日下部保雄の悠悠閑閑

プジョー「508」とボルボ「V60 クロスカントリー」

プジョーの新型「508」

 箱根で2台のニューモデルに乗ってきた。プジョー「508」とボルボ「V60 クロスカントリー」だ。

 これまでの508はフォーマルセダンで落ち着いたたたずまいが魅力だったが、フルモデルチェンジしてダイナミックな5ドアのファストバックに生まれ変わった。ニュー508は2014年のコンセプトカーをベースにしている。プジョーのラインアップの中でフラグシップモデルだけに、5ドアファストバックとは思い切ったモデルチェンジだ。もっとも、フランスではかなり前から5ドアセダンの実用性とスタイルが認められていたので、それほど突然のことではないのかもしれない。

 新しい508はサイズ的にも全長4750mmで従来型より80mm短く、全幅は1860mmと5mm広いだけなので、日本の駐車場事情でもギリギリ対応できる。全高は35mm低くなった1420mmで、一見すると平べったい感じがする。

 新しいプラットフォームで重量軽減しており、ボンネットやフェンダーにアルミ素材を使うなどで70kgの軽量化が図られた。ベースのAllureでは1500kg、ディーゼルでは1630kgに収まっている。

 ドライビングポジションを取ると、少しフロアが高く感じる。ルーフは低いがヘッドクリアランスには余裕があり、圧迫感はない。レイアウトで巧みに乗員の位置を逃がしているようだ。ただ、後席はヘッドクリアランス、レッグルーム共に余裕たっぷりというわけにはいかない。

前席も後席も、シートには凝ったステッチが施されている

 エンジンは1.6リッターターボのガソリンと2.0リッターディーゼルターボの2機種があり、ガソリンエンジンは伸びやかで軽快なフットワークを持ち、プジョーらしいスポーティな味付けになっている。旧来モデルのしっとりとした味わいとは違うが、新しいプジョーの意気込みが伝わってくる。乗り心地も凹凸路面でもよくサスペンションが吸収してくれ、かつ風切り音などの静粛性も高い。ガラスも従来よりも1mm厚くなっていると聞くが、フラグシップならではの遮音に対するこだわりだ。

 広大なトランクは通常では487L、後席を倒すと1537Lにもなり、自転車などのかさばるものもタイヤを外せば運べそうだ。

 ディーゼル車はガソリン車とは違ったドライブフィールで、フットワークよりもトルクのある加速感やリラックスしたクルージングなどが魅力。ディーゼル特有の強烈なパンチ感よりもトルクが自然に盛り上がる気持ちよさを大切にしたパワートレーンだ。乗り心地ではガソリン車に少し分があるが、いずれもフランス車らしい味わいがあって好ましい。508はとんがったところはないが、ロングドライブで真価を発揮してくれそうだ。

 プジョーとの縁は古い206のMT車を手に入れて使っていたことを思い出す。欧州の実用車らしい適度なヤレ感がプジョーらしく、手になじんでいくような感じがしっくりしていた。家族みんなで使いまわしていたが、ある日軽い追突事故でプラスチックパーツがグチャグチャに。走行に支障はないのだが、パーツがなくて部品取り車として引き取られて行ってしまった。残念な思い出だ……。

 続いてボルボ V60 クロスカントリー。V60の最低地上高を145mmから210mmとしてオフロード性能を上げているが、全高は1505mmに留まり、タワーパーキングでも入れる利便性がある。幅に関してはフェンダーフレアが装着されているので1895mmと45mm広がっている。

まだ少しだけ残っていた桜と「V60 クロスカントリー」

 V60では4WD仕様はツインモーターのPHEVとの組み合わせになるが、クロスカントリーは2.0リッターターボのコンベンショナルエンジンとメカニカル4WDの組み合わせとなる。以前からボルボが採用して使い慣れたハルデックスで、第5世代の電子制御カップリングを使ったシステムだ。通常はほぼFFだが、発進時には後輪にも駆動力がかかる。もちろん駆動力の必要な場面では4輪駆動となり、その実力は高い。

 ハンドルを握って箱根の山道を走るが、V60と同じ感覚。ステーションワゴンそのもので背の高いSUV感覚はない。乗り心地はスポーティなV60に比較するとユッタリとしており、路面の凹凸に対してもショックをよく吸収してくれる。

 上級グレードのPROはV60のインスクリプションに対応しており、その差は50万高の649万円となる。高価なクルマだが、4WDの高い走破性と装備を考えると妥当なところだろう。

リアバンパーに「CROSS COUNTRY」の文字が入るのは、このモデルならではの特徴

 ボルボといえば、自他ともに認める高い安全性に定評がある。2020年までにボルボ車による傷害死亡事故ゼロを目指す「VISION2020」が有名だ。実際にその達成は難しくなっているものの、確実にボルボ車による傷害死亡事故は減少している。ただ、事故はボルボ車だけで起こるわけもなく、他車の動向も大きな関係がある。今後もすべてのクルマの安全のために、ボルボは1970年代から始めた膨大な傷害値の研究データを公開する「E.V.A.プロジェクト」を発表した。特にレギュレーションに表れないような道路から飛び出した場合、下から突き上げられる傷害の評価も公開しているのはボルボらしい。

 このほかにも将来の180km/hリミッターは欧州で大きな反響を呼び、スマートキーの設定によって、スピードリミットを任意に設定することを可能にする計画も発表している。安全に対する貪欲な追及は留まることはない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。