F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

第122回:最終戦アブダビまでもつれにもつれたチャンピオン争いはマクラーレン・ノリス選手が獲得! おめでとう!!

 最終戦アブダビGP。

 チャンピオン争いが最終戦のこの地まで持ち越されてレース前の緊張感はとても大きいと感じました。

 ノリス選手が3位で初タイトルを獲得しました!

 もうあちこちで涙ぐむノリス選手を見ていると、この2025シーズンというのは、1年を通じて過酷だったのではないかと想像します。

 マシンのポテンシャルは高く、序盤でポイントを多く稼ぎ、中盤戦でチームメイトのピアストリ選手に逆転され、終盤になって調子を戻してきたら、フェルスタッペン選手の猛追にあって、常にプレッシャーの中で戦っていたと思います。

 レーシングドライバーとしてF1でシートを得て、さらにトップチームにいること、そしてチームメイトに勝ってようやくチャンピオンという称号を手に入れることができます。実力と運、両方を持ち合わせていなければチャンピオンになれないと思います。

 おめでとう!

 アブダビで最も速く、最も強かったのはフェルスタッペン選手でした。

 12ポイント差で迎えた最終戦で、5連覇を達成するにはほぼ勝つしかない状況で、それを完璧に成し遂げました。

 その結果、選手権は2位で終えることになりました。

 この人のレースを見ていると、本当に驚かされることが多くあります。すごいな~、なんでそのラインで走れるんだろう、今のこのコーナーのラップすごく速くないか! ……コースサイドから見ていると、その差を感じることがあります!

 でも、例えばコース脇でフェルスタッペン選手の予選でその差を感じたとするじゃないですか。それで2位の選手とその差が0.1秒だったとすると、僕が見たのは広いコースの中の1つのコーナーです。恐ろしいほど少しの差でしかないはず。さらにその少しの差を1周まとめ上げないとそのラップタイムが出せないという、なんとも尊いお話になるのです。

 言葉足らずが嫌になるほど、どのような言葉で形容したらいいのか分かりませんが、とにかく別格です。

 F1まで来るドライバーは皆並外れた才能を持った人たちばかりです。その中でも、マックス・フェルスタッペンというドライバーは、特別な何かを感じるドライバーです。彼が今走っていて、その写真を撮れることへの巡り合わせに感謝しています。

 ホンダとレッドブル&RBによる最後のレースでもありました。ホンダにとってもレッドブルにとっても実りある8年間でした。そこに、フェルスタッペン選手がいたということも非常に大きな意味を持っていると思います。

 第4期があって、撤退して表向きにはワークスでない供給体制の第4.5期を戦い抜きました。

 ホンダの人に聞くと、レッドブルとRBというチームに感謝したいと皆さんおっしゃいます。非常にいい関係が築けていたという証拠です。

 来季からの第5期、アストンマーティンと再びワークス体制の真剣勝負が始まります。チームが変われば、やり方も変化します。どのような戦いをわれわれに見せてくれるのか、ホンダに注目です。

 角田選手のレギュラードライバーとしてのラストレースとなりました。

 予選10位、レース14位。FP1でピットアウト時にアントネッリ選手とぶつかってフロア交換。レースでもペナルティで5秒加算。

 今回もいろいろありました。

 シーズンを通しても、いろいろな要素があり、その結果シートがなくなってしまいました。

 多くのファンを持つ角田選手、そのキャラクターは、歴代F1日本人ドライバーが作ってきた日本人のイメージに陽気で明るい雰囲気を追加してくれました。

 レギュラードライバーへ復帰の努力はマネジメント側でやっていると聞いています。吉報を待ちましょう。

 ハース代表小松さんにレース後に話を聞けました。

熱田:2025年シーズンを終えて今の率直な気持ちは?

小松代表:コンストラクターズ選手権で8位になったことで物足りないですけれども、その過程と現在のマシンの速さ、そしてチームの成長を考えるとポジティブな要素は無茶苦茶あると思います。

 でも去年7位で今年8位になってしまった。目標は6位だったわけで、レースチームのオペレーションをしっかりとできていれば絶対6位を取れているんですよ。100ポイントは取れていましたから。

 思い返せばメルボルンの大惨事から、鈴鹿に新しいパッケージを用意できて改善できて、その後のシルバーストーンとオースティンのアップデートも素晴らしかった。そして最終戦のアブダビでも5番目に速いマシンのパッケージを用意できたことは素晴らしいことだと思います。

 特に今年の中段勢の戦いはものすごくタイトな状況の中、最後までこのように戦えて、去年58ポイント、今年79ポイントですから! これは本当に評価するべきだと思うしチーム全体が誇りに思っていいと思います。

 最近のことで言えば、カタールのオーリーのピットインで大惨事になったことを、ここアブダビで立て直すために努力して、今回は2.3秒のピットストップを成し遂げました。カタールのオーリーのレースをリタイアという決断をして、まずレース中にオーリーに謝り、失敗した当事者2人には1年間で100回はピットストップするんだからミスはある、でもアブダビで取り返すようにしようと話をし、その後チームのみんな、1人ひとりに最終戦で結果を出そうと話をしました。短期間で立て直せたのはチームが一丸となっている証拠だと思うんです。

 僕自体の考え方、心の鎮め方もかなり切り替えが早くなったと思います。少しはリーダーとしてやらなければいけない引き出しが増えたかなと思います。

 失敗があったときに、チームの真価が問われると思うんですよ。喧嘩しあって失敗の責任のなすりあいをして空中分解するのか、みんなで一丸となって問題に取り組むのかで大きく結果は変わりますからね。

 僕は問題があったときにまず、問題の共有、その同意を取る。そして、その対策を各部署で考え、対策する。そこでもし失敗しても責任は自分が取るから、とにかく早急にやる。その結果、もし失敗してもその対策をすればいい。一番やってはいけないのは問題を先送りにして何もやらないことであるとだけ伝えました。それは本当はつらかったんですけどね。本当だったらその現場にいてあーでもないこーでもないと言いたかったんですよ。でもグッと堪えて担当部署に任せたわけです。それでできあがってきたもので進めてみると、正しい方向に進めたんです。

 そのやり方にはチームの誰も問題を否定はしなかった。2023年は、あちこちで否定しあっていたわけです。2024年から今の体制ができて、チームが培ってきた基礎があったから、今年のメルボルンでの問題も解決できた。それを2年連続でうまく対処してできたことは、チーム全体の自信につながっていると思います。

 2026年は大きくレギュレーションが変わるじゃないですか。だからどうなるか分からない。PUと空力に関して激変するわけですからね。どのような船出になるか分からない。もしかすると初戦で最下位になるかもしれない。

 でもそのときに過去2年連続で最終戦までに5番目に速いクルマを作れたという事実があれば、ものすごく自信を持って対処できるわけです。「やれるはずだ」ではなく「やれる」という自信がチームの中にあるというのは大きいと思うんです。

 その「やれる」という自信をチームのみんなに与えたかった。それが先につながるし、生きてくると思うんです。

熱田:小松さんが目指しているチーム作りは?

小松代表:ちゃんとした文化でチームを作りたいんです。それはどういうことかというと、全員が助け合ってチームワークで戦う、失敗を恐れないで挑戦するんだという精神を中心にした文化です。その文化は着実に築き上げられていると思います。

 先ほども言いましたけれど、選手権8位ですごく残念なんだけれども、今年何を僕たちが成し遂げたのかというと、プロセスと戦い方に対して誇りに思っていいことはたくさんある。それをみんなに伝えられるわけです。

 チームとしての一体感、和というのは絶対にいいチームくらいになってきていると思うんです。

 人間として大事なところを絶対にキープして3年から5年後には中段のトップで戦えるようにして、5年から10年で表彰台を狙えるようになる。究極はチャンピオンです。

 人間として大事なところ、こうあるべきだよねというのを、そのまま継続して世界一の選手権でトップを取れたらいろんな人に勇気を与えられると思うんですよね。

 例えば、政治家だって、サラリーマンの人だって、最初は高い志があったと思うんです。でも日々過ごしていくうちに、上に行くために、楽なように、最初の志から曲げて妥協して物事を進めていくようになる。

 そこで、われわれハースというプライベートチームがもしまっとうな方法で上がっていければ証明できるじゃないですか。そうしたら見てくれている人たちの勇気になるじゃないですか。まわりがどれだけ変化していく中でも、自分の信念を貫いてやってできるということを、F1世界選手権で頂点を取れればいいじゃないですか。

 豊田章男さんにもそれをやりたいと言って同感してもらっているんです。章男さんに言っているのは、世界に通用する人材を作りたい。例えば、日本ではすごく仕事ができてもイギリスに来たら全然仕事ができなくなるような人をたくさん見てきました。とにかくアウェイで戦える人、安全なところから出てきても実力を発揮できる人を育てましょう。それを正しい文化で育てていったら、その人たちはハースF1チームだろうがトヨタモーターコーポレーションだろうが核になる人になる。トヨタとしてももっと強い会社になると思うし、ハースとしてもトップチームになると思うんです。広がりは限りなく無限大だと思います。

 だから、やり方がどうでもいいから世界一を取りたいのではなく、やり方こそ大事なんです! それを信じていますし、当然1人では成し得ない、幸運にも豊田章男さんに出会えたので、コラボレーションできたことはありがたいと思っています。

 さらに、章男さんのような信念を持った人とパートナーシップを作って、コミュニティを構築していきたいと思っています。そうすることでBtoBの関係を作る場をハースが提供できるわけです。

 通常だったら3か月かかって改善することを、F1では1週間でやらなければならない。そういう状況は大きく人を育てますよね。そういう出会いを求めて先日も日本に行っていました。そのことがすぐにスポンサーシップにはならないですよ、でもまず始めなければなりませんからね。

 章男さんと僕の関係は、会って、話をして、共感があり、志があって、テクニカルパートナーシップが生まれて、来季からのタイトルスポンサーシップにつながってくるわけですからね。

 章男さんの目的はブランディングではなく人を育てたいからなんです。そういう方向で、いろんな人たちとの出会いで自分も成長できている実感があるので、無茶苦茶忙しいけれど、楽しいです!


 ホスピタリティの屋上のソファで、僕が差し入れたカップラーメンを食べながら話を聞いたのですが、チーム内の人事、マシンセットアップや作り方への方向性の構築、フェラーリやダラーラとの関係性、スポンサーシップの構築、リバティメディアとの関係性、はたまたケータリングスタッフの就職の世話など、その仕事内容は多岐にわたっています。

 小松さんとはもう古い付き合いになりますが、今現在が一番生き生きした表情が多いかな。でもレース後とかはドッと疲れてますけどね。

 とにかく、まっすぐ目標に向かって突き進む小松さんの姿は戦国武将のようにも見えて頼もしい。どこまでどのように進めていくのか楽しみでしかない。

 FP1で11番手のタイム、平川選手。着実に実力を示しているのではないでしょうか。

 同じくFP1で走った岩佐選手。来季からどのような立場でF1に関わるんでしょうね?

 フェラーリ、ハミルトン選手の調子が上がらないままシーズン最後まで来ました。圧倒的な人気があるのはその声援の大きさで分かるのですけど、本人が現状をどう思っているんでしょう……。

 モービル1のシーズンエンドパーティーでホンダの渡辺社長にプレゼントされた絵。どうやって持って帰ったんでしょうか??

 アブダビの街。運転はカタールと一緒で結構オラオラ系が多いんですけれど、歩行者は信号をきっちり守っている姿にびっくり。

 水曜日のランチを買いに、マクドナルドをググって探して行ってきました。ビッグマックセットとフィレオフィッシュで1700円。高いよね! そしてポテトもハンバーガーもおいしくない……。

 夜は中華でチャーハン、1300円、これはおいしかった。

 ホンダの吉野さん、尾張さん、ホンダの法原さん。3人ともF1から引退です。

 ホンダのお2人は第3期から知っているので、現場でそのたびにいろんなお話を聞かせてくれました。ありがとうございました!

 尾張さんは、来年からグッと数を減らすそうです。一緒に旅をしたことも多く、いろんなことを教えてもらいました。寂しいなあ……。

 という感じで今年も最終戦を迎えて20戦の取材ができました。

 F1という世界で仕事をするのは、行くだけで過酷ですけど、現地に行けば素晴らしい人たち、かっこいいマシンがそこにあって楽しい。

 来季は大きく変わったF1です。楽しみにしていますが、今は日本を楽しみたいと思います!

 オフシーズンには今年の総集編と角田選手編をアップ予定ですので、ぜひ見てくださいね!

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。