日下部保雄の悠悠閑閑

ミステリーツアーに参加してみた

 今年の初めになんとなく面白そうなパックツアーに応募した。その名もミステリーツアー。行く方面は分かっても、宿泊はどこで、何を見るのかも当日にならないと分からないという、ちょっとくすぐられた旅なのだ。しかし、日程が迫ってくると冷静に考えた。パックツアーはほとんど経験がないことに気づいたのである。大丈夫か、オレ?

 しかし、結論から言うと大丈夫だった。何ともラクチンなパックツアーを楽しめたのである。旅程はゆとりを持っており、同行者も旅慣れた人ばかりだったからだ。

 そして訪れた先は九州。初めての佐賀空港である。ツアーバスでうんちくをベテランガイドから聞くなんてことはめったにない。柳川の水路にも惹かれたが、官民一体となった水路保存の物語は宮崎駿の初期の作品で映画化もされているという。

 さて、最初の宿泊地は熊本県の人吉市。盆地であることで独自性を保たれた相良藩の伝統が残っており、訪れた時はおひなさまを街中のお店で飾っている季節だった。あらゆるお店にひな壇が溶け込んでいる。

 翌日は人吉駅からJR九州・肥薩線の観光列車「いさぶろう号」に乗って鹿児島県の吉松駅まで1時間少々の旅をする。ディーゼル2両編成の列車のこの路線はスイッチバックが2カ所あり、特に大畑(おこば)は山の勾配を緩和するために山を巻くように走って、さらにスイッチバックを使っている。なかなか得難い経験だった。列車にパワーがない時代はこのような先人の知恵が働いていたのだ。当たり前だが、その都度、運転手が前から後ろまで移動するのは珍しい光景だ。断っておくが私はテッチャンではない。見知らぬ同席の方から酒を振舞われ、いい気持ちでつかの間の列車旅を楽しむ。

 北海道にもこんな列車はあるのだろうか。廃線の話ばかりしか聞かないが、あの大自然をトコトコ旅できたら、きっと楽しいだろうなぁ~と思うのだが……。

 吉松駅にはすでにバスが先まわりして待機していた。バスのほうがはるかに速いのだが、遅い列車はそれだけで意義がある。

 さて、熊本まで戻って熊本城の周りを散策するが、地震と豪雨の被害の甚大さに唖然としてしまった。2017年、「ブライトリング DC-3」で空から見たブルーシートをかけられた熊本城は衝撃だったが、崩れ落ちた石垣を目の当たりにすると、修復まで20年かかると言われる長い道のりを肌感覚で理解した。

 その日の宿泊はひなびた湯治場、杖立温泉。大分県と熊本県にまたがる宿屋「ひぜんや」には韓国のお客さんがたくさん。湯の中でもハングルが飛び交う。異文化に触れることができただろうか? ゆっくり日本の旅を楽しんでください。

 3日目は山鹿の街を散策し、さらに三井炭鉱宮原抗跡地を見学して東京に戻る。そして、飛行機から見た(いつもは下から見上げる)アクアラインの風の塔に現実に戻る。て言うか、すっかり温泉にふやけてしまった私は復帰できるのだろうか……。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。