日下部保雄の悠悠閑閑
ルノー「メガーヌ R.S.」
2018年9月17日 00:00
ルノーで思い出すのは「シュペール・サンク」だ。英語読みだと“スーパー・ファイブ”である。フランス車らしいたっぷりしたシートとソフトなサスペンションはルノー独特の味を出しており、それまで乗っていたフィアット「パンダ」との乗り心地の違いにびっくりした。楽しかったパンダだが、乗り心地はポンポン跳ねて、若かったとはいえ長距離ではいささか閉口した。それに比べるとシュペール・サンクは2ランク以上の差があり、まるで雲の絨毯だった。左ハンドル&5速MTのシュペール・サンクは同業者の鈴木直也君に引き取られていき、長い間かわいがられていた。
そんなことを懐かしく思い出しながら、箱根を中心とする山岳地帯でルノーの現在を探ってみた。「メガーヌ R.S.」だ。R.S.は言うまでもなくルノー・スポールの頭文字で、ルノー・スポーツモデルの頂点に立つ。メガーヌはゴルフクラスのCセグメントのハッチバックだが、ゴルフの生真面目さとは違ったフランス流のウィットの効いたモデルである。
従来のメガーヌ R.S.は2011年の登場だったから、7年振りの復活。今回は5ドアのみとなり、トランスミッションもデュアルクラッチ2ペダルのみの設定で、マニュアルはない。
デザインはノーマルのメガーヌから見るとグッと迫力がある。フロントフェンダーで60mm、リアフェンダーで45mmも広がっているので、4つのタイヤが強く張り出して見ているだけでも楽しい。リアフェンダーのヌメヌメとした曲面がフランス車の造形美を表現しているようだ。
メガーヌ R.S.のもう1つの特徴は「4コントロール」と呼ばれる4WSだ。それも逆位相に切る速度域をパーキングレベルだけでなく、ノーマルモードで約60km/h、レースモードでは約100km/hまで保ち、後輪はズーっと逆相のまま。単純に言うとそれ以上になると初めて同相に入る。メガーヌ R.S.は日本でもかなり手の込んだチューニングをして、タイトコーナーの多い日本の山道はベストマッチと胸を張っていた。
4WSは日産自動車、本田技研工業、トヨタ自動車などが先行で開発してきた技術だが、コストや重量、そして操舵フィールなどでなかなか普及せず、現在では一部の車種に使われているだけになってしまった。技術的にも応用範囲の広さは依然として注目されるもので、後発の欧州車の一部にも使われている。ルノーもそのメーカーの1つで、現在も継承してメガーヌ R.S.に取り入れている。逆相の積極利用など、ちょっと斬新な使い方だ。
エンジンは1.8リッターの日産MR系エンジンをベースにターボ化したもので、205kW/390Nmの出力を持つ。
しかし、何といっても注目されるのはR.S.に合わせるために3年かかったと言われる4WSだ。パラメーターは大きく分けて3つ。車速、操舵速度、舵角で、これらを場面に応じて制御することで4WSの最適コントロールを行なう。
この制御は、さらにR.S.スイッチによってノーマル、レース、スポーツで異なる。通常だとR.S.スイッチはノーマルとスポーツの間を行き来しているが、画面を呼び出すとさらにレースやコンフォート、個別設定が可能となる。
最初はノーマルで走るが、これだと逆相は60km/hで同相に変わる。エンジンレスポンスも比較的おとなしく(といっても十分にホット・ハッチらしいパフォーマンスだが)、走りやすい。
R.S.はもともと回頭性がよいのだが、4WSによって、グイグイとコーナーを回っていく。不思議な感覚だ。スタビリティは非常に高く、オンザレールのドライブフィールは他ではなかなか味わえない。旋回速度がかなり高いのも分かる。
R.S.スイッチを押すとスポーツモードに切り替わり、エキゾーストノートが高くなって、ステアリング操舵力も重くなる。同相と逆相の閾値も80km/hに上がるので、ほぼどのコーナーも逆相で回ることになる。日本の道ではサーキット以外で閾値が100km/hに上がるレースモードを試すチャンスはほぼない。
ツイスティなコースでハンドルを素早く左右に切り返すような場面でも、追従性はよく、狙った通りのラインを通り、違和感はほぼない。強いて言えば、ライントレース性が高すぎて、ドライバーが路面変化への対応が遅れそうな気がすることぐらいだろうか。
逆相と同相の閾値が100km/hのレースモードをミニサーキットで試してみたくなった。このモードはESCもカットされる。試しにレースモードに入れてみたが、こちらは変速ショックがガツンと大きくなり、シフトアップ時にかつてのラリー車のようなブーストコントロールする排気音が勇ましい。
4WSについては日常遭遇する場面ではほぼマイナス点はないが、FFドライビングの際の小技は効かせられない感じだ。ちなみにリアの逆相は最大で2.7度、同相で最大1度切れると示されている。
ルノー・スポールによって磨き上げられたMR型エンジンは、ブロックを除いてほぼ一新されてメガーヌ R.S.用に生まれ変わった。エンジン特性は全域フラットトルクで、誰でも使いやすいエンジン特性を持っている。フリクションは小さく、きれいに回るのが特徴で、高回転まで一気に吹け上がる。ただ、以前のR.S.のようなやんちゃな面も影を潜めているので、パワー感という点ではおとなしく感じる。
そして、乗り心地がすこぶるよい。もともとルノーの足は最初のシュペール・サンクから好印象だが、このハードなホット・ハッチにしてこの乗り心地か、と思わせる、“ルノーマジック”が振りかけられているのだ。ポイントとなるのは、ラリー車から応用したダンパー・イン・ダンパーが採用されている。このシステムは「ルーテシア R.S.」から採用されてきていたが、メガーヌでは4輪に同じシステムが導入された。
これはダンパーの底部にもう1つのダンパーを内蔵し、メインのダンパーがストロークした後にセカンダリーダンパーが作動し、通常のバンプストップラバーのような反発を伝えないので、4輪の接地力が向上するというものだ。すでにその効果はルーテシア R.S.で実証されている。もちろん、ダンパーのストロークなども考慮しないと設定は難しいが、巧みに組み込まれている。荒れた路面でのコーナリングでもしっとりと路面を掴むのが好ましい。舐めるようなコーナリングと言えば少しイメージできるだろうか。前述の4WSと相まって、姿勢安定性は素晴らしい。
もう1つ、グリル内にあるチェッカー状の四角いフルLEDはハイビームとコーナリングランプ、ワイドレンジランプとして機能するのもルノーらしいアイデアだ。
安全サポート機能はひと通り揃っているが、全車速ACCだけはなぜかまだ装備されていない。センサーは揃っているので、今後のモデルに期待だ。
ルノー・スポールの香辛料がいっぱい振りかけられたメガーヌ R.S.。ちょっと面白い。