トピック
西村直人の先進運転支援システム「新型サイバーナビ+マルチドライブアシストユニット」体験レポート
後付け先進運転支援機能がどこまで有用か、その効果を試す
2017年2月20日 00:00
運転支援機能からドラレコ&セキュリティ機能まで内容盛りだくさん
現代カーライフにおける三種の神器と言えば「カーナビ」「ETC」「USB電源」。ここ数年はドライブレコーダーが加わるから4種となるのだろうか? いずれにしろ、使用頻度や実用性から考えると筆者のなかではカーナビがその筆頭にくる。御存知のように、カーナビはVICSが導入された1996年以降順調な伸びをみせ、2015年における日本の出荷台数は526万8000台(電子情報技術産業協会調べ)を数える。将来的には自動運転技術を見据えたダイナミックマップとの連携が見えてくるが、その前夜ともいえる今、カーナビにはルート案内の正確さとともにIoT(Internet of Things:モノのインターネット)との融合が期待されている。
そうした背景から、自動車メーカーはもとより、市販ナビメーカーからは毎年のようにカーナビの新製品がリリースされている。加えて車種専用のフィッティングキットを設けた例も多く、まとまりのよさから好んで市販ナビメーカーのカーナビを選択するユーザーも多い。一方、カーナビの新たな選択肢としてスマートフォンやPND(Portable Navigation Device)の台頭も目立つ。なかでもスマホは携帯性に優れているうえ、数々のナビゲーションアプリを駆使すればかなり高い精度でのルート案内が行なえるため、セカンドカーやレンタカーでの利用頻度も高いという。
とはいえ、スマホは機能の上では専用品にかなわない部分があるのも事実。まずは画面サイズ。運転操作を行ないながらのルート確認は極力短時間であることが好ましい。よって安全上の理由から、さらには高い視認性を確保するという意味でも大きな画面がよいことは明白だ。画面に表示されるフォント種類やサイズの適正化、さらにはアイコンの見やすさなどグラフィカルユーザーインターフェースという観点から見ると専用品が一歩上をいく。加えてタッチパネル操作にしても、ドライバーに対して上下左右の振動が伝わる走行中の車内では、PND特有のタッチフィールは時に正確さを欠いたり、過敏に反応したりするため評価は分かれる。さらに細かな指摘だが、メニュー画面などに表示されるボタン形状のアイコンにおいても、見やすさ、使いやすさという点でやはり専用品が使いやすいと筆者は感じる。
というように、カーナビ歴22年の筆者は“専用品”派である。そんな折り、Car Watch編集部からカーナビに運転支援機能が追加されたパイオニアのカロッツェリア「サイバーナビ」を体験してみないかとのお誘いをいただいた。試乗車として用意されていたのは2016年9月に発売された新型サイバーナビの車種別専用モデル「AVIC-CE900VE-M」を装着したトヨタ自動車「ヴェルファイア」だ。10V型WXGAの大画面と静電式操作キーを持つスイッチ部の組み合わせにより、純正カーナビと同じくすっきりとした収まりを見せつつ、ブルーイルミネーションを効果的に配すことでカロッツェリアブランドならではの先進的で上質なイメージを上手く両立させている。ちなみに現時点ではトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」「ヴォクシー/ノア/エスクァイア」、本田技研工業「ステップワゴン」のそれぞれ現行型向けに車種専用モデルの用意がある。
新型サイバーナビの基本性能はすでにCar Watchでも数回にわたり紹介済みだ。OSをはじめ構成パーツを一新したことでカーナビに求められる精度はかなり高められた。サイバーナビをうたうだけにルート探索は速く(処理能力は従来比3倍)、リルート性能含めて申し分ない。また、案内ルートは、入り組んだ道路環境であってもそれに左右されず1発で判別しやすく、さらに歴代モデルがそうであったように美しさへのこだわりも継承されている。筆者は1997年発売の「AVIC-D707」から数代に渡りカロッツェリアユーザーの1人であったが、時代に合わせた進化を大胆に採り入れながら、ユーザー評価の高い部分はしっかりと継承する開発姿勢には一貫した“ものづくり精神”を感じる。
さらに新型サイバーナビでは、マルチドライブアシストユニット(MAユニット)/フロントカメラユニット/通信モジュールの連携による運転支援機能が加わった。ここからはその運転支援機能に絞って紹介したい。MAユニットは、本体と車両前方を映し出すCMOS単眼カメラで構成され、以下に示すA、B、C、Dの4本柱を主たる機能とする。
ドライブサポート機能
A:「ドライブサポート機能」では、「前方車両接近警告」「誤発進警告」「右折時つられ発進検知」「レーンキープサポート」が用意され、安全な運転環境をサポートする。これに加えて、フロントカメラの映像とドライブ情報を組み合わせる「ARスカウタービュー」、前走車の発進をお知らせする「前方車両発進検知表示」、赤信号を検知したことを表示する「赤信号検知表示」、進路の横断歩道を検知しアイコンで表示する「横断歩道予告検知表示」、前走車との車間距離を表示する「推定車間距離表示」なども盛り込まれた。
ライブカーセキュリティ機能
B:「ライブカーセキュリティ機能」では、駐車中の衝撃や音、ドアの開きなどを検知した際に車内外の動画と静止画を同時に撮影する「セキュリティ録画・撮影」と、そのセキュリティ録画・撮影に連動してメールが送られる「セキュリティインフォ」、さらにはシーンに応じたセキュリティ制御機能がある。
ドライブレコーダー機能
C:「ドライブレコーダー機能」では、LED信号機にも対応する「高性能ドライブレコーダー」や衝撃を検知して録画(検知前20秒/検知後10秒)を行なう「イベント録画」、さらにはそのイベント録画と連動し日時や位置情報をメールで送信する「アクシデントインフォ」なども用意されている。
エンタテインメント機能
D:「エンタテインメント機能」では、「ドライブフォト撮影」「フォトシェアリング」によって楽しい時間の共有が行なえる。
注意喚起をストレートにドライバーに訴える
交通コメンテーターとして注目したのは、ADAS(先進運転支援システム)であるAの各機能だ。とりわけ①「前方車両接近警告」、②「誤発進警告」、③「右折時つられ発進検知」、④「レーンキープサポート」の各機能は、日ごろADASの取材に注力している筆者としては興味深かった。
最初に結論から述べると、①~④の注意喚起を目的とした各機能は運転操作に集中しているドライバーにストレートに訴えかけてくれることが理解できた。HMIとしては警告音と画面表示が主な手段となるため、自動車メーカーが用意するADASのようにステアリングやアクセルペダルが振動するなど大がかりな情報伝達機能はない。しかし、ADASの基本に立ち返れば、その存在意義は“ドライバーの回避動作によって危険な状態から遠ざかること”にある。よって、このまま運転操作を継続していくと本当に危ない状況になるという判断をどこまでMAユニットが行なえるのかという部分を評価の分かれ目とした。
「MAユニットは、危険な状態に陥る前にドライバーへ注意喚起を行なうことを目的に開発しました」(パイオニア 市販事業部 事業企画課 市販企画部 マルチメディア企画1課 内田有喜氏)というように、MAユニットからの警告にドライバーが応じ、ブレーキ操作を行なうなど回避動作へとつなげる技術である。その点を踏まえた今回の体験取材では、MAユニットが有効な手段であることが分かった。
筆者は、現在市販されている「ADAS機能搭載」と銘打つドライブレコーダーのいくつかを購入してテストしているが、それらと比べてMAユニットは警報の発報タイミングと、警告の音量&音質の両面から大きく上まわっていることが確認できた。さらに、この体験取材ではどんな場面で注意喚起が行なわれるのかを中心に確認し、同時に警告音が発報される際のオーディオミュート具合とともに、警告音の音色についてもチェックを行なっている。以下、順を追って解説する。
次第に安全な車間距離の感覚が身に付く「前方車両接近警告」
①の「前方車両接近警告」では、適正な車間時間(前走車に対して自車が何秒後に到達するかを示す時間)が確保されている状況(筆者の測定では概ね2秒以上)、つまり自車速度に応じた前走車との車間距離が適正であると判断される場合には前走車を捉えた水色のターゲットスコープとなり、反対に近づき過ぎるとターゲットスコープは黄色に変化することが確認できた。このターゲットスコープの色味が水色から黄色へと変化する瞬間こそ前を向いている筆者の視野には入らないが、ルートを確認する瞬間的な(道路交通法上の注視とならない1秒以下)の画面確認時には、ちゃんとその色変化を認識することができた。結果、この機能と付き合っていくと次第に安全な車間距離の感覚が身に付いてくる。
画面下に前走車との車間距離がm単位で表示される「推定車間距離表示」も実用的。感心したのは前走車との車間距離の正確さと前走車の捕捉性能だ。混雑した道路状況でも前走車をほぼ正確に認識し、一度認識した前走車は自車の速度が約20km/hを下まわるまでしっかりと捕捉し続け、車間距離を表示することも確認できた。
迫りくる危険を正しくドライバーへと知らせる「誤発進警告」
②の「誤発進警告」は停車時、無意識にブレーキを踏む力が緩み、ゆるゆると前車に近づいてしまう際に有効な機能だ。後日、クローズドコースを使って停車中の前車に見立てたダミーに近づいてみたが、ドライバーのブレーキ操作があれば高い確率で追突が避けられる絶妙なタイミングで低めの警告音が耳に飛び込み、同時に画面には「前方注意」の割り込み表示がなされた。クローズドコースという“安全に危険が体験できる環境”であるため気持ちに余裕があったからかもしれないが、割り込み表示がなされる際にはベース画面のトーンが落ちてくれるので、前を向いている状況でも割り込み表示がサッと視界に入り込んで非常に分かりやすい。情報伝達という観点から、迫りくる危険を正しくドライバーへと知らせる有効な手だてであることが検証できた。
ちなみに、この割り込み表示はカーナビ画面、AV画面のいずれであっても表示される。また、カーナビの案内音やこうした危険を知らせる警告音にしてもスピーカーが発祥のパイオニアらしく(1937年に国内初のHi-Fiスピーカーを開発)、運転中のロードノイズや風切り音にかき消されにくい音質と音量が保たれていることも分かった。
右直事故を未然に防ぐ“ヒヤリハット地点”での「右折時つられ発進検知」
③の「右折時つられ発進検知」は案内ルートを走行中に、サイバーナビ本体に収録されている「ヒヤリハット地点データ」(急ブレーキの多発箇所)のうち、全国約7600カ所の交差点で右折を開始すると機能する。具体的には、この交差点で前走車に続き停止してから発進する際、前走車の発進から一定時間を空けずに自車が右折を開始した際に警告音が発報する。
ここでの肝は、前走車の発進から一定時間が空いているかどうかだ。時間が短ければ前走車につられて発進していることになり、必然的に対向車と衝突する右直事故の可能性が高くなることから、それを抑制する上で設けられた機能であることが分かる。ちなみに「ヒヤリハット」とは、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故が存在し、さらに300件の事故には至らなかった危険な状態があると定義されるもので、この“300件の事故に至らず危険とされる事象”がヒヤリハットと呼ばれている。
車線はみ出しを画面表示と音で抑制する「レーンキープサポート」
④の「レーンキープサポート」は概ね30km/hを超えたあたりから専用カメラがしっかりとレーン(白線や黄線)を捉えだす。車線内に自車が留まっている際には水色でレーンが表示され、左右どちらかのタイヤがレーンの線に近づき続けるとレーンは黄色に変化し、同時に効果音による警告がドライバーへと与えられる。事前の取材では、このレーン表示はかなり正確性が高いということで、ここで同乗者に運転を代わってもらい、助手席で色が変化するタイミングを検証してみることにした。画面と路面のレーンの状況を注意深く見比べてみると、タイヤがレーンに近づき続けると踏み越えようとするほぼ同じタイミングで黄色へと変化するため、非常に信頼がおける機能であることが分かった。具体的には、タイヤが近づき続け、レーンを踏み越えそうになる傾向を捉えたところでレーン表示は黄色へと変化し、同時に踏み越えを教える効果音も確認することができた。
冒頭にも述べたが、この先、自動運転技術が数多く入り込んでくるだろう。現在、日本の内閣府によるSIP-adusでは、アメリカのSAE(Society of Automotive Engineers/レベル0~5の6段階)が定めた自動運転のレベル分けが採用されている。そこで示された「自動化レベル3」では、ステアリング、アクセル、ブレーキといった基本的な運転操作を自動運転システムが司るものの、そのシステムが機能限界に達した場合には人へ運転操作の権限が戻されることを前提に、こうした自動運転モードの利用が許されることになる。つまり、レベル3の実現には精度の高い自動運転技術とともに、人が運転操作を引き継げる状態にあるのかどうかをセンシングして判断する、新たな課題を克服しなければならない。
将来的に、市販ナビメーカーのカーナビがどのように自動運転システムと向き合っていくのか興味は尽きないが、レベル3という世界が現実のものになろうとも、やはりそこには人との協調が必要になるわけで、適切なタイミングでドライバーへと注意喚起を行なう仕組みは踏襲されるべきであろう。新型サイバーナビの取材を通じてそれを再確認することができた。
また同時に、新型サイバーナビの特徴であるADASの各機能はドライバーへ適切なタイミングで回避動作を促す技術であることも分かった。高い精度を持つADASは後付けが難しいとされるが、愛車に新型サイバーナビを装着すれば、新型車へと買い換えることなく“危険な状態に近づいていることを教えてくれる技術”が手に入る。ADASは欲しいが買い換えまでは……、と二の足を踏んでいる自動車ユーザーの心には響くだろう。また、中古車として購入したお気に入りの1台に装着すれば、それこそ温故知新も倍増か。新型サイバーナビとMAユニットの組み合わせは決して安価ではないが、得られる安心感はとても大きい。これが筆者の実感である。
協力:パイオニア株式会社