っておこう。

EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMで撮影

 EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、今年のF1日本グランプリでも大量に貸し出しが行なわれた。キヤノンはF1日本グランプリを長年サポートしていて、今年も「一眼レフカメラ貸出体験会」「超望遠レンズ試撮会」「カメラマンスペシャルセミナー」などのイベントを行なっている。

 一眼レフカメラ貸出体験会は、EOS 7D Mark II(バッテリーグリップ付)とEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを20セット用意して1セッション貸し出すというもの。貸し出しブースに並んだ機材はなかなか壮観だ。

逆バンクオアシスにある貸し出しブース
EOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMが20台用意されていた

 超望遠レンズ試撮会は「EF400mm F2.8L IS II USM」「EF500mm F4L IS II USM」「EF600mm F4L IS II USM」「EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×」と、例年どおり100万円からの豪華レンズ。ボディは「EOS 7D Mark II」「EOS-1D X Mark II」の2機種。これをセットで1人15分ずつ使用することができた。この超望遠レンズ試撮会では初日はヘアピン、2日目からは逆バンクで行なわれた。その詳細は11月20日発売のデジタルカメラマガジン12月号に掲載される。今年は参加者の撮った写真を誌面で使用すると聞いているので注目していただきたい。

スプーンはたどり着くまでは地獄だが、着いてしまえば撮影天国

 パドックからシャトルバスでA席後方付近の関係者駐車場に移動し、自分のクルマでデグナーの外側を抜け、西パドック駐車場に到着した。ここで不幸なお知らせ。西パドックのゲートが開いていない。滅多に観客が来るところではないので仕方ないのだが、西ストレートゲートまで戻りJ席下を抜け、ヘアピンの立ち上がり側に出てスプーンにたどり着いた。いや~サンニッパ持ってこなくて正解。

赤ルートのつもりが青ルートに。遠回りとなった

 鈴鹿サーキットの地の果て、スプーンはたどり着くまでは地獄だが、着いてしまえば撮影天国だ。進入から立ち上がりまでグルッと外周が撮影ポイントなのだが、その中でも今回はカメラマンエリアとして拡張してほしい箇所を2つ紹介したい。

 1つ目は進入のブレーキングポイント付近だ。スプーンで観戦する人は土手の上の部分に集中する。カメラマンは座って観戦している人の後ろと土手の中間で撮影する人が多い。土手の中間に立つのは金網の上から撮影するためだ。斜面に立って撮影するのは楽ではない。足場が不安定になると流し撮りの成功率も下がる。

土手の上に観戦する人が並ぶ
土手の中間に立つと金網の上からスプーンに進入するマシンを流し撮りできる

 次の2枚の写真は土手の中間に立って金網の上から撮ったもの(アロンソ)と、金網に貼り付き、金網越しに撮ったもの(マッサ)だ。注目してもらいたいのはコースの幅(画面上の高さ)、インフィールドの幅、マシンと遠くのガードレールとの高さ方向の距離などだ。

土手の中間から撮影
土手の下段で金網越しに撮影

 アロンソの写真は高い位置から撮っているので見おろす感じとなり、コース、インフィールの幅がありガードレールも高い位置にある。これに対して低い位置で撮ったマッサの写真はコース、インフィールの幅が狭くガードレールも近い。普通の人には「大差ないじゃん」と言われるかもしれないが、撮る人にはこの差は大きい。より低いポジションから撮影できることは極めて重要だ。また、マッサの写真は金網が写り込んでいるので右上から左下に緑色がかぶっている。写り込みを減らすためND4フィルターを使用しているが、シャッター速度1/80秒、絞りF7.1なので消すことはできなかった。

金網越しに撮影
身長172cmの筆者が一脚を立てるとこの高さとなる

 この付近の金網にカメラホールを開けて、土手下の金網付近だけカメラマンエリアにすると魅力的な写真が撮れるだろう。ボツ写真狙いで標準ズームを広角側にして撮った写真では金網の格子がハッキリと見えている。カメラホールがあれば金網の格子がなくなり、今までと違う写真表現ができるのも魅力だ。参考までにこの金網のすぐ先、報道エリアで撮った写真も並べておこう。

広角で撮ると金網がハッキリ見える
数m先の報道エリアで撮った写真
金網の上段にカメラホール。カメラマンエリアは金網沿いに幅1mもあれば充分だ

スプーン進入正面にもカメラホールを

 2つ目はスプーン進入を正面から撮影するポイントだ。この日の朝、2コーナーのポスト付近にいた方と話をした際に、この撮影ポイントの話題が出た。「スプーン正面は土手の下に降りられないでしょ」「あそこのカメラホールはTVカメラが置かれるよね」。筆者の認識も同じだったが、実際に行ってみると、この日は(今年は)土手の通路部分にロープが張ってないため土手下に降りることができた。TVカメラは少し右側に設置されカメラホールから撮影することができた。

この日は土手下に降りることができ、カメラホール(右側)も使用できた
カメラホールの左側は金網越しとなるが、ブレーキング時のマシンが正面を向く

 次の3枚の写真は、土手の上に立ち金網の上からマシンを見おろす感じで撮ったもの、土手の下に立ちカメラホールから撮ったもの、カメラホールの左側の金網越しに撮ったものだ。土手上と土手下は普通の人でも差があることが分かると思う。カメラホールの写真は進入時のブレーキングが右上から左下に斜めとなり、ステアリングを切ってからマシンが正面を向くが、金網越しの位置はほぼ真っ直ぐブレーキングをしてくるマシンを撮ることができる。

土手の上に立ち金網の上から撮影
土手の下に立ちカメラホールから撮影
カメラホールの左側の金網越しに撮影

 金網越しの撮影はピント精度が落ちる。加えて離れた金網は撮影中に金網にピントが合ってしまいシャッターチャンスを逃すこともある。絵的な差はわずかかもしれないが、現在のカメラホールの左側もカメラホールになると撮影の楽しみが増えるだろう。また、TVカメラに1つのホールをふさがれても、もう1つのホールがあれば保険にもなる。カメラホールから撮った写真はフォトギャラリーにも掲載しているのでフルHDで掲載しておこう。

金網にピントが引っ張られるとシャッターチャンスを逃すことがある
ここをカメラホールにしてほしい
カメラホールから撮ってフォトギャラリーに掲載した写真

 この撮影の後、セッション終了まで少し時間があったのでスプーン2つ目の方に移動してしばし撮影。ほどなくセッションが終了しこの日の撮影は終わった。行ったら帰るは避けられない。予定外に遠くなった西パドック駐車場に戻り、関係者駐車場にクルマを戻して16時半過ぎにようやくメディアセンターに戻った。

大渋滞を乗り越え2年ぶりのF1飲み会へ

 F1日本グランプリは一昨年までは1人取材だったので、セッションが終了すると速攻で名古屋に向かい18時頃には帰宅していた。昨年はライターさんも参加したので、夕方から記事用の写真を選びレタッチして連日遅くまでメディアセンターで仕事をするはめになった。

 今年も高校時代の同級生2人と一緒にチケットを購入。2年前までは鈴鹿や名古屋で飲み会をするのが恒例だったが、昨年は3日間ずっと仕事。今年はライターさんが土曜日から鈴鹿入りとなったので、2年ぶりのF1飲み会ができることとなった。

 1人は名古屋インター付近の実家。もう1人は実家が名古屋郊外なので四日市のホテルに宿泊。筆者は名古屋市内の自宅ということで、それぞれ家とホテルにクルマを置いて目標時間19時で名古屋駅に集合することにした。四日市にホテルを取った友人に電話すると、もう1人は遠いから既に駐車場を出ていた。彼はこれから四日市へ向かうと言う。筆者は16時40分頃パドックを出て関係者駐車場のクルマに向かった。

 金曜日は朝に通勤ラッシュがあったので、夕方は帰宅ラッシュ。鈴鹿市内も四日市市内も大渋滞となっていた。サーキット周辺の渋滞は稲生高校の辺りからすっと抜けて17時過ぎに国道23号に合流。しばらく走ると国道23号が混んできたので海側に逃げ、鈴鹿川の堤防から県道6号に入った。

 県道6号も鈴鹿川の先で渋滞。橋を渡ったところで近鉄名古屋線側に逃げることにした。久しく走っていない抜け道だったのでミスコースが心配だったが、地元の方々が列をなして走っていたのでそれを追走。塩浜駅前を通過し大井の川橋南詰の信号の手前で県道6号に戻り、すぐに四日市港側に逃げJR四日市駅の先で国道23号を横切り、朝のルートを逆走して四日市競輪付近で国道23号の復帰した。

17時過ぎに国道23号に合流
国道23号は大渋滞。この画面の国道23号はほぼ回避して18時前に渋滞を抜けみえ川越ICへ

 18時半前に帰宅し、カメラのバッテリーだけ充電を開始して19時1分に名古屋駅に到着。結果は筆者が1位。数分後に2人も合流。無事にオッサンのF1飲み会を終えて金曜日は終了した。前編はここまで。次回後編は土曜日FP3から日曜日の決勝までをお届けしよう。

協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社