日下部保雄の悠悠閑閑

ボルボ「XC60 T8」とメルセデス・ベンツ「S 450」

メルセデス・ベンツ「S 450」のエンジンルーム。左右で微妙にカバーのデザインが違うのは、エンジニアの意地?

 試乗のため借用していたボルボ「XC60 T5」を返却し、プラグインハイブリッドの「T8」を借りてきた。いずれもスタッドレスタイヤで貸し出してくれたが、春が急接近で雪のあるところまでアシを伸ばすチャンスも逃してしまった。でも、ボルボの4WDシステムとスタッドレスタイヤなら走破力は無敵だろうな。

 とはいうものの、T5とT8の4WDシステムはまったく別物。T5の2.0リッターターボは旧称ハルデックス(現ボルグワーナー)の4WDで、ドライ路面でもスタート時にトルクを後輪にかけて安定性とレスポンス向上を図っている。

 一方のT8の後輪は駆動用の電気モーターでのみ駆動され、エンジンのトルクは配分されない。前輪はもちろんエンジンで駆動するが、クランク軸にマウントされたスターターモーターを兼ねた発電用ジェネレーターがパワーブースターとしても作動するので、エンジンのサポートとして機能する。これをボルボではCISG(クランクマウンテッド・インテグレーティド・スターター・ジェネレーター)と言っている。ハイブリッドである大きなポイントになる技術だ。

 というところで、北欧らしい端正なデザインのボルボに乗ってメルセデス・ベンツ「S 450」の試乗会に行ってきた。

 2018年に入ってメルセデスは、テーマを決めて月イチ試乗会をやるとアナウンスしており、今回は新しいパワーユニットを持ったSクラスの試乗となった。パワーユニットが一新されたのだ。久しぶりに帰ってきた直列6気筒(M256)だ!

 直6に回帰した理由を考えると触媒が1つで済み、さらにエンジンの左右でホットエリアとクールエリアを作れるので、補器類の配置が容易になる。新しいエンジンはエアコン、ウォーターポンプなどがベルト駆動から電動で動くようになり、エンジン全長も短くなっている。

 M256は低回転で作動する電動スーパーチャージャーなど新しいメカニズムがてんこ盛りだが、特筆ものはISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)だろう。これはエンジンとトランスミッションの間に入れられた電動モーターで、発電とスターターの機能を持つ。クラッチがないのでモーターの力だけでは走れないが、スタート時の補助などに使うことができ、メルセデスでは48Vで発電することでエアコン、ウォーターポンプなどの補器類も動かす。

 ボルボ T8のCISGもメルセデスのISGも基本的な考え方は共通だ。電気の使い方は今後不可欠だと思われるが、期せずして同じ発想のジェネレーターが登場したことで、ちょっと興味を惹かれた。安全、自動化に焦点が絞られているなかで、内燃機関の進化も著しく、電気と組み合わせることでさらに可能性が広がっている。

 さて、肝心のS 450は6気筒エンジンらしい軽やかで滑らかな音質を持ち、静粛性などメルセデスの質感の高さを再確認した。

 ちなみに、T8のCISGは写真がないので、マニュアルの一部にある解説図を掲載する。実は「XC90 T8」のものだが、XC60 T8も共通である。

ボルボ「XC90 T8」のマニュアルにある解説図。システムは「XC60 T8」と共通

 一方のS 450は、エンジンフードを開けても例によってカバーされているだけだが、一応撮影してみた。向かって左側はホットエリア、右側がクールエリアのゾーンになる。微妙に左右でカバーのデザインを変えているのはエンジニアの意地だろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。