日下部保雄の悠悠閑閑

ふれあい試乗会と「メルセデスAMG GT R」

「モータースポーツジャパン 2018」で実施されたふれあい試乗会

 毎年恒例になった「モータースポーツジャパン」。そのプログラムの1つにふれあい試乗会がある。ふれあい試乗会は国内外のクルマ、種類も軽自動車からスーパーカーまであり、インストラクターの運転するクルマに解説を受けながら同乗するというもので毎年好評だ。これまでは会場内の限られたスペースの中で短いストレートを含んだクローズドコースを設営し、加速やコーナリングが主体で、それぞれのクルマが持つパフォーマンスの一端を感じることができた。

 2018年はがらりと変わって会場から外に出る一般公道試乗となった。公道試乗なのでこれまでより時間がかかるため、例年のように多くの人に乗ってもらうことができなかったが、それでも220組ほどの試乗ができた。クルマによって乗車可能人数が違うので、実際の人数は400名ほどだろうか。試乗車は本田技研工業「NSX」、アウディ「R8 スパイダー」、レクサス「LC」のようなスーパースポーツカーから、ロータス「エリーゼ」やマツダ「ロードスター」といったライトウェイトスポーツカー、最新のフォルクスワーゲン「ポロ」や三菱自動車工業「エクリプスクロス」、キャデラックやメルセデス・ベンツの最新SUV、あるいはトヨタ自動車「ハイラックス」といったピックアップトラックからトヨタ「アルファード Executive Lounge」などのリムジン、軽自動車のダイハツ工業「ウェイク」など計32台のクルマに抽選で乗ることになる。早くから並んで待っていてくれる人が外れると正直せつなくなるが、参加者は理解をしてくれているようだった。

 実は今年のモータースポーツジャパンは、強風予報が出た土曜日の夜にテントが風に祟られて倒壊する恐れがあったため、予定されていた日曜日は中止、土曜日も風に備えて15時ごろにはクローズとなってしまった。楽しみにしてもらった来場者には申し訳ないが、早めに苦渋の判断をした主催者には頭が下がる。

 試乗会はこれまでのような強烈な加速やコーナリングの体験ができないので拍子抜けした来場者もいたが、そんな人達も日常的なシーンで乗り心地や取りまわし、最新の安全デバイスの解説を受けて興味を示していたようだ。

 一方で私はといえば、30分ほど本会場で「メルセデスAMG GT R」のステアリングを握ることになった。実はメルセデスAMG GT Rには乗ったことがない。ちょっとドキドキする。しかも、入場門で待っていてもクルマは来ない。そのうち時間になって始まってしまった。ひょいとスタートポイントを見ると緑に輝くメルセデスAMG GT Rが待っているではないか。慌ててというかトボトボとコースを渡ってやっと面会できた。正直、少し憂鬱だ。何しろ1640kgに585PS/700N・mである。どんなモンスターなんだろ。しかも2748万7038円という価格が頭をよぎる。主催社から壊したら分かっていますよね、と念を押されている。

ステアリングを握ったメルセデス・ベンツ「メルセデスAMG GT R」
2325万円の車両本体価格に427万6000円のオプションが付いて、総額2748万7038円……

 レカロシートに座り黄色い3点ベルトまでは締めたが、どうすれば動くのかよく分からん。とりあえずエンジンはかかった。AMGの担当員からドライブモードの説明を聞くが、とりあえずどんなことが起こるのか分からないのでSモードで走り始めた。ん?面白いじゃないか~。トータル6人で12周するので同乗走行に入ってからもう少しアクセルを踏んでみることにした。凄いぞ、しつけ正しくドカンとぶっ飛んでいく! タイトなコーナーしかないのでコーナーではESCが作動する。もう少し暴れん坊のモードは? ということで次の人はS+にしてみた。もっと面白くなったゾ。トラクションはさらにかかるようになる。するとまた欲が出てきた。ふと見るとRACEモードがあるではないか。これだ、これ! 次の同乗者はこれで行こう。当然同乗者はそんなこと知らない。おー!もっと面白いゾ。ESCの効きも遅くなってきてエンジンレスポンスもいい。でもやはりESCがお行儀よく作動する。何かできないかと探すと、その下にESC OFFスイッチがある。しかもどうやらESCの効かせ方も選べるらしい。残念ながらどこで調整するのか分からないし、何が待っているのかも分からないので、とりあえずデフォルト設定のままコースに飛び出してみる。フルターンではアクセルコントロールで旋回できる。ただ踏み加減がまだ分からん。しかし完全なフロントミッドシップでドライサンプの低重心エンジンは素晴らしい。凄いぞ! こいつは!! こんなにモンスターなのに自在に扱えるではないか!!

 同乗者そっちのけで時間が経つのも忘れ、自分が存分に楽しんだ試乗会でした……。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。