日下部保雄の悠悠閑閑
フォーミュラEのコクピットでは
2019年4月1日 00:00
フォーミュラEのインドチーム マヒンドラ・レーシングが、スポンサーであると同時にフォーミュラEの重要なコンポーネントでもあるコントロールユニットを共同開発しているルネサスを表敬訪問した際に、記者会見を開いてくれた。
ルネサスは“産業のコメ”と言われる半導体事業で世界有数のメーカーであり、内外の自動車メーカーを問わず半導体を納入している。自動車業界は大きなボリュームであり、マヒンドラと組むことで成長が著しいインド市場を見据えているのはもちろんだが、EVの頭脳ともいえるコントロールユニットを共に開発することで、レースごとのフィードバックで技術を蓄積できることも魅力だ。
マヒンドラはインド市場で3番目の規模を持ち、最近ではピニンファリーナの買収でも話題になった。また近い将来、そのアウトモービル・ピニンファリーナは高級EVブランドも立ち上げると表明している。
さて、記者会見ではマヒンドラ・レーシングのチームプリンシパル ディルバーグ・ギルさんや2名のドライバー、ジェローム・ダンブロシオ選手とパスカル・ウェーレイン選手がインタビューに応じてくれた。
ドライバーには以前より感じていたフォーミュラEでのドライビング上の特徴を質問してみた。ダンブロシオ選手いわく、ガソリンエンジンを使ったフォーミュラカーと決定的に違うのはエンジン音がないことで、だからこそいろいろな音が聞こえる。モーターノイズ、ギヤノイズ、インバーターノイズ、ブレーキノイズ、風の音、etc, etc……。あらゆる音が聞こえるのでコクピットは結構騒がしく、周囲の環境がよく分かるという。爆音だけが響き渡る世界とはまるで様相が異なるのは想像するだけで面白い。
そして、フォーミュラEのアクセルはON/OFFスイッチの役割なので、トップパワーがすぐに出る。ただ、トップパワーを使いすぎるとバッテリーを消耗するので、減速時のエネルギー回生など、ドライバーは常にエネルギーマネージメントに気を配ることを求められる。そのために、チームからの指示で忙しくスイッチを操作する必要があり、これがフォーミュラE特有の作業だという。はたから見ている以上にドライバーは忙しいようだ。マシンコントロールの違いについては、モニターで見ている限りはタイヤグリップが限られるので、内燃機関のフォーミュラカーとは違ったテクニックが要求されるように感じられた。
若いウェーレイン選手もフォーミュラEの魅力を同じように言っていた。これには各チームの実力が拮抗していることもある。いずれにしても、フォーミュラEは発展途上にあるが、公平性が保たれており面白いとのコメントだった。
同席してくれたルネサスの執行役員 吉岡さんは、今後最適な状況を自動で作動できるようになるかもしれないと将来について語ってくれた。
ところで、コクピットとチーム間は無線でつながっているのは他のカテゴリーでも同じだが、以前にも述べたように、この無線は公開されているので、どこで何をするかは他のチームでも聞けてしまう。そのため、重要な内容は符牒のようなもので行なわれ、通話内容がライバルに知られないように工夫されている。それでも戦略は似てしまうので、大抵の努力は無駄になるようだが。
さて、マシンの話だが、マシンの均質性が保たれているフォーミュラEでは、メジャーチームへカスタマーチームからオーダーがあった場合は、年式落ちのマシンを売却するというルールがある。約80万ユーロというから日本円にすると1億1000万円ほど。2018年はこのカスタマーチームが優勝しているので、昔のレースシーンにあったようなプライベートチームがワークスを打ち負かすような図式もあり、面白い現象が起きている。
マヒンドラはインドの自動車業界ではメジャープレイヤー。すでにEVブランドの立ち上げを表明していることは前述したが、11年先の2030年にはインドでもEV規制が始まる。通常の乗用車開発では時間がかかるが、レースごとに開発が進むフォーミュラEは、自動車メーカーとして大きな魅力があるという。まさに“RACE to ROAD”を目指していることがよく分かる。小チームだが成績もよく、インド国民からの大きな期待と関心が寄せられている。
知れば知るほど奥の深いフォーミュラEだが、まだマイナーな存在だ。フォーミュラEの情報は不足しているが、メーカーの参入が多くなると、これまでより多くの情報が拡散されるだろう。そして、音のしないEVによる市街地コースはドリフトと違ってスキール音もほとんどしないので、手軽に来場でき、モータースポーツに興味のなかった人々にもアピールできそうだ。
今週もEVで引っ張りました。