日下部保雄の悠悠閑閑

ベビージャガー

ジャガー「E-PACE」

 いわゆるコンパクトSUVの伸長が著しいが、このカテゴリーにまた新顔が登場した。ジャガーの「E-PACE」だ。コンパクトといってもグローバル基準でのコンパクトで、日本だとミドルからラージサイズになる。全長こそ4410mmだが、全幅は1900mmあって結構大きい。ジャガー各社はワイド&ローなのが特徴で、ジャガーのラインアップの中でも最も小さいのが「XE」だったが、SUVの中でXEのポジションに該当するのがE-PACEになる。ジャガー最小のSUVといわれるゆえんだ。兄貴分の「F-PACE」よりもひとまわり小さく見え、北米なら確実にコンパクトと呼ばれるだろう。

 エンジンは新開発の2.0リッターターボのINGENIUM(インジニウム)エンジン。183kWと221kWの2種類があり、今回の試乗車は183kWモデルになる。順次221kWエンジンとインジニウムの2.0リッターディーゼルターボが導入される。いずれも9速ATと組み合わされ、駆動方式はすべてが4WDだ。

 ジャガーのシフトセレクターはダイヤルがせり出してくるユニークなタイプだが、E-PACEは通常のシフトレバーを使っている。ここにもスポーツSUVとして開発されたE-PACEのこだわりがある。範としたのはスポーツカーの「F-TYPE」で、デザイン上にもF-TYPEからインスパイアされた造形が反映されて、リアフェンダーなどジャガーらしい躍動感が注ぎ込まれている。

リアフェンダーの盛り上がりなどは「F-TYPE」にインスパイアされた。そのF-TYPEと

 キャビンは上方への解放感はそれほどないが適度な広がりを持っており、後席のレッグルームも十分だ。またSUVらしくラゲッジルームは577Lある。とりわけ大きいほうではないが、かさばる荷物は気楽に載せられるのはありがたい。

 さて、走りだが、新しいインジニウムエンジンは、これまでのエンジンのちょっとやんちゃな性格から一転して、マナーがよく、特に低回転からアクセルの反応がよい。パワーはもちろん十分だが、それよりも発進時のちょっとしたアクセルの踏み始めにも不感帯がなく、スーと前に出るのでストップ&ゴーでもストレスがないのが好ましい。追い越しでも同じことが言える。

 試乗コース周辺は海岸沿いの道で、天気がよければさぞ気持ちよかろうと思われたが、残念ながら曇り空だった。ただ低速のクルージングではロードノイズの低さや、ゆるゆると低回転で回るエンジンの柔軟性を楽しんだ。乗り心地も小さなショックなどをよく吸収してくれ、キビキビ動き、ライントレース性にも優れたところと相まって、小気味よいSUVになっている。

 4WDは低μ路で力強い味方になってくれるのはもちろんだが、プレゼンの解説を聞いているとむしろハンドリングに主体を置いており、F-PACEがそうだったように後輪により多くのトルクを配分し、左右のトルクベクタリングで旋回力を増したりと、オフロードはランドローバーに任せて、ジャガーはこうだぞ、といったセッティングだ。今度、チャンスがあったら低μ路で「レンジローバー イヴォーク」と比較してみたい。

 また、試乗車に履いていたのは235/55 R18だが、標準の235/65 R17を履くとどのように変わるかこちらも試してみたいところだ。

 ジャガーはスポーツカーメーカーをルーツとしており、クルマ作りの軸足は現在のジャガーにしっかり反映され、自分の居場所をしっかり確立したようだ。クルマはますます面白い。

 ところで、E-PACEにはデザイナーが遊んでいるところがあり、ベビージャガーを連れた親子のシルエットが2カ所ほど隠されている。そのうちの1カ所はフロントウィンドウ、さてもう1カ所は……夜にドアを開けると分かります。今日はちょっとインプレしてみました。

E-PACEに隠れたベビージャガー

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。