日下部保雄の悠悠閑閑

双子の軽自動車「デイズ」と「eK」シリーズ

日産の新型「デイズ」

 日産と三菱自動車から同時に軽自動車がデビューした。「デイズ」「デイズ ハイウェイスター」と「eKワゴン」「eKクロス」である。

 両車とも日産と三菱自動車のジョイントベンチャーであるNMKVで開発生産されたモデル。先代のデイズとeKシリーズの開発は、軽自動車に手慣れた三菱自動車主導で行なわれたが、今回のモデルは主として日産側の手になり、生産は三菱自動車の水島工場にあるNMKVになる。エンジンからプラットフォームまですべてが一新され、まさにフルモデルチェンジだ。

 日産のデイズは、FFのハイウェイスターの自然吸気とターボに乗る。

 最初に自然吸気から試乗したが、びっくりしたのは新しいBR06型エンジン。低回転のトルクがあって、軽快な加速を示したことだ。これまでのエンジンとはかなり指向が異なって使いやすい。トルクは最大で15%も上がっている。これも新開発となるコンパクトなジヤトコ製CVTもエンジンとの相性がよく、8分の5以上のアクセル開度ではシフトアップ感のある変速をしてくれるので、リズムがつかみやすい。静粛性も新しいプラットフォームと防音材の適材配置で、軽自動車としてはかなり静かなクルマだ。

 また、一部はマイルドハイブリッド(日産で言うところの「S-HYBRID」)と組み合わされている。バッテリーはリチウムイオンで容量があるため、回生エネルギーを多くためられて、燃費の向上に役立つ。

 ホイールベースは65mm伸びた2495mmで、軽自動車の中ではホンダ「N-BOX」に次いで長い。全長は軽自動車の定番、3395mmなので相対的にタイヤを前に出していることになり、キャビンを82mm前進させ、その分リアシートのレッグルームは70mm伸び、日産車比較では「フーガ」並みの広さとなった。

ホイールベースを伸長させたことで、リアシートのレッグルームが広がった。後席は広いだけでなく、シート高を下げているので子供でも足が床につきやすく、疲れない工夫がされている。ファミリーユースが中心の軽自動車ならではだ

 乗り心地ではホイールベースが伸びたことで、ピッチングが少なくなって安定感が高まり、さらに背の高い軽自動車にありがちな大きなロールをあまり感じなかった。サスペンションのチューニングもさることながら、プラットフォームの刷新の効果はこのようなところにも現われている。

 さらにプロパイロットエディションも選べるが、これがなかなか追従性がよくて実用性が高い。さすがに加速時にはアクセルを足したほうがよいが、それも想像した以上に中間加速は力強い。渋滞時のストップ&ゴーなどにも有用だ。レーンキープ性や車線内の安定した走行などは、プロパイロットが「セレナ」でデビューした時よりも完成度が高いと感じた。

 ターボはトルクに余裕があるので快適に走れるが、通常の使用条件では自然吸気エンジンでも必要十分という感じだ。

 試乗した自然吸気でFFのデイズ ハイウェイスターX プロパイロットエディションは約157万円、ターボだと約165万円だ。内装や装備などはもはや立派なファーストカーで、日本のコンパクトカーはもっと頑張らないといけない。

ラゲッジルームも広くて、サイズによっては後席を使いながら、ベビーカーもそのまま乗せられる

 一方、三菱自動車のeKワゴンとeKクロスはデイズの双子車だが、フロントマスクを大きく変えたので別のクルマに見える。eKワゴンとeKクロスでもフロントマスクは異なり、前者はオーソドックス。後者は最近の三菱自動車のSUVの顔「ダイナミックシールド」のフロントマスクでかなりインパクトがある。eKクロスは従来のカスタムに変わるものでよりSUV色を強くしており、eKクロスのみルーフレールが装着できるなど特色を出している。

三菱自動車の新型「eKクロス」

 価格はデイズと装備が少し違うので直接比較は難しいが、同じ装備に近づけるとデイズより1万円~2万円ほど高くなる。寒冷地仕様が標準となっているところがSUVの三菱自動車らしい。

 eKクロスは自然吸気とターボがあるが、いずれもマイルドハイブリッドとの組み合わせで、FFと4WDがある。

 試乗したのは4WDで自然吸気とターボの2機種。サスペンションはFFと4WDで異なり、後者はト―ションビームから3リンクになる。さすがに4WDになるとFFより自然吸気より60kgほど重くなるので自然吸気だと余裕はそれほどなくなる。日常的な使い方ではそれほど感じないが、急加速を必要とした場合などは、ちょっと一生懸命アクセルを踏む感じだ。

懐かしい光景のリジットサスペンションだったので撮ってみた

 一方、ターボは64PS/100Nmの出力/トルクがあるので4WDとの相性はよく、余裕をもって交通の流れに乗れる。また、アクセルレスポンスもよいので痛痒感はまったくない。

 乗り心地はFFに比べると少し後ろがバタつくのは、後輪にデフをぶら下げている影響も大きい。FFと差がないようにセッティングされているが、荒れた道を走った時に感じることがある。

 4WDはオーソドックスなビスカスカップリングだが、ブレーキ制御を使って滑っているタイヤにブレーキをかけるので、滑りやすい路面でも駆動力が確保される。

 FFのeKワゴンはマイルドハイブリッドやターボの設定はないが、素のよさがあって、走りや乗り心地にはなかなか好感が持てた。心地よいクルマだ。

こちらは三菱自動車の「eKワゴン」

 日産も三菱自動車も安全装備やプロパイロットのような先進装備に差はなく、どのモデルを選んでも軽自動車とは思えない装備の数々に驚くばかりだ。

 室内も驚くほど広く、小物入れなどの使い勝手のよさ、質感の高さなど、競争の厳しい軽自動車業界でもまれて誕生した新型の実力に感じ入った次第。カラフルなカラーも楽しい。ニッポンの“KEI”は凄いのだ!

小物入れの多さと実用性は素晴らしい! 車検証入れは先代からドアに付けられているのも感激

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。