日下部保雄の悠悠閑閑
北の国から ~三菱自動車編~
2019年2月25日 00:00
アライアンスを組んでいる日産自動車と三菱自動車工業の雪上試乗会について先週からお伝えしているが、今回は三菱自動車の雪上試乗会についてお届けする。
三菱自動車は「エクリプス クロス」と「アウトランダーPHEV」、そして新型「デリカD:5」を千歳の特設コースで走らせたが、前日には三菱自動車の考える4WDの勉強会があり、翌日は楽しんでくださいという試乗会だった。
三菱自動車の4WDを引っ張ってきた澤瀬さんの熱のこもった解説はちょっと難解なところもあったが、「S-AWC」の考え方の一端は理解できたと思う。ポイントは4輪のタイヤ能力を最大限に、しかもシームレスに発揮させることで、そのためにさまざまなデバイスが開発されてきた。前後のトルク配分、左右のトルク配分を行なうAYCデファレンシャル、ブレーキAYCなどだ。
ちょっと話は逸れるが、最初の三菱自動車の4WDラリーカーは「コルディア」というクーペだった。パートタイムというか直結の4WD、副変速機付を使うと8速とはいうものの、途中まで覚えているのは1速のLO-HI、2速のLO-HIまでで、頑張って3速のLOぐらいまで。シフトダウンしようものなら、あとは何が何だか分からなくなり、適当に必要そうな駆動力を得られるギヤに入れていた。何で知っているかと言われれば、4WDラリー車は何をすればよいか知るために、コルディアでシーズンを通じてラリーに出たからだ。インタークーラーのない1.6リッターターボは大したパワーはなくてトキメキはなかったし、舗装になると苦手意識もあって散々な結果しか出せなかったが、トラクションの高さは十二分に認識した。
で、三菱自動車の4WDはいろいろな変遷を通りながら果敢な技術的チャレンジを続けて洗練されてきた。「ギャランVR4」に始まり、世界を暴れまわった「ランサーエボリューション」や「パジェロ」を思い出せばよく分かる。
競技車から外れても、前後にモーターを持って前後輪を駆動するアウトランダーPHEVの2019年モデルでは、初期のアウトランダーよりもさらに熟成が進み、制御は素早くなって、コントロールの自由度も向上している。フロントとリアモーター制御を別々にできることが大きなファクターだ。
前日の解説を思い出しながら、翌日に快晴の千歳で圧雪路とアイスバーンのある路面で走らせてみる。同じアウトランダーPHEVでも2018年モデルから排気量も変わり、その性能も大きく変化してコントロール幅が増えた。
走行モードはレスポンスのよいLOCKかSPORTモードが個人的には合っており、初期型よりもはるかに俊敏になっている。澤瀬さんの解説した意のままの操縦性の一端を体感することができた。
1900kgにもなる重量を感じさせない軽快な動きは、初期型よりも容易に曲がりやすく、かつトラクションもかかる。それがいろいろな場面でドライバーの意に沿う動きなのが楽しく、特にコーナーでは後輪外側の旋回性と効率よくクルマを進めているのを強く感じられた時は「なかなかやるな」と思ったものだ。
磨かれて滑りやすくなった圧雪路面では早めの対処が必要だが、それでもヒラリヒラリと走るさまはPHEVから連想する“エコカー”ではなく、紛れもなくランサーエボリューションの血を引くSUVだった。
エクリプス クロスは前後オーバーハングの短さと1600kg前後の軽量ボディで、こちらはアウトランダーPHEVとも違ったフットワークの軽快さが感じられた。電子制御カップリングの前後トルク配分、フロントブレーキAYCによる左右トルクベクタリングは、雪の中で自在なハンドリングを発揮して面白い。モードは後輪にトルク配分が大きくなるGravelが面白く、姿勢を作りやすい。それに1.5リッターターボは結構な実力者だ。
最後に新型デリカD:5をアップダウンの大きな荒れた雪道で走らせる。デリカではクルマの性質上AYCは使っていないが、前後のトルク配分を行なうカップリングの容量を上げ、LOCKモードでは駆動力をかけやすくするため、後輪への駆動力配分を大きくしている。接地性が高くなっているのもさらに効果を上げている。
また、前後ダンパーの変更で、サスペンションストロークは同じものの、まるで長くなったのではないかと錯覚させるほど足がよく動くようになり、乗り心地も格段によくなった。基本的なプラットフォームを踏襲しているが、遮音性もディーゼルノイズを十分に隠すほど低くなっているのも驚きだ。
3種類のAWCの違いを乗ることができて、こちらも勉強になりました。というか飽きずに堪能できました。
日産、三菱自動車と、雪と駆動システムを満喫できた3日間でした。