日下部保雄の悠悠閑閑
ホンダ「インサイト」
2019年2月4日 00:00
「インサイト」は本田技研工業のハイブリッドの先兵で、初代は徹底的に燃費を追及した2シーターの小型クーペだった。ル・マン24時間レースのプロトタイプレーシングカーに見られるようなリアホイールにスカートを穿かせたインパクトは強く、合わせて空力を追求したファストバッククーペは前衛的でホンダらしいチャレンジだった。
オールアルミフレームと合成樹脂で軽量化を図り、エンジンは1.0リッター3気筒で70PSを発生するVTEC。これに10kWのブラシレスモーターを組み合わせたハイブリッドシステムは「IMA」と呼ばれ、エンジンとモーターは常に回転しているタイプのパラレルハイブリッドだった。重量はわずか820kg、ハイギヤードなギヤ比で徹底的に燃費を追及して、世界最高の35km/L(10・15モード)の燃費を誇っていた。
インサイト特有の知的ドライビングはいわゆるスポーツドライビングと異なって、今までと違うクルマの楽しみ方を与えてくれ、この分野でも先駆者だった。当時の印象は、軽量ボディが醸し出す独特のドライブフィールにちょっとウキウキとした。
2代目のインサイトは初代の生産中止から3年の間をおいて登場した。ユニークだった初代から一転して、「プリウス」によく似た5ドア5人乗りのモデルとなった。1モーターのIMAシステムを進化させ、気筒休止をさせることで若干だがモーター走行も可能にするなど、ホンダらしい試みがなされていた。フレームは「フィット」のコンポーネントを流用しながら効率化を図った結果、初期モデルはハイブリッドとしては200万円を切る価格で成功して受け入れられた。
1200kg前後の軽量なボディで軽快に走るのがインサイト。プリウスのフルハイブリッドとはちょっと違う。面白いのはJOY耐にも参加していたことで、ホンダのレーシングスピリットは量産エコカーでも発揮されていた。エンジンは1.3リッターでスタートしたが後期型では1.5リッターも追加された。走りのパフォーマンスも上がったが、むしろ余力が出たことで実用燃費の向上も目立った。2代目のインサイトは2014年に販売を終了している。
正直あまり強い印象はないが、一時期のホンダハイブリッドを引っ張った功績は大きい。
そしていよいよ3代目のインサイトである。すでに2018年の夏に北米では発表されて販売もされていたが、日本では10月に発表会が行なわれた。やっと日本でハンドルを握るチャンスがやってきたわけだ。
試乗コースは横浜のみなとみらいを起点とした公道コースで行なわれた。2代目はフィットと共用していたプラットフォームだが、新型では「シビック」の新しいプラットフォームを使っている。それだけに車体は大きく、全長4675mm、全幅は1820mmとなり、立派なミドルサイズサルーンに成長していた。ハイブリッドシステムは1モーターのIMAから「アコード」や「オデッセイ」に使われている2モーターの「i-MMD」でミドルセダンに相応しい燃費と動力性能のバランスを図ったパワーユニットを採用している。今後のホンダのハイブリッド戦略の中核となるパワートレーンだ。
シビックのプラットフォームを採用していることから、ドライバー位置が下げられており、低く沈み込むようなドライビングポジションは落ちつく。サイドラインも下げられているので視界はわるくない。
第一印象はエンジンルームからの遮音を徹底した静粛性の高さで、加速時でもエンジン音が先行する感じはない。また、振動もよく抑えられているので快適だ。荒れた路面での乗り心地もバネ上はフラットに保たれて、走りの質感は高い。
1.5リッターエンジンがもたらす動力性能も十分で、ドカンとしたパワーを求めなければドライバーの期待値にも合致するだろう。
コントロールユニットをコンパクトにまとめた結果、トランクはVDA方式で519Lも確保されている。しかもトランクスルーも可能なので、かさばる荷物も積むことができる。スリークな外観だが実用性も高いのだ。
パワステがちょっと重いとか小さな不満はあるものの、ソツなく作られているのがインサイトで、ハイブリッドを意識することすらほとんどない。
チョット残念なのはインテリアにしてもエクステリアにしても華があまり感じられなかったことだ。ミドルクラスの上を行く上質感がもっと演出されてもよかったと思うのだが……。