日下部保雄の悠悠閑閑

氷の上で

2019年も横浜ゴム協賛の「PROSPEC Winter Driving Park」を長野県の女神湖で開催できた

 毎年恒例になった冬のドライビングパーク。氷上のドライビングスクールは群馬県 赤城山の小沼で行なっていた時代もあるが、最近はずーっと長野県の女神湖だ。東京からも名古屋からも約3時間のところにあって、夏は避暑地として自動車にとっても気持ちよいコースが広がり、冬は凍結した湖で氷上ドライビングのトレーニングができる。「悠悠閑閑」でも何回か取り上げたと思うが、2019年も冬のドライビングパークを女神湖で無事開催できた。

 極端に滑りやすい氷の上は、乾燥路ではハイスピードで起こることがごく低速で起こるので危険が少ない。

 そして、ドライビングパークに意義を感じてくれる企業が横浜ゴムで、少人数のイベントにもこだわらず大きなサポートをしてくれている。かつてのプログラムでは、スタッドレスタイヤの構造や原理、時には試作タイヤを持ち込んでのレクチャーも設けていた。このところ、これらのプログラムは設けられていなかったが、また機会を設けてタイヤの重要性やドライビングに絡めたプログラムを設けていきたいと思っている。

スタッフの車両が履くスタッドレスタイヤはもちろん「アイスガード 6」

 氷上ドライビングパークはCar Watchの北村さんが体験を記事にしてくれたので、ここではそれ以外の話をしていこう。

 実はこのイベント、PROSPECの年初のキックオフイベントで、いつもお世話になっているスタッフやインストラクターが半ば強制的(?)に集まって開催している。当然、前日は軽いキックオフパーティを行なうのだが、今年、自分は所用があって仕事先からの移動だったので、残念ながら参加できず。

 さて、このところ女神湖の氷上は3つのコースに分けられており、年によって湖の凍結次第でコースの大小の変更はあるものの、基本的なレイアウトは変わっていない。それぞれブレーキとスラロームで1プログラム。円旋回や8の字で1プログラム。そしてワインディングコースを使った総合的なハンドリングコースで1プログラムになる。

 ドライビングパークの場合、各プログラムにインストラクター各2名、計6名が待機して、氷点下の湖上で外から見てアドバイスしたり、要望があれば実際に運転して参考にしてもらったり、あるいは参加者の横に乗って注意点などをアドバイスする。

 プログラムは、20台の参加車両のうち15台が走り、5台は休憩となってローテションしながら回っていく。つまり1つのプログラムに5台ずつになるので、インストラクターの目も届きやすい。

20台の参加車両のうち、15台が走って5台は休憩。15台のクルマは湖上に設けられた3つのコースを思い思いに走れる

 湖上に立っているとジワジワと寒気が這い上がってくるものの、風がなければまだ対応できる。風が少しでも吹くと体感温度はぐんぐんと下がり、外にいるのはかなりつらい状況になる。それでも車両を誘導するスタッフは持ち場を離れられないので、なかなかの苦行である。

 しかし、当日は快晴であまり風がなくて過ごしやすい(?)女神湖だった。氷の厚さは25cm以上あり、寒さが厳しくなってきているのでどんどん成長している。時々“ビシ”という音がするのは氷が成長する過程で起こる音で心配することはないのだが、いつもながらドキッとさせられる。

太陽は見えるけれども湖上は寒い

 ピンと張った氷は気持ちがよく、前の晩に降った雪がアイスバーンの上に少し乗っており、しかもハイド板でコースを作る際、雪が脇に寄せられているので、コースがきれいに作られている。また、雪壁もないのでコースアウトした時のダメージもないという好条件だった。

 今回の参加者はリピーターがほとんどで、氷にもレッスンにも慣れている。少し走って感覚を取り戻すと、ドンドン腕を上げて、円旋回などパイロンを中心に小さくうまく旋回している。難しいFR車でも微妙なアクセルワークとハンドル修正でクルクルよく回る。

 氷の上でのドライビングのコツは舗装道路の延長線上にあるが、もっと忙しい。

 路面は氷が磨かれて油氷になったり、コース脇の雪が出てきて少しグリップしたりで状況はどんどん変わる。タイヤのグリップ限界を狙って走ろうとすると、たちまち路面の方のグリップ限界が変わるので、アクセル操作やブレーキ、そしてハンドル操作を迅速に事態が変わる前に対応しなければ簡単にコースアウトしてしまう。

 私の場合は路面状況を早めに確認し、減速などの対応と同時にハンドルを小刻みに振って、グリップ点を探るようなドライブを心掛けている。

 はたから見ていると何をバタバタやっているんだと思われるかしれないが、グリップが刻刻と変わる雪や氷は結構忙しいのである。

 ビギナーの起こしやすいミスは、ハンドルを切った状態で滑り出してしまった場合だ。この場合はすでにタイヤに曲ろうとする余力が残されていないので、さらにハンドルを切り増しても事態は少しも変わらない。慌てることおびただしい。この場合、むしろ勇気をもってハンドルを戻したほうが、グリップは回復方向にあるので旋回力が戻ってくる可能性も残されている。氷の上ではゆっくりとその事象が起こるので、いろいろとやってみて体感することができる。

イベント後に見る女神湖の夕焼けはまた格別なものがある

 今年も1日氷の上をタップリ走って、皆さんに堪能してもらいました。かなりスキルアップしたので、もしもの時に体が反応すれば嬉しい。でも転ばぬ先の杖。安全運転でお願いしますよ、皆さん!

翌日は雪が降り、冬の女神湖の表情は一変した

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。