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【オートサロン2017】レイズの2017年新作ホイール「TE037 DURA」「TE37 SAGA」開発者インタビュー

TE37の“呪縛”を打ち破った「TE037 DURA」、コアなスポーツ走行ファンも満足する「TE37 SAGA」。その魅力に迫る

東京オートサロン 2017のレイズブース

レイズのスポーツホイールの看板商品「TE37」シリーズとは?

 日産自動車「GT-R(R35)」をはじめとして、数多くの著名なスポーツカーの純正ホイールを手がけてきたレイズには、幾つもの「定番シリーズ」とも言える製品がある。

 その代表格がスポーツ志向ホイールの「TE37」シリーズである。1996年にオリジナルモデルが発売されて以降、改良と適応車種を増やし、スープラ、スカイライン GT-R、フェアレディZ、シルビア、RX-7、ランサーエボリューション、インプレッサ WRX STiなどに代表される1990年代の日本のスポーツカーのユーザーの間では「憧れのブランド」として君臨した。

オートサロンのレイズブースでは多数のホイールが展示された

 TE37の魅力は「シンプルな6本スポーク」というデザイン面と「高剛性かつ軽量」という性能面の両方にある。

 マルチスポークと比較して細身に見えるかも知れないが、6本スポークは外円周の2角と中心角のすべてが60°という応力を均等に分散する物理特性を持つことから、構造体として優れている特徴がある。これに加えて、レイズの材質最適化と構造最適化技術を組み合わせて設計されているため、非常に高い強度も兼ね備えている。まさにTE37はスポーツホイールの「最適解のうちの1つ」なのだ。

「6本スポーク」は大型サイズ化すればするほど、ホイールの中が見えやすい。ここに収まるブレーキキャリパーやブレーキローターが大型だと、6本スポークと一体化した景色が美しく見える。マルチスポークがホイール自体の見映えを主張するものだとすれば、TE37の6本スポークデザインはそうした「パワフルなブレーキメカとの調和」を楽しめるデザインであり、この点が「走り」と「スタイル」にこだわるスポーツカーオーナーを引きつけて止まないのである

 本稿ではそんなTE37シリーズをリリースするレイズ 営業本部 執行役員 クリエイティブプロデューサー兼VOLK RACING企画開発部 部長の山口浩司氏に、新製品「TE037 DURA」「TE37 SAGA」についてインタビューできたのでその模様をお届けする。

TE37の“呪縛”を打ち破った新製品「TE037 DURA」とは?

インタビューに応じていただいた株式会社レイズ 営業本部 執行役員 クリエイティブプロデューサー兼VOLK RACING企画開発部 部長 山口浩司氏

――2017年の新製品「TE037 DURA」を開発するにいたった経緯を教えてください。

山口氏:「日本のみならず世界中から高い認知を得られるようになったTE37シリーズも、1996年の初代モデル発売以降、サイズ範囲拡大、デザインの最適化を進め、近年では軽自動車用やSUVなどを想定した4WD車向けのものもラインアップするに至りました。一方で、TE37シリーズの高い認知度が、逆に我々に進化・発展の方向性を決めにくくしている状況が出てきました。7本スポークにしたら怒られてしまいますし(笑)」。

 TE37はバリエーションを増やしていく中で、ホイールサイズの大型化、ハイインセット化、ビッグキャリパー対応などを推し進めていくことになり、その各モデルで6本スポークの縛りを自らに課しながら、スポークの太さや形状を変えてきた経緯がある。

山口氏:「こうしてTE37シリーズが多様性を進めていく中で、TE37ブランドをもっと新しいお客様にも訴求していきたい、さらに上の性能領域にも突き進んでいきたい……と考えるようになりました。そうして開発されたのが2017年の新製品『TE037 DURA』です」。

 気が付いた人も多いだろう。TE037 DURAはTE37ではなくTE“0”37なのだ。

山口氏:「TE037 DURAは、社内では長らく“禁句”にもなっていたTE37のスピンオフ時の製品とも言えるのです。TE37のブランドイメージ、伝統は継承していますが、先ほど述べた『認知度の高いブランドだからこそ』の『TE37の呪縛』を自ら打ち破ることに挑戦した製品なのです。その意味で『TE』の後ろに『0(ゼロ)』を付けて『TE037』としました。『0』に斜め線の『/』を入れたのは『ゼロ』ということをアピールする意図があります」。

 TE037 DURAは、たしかに6本スポークデザインというTE37シリーズの伝統を継承しているが、従来のTE37シリーズと比較するとやや細身に見える。このあたりにはTE037 DURAとしてのキャラクター性の主張がありそうだ。

 TE037 DURAは現状20インチサイズのみがラインアップされるわけだが、TE37シリーズの20インチモデルとしては既存製品で「TE37 Ultra」シリーズもラインアップされている。このTE37 Ultraは、TE37シリーズ伝統とも言うべき太めの6本スポークデザインを採用しており、TE037 DURAとは見た目が異なっている。

 20インチのTE37シリーズを欲するユーザーで、TE37シリーズらしいスポーツでスパルタンなイメージが好きな人はTE37 Ultraを選びそうだが、「体育会系の無骨さ」だけでなく「エレガントさ」も欲しいというユーザーにはTE037 DURAが響くことだろう。

レイズブースに展示されたTE037 DURAを装着するR35 GT-Rのデモカー

山口氏:「TE37 Ultraは、伝統的なTE37シリーズのキャラクターを受け継いで20インチサイズに対応させたモデルといえます。一方で、TE037 DURAは新しいキャラクター、おっしゃっていただいた『優美さ』も兼ね備えたモデルとなっています」。

TE037 DURAはレイズ初の超超ジュラルミン製ホイール

 TE037 DURAの外見上の特徴としてもっとも目を引くのは、大胆な肉抜きが行なわれている点だ。

 細身の6本スポークの末端には「ウェイトレスポケット」と呼ばれる凹みが開けられており、さらにこのスポークの両側面にも「ウェイトレスホール」と呼ばれる穴が開けられている。前述したTE37 Ultraと比較すると、TE037 DURAはなんと1kg/本も軽量なのだ。しかも強度性能的には同等を保ちつつ、である。

山口氏:「6本スポークは穴を開けても応力分散に非常に長けているんですよ。TE037 DURAはTE37の新提案モデルとして開発が始まり、エンジニアリング部門とデザイン部門の双方で検討を進めた結果、穴を開けることが決定しました。この方針はモータースポーツ部門からも賛同が得られ、2016年1月くらいから本格的に開発が進んでいきました」。

 もちろん、ただ“穴を開けた”だけでなく構造解析によって高い性能と強度はそのままだという。これはどうやら製品名に付けられる「DURA」の部分に秘密がありそうだ。

 DURAとはアルミ合金の一種であるジュラルミン(Duralumin)から来ており、TE037 DURAではジュラルミンのなかでも最高強度を持つ超超ジュラルミン(A7075)を採用している。一般的な鍛造アルミホイールで使われるアルミ合金(A6061)の引っ張り強度が320MPaなのに対し、A7075は570MPaと約2倍にもなる。

山口氏:「我々は超超ジュラルミンの前に、超ジュラルミンでフォーミュラ3用のレーシングホイールを製造したことがあります。その後、2014年に超超ジュラルミンの試作ホイールをテスト生産するなどして準備を進め、今年このTE037 DURAで初の一般ユーザー向けの量産品の提供となりました」。

――TE037 DURAの大胆な肉抜きはやはりA7075の材質が持つ特徴から来ているのでしょうか。

山口氏:「実は、JAWA(ジャパン・ライト・アロイ・ホイール・アソシエイション)が定める性能基準を満たしつつ、軽量性を突き詰めていけばもっと軽量化はできるのです。ただ、それは今回はやっていません」。

――それはなぜですか?

山口氏:「今回のホイールはR35 GT-Rにも適合しますが、ご存じのように我々はR35 GT-Rの純正ホイールも手がけています。今回のTE037 DURAの開発にあたっては、強度性能だけでなく、乗り味、曲げ剛性、キャンバー剛性など、あらゆる点において純正ホイールと同等かそれ以上の性能を満たしたい、という縛りを自らに与えたんです。逆に言えば、R35 GT-Rの純正ホイールと同等かそれ以上の性能がTE037 DURAには担保されていると言うことです」。

 超超ジュラルミンのA7075は、Al-Zn-Mg(アルミ・亜鉛・マグネシウム)合金であるが、実は銅が含有されている。一般的なアルミホイールに採用されるアルミ合金のA6061はAl-Mg-Si(アルミ・マグネシウム・シリコン)合金であるが、こちらも若干の銅が添加されている。一般的に合金に銅を含有させると強度が増すが、それと引き替えに耐腐食性が落ちるといわれる。TE037 DURAでは、メンテナンス面で気を使う必要があったりはしないのだろうか。

山口氏:「基本的には一般的なアルミホイールと同等に取り扱えると考えていただいて問題ありません。特別なメンテナンスも必要ありません。TE037 DURAに使われているレイズオリジナル超超ジュラルミンの素材は防錆性に非常に優れたブレンドを採用していますし、その部材の入手先も厳選したところから行なっています。また、超超ジュラルミン材の製品は高品位に製造しないと応力腐食割れが発生します。これを回避するには溶体化処理と焼き入れ、その後の時効硬化処理に手を掛ける必要があるのです。これらの工程を適切に行なうことで、TE037 DURAでは従来のアルミホイールと何ら変わらない耐食性が実現できています。実は、他メーカーが超超ジュラルミンになかなか手を出さないのはこのあたりの難易度が高いからなんですよ」。

 ここで用語の解説が必要だろう。「応力腐食割れ」とは純金属では起こりえない合金ならではの特性で、何らかの要因で僅かな腐食や傷が発生した場合、その合金の硬い結合から発生する応力の逃げ道として力がその腐食や傷に集中して、自らが分断してしまう現象のこと。これが超超ジュラルミン材に手を出しにくい要因の1つと言われている。

「溶体化処理」とは合金特有の熱処理のこと。超超ジュラルミンの場合、アルミに対する添加金属元素として亜鉛、マグネシウム、銅などを均一に溶け込ませる必要があるが、これを高温処理で行なうのが溶体化処理である。温度を上げすぎると形が変形してしまうので、その温度管理に独特なレシピがある。

「焼き入れ」は溶体化処理後に急速に冷却させることで、これには強度が増す効果がある。超超ジュラルミンの場合は、特に溶体化処理と焼き入れのタイミングと温度管理が重要とされる。この焼き入れ工程にも独特なレシピがあるのだ。

「時効硬化処理」は、一般的には「室温で放置しておくことでさらに強度が増す」と理解されていることが多いが、超超ジュラルミンの場合は、高い温度状態での人工時効が欠かせない。ここにもレシピが存在するのである。

山口氏:「我々レイズとしての強みは『研究開発から製造、箱詰めまで』を自分たちで行なっているところにあります。塗装においても防錆処理、下処理、粉体塗装、溶剤塗装、クリア塗装、焼き付けまですべて自社でやっています。TE037 DURAのような開発難度、製造難度が高い商品を高品質で提供できるのは我々だからこそ、という自負があります」。

 さて、発表されたばかりのTE037 DURAだが、どうやらレイズでは、このTE037 DURAも進化発展させていく計画を練っているようだ。

山口氏:「TE037 DURAは、今年を入れて3年計画でどんどんと発展させていこうと考えています。2018年モデルではデザインをさらに洗練させて、2019年モデルは完結モデルにしようと思っています。TE037 DURAの『DURA』は、お客さまに『超超ジュラルミン製である』ということを訴求するためのキーワードではあるのですが、裏を返せば『DURA』以外の素材の採用もほのめかしていると言えます。つまり、このデザインで他の素材で展開していくというアイデアもあるにはあるんです。ちなみに、このTE037のデザインは超超ジュラルミン以外の素材に適用できる目処は立っています。今後のTE037シリーズの展開にもご注目ください」。

TE37シリーズのもう1つの新製品「TE37 SAGA」とは?

TE37 SAGAを装着したBMW「M2」のデモカーと山口氏

 レイズの2017年の新製品はもう1つある。それはTE37シリーズの新モデル「TE37 SAGA」だ。

 こちらはオリジナルのTE37のデザインを素直に踏襲したモデルで、サイズ展開も適応車両が多い18インチから始まる。一見しただけでは、従来モデルからどこが変わったか分からないかもしれない。かくいう筆者もそんな印象を持ったくらいだ。

山口氏:「はい。見た目的には90%くらいは同じです。しかし、性能面がずいぶん違っています。ユーザーの皆様にも分かりやすい言葉で表現すると、このTE37 SAGAはスリックタイヤを履いても音を上げないほど高性能である、という感じです」。

 従来のTE37シリーズでも「超ハイグリップスポーツタイヤを履いてサーキット全開走行をする」ことまでを想定した性能設計になっていたが、さらに格上げしたのがTE37 SAGAというわけである。

 前出のTE037 DURAがエレガントさを兼ね備えたモデルだとすれば、TE37 SAGAはそれこそコアなスポーツ走行ファンに向けた“硬派な体育会系ホイール”ということである。このTE37 SAGAの開発にあたっては、レイズが競技用ホイール開発に費やしてきたノウハウ・コンセプトを詰め込んだという。

山口氏:「5年くらい前まではスポーツホイール製品といえば『引き算』での設計だったんです。どういうことか言うと、JWL/VIAが定める性能基準よりも厳しいレイズ独自の性能基準を満たして基本設計を行なったあと、『どこをどう削って軽量化していくか』みたいな開発方針でした。いわば軽量化至上主義という感じでした。しかし、我々が3年前に発売した『ZE40』から、設計方針を『足し算』に切り換えたのです。というのも、近年の世界規格のレースではホイールの最低重量が決まっているので、軽量化することがゴールではなくなってしまったのです。なので、そうした世界規格のレースが定める最低重量未満でまず基本設計を行ない、そこからさらに強度を増すための補強をしていき、その最低重量以上の状態で製品化するのです」。

「TE37 SAGA」は、いわば肉体改造を経てスポーツ走行に最適化されたアスリート系ホイールというわけである。こちらは前出のTE037 DURAよりもかなり安価な設定となっているうえ、サイズも適合範囲の広い18インチとなっているので、スポーツ走行ファンはもちろん、性能重視派から本格競技派にまで人気が出そうなモデルだ。


 いかがだっただろうか。このレイズの2017年の新作ホイールは、2月10日~12日にインテックス大阪で開催される「大阪オートメッセ2017」のレイズブースでデモカーとともに展示される予定だ。興味を持った人は、ぜひブースに足を運んで実際の製品を見て触れてみてほしい。

協力:株式会社レイズ