日下部保雄の悠悠閑閑
クルマと飛行機、2校の学校見学
2019年5月6日 12:00
最近、ひょんなことから興味深い見学に岐阜へ行く機会があった。2つの学校法人である。
最初は中日本自動車短期大学で学生の実習を見学した。短期大学は2年制で、専門学校とは少し違う。一般教養と専門分野を並行して学ぶので、学生は卒業するまでなかなか忙しい。想像していたよりも大きなスケールの学校で、学生数は約220名。整備士を目指す人がほとんどで自動車ディーラーから引っ張りだこのようだが、モータースポーツ科もあってレーシングガレージやメーカーの開発部門に就職する学生もいて、自動車にかかわるさまざまな進路が開けている。
教授もクルマが好きで、授業も楽しみながらやっている感じだった。生徒と一緒にモノを作り、直すことが面白く、また授業以外でもクルマ作りを楽しんでいた。レースではチームと提携してSUPER GTに参戦し、即戦力のメカニックをインターンシップとしてほかの各チームに派遣したりもしている。
ついモータースポーツに目が行ってしまうが、海外からの留学生も多く、日本で就職したり、母国に帰って活躍したりしている。女子も含めて多彩な人々がここに集っている。
整備棟ではスバル「R2」のK4GP仕様を作っていた。R2と言ってもルーフと全体のモチーフがR2なだけで、教授の指導の下に学生達が自製して作り上げたスペシャルマシンだ。
レイアウトの関係でセンターハンドルとして、エンジンは「ヴィヴィオ」の660ccスーパーチャジャーをミッドシップに搭載している。FRPのフェンダーやボンネットなどの作りもよく、きちんと仕上げられていて感心した。懐かしのGULFカラーに塗られたR2は、コツコツと作られた感じが学生らしくて楽しそう。ちょっとハンドルを握ってみたい気もする。
また、貴重な「トヨタ スポーツ800」もレストア中だった。錆びでフロアに穴が開くほどだったのが、きれいな赤に塗られて次の工程を待っている。中日本自動車短期大学ではさまざまな学科があり、クルマをレストアするにも困らない人材と工作機械がそろっている。
学習の一環として古いクルマをレストアするのは、クルマの基本原理を学ぶにはちょうどいい教材だと思う。何しろ現在では見ることはない、シンプルかつ複雑なメカニズムに触れることができるのだから。
長居しても授業に迷惑になるので中日本自動車短期大学を辞去し、今度はクルマで数分のところにある中日本(ナカニッポン)航空専門学校にお邪魔した。ここは飛行機のメカニックやグランドスタッフ、開発生産エンジニアを育てる専門学校で、約300名の学生が学んでいる。折からの航空路線の拡大で、中日本航専も引く手あまたで100%の就職率だという。学校の概略などのレクチャーを受けた後、早速格納庫に向かう。当然ながら授業中で邪魔にならないように、そっと見学させてもらう。授業では有翼機のメカニズムなどを勉強していた。
大きな格納庫には退役した航空機が所狭しと並べられ、実物に触って、構造を学んだり組み立てたりする素晴らしい教材となっている。
整備科で保有している機材は「ビーチクラフト E33」が11機、「A36 ターボプロップ」が4機、「セスナ310」が1機、そしてヘリコプターも「ベル 206」が7機と「アエロスパシアル 355F」が1機そろっている。授業に応じて少人数で機材に触れることができるのは、学生にとって大きなメリットだろう。
次に行ったのはエンジンを展示する棟。星形のプラット&ホイットニー、水平対向6気筒のレシプロエンジンから、ジャンボやF-104といったジェット機のエンジンまで保管されている。まだ展示としては整備されつつある最中だが、外部からも見学に来る人が多いと聞いた。
フライトシミュレータはボーイング 737-800と777の2機があり、これを使って航空機がどう動くのかを経験するという。整備士が実際に飛ばすことはないが、知っていればより肌感覚で分かるに違いない。
777のフライトシュミレータには座らせてもらったが、当然のことながら何が何だかサッパリ分からない。でもなんとなく嬉しかった。
航空生産科では、個人で組み立てて飛ばすことを前提としたアメリカ製の「RV-4」を組み立てていた。大きなプラモデルのようなものだが、アメリカでは個人が納屋などでコツコツと何年もかかって組み立てるものだそうで、中日本航専でも学生が受け継ぎながら数年かけて組み立てているという。冶具もそのために制作してあった。
中日本自動車短期大学でも古いクルマをレストアしたり、レース車を作ったりしていたが、こうして実際に作ってみると深く理解できるだろう。
別の棟ではにぎやかな声が聞こえると思ったら、エアポートサービス科の女子学生達の実習だった。今後、ここではCA(客室乗務員)の授業も始めるとのことで、いつかここで学んだ学生と機内で会えるかもしれない。
立派な学食から庭に出ると、最後の有人機と言われた(そうはならなかったが)「ロッキード F-104」や「シコルスキー S-62A」(詳細名称はここで初めて知った)、「エアロスバル」が展示されていた。いずれも貴重な機体で、F-104は学生や先生が個人的にもメンテナンスしており、ある時などF-104の下にテントを張って整備していたというから世界でも幸せな機体だろう。
シコルスキーは1960年代初めに三菱重工でライセンス生産された初号機で、水陸両用の輸送用ヘリコプター。1979年公開の「戦国自衛隊」というSF映画に使われた実機だということもさることながら、わざわざ海外から見学に来る人もいるという貴重な機体だ。大切に保管されていた。
初めての学校訪問で、クルマや飛行機に触れることも貴重な体験だったが、何よりいずれの学校の学生もはつらつとして初々しく、また頼もしかったのが印象的だった。