日下部保雄の悠悠閑閑

スバルの東扇島センター

「SUBARUテックツアー」でスバル車の船積みを見てきた

 スバルが行なう「SUBARUテックツアー」は、いろいろなテーマで今のスバルを知るよいチャンスを提供してくれる。これまで北海道美深のテストコースの見学や、スバルが納める中央翼を使ったJAL(日本航空)のボーイング 787-8型機でのフライト。その中央翼を米国に運ぶ巨人機の見学(残念ながら行き損ねた)、スバルの歴史を辿る体験ツアー、歩行者保護をはじめとするスバルの安全性能、その他多くの学びの場を作ってくれた。

 第9回目となる今回は、東扇島にあるスバルの輸出積み出しセンターの見学だった。スバルの輸出基地はひたちなか、千葉、川崎、横浜、横須賀と関東に5か所あり、東扇島はその中でもメジャーな輸出基地だ。首都高速道路 湾岸線の東扇島出口からすぐのロケーションで地の利に優れる。

 基地の収容能力は6000台にもおよび、ギッシリと詰めて置かれたスバル車を見るのは壮観だ。ここから輸出されるスバル車は、収容能力の増大を図って行なわれた大規模工事で一時的に収容能力が激減した2017年を除けば、年間30万台弱の輸出が行なわれていた。2018年は17万台以上が船積みされているので、このまま進むと過去最高になると思われる。

 スバルにとって重要な輸出稼働基地だ。それだけにトランプ氏の動向から目を離せないだろう。

 一方、クルマを運ぶ船は専門の船会社が運航を行ない、今回は日本郵船の持ち船である「HERCULES LEADER号」を見学することになった。ヘラクレス号である。ヘラクレス・リーダーは2011年に建造された全長199.94m、全幅32.36mの巨大な船で、乗用車換算で4900台を運べる能力を持っている。搭載できるデッキは12層に分かれており、積載する車種によって各層の高さは変わる。例えば通常は2.2mのデッキが多いが、これが2.75mになったり、1.65mになったりもするし、各層にとらわれなければ5m強の高さにすることもできる。

 当日はスバル車の船積みだったのでその部分を重点的に見学する。船尾からクルマが通る5度~7度のスロープを歩き、いよいよ乗船だ。積載部は5.1mの高さと7~8mの幅があり、トラックなどの大型車も積み込める。

 まず3階まで降りて機関室を見せてもらう。エンジンは安いC重油を燃料とする2ストロークの直列8気筒エンジン。最高出力は1万5540kWとなり、104rpmで発生する。乗用車用エンジンとまったく異なる性質のエンジンで、巨大で壮観だ。パッと見ただけではエンジンだとは分からない。エンジニアも乗船しており航海中のトラブルに対応するが、時にはエンジンのスリーブを交換することもあるという。スペアバルブの大きいこと!

ヘラクレス・リーダーの機関室
直列8気筒エンジン
巨大なスペアバルブ

 燃料となるC重油は御多分に漏れず排出ガスのクリーン化の波が押し寄せており、今後はデバイスの取り付けか燃料を切り替えるかなどの選択を迫られるが、コストに直結するだけになかなか悩ましい問題だという。

 船積みの見学は上の階層に上がり、邪魔にならないように見る。スバル車は続々と船積みされる。手際よくというかキビキビしているので、想像より速く船内を移動してくる。クルマの動きを見ていると、デッキに上がると指示ランプのところで横に向けて駐車し、今度は別のクルーが乗り換えて、縦に隙間なく駐車していく。その間隔は左右わずか10cm、前後は30cmという。このクルーは経験を積んだベテランで、寸分の狂いもなくピタリと駐車して、揺れ止めのフックをかけていく。運んできたクルーはハイエースに乗って、また岸に止められたスバル車に戻っていく。このクルーの一団をギャングと言うらしいが、わるい意味ではない。このギャングはいくつもあり、この数によって船積みの効率が決まるという。東扇島ではその時の輸出台数によってこれらギャングの数などを組み立てていく。

ギャングにより、みっちりと隙間なく車両が積み込まれる

 ヘラクレス・リーダーはこの後、太平洋を航海してからパナマ運河を通り、北米の東海岸でクルマを下す。西海岸行きの定期ルートはないらしい。ちなみにパナマ運河を通過する時は左右の岸壁はぎりぎりだという。きっと壮大な眺めだろうな。

 さらに、船上のデッキに出て操舵室などのキャビンに行く。ヘラクレス・リーダーは日本船籍だが、日本人は1人も乗っていない、船員はほぼフィリピン人で船長はルーマニア人(?)が指揮を執る。操舵室は広く多くの計器が並んでいるが、どれもチンプンカンプンだ。操舵輪はまるでTVゲームのハンドルのようでちょっと拍子抜けした。

操舵室

 船は港を出るまでは水先案内人が乗船してリードするが、その後の危険水域を通過すると広い太平洋では自動装置で航海する。ひと昔前までは航海士は海図と睨めっこをしていたが、GPSなどの精密化で、負担は大きく減っている。

 ついでになかなか見れない船長室や士官食堂(船は階級社会である)を覗き、フムフムとなんとなく納得し、デッキから下を覗くと10階建てのビルから下を眺める景観が広がっていた。

船長室
士官食堂
ヘラクレス・リーダーからの眺め

 なかなか経験することができない車両運搬船の中身を垣間見た貴重な経験でした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。