日下部保雄の悠悠閑閑
日産自動車「セレナ NISMO」とステアリングホイール
2018年4月2日 00:00
最近は各メーカーともミニバンにスポーツグレードを設定し、それぞれ好調だ。個人的には人を運ぶミニバンにスポーツの組み合わせがピンと来ておらず、実はまだすっきりとは腹落ちしていない。
とはいうものの、最近、本田技研工業「ステップワゴン」の「Modulo X」やトヨタ自動車「ヴォクシー/ノア」の「GR SPORT」に乗るチャンスがあったが、それぞれ個性が違って面白い。
今回はミニバンの販売台数で常にトップを争う日産自動車「セレナ NISMO」を試乗のために借りてみた。エアロパーツで武装しているだけでかなり迫力がある。高速道路をフツウ(ほんとだよ)に走っているのになぜか先行車がどいてくれるのだ。マフラー以外のパワートレーンに手を付けていないのは他社と同様だが、セレナ NISMOではタイヤもポテンザを履き、サスペンションもオンロード志向の強いチューニングがされ、ハンドリングはミニバンとは思えないほどロールはしないし、ハンドルレスポンスもよい。半面、乗り心地は硬めで突き上げ感とゴロゴロ感があり、どうだろうと思っていたが、同乗者に前席だけでなく後席にも座ってもらい路面の継ぎ目も走ったのだが、許容範囲と言っていた。それぞれ感じ方が違うもんだと改めて思った次第。
で、何がっていうとステアリングホイール。ヌバック調も驚いたが、小径でラリーカーのように上端部に赤い革バンドが巻いてあり、さらに下側がフラットになっていた! もうビックリである。
ステアリングはクルマとのインターフェースで思い入れがあっただけに何と感慨深いことだろう!
やはりいろいろなエピソードがあるのはステアリングホイールをぐるぐる回すラリーだ。最初は横スポークが微妙にY字型になるNARDIを使っていた。当時のラリー車は当然パワーステアリングなんてものはないので、ステアリングを握る指が多少でも上にあったほうがステアリングを下げる場合にそれだけ力が入り、最初のレスポンスが早いのである。数秒に1回のシフトを繰り返し、キックバックに耐えてステアリングをグリグリと回しているうちに、左手のグローブが破れ、やがて右手のグローブにも穴が空き、なんて場面も少なくなかった。
しかし、最も衝撃的だったのは、できたばかりのFFの1.0リッターラリー車「シャレード」で雪のラリーに送り出された時だった。間に合わなかったのかケチだったのか、ステアリングは横バーのノーマル2本スポーク、シートもノーマルだった。今では考えられないが、むろん当時でも考えられない……。
ゼッケンは早く、今でいうSS(スペシャルステージ)は折からの新雪/深雪。何しろデビューしたての新型車である。夢中で走っていたらクルマがあらぬ方向に走っていく。アクセルを踏んでも修正舵を与えても谷に向かって走っていく。壊れたかと思ったが、ふと気が付いてステアリングを半回転させてみた。なんとまっすぐ走るではないか! 深雪と格闘しているうちにどこが直進か分からなくなっていたのだ。とっても怖かったのである。
サービスポイントに辿り着くや否や、ステアリングの上部に細く切った白いガムテープを巻いた。ぐるぐる巻いた。白でなければ目に入りにくいし、ぐるぐる巻けば感触でどこが上かが分かる。それから先はノーマルシートに悩まされながらも用心深くなっていたので無事走り切り、確か総合でも入賞できたと思うが、すでに記憶の彼方である。
セレナ NISMOの赤い革バンドを見て、突然ステアリングホイールに巻いた闇夜に浮かぶガムテープを思い出したのだった。
ラリーはステアリングをぐるぐる回すのでレーシングカーのような下をカットしたものを使ったことはないが、もともとはスペースがなく膝が当たるフォーミュラカーから来たものだと思う。量産車では、確か「ゴルフ R」がこれを始めたような気がする。
で、話は戻るがセレナ NISMOのステアリングはちょっと悔しいが手に馴染んだのである。
ステアリングの話はまたしよう。どうやって切るのかで特集が組めるほどである。